ラグネ・カイクヲラで『一番』を目指そう   作:氷月ユキナ

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0章.私の始まり
1.ラグネ・カイクヲラになった


 俺はある時、普通に死んだ。

 

 自殺したわけでもなければ、狂人にナイフで刺されたわけでもなく、ただの病気だ。

 

 そんな俺は、ラノベのテンプレである自称神様に暇つぶしと称されて、"異世界迷宮の最深部を目指そう"、略して"いぶそう"という作品の世界に転生させられた。

 

 なんでよりによってその世界なんだよと叫びそうになったが、そんなことよりも酷い事実があったのだ。

 

 前世の記憶が戻ったと思ったら女の子になってて、しかも名前はラグネ。

 

 "いぶそう"でラグネという名前……"いぶそう"を読んだことがある人ならもう分かっただろう。

 

 あのラグネ・カイクヲラだ。

 

 前世の記憶が戻った時に自分にだけ聞こえてきた自称神様の声によると、今の俺は俺の魂とラグネの魂が融合、昇華した状態らしい。良くわからん。

 

 そして、ある日俺は決めた。この"いぶそう"の世界で『一番』を目指そう。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 クェえええーー!! クェえええーー!!

 

 そんな動物の鳴き声で、俺……いや、私は目覚める。

 

「……んん……ぇあ? ……もう朝?」

 

 私の朝は早い。細かい時間は分からないけど、朝日が出ていない程といえば分かるだろう。

 

「……はぁ」

 

 いつも通りの場所から農具を取り、爪つきの棒で干草を寄せ集めて、川から桶で汲んだ水を地面に流す。

 

 それを十周ぐらい川と小屋を行き来したら、次は家畜たちの世話だ。餌をあげて、その身体を私の硬い刷毛で擦って、一匹ずつ異常がないかを確認していく。

 

 最初は慣れなかったなぁ……と過去を思い浮かべながら、家畜の身体を見る。

 

 そんなこんなで、一日が終わる。

 

 今私が居る場所は、大陸の端ら辺にある農村シドア。

 

 ここまではレヴァン教は浸透していないので、土の神様とか精霊を崇めている村だ。その村には、この地方一帯を治める領主の屋敷があり、私はそこの下働きだ。

 

 ま、仕事があるだけ良いけど……屋敷で働く侍従たちとは雲泥の差だ、はぁ……。羨ましい。

 

 けど、凍死した子供とかも居たので生きれるだけいいなぁ……とは思ってる。

 

 幸運かどうかは分からないけどね。

 

 そんな私には、一人の家族が居る。

 

 そう……ママだ。

 

 原作のラグネは究極のマザコンだったが、私はそうでもない。

 

 だけど、それがバレると面倒ごとになると感が告げていたのでママの理想の娘を『演技』していた。

 

 ……この身体、『演技』のスペックが凄いんだよね。

 

 まぁ、ママは私とは別の場所で働いてるから、会うのは一ヶ月に一回程度なので、いつも『演技』をする必要は無かった。

 

「──私の一番大切なラグネ……。今日も頑張ってるのね。偉いわ」

「……ママ」

 

 私に会いに来たママに抱き締められ、その間は何も言わない。

 

 一言でも口答えすれば、それだけで終わるからだ。

 

 そんな過酷すぎる環境でも生きられるラグネ()のスペックエグいなぁ……と、再認識していた。

 

「ラグネ、あなたはパパによく似てるわ……。その髪と声、それと瞳……。ふふっ、その賢くて働き者なところは、私似かしら……?」

 

 何言ってるんだろうこの人。

 

 賢いのは認めるが、働き者? ママが? えぇ……?

