蛇の目エリカはDAに引き取られ早十数年。ファーストリコリスを目指して様々な任務に邁進して来た。延空木での活躍でファーストリコリスたる春川フキの班としての功績を認められたが、未だにその地位はセカンドリコリスだ。
同期で同部屋の篝ヒバナとも切磋琢磨しつつ次期ファーストだの何だのと囁かれてはいるが、その実情は不明である。
「お前を呼んだのは他でも無い」
そしてそんな日、エリカは楠木に呼び出された。楠木はリコリスの司令官である。つまり、エリカの上官の中でも特に地位の高い人物だ。
楠木とこうして一対一で話し合いをするのは初めてのことであり、その内容は愈々私も赤い制服、ファーストリコリスとしてデビューできるのではなかろうか?と言う淡い期待を胸に馳せ参じた次第である。
「お前が優秀なセカンドリコリスだからだ」
楠木の言葉に愈々を持って期待に真実味が帯びて来た。生唾を飲み込み、楠木の顔を直視する。
「先の大規模な作戦、延空木での作戦で我々は日本政府からの信用を損なってしまった」
話の流れがよく分からない。黙って聞いておく。
「我々は政府直轄の組織ではなく、日本生徒の協力関係を持って存在している。
先月、我々リコリスやリリベルへの防衛省、公安調査庁の合同特殊部隊が強襲前提で最後通告を行なって来た。
本部で武装待機したのを覚えているな?」
尋ねられ、思い当たる節を何個か頭の中にピックアップする。
武装待機も先月の中頃ある日突然本部に招集されて重武装で待機させられた事があったのだ。本部のあちこちには防御用のバリケードや隔壁等が現れてファーストリコリスを頂点に大規模なセカンドリコリスとサードリコリスを中心とした部隊を編成、エリカ自身も十数人のサードリコリスを率いて配置に着いた。
「はい、覚えてます」
「あの時、DA本部には陸自の特殊作戦群と機甲教導連隊が来ていた」
特殊作戦群とは陸上自衛隊が各国軍の特殊部隊を参考に日本人の生真面目さで組み上げた特殊部隊で目立った功績は国民には知らされていないがリコリスやリリベル以上に日本の、主に対外政策のダーティーな部分を補助しているそうだ。
機甲教導連隊とはその名の通り陸自の機甲科を教え導く為の先生的な部隊だ。部隊は静岡県駒門駐屯地にあり、戦車や装甲車で武装している。
「せ、戦車まで投入されたって事ですか?」
いくら防衛戦で少数とは言え対戦車火器を有していたが正面切って最新鋭の戦車とは事を構える可能性があったと聞かされては冷や汗と動揺が止まらなかった。
「まぁ、知っての通り何事も無く終わった。
しかし、我々は日本政府に信用して貰わねばならない」
楠木はエリカの様子をつぶさに観察しつつも言葉を続けた。
「我々は新たに陸上自衛隊から人員交流を行い先ずは信頼回復に努める事にした」
楠木はそう告げると手元にあるスイッチを押す。
「連れて来い」
そう言うと背後の扉が開き楠木の副官がOD色の制服と言う見た事のないカラーをした制服を着た少女2人を連れて来た。
「どうもー上杉愛です。よろしくお願いします」
そう挨拶したのはエリカの向かって左に立つ少女で狐のような印象を受けた。ニコニコと笑みを浮かべており、一見人の良さそうな印象を受けるがその瞳は決して信用という物をしないと言う決意が見え隠れしている。
「鉄装唯華です」
対照的に右に立つ少女は笑みを浮かべることもなく只々真っ直ぐとエリカを見ている。何処となく機械的で、まるでエリカの憧れていた同期たる井ノ上たきなを彷彿とさせるクールな雰囲気だった。
「早速だが2人には実力を示して貰う」
楠木の言葉に2人は大して驚いた顔もせずに立っている。
「ええ、構いません」
上杉はニコリと笑いながら何方でやりますか?と尋ねて来た。楠木はエリカに案内してやれと投げて来たのでエリカは何となくこの2人の世話係と言うか監視というかを命令されたのだと理解した。
エリカは2人を室内訓練所まで案内する。
「弾薬はこれを使って下さい」
訓練用のペイント弾が入った弾薬箱を差し出すと2人はそれを受け取る。そして、待機室のモニターから楠木がエリカに戻ってくるよう告げるのでエリカは楠木等が居る観戦ルームに。観戦ルームには楠木や副官、自衛隊の幹部であろう迷彩服を着た女や男が立っていた。
「準備ができたら右の扉にある赤いボタンを押して」
副官が告げるとモニターに映る2人が手を挙げた。そして、そのまま赤いボタンを押す。
「弾薬を装填してないぞ」
楠木が少し驚いた顔をする。
「あの2人はそもそも銃は携行していませんので」
「なに?」
自衛官の女が答えた瞬間、ビーっと訓練開始の合図がし扉が開く。相手はファーストリコリスの春川フキとセカンドリコリスの乙女サクラのコンビだった。
扉が開き、2人は悠然と歩いて出ていく。対照的にフキとサクラのコンビは拳銃を構えてキビキビと前進していく。まるで対照的だった。
「武器も無しに勝てる訳が無い」
「今からでも拳銃を」
私な言葉に楠木司令が自衛隊側に提案する。しかし、自衛隊の女は平気ですと何様なのか断言した。2人は通路のど真ん中を悠然と歩いていく。
フキさんと乙女さんとはもう直ぐで出会う。その直前、鉄装さんがスッと曲がり角を入って消えてしまう。上杉さんは脇にあった柱の影にしゃがみ動かない。何なのだろうか?
そうこうしているうちにフキさんと乙女さんのペアが互いにカバーをしながら上杉さんが隠れている通路に侵入した。2人は拳銃を構えながら通路のクリアリングをしつつ上杉さんの隠れるバリケードに迫る。別のモニターで鉄装さんが凄い速さで通路を迂回しているのが見えた。2回のキャットウォークに上がれる段差を見つけるや否やその取っ掛かりを猿のような身のこなしで駆け上がっていた。
上杉さんの方は丁度2人がバリケードに差し掛かる。乙女さんが顔を覗かせた瞬間、上杉さんが勢いよく立ち上がり乙女さんに組み付く。体を乙女さんの右側に滑り込ませつつ左手で拳銃を保持。スライドを引き切って強制的にホールドオープンさせていた。
「サクラ!」
「構わず撃って欲しいっす!」
フキさんが素早く後方に下がろうとしたところ、迂回して来た鉄装さんが上から飛び降りる。
「上!?」
フキさんがそれに呼応して拳銃を向けた瞬間、鉄装さんがその拳銃を蹴飛ばした。それに合わせて乙女さんが上杉さんに大外投げの要領で投げられた。
「強襲すればこんな物です。
お遊びはこんな物で宜しいですかな?」
自衛官の女は腕時計を見ながら脇の男が差し出したPDAに何かを操作した。
「それでは任務があるので失礼します。
あの2人にはよくやるように言伝をお願いしますね」
それではと出口に向かって歩き出すので司令の副官が慌ててその先に回って案内をしに行った。
「お前も凡その察しはついていると思うが、お前に与える任務は期間は未定であの2人の世話だ。まぁ、世話といっても監視とも言えるがな。
毎日何をしたかを報告しろ。2人がする行動全てを報告せよ。
以上だ」
司令はそう言うと去って行く。
こうして私こと蛇の目エリカはファーストリコリスとかそう言う以前にとんでも無い任務を任されたのだった。