ソードアート・オンライン~白の銃士と血の喰種~ 作:碧桜琥珀
森の中に入ると、ダンジョンの入り口が見つかった。
「前はこんなの無かったな……」
これもクエスト用の物なのだろうか。
薄暗く、頼りない松明の光だけが照らす石のダンジョン。
しかし、その作りはあまりに単純だった。
分かれ道も無し。途中に部屋もない無い。
ただただ真っ直ぐな廊下が巨大な部屋に続いているだけだった。
そんな作りが何層かあるらしく、巨大な部屋の奥には堅牢そうな鉄格子でロックされた階段が見えた。
部屋に入って戦闘するのか……?
しかし、恐る恐る部屋に足を踏み入れても何も起こらなかった。
そして鉄格子に近づくと、ロックされておらず、入れる状態であることに気付いた。
「もう誰かが先に来ているのか?」
そんな事を考えていたが、一階から入り四階まで来ても何もなかった。
五階への階段周りの鉄格子も開いていたし、もしやあのクエストはダミーだったのか……?
しかし、そんな俺の考えは打ち砕かれることとなる。
五階の階段を昇ると、今までより更に広く、やや豪華な部屋に出た。
もう階段は見当たらない。
どうやら五階が最上階のようだ。
部屋の天井には錆びついたシャンデリアが爛々と輝いていて、部屋の奥には階段の代わりに天蓋付きの大きなベッドが置いてあった。
ベッドは暗くてよく見えないが……何かの人影が動いたのを見た。
少し緩んでいた気を引き締め、両手に銃を構える。
目を凝らしていると、カーソルが現れて敵情報が解った。
HPバーは俺たちと同じく一段。
そしてそのモンスターの名前は……
「………………え?」
『アカネ』と、表示されていた。
モンスターではない、人名。
しかも、俺の知っている人物の名前だ。
まさか……と思ったが、あいつはSAOなんて興味もなかったはずだ。
しかし、プレイヤーならあいつが攻略してしまったということだろう。
「あなたが攻略したんですか?」
悔しさ交じりにそう尋ねると、ベッドの中の人物が這い出て来た。
まずは病的なほどに白い足。
同じく白いスカート……いや、ワンピースか。
だが、胸元は血でも付着したかのように赤く染まっていて、服のしわを伸ばす白い手も、血色で染められていた。
長い黒髪に端正な顔。やや幼さも残るが、美人な部類には入った。
しかし、その口元は生物を生きたまま喰らったように、血が付いていた。
そして何より、その人物は、その女性は、俺のよく知る人物だった。
こんなゲームに居る筈はなく、俺のリアルでの友達で、友達にはない感情を感じていた人物。
「あ……かね……?」
目を限界まで見開きながら、かすれた声で彼女の名前を呼んだ。
「やぁ、
血だらけの口で、彼女は俺の名を呼んだ。
「まて、待て待て。おかしいだろう」
思わず痛みを覚えた頭を押さえながら、状況を整理しようとする。
「ホントに現実とおんなじ顔なんだね。どう?この世界は」
微笑を携えながら、茜は近づいてきた。
「……なんでここに居るんだ?お前、ナーヴギアすら持ってなかっただろ」
「うーん、それを話すと長くなるんだけど……」
ま、座りなよ、と言って、茜は俺の手を引き、ベッドに座らせた。
「……玲がSAOに囚われたって知ったのは、SAOが始まってからすぐのことだったの」
茜はアイテムストレージを弄って、紅茶カップとポットを取り出して俺に注いだ。
俺は乾いた唇を湿らせながら、紅茶によく似せられた味のの液体を流し込んだ。
「私はどうしても玲を助け出したかったの。命を懸けたゲームなんて、玲が死んでしまうかもしれないなんて、私は嫌だったもの」
「そんなに簡単には死なないよ」
苦笑しながら言うと、茜は小さく首を振った。
「警察も病院も頼りにならない。だから、私は私だけで玲を助け出そうとしたの。
それで、色々あって茅場晶彦を見つけたの」
「ちょっと待って色々省きすぎ」
茅場晶彦を見つけ出した?
単なる女子高生である茜に、なぜそんな事ができる。
「それで茅場の秘密を一つ握ったの。重要な秘密をね。
私はそれをリークしない代わりに、玲を助け出す事を約束させたわ」
……もういいや。
取りあえず全部聞こう。
「でも、ただ単に助けるのはゲームプログラマー的に許せないんだって。
だから、ある条件をクリアすることで、玲を現実世界に戻すことにしたの」
「条件?」
「うん、それはね……」
突然茜が立ち上がり、俺の前に立った。
口元は笑顔のままだが、目は笑っていない。
こういう時の茜は危ない。そう俺の記憶が訴えていた。
「システム的にチートキャラになった私が、玲やその仲間を殺すってこと!」
茜が抜き手で俺の頭を貫こうとしてきた。
しかし事前に察知していた俺は、こっそり握っていた結晶を発動させた。
「転移!カームデット!!」
噛みそうな口を頑張って回し、叫んだ。
茜の抜き手が貫く前に、俺は青白い光に包まれた。
「……玲。次はこのダンジョンでボスとして待ってるよ。ちゃんと下の階にもモンスターを用意しとくからね」
「俺だけ生き返るのはゴメンだね」
「だから六人まで選ばせてあげてるじゃない。……もし私を倒すようなことがあれば、SAOを救えるくらいの武器をあげるから、みんなで元に戻りたかったら私を殺しなさいな」
満面の笑みでそう言った茜に背筋を凍らせながら、俺は転移した。