 

「もう少しだけ我慢してね、ラグネ……。決して、諦めちゃ駄目よ。辛いだろうけど、絶対に生き続けて……」

「……うん」

 

 ……それでも、私に()()()と言ってくれる人がいるというのは私にとって嬉しかった。

 

 ママは私にとって嫌いな部類の人なんだけどなぁ……。

 

「あと少しで、私たちに相応しい暮らしが返ってくるわ……。このまま私たちは終わらないわ。絶対に終わらない……ラグネ、ここからよ……。すぐに、あなたの出番はやってくるからね……」

 

 毎度毎度、よくそんな話できるなぁ……呆れてる。

 

 そうそう、暇だー!と思って試行錯誤したら、私のステータスが見れた。

 

 転生特典のスキル、『神眼』の効果らしい。

 

【ステータス】

 名前:ラグネ HP19/19 MP4/4 クラス:

 レベル1

 筋力0.43 体力0.46 技量1.33 速さ0.63 賢さ0.86 魔力0.19 素質2.24

【スキル】

 先天スキル:魔力操作1.00 神眼1.00

 後天スキル:

 ???:???

 

 素質が2を超えているのには驚いたが、自称神様の魂うんぬんを思い出して納得した。

 

 ……それでも、素質値2なんだ。主人公のカナミは7だよ?

 

 それと『???』は、神様が言うにはチートスキルらしい。効果はよくわからないが。

 

 このスキルの名前は自分で決めろと言われたので、考え中。

 

 そんな日々だった。

 

 だが、いつも通りママにブツブツと言われたその次の日、何か違和感を感じた。

 

 その違和感に確証を持ったのは、いつだったのだろう。

 この領主の屋敷で働く侍従たちがどんどん減っていっていた。

 

 事故、病死、解雇、ママヤバいな、絶対敵に回さないようにしようと心に決めた。

 

 私はママの計画性を見て、学習していく。

 

 そして、半年後、屋敷は人手不足になり、ママの思惑通りに私達は正式な屋敷の侍従になった。

 

 ──私たち母娘の屋敷暮らしが始まった。

 

 まず私がしたことは、ママを『神眼』での観察だ。

 

 仕事中のママは、少し抜けたところもありながら愛嬌のある女性を『演技』している。

 

 しかも、侍女の仕事に真面目に取り組んでいないのに、その演じている人柄のおかげで、他の人から愛されていた。

 

 うん、時間的な効率がいいね。

 

 それで空いた時間で、ママは屋敷の権力者たちに愛想を振り回っていた。

 

 ……凄い。心からそう感じた。

 

 そんなママを真似し、私は同じ位の歳の少年──リエル・カイクヲラに目をつけた。

 

 やるべき事は、まずは顔を覚えてもらう。もちろん好印象でだ。

 

「──ラグネ?」

 

 屋敷の庭で剣の鍛錬をしていたリエルが、こちらを向いた。

 

 私は彼の側に寄り、用意したものを渡す。

 

「あの……これ、お水と替えのお召し物です。よかったら使ってください」

「え? ……あ、ありがとう。そろそろ終わろうと思ってたんだ。ラグネ、よくわかったね」

 

 リエルは剣を近くの木に立てかけ、私の持ってきた衣服に着替えて、水を勢いよく飲んだ。

 

「ふぅ……それにしても、いつもラグネは急に近くにいるよね。これでも、隠れて特訓してるつもりなんだけど……。どうして、俺の場所がわかるの?」

「えっと、そのぉ……。リエル様のことを、よく見て、よく考えて……。それだけですね。あとは何となく……」

 

 私は、リエルの望む『理想』を『神眼』で読み取り『演技』する。

 

 確か原作でも、"努力家だけど少し気弱で自信のない少女"を演じていたはずだ。

 

 するとリエルは顔を少し赤らめたが、すぐに深呼吸をして貴族の男性として取り繕う。

 

「……よく見てよく考えて、か。ラグネ、それは中々できることじゃないよ。もっと自慢していい」

「いえ、私なんてそんな──」

「自分を卑下しちゃ駄目だ。君は間違いなく、素晴らしい女性だよ。侍女の中でも一番優秀だって、俺は思ってる」

 

 す、素晴らしい女性……その目は節穴かな?

 

 褒められるのは嬉しいけどね。

 

「ほらっ。とにかく、ラグネは胸を張って!」

「はい、ありがとうございます……。お優しいリエル様……」

「……あ、ああっ!」

 

 ……よし、手応えあり。けどなんか虚しい。

 

 カナミもこんな気持ちだったのかな。

 

 そんなことを考えながら、私はリエルに媚びを売り続ける毎日を過ごした。

 

 そのことを月に一度のママとの時間で、報告すると、ママの機嫌は良くなっていった。

 

「──ふふふ、悪くはないわっ。流石は私の娘ね……。偉いわ、ラグネ」

 

 ……よし! セーフ!

