ソードアート・オンライン~白の銃士と血の喰種~   作:碧桜琥珀

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デュエル

コリニア。古代ローマ風の街並みをしている、七十四層の街だ。

現在の最前線はここだ。俺ことリアは、この層のダンジョン攻略とレベルを上げるためにここに来た。

昨日はこのコリニアで宿を借り、寝泊りをした。

俺は基本的に最前線の街で行動するため、プライベートホームなどは買わない。

飯にこだわりがあるわけでもないので、金は溜まる一方だ。

適当な朝食でも買おうかと街をぶらついていると、転移門が青く発光し、誰かが飛び出て来た。

飛び出て来た奴はそのまま誰かにぶつかり、ぶつかった奴も更に吹っ飛んで俺にぶつかった。

三人は派手に転がり、石畳で頭を強く打ち付ける羽目になったが、この痛み、どうしてくれる。

俺はぶつかってきた二人の顔を見てやろうと覗き込むと、なんと一人は女だった。

飛び出してきた女は恐らくギルド血盟騎士団(けつめいきしだん)――KoBとも呼ばれている――のアスナだ。

栗色の長いストレートヘアに大きなはしばみ色の瞳、白と赤を基調とした騎士風の戦闘服と白皮の剣帯に吊るされた白銀の細剣。

かの名高い『閃光のアスナ』だ。

そしてもう一人の男は大人しいスタイルの黒髪、長めの前髪の下にある柔弱そうな両眼。男にしては甘い顔だ。全身黒い服で、背中に剣を背負っている。

こいつも有名なソロプレイヤー、『黒の剣士キリト』だろう。

一体どういう状況でこうなったか分からないが、俺は取り合えず話しかけることにした。

「おい、あんた等はアスナとキリト……で間違いないよな?そろそろどいてくれよ」

俺の言葉にはっとした二人は急いで体勢を直して座った。

俺も体を起こし、体に付いた砂を払う。

「あー、悪い。ぶつかっちまって」

「わ、私も、急いでたものだから、ごめんさない」

キリトとアスナが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

……しかし、ギルドの副団長とソロプレイヤーが二人でいるって、どういうことなのだろうか。

それを聞こうと口を開くと、転移門が再び青く発光した。

転移門からは仰々しい純白のマントに赤の紋章。血盟騎士団のユニフォームに身を包んだ、やや装飾過多な鎧と両手用剣を身に着けた男が出て来た。

おそらく、アスナの付き人か何かだろう。

その付き人は俺たちを見ると眉間にしわを寄せ、ギリギリと歯を噛みしめながら憤懣やるかたないといった様子で口を開いた。

「ア……アスナ様、勝手なことをされては困ります……!」

甲高く気味の悪い声を聞いて、俺は鳥肌を立てた。

「さぁ、アスナ様。ギルド本部まで戻りましょう」

「嫌よ、今日は活動日じゃないわよ!……だいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」

おいおい、家の前に張り込みとかストーカーじゃねえか。怖ぇな。

少しキレ気味のアスナがそう言い返すと、男は気味の悪い笑みを浮かべた。

「ふふ……どうせこんなこともあろうかと思いまして、一か月前からセルムブルグで早朝より監視の任務に就いておりました」

ああ、もう我慢の限界だ。

俺は立ち上がって、男に言った。

「ストーカーかよ、気持ちわりぃな」

俺の発言に、男は更に顔を歪めて怒鳴った。

「なんだ貴様ァ!部外者は引っ込んでろ!!」

「いやいや、そもそもプライベートタイムの乙女を監視するって、倫理的にどうよって話だろ」

俺の反論に、男は顔面蒼白となって唇をわなわなと震わせた。

「わ、私はアスナ様の護衛を任されている……貴様ごときにそれが務まるかぁ!!」

「あーもう、怒鳴るなよ煩いなぁ」

耐え切れずに、両手で耳をふさぐ。

その仕種に更にいら立ちを見せ、男は素早く右手でウインドウを呼び出し、俺にメッセージを送ってきた。

【クラディールから1vs1のデュエルを申し込まれました 受諾しますか?】

無表情に発光する文字の下にYES/NOボタンといくつかのオプションがあった。

「待てよ、今日アスナと同行するのは俺だ。そいつは通りかかっただけで、無関係。やるなら俺とデュエルしろ」

俺が悩んでいると、キリトが立ち上がってそう言った。

アスナに目をやると、大丈夫という表情で頷いてきた。

この男、クラディールは額に青筋を浮かべ、キリトを睨んだ。

「どいつもこいつも……!」

俺はもうめんどくさくなってきたので、キリトを手で制した。

「いいよ、俺がやるから。ストーカーは個人的に嫌いなんだ」

YESボタンに触れ、【ノーマルモード】を選択した。

ノーマルモード、別名『完全決着モード』。

どちらかのHPが0になるまでの戦いだ。つまり、殺すか殺されるかの、本物の勝負だ。

デュエル成立のメッセージが流れて、六十秒のカウントダウンが流れる。

俺の選択に、クラディールは驚愕の表情を浮かべた。

茅場によるデスゲーム発表から、このノーマルモードは一度も行われなかったからだ。

