ーとある地獄のような場所ー
大柄な男が剣を振っている、それも人よりも巨大な剣を。鎧は鋼とは思えぬ、しかしそれとは比べ物にならない硬度があるのが分かる。千人中千人は彼が只者ではないことは一目見ればすぐに確信に至るだろう。
そんな彼の顔は眉間を中心に酷く皺が寄っている。それもそのはず、彼は今戦っているのだ。
いま彼が相対している龍の名は黒龍ミラボレアス。生物という次元を超えた怪物である。辺りは焔に包まれ、ここに先程まで城があったなどとは到底信じ難い。
もちろんこんな怪物と当たり剣を交えていられる彼はハンターと呼ばれる職業の中でも上位に入る実力なのは間違いない。だが「禁忌」などと呼ばれる存在を倒せる程の力は無かった。
(彼らが逃げる時間は稼げた、後はー)
"どうしようもない"
もう一度言うが彼に禁忌を滅ぼす力は無い。下位の古龍なら1人でも倒せただろうが相手はミラボレアスといつ概念そのものである。生き残っていたわずかな国民を逃がせた時点で仕事は終わったに等しい。
"それでもー"
そう!それでも彼はハンターである。最後の最後までまで諦めるような性格ではない。でなければ彼はとっくの昔に死んでいる。
(一撃は必ず入れる、何がなんでも!)
そうして即座に彼は1番良い方法を考え出した。
(ヤツがブレスを吐こうと口を開いたその瞬間、剣を脳天に届くまで突き刺してやる)
つまるところ相打ち覚悟で大剣を口ん中めがけ上向きにブチ込もうというわけだ。いかんせんあれ程の大剣を上向きに、しかも口の中となると力も入りずらい。
いよいよ黒龍が口を開け劫炎を放とうとする。決めるとしたらここしかない。
そして彼は雄叫びをあげながら剣を振り上げ───
最期に、黒龍と目が合った。
広々した草原がそこにはある。中央には巨木が立ち、草が生い茂り、風車のような花はそよ風に揺られクルクルと静かに回っている。2匹の鶴が澄みきった水に口を付け、晶蝶が辺りを飛び回っている。とても平和で穏やかな空間だ。
そんな平和な場所、ヴァネッサの木の下で傷だらけの鎧武者は倒れていた。
しばらくすると遠くから何やら声が聞こえる。驚いているような声だ。
「…あそこに…倒れ………誰か…」
「…、戻って騎士団か冒険者を…次第教会まで…」
「…重っ!…は外して………ーラは今教会に…」
「……なら祈祷を終えたと……で待機させ…」
その時、彼には目を開け耳を澄ます余裕など当然残っていなかった。そして再び両目を閉じ、しばしの眠りに付くこととなった。
不定期投稿なので気長にお待ち下さい。気長に