 

 ママの機嫌が良くなった。これで一先ず安心だ。

 

「それにしても、カイクヲラ家……。案外、拍子抜けだったわね。やっぱり、政争と縁のない辺境だからかしら……」

 

 ……馬鹿にしてない?とツッコミを入れたい。

 

 しかも、これは単純にママの手腕が異次元なだけだ。

 

 それから二年後。

 

 ママは暗躍して、いつの間にか侍従長になった。

 

 そこに至るまでに、死人も出た。やっぱママは嫌いだ。

 

 とにかく、私とママは侍女の中でも『一番』と言えるところまで上がってきていた。

 

 その日、屋敷の庭で騎士を目指しているリエルは、カイクヲラ家が用意した剣術指南役の退役騎士に指導されていた。

 

 そのすぐ傍で、剣での、指南を見ている私。

 

 媚び売りというのもあるが、リエルとは話していて楽しいし、この指南も意外と面白い。

 

 そしてある日、侍従長であるママは庭で仕事をしていたのだ。

 

 だが、訓練内容が『剣術』から『魔法』に移った時にある出来事が起きた。

 

 リエルの魔法が暴発し、《フレイムアロー》がリエルの右腕から飛んで、庭の中を飛来する。

 

 その軌道を私は見ると、その先にはママが居た。

 

 ……あ、ヤバ。

 

「──っ!!」

 

 私は駆け出し、こっそり練習していた『魔力操作』で左手に魔力を集めて《フレイムアロー》を受け止めようとした。

 

 だが、行動が遅かった。あと一歩の所で届かない。

 

 あぁ、終わった。そう思った刹那のことだった。

 

 《フレイムアロー》が『()()()()

 

 《フレイムアロー》の熱が冷めて──掻き消えた。

 

 その現象に、私は心当たりがあった。

 

 けど、信じられなかった。だって、これは──

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ──……ほ、【星の理】……──?」

 

 ママは傷一つなかった。

 

 いやそんな事より、今、不完全ながら【星の理】が使えた……?

 

「ラ、ラグネ!!」

 

 声の聞こえた方向を向くと、魔弾を暴発してしまったリエルが駆け寄ってきた。

 

 青ざめた顔で私の無事を確認するが、同じく青ざめた顔の指南役のおっさんが近づいてきた。

 

「娘、いま……」

「……え?」

 

 ……あ。今の【星の理】、見られた?

 

 マズい。

 

「先ほどの動きに、この魔力の揺らぎ……」

「も、もしかして、ラグネも魔力持ちなのですか……?」

 

 ……あ、そっち? 魔力? 【星の理】はバレてない?

 

 よ、よかった……。

 

「リエル様、魔力持ちはそう珍しくありません。いま重要なのは、先ほどの対応です。ああも流麗に魔力を手に集めるのは、私でも難しいでしょう。正直なところ、すぐにでも私は、この娘を神官様のところまで連れて行きたいと思っています。下手をすれば、リエル様と同じく、大聖都の騎士になれるほどの『素質』があるやもしれません」

「ラ、ラグネにそんな『素質』が……?」

 

 リエルが興奮してる。嬉しそうで良かった。

 

 だが、私も嬉しい。だって、大聖都の騎士になったらこのママのパワハラから逃れられるのだから。

 

「ラグネが……、大聖都の騎士に?」

 

 そうだよー。

 

 私の『神眼』で分かる。最近は大人しくなってたママの欲望がメッチャ溢れてる。

 

 ここから私の『一番』になる道のりが始まるんだと、すぐに分かった。




スキル解説
魔力操作:魔力を自由自在に操作できる。『魔力物質化』も可能。
神眼:"ラグネ・カイクヲラで『一番』を目指そう(うち)"のラグネの転生特典。カナミの『表示』と、マリアの『炯眼』を組み合わせたようなスキル。
???:不明

【星の理】:原作のラグネよりは性能が低い。外伝のIF『守護者ルート』のラグネが使っているのと同じ。
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