スライサー   作:hidolite

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プロローグ

 今日もまた、ある地に一つの存在が産み落とされた。

 そこは外と断絶された空間であった。周りの景色は滞りなく見えるものの、しかしそれに触れることは叶わない。

 木にも建物にも人間にも触れることは叶わない。そんな亜空間に生まれた少女の容姿は、既に一次成長期を迎え子供から大人へと向かうさなかであるように伺えた。 即ちそう言った存在として生まれたのである。

 そしてそんな少女に相対するようにその空間に居たのは、顔の分からない男であった。佇まいは男装の和服で。立派な体格に角ばった骨格などからおおよそ男であると判別できる。

 しかしその容貌は一切が謎に包まれ、認識することができない。まるで忘却の彼方へと落ちぶれた記憶の様に、少し離れてしまえば容易に思い出すことさえできなくなってしまう様な、そんな容姿。

 男は立ち尽くす少女に語り掛けた。それは外の世界についてや、この空間について、そしてどうして自分たちがこの空間に居るのかと言ったことだった。 少女の空の心にはその言葉は水の様に染みて、彼女の心を染め上げる。

 男が語るには、この空間はいわば異端者の刑務所の様な場所であり外の世界の住人が我々をここへと追いやったと。

 そして我々はなさねばならない、復讐を。

「分かりました。あなたは……。」

「僕のことは師匠とでも先生とでも呼んでくれればいいよ。」

「分かりました。師匠(マスター)。」

 それも有りか。そう言って男は少女を引き連れてその森を去った。 少女はついぞ、どこか上の空の様な態度だった。

 

 少女はまず着替えた。生まれたままの姿では単に機能性に劣るからだった。男に渡されたのは純白の和服と袴だった。それに着替えると、男はさらに細身の刀を四本、剣帯と共に手渡した。

「それが君の武器だ、それが牙だ。」

 少女は腰の後ろに左右から二本ずつ、上下に刀を下げた。 無骨なデザインの刀は、反りがない直刀でナックルガードが付いておりまるで軍刀のようだった。内一本をすらりと抜刀した少女は、その刃を見定めると今一度納刀し男を見つめ返す。

「どうやら気に入ってくれたようだね。」

 それを確認すると男はまた歩き出し、少女にこの世界を見学させた。最初にいた森の中にも住居をもつ者が数人いた。

 

 数日過ぎて男と少女は、この世界の観光を終了した。この世界は広いわけではないが、しかし狭いわけでもない。それ故にただの足しか持たない少女にとっては少し長い道のりだった。それでも男が先の少女にこの世界を見せたのには理由がある。それは復讐心の増強である。

「さぁ、どう思った?」

 男は問いかける。表情など分かるはずもないのに、男からは笑っている様な気配がした。

「憎いと感じました。私がこんな世界に取り残されているというのに、のうのうと楽しそうに日々を送る彼女たちがとても憎い。」

 彼女は淡々と、それでいて深い憤りが籠った様にそう言った。

 

 少女はそれからひたすらに男からの指導を受けた。刀の扱い方や能力の使い方など、その他多くの知識を少女は男から賜った。そして数か月が過ぎた頃、少女は完璧に仕上がった。男からの全てを受け継ぎ、完成へと至ったのである。

「さて、それでは参ろうか。」

「はい、師匠(マスター)。」

「手筈通り僕が世界の扉をこじ開けている間に君が外へ出るんだ。」

「……はい。」

 少女は寂寥の念を感じていた。それは自分の世界において唯一の存在である彼を失うからである。しかし、それでも重要なの使命である。男は何もない空間に手を突っ込むと、空間を捻じ曲げた。

 そしてばちばちと歪む空間に、人間一人が通れる程度のスキマが生まれる。

「さぁ、行っておいで。」

 少女は何も言わずに一歩を踏み出した。そこは既に外の世界で、後ろには先ほどのスキマがあった。そのまま男は手を離すと、手を内側に引っ込めることなく少女の頭に手を伸ばした。

 撫でられた、そう感じる前にスキマが勢いよく閉じて男の腕を持って行った。少女は微動だにしなかったが、しかし少しだけ小さな雫が。

 そして少女は動いた。足取りは軽く、思考は極めて単純に洗練されていた。

「全て殺さねば。」

 始まりの森の中を彼女は歩いていた。

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