「正気か貴様……!」

「俺は至って冷静だよ。悪は中途半端じゃだめだ。根絶やしにしないと」

俺は腰から剣を抜いた。

「おい!KoBとソロがデュエルだってよ!!」

「しかも完全決着モードだろ!?頭イかれてんじゃねぇのか?」

どんどんと野次馬が集まってくる。

キリトとアスナも信じられないといった表情だ。

目をむき歯ぎしりをするクラディールに俺は言った。

「ま、あの世で反省会でもすることだな」

カウントが0になり、紫色の閃光を伴って【DUEL!!】というメッセージが表示された。

俺は一気に距離を詰めて、斬りかかった。

流石に血盟騎士団といったところか、剣で防がれる。

鍔迫り合いの状態で、俺はクラディールに囁いた。

「なぁ、ユニークスキルを使うのと使わないのじゃ、どっちがいい?」

ユニークスキル。出現条件もなく、さらに熟練度達成でも得ることが出来ない武器スキルのこと。

「他に類を見ない」という意味から「ユニーク」なスキル、と呼ばれる。

全プレイヤー中、一人しか発現しないスキルだ。

俺はもともと持っていた一つとあるきっかけで現れた二つ目の、合わせて二つのユニークスキルを持っている。

まぁ、そのうち一つはとても使えたものではないが……。

俺の言葉にクラディールは歯ぎしりをした。しかし返事は無い。

ただ異常な感情を込めた目線を送ってくるだけだ。

「沈黙は是なり……ってな」

俺は剣を手放し、バックステップで一気に後ろへ飛んだ。

そして素早くアイテムストレージからある武器をオブジェクト化させる。

「おおおっ!」

雄叫びを上げながら、クラディールが突っ込んでくる。

しかし、俺は敵を見据えながら、武器を構えて―――

引き金を引いた。

パァンという爆ぜる音とともに、弾が撃ち出される。

そう、銃だ。

このゲーム……『ソードアート・オンライン』という題名なのにもかかわらず銃だ。

剣だけの世界において、これ程恐ろしい武器もないだろう。

俺が取り出した武器名は『クトゥグア』。

全体的に白で、銃身に炎のような赤く細いラインが入っており、銃把に白い短剣が付いている。

普通に銃を構えれば、剣を逆手に持っているような形になる。

まぁ、剣の部分はそう使うことなどないがな。

撃ち出した弾はクラディールの肩を貫通し、そのまま建物の壁へとめり込んだ。

驚きと痛みによって体を強張らせたクラディールは、そのまま前へ倒れこんだ。

HPバーを確認すると、二割ほどしか減っていなかった。

「さぁ、急所に一発ぶち込めば終わるけど……」

銃口をクラディールの脳天に当てる。

引き金をいつでも引けるように、指は引き金に置いたままだ。

「どうする?死ぬか、帰るか」

暫く黙ったままだったクラディールは、やがて軋るような声で「アイ・リザイン」と唱えた。

普通に「降参」とかでいいのにな。やっぱ気に食わない。

直後、俺の名デュエル終了を告げる紫色の文字列がフラッシュした。

するとワッという歓声と拍手が広場を包んだ。

銃剣をアイテムストレージのしまい、さっき手放した剣を拾いに向かった。

クラディールはよろけながら立ち上がり、そのまま転移門へと歩いて行った。

「……殺す…………貴様、絶対に殺すぞ」

クラディールの口がそう動いた。負けじと俺も言い返す。

「それは俺のセリフだ。今後アスナやキリトに付きまとったら、マジで殺すからな」

そう言って銃口を向ける。

顔を引きつらせながら転移門へと入っていき、ゾッとする殺意を込めた目線をぶつけて来ながら、クラディールは消えた。

俺はキリトとアスナの元へ歩いて行った。

「またあいつが現れたら声をかけてくれよ。ちゃんと殺すから」

満面の笑みで言う俺に、若干引きながらもキリトは手を差し出してきた。

「俺はキリト。ソロでやってる」

ああ、握手か。手を握り、軽く振った。

「俺はリア。同じくソロだ」

すると、隣のアスナも手を差し出してきた。

同じように握り、軽く振る。

「私はアスナ。血盟騎士団の副団長です。先程はうちのものが失礼しました」

「いいって、一方的に痛めつけただけだし」

申し訳なさそうな顔をするアスナにそう微笑む。

「ところでお二人さん、これからおデートですかな?」

冗談めいた言い方に二人は苦笑しながらも、答えた。

「いや、今コンビを組んでてな」

「ちょっと軽くダンジョンに入って来ようと思って」

やっぱデートじゃねえか。

こころの中でそう思いながらも、俺はにやけ面で二人を見つめておいた。

「ふぅん。ま、せいぜい死なないようにな。俺も今日は攻略する予定だったからよ、もしかしたら中で会うかもな」

俺はそう言って、二人から離れた。

キリトは分かっていないようだが、俺には分かった。

アスナのあの目、キリトに惚れてるな。

うんうん、人の恋路を邪魔するわけにはいかないし、なるべく中では会わないように気を付けるかな。

そんな事を思いながら、俺はダンジョンへと向かった。

 

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