heroes   作:黒糖煎餅

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束ねたはずの想い

結束バンドの結成から、5年。長いようで、短い。

虹夏ちゃんと喜多ちゃんはキャンパスライフを送りながら、結束バンドの活動を行なっていて、私とリョウさんは…STARRYでバイトをしながら、サポートギター、サポートベースとして活動を行なっている。半ニートの私たちと大学生の虹夏ちゃんや喜多ちゃんと生活サイクルが合うわけもなく、高校生の頃のように頻繁に合わせ練習をする機会も減っていた。2人が勉強や大学内での飲み会に付き合っている間も、私やリョウさんは今後の方針であったりとか、新譜の作成に取り掛かっている。勿論、ギターの練習は欠かさない。今日も、リョウさんと2人で作詞と作曲を、そして既存の曲の練習をしていた。

かつては

「ぼっち、毎日これやってんの…?」

と困惑していたリョウさんも、私と付き合う内にだいぶ体が慣れたようで。今日も昼前に集まって、STARRYのスタジオでバイト開始直前まで一緒に練習に励んでいた。

「…ん、そろそろ終わろっか。いい時間だし。」

「あっ、そうですね。もう少し、詰めたかったですけど。」

「ん…まぁ、それは分かるよ。けど、遅れたら店長にどやされるし。バイトの後に眠くなかったらまたやろう。わたしの家なら多分できるし。」

防音室、買ったんだ。と自慢げに語るリョウさん。

「ぼ、防音室…」

「そ。物置小屋だった部屋を掃除して、その中に作った。最近はもっぱらそこで過ごしてるよ。気兼ねなくベースも弾けるし。」

たしかに、音とか気になりますもんね。と返す私。

リョウさんは少しだけ満足げに頷きながら、スタジオの扉に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

バイトも、初めてから5年が経つ。新規のお客さんにはびっくりすることもあるけど、常連さんにはだいぶマシな接客ができるようになった。それに、基本はルーチンワークだし。今はライブ中で、受付を終えて他のバイトの子の教育とか言ってその子を受付に置いたリョウさんと一緒にドリンクコーナーで突っ立っている。

「…最近、バンド増えたね。」

「そう、ですね。」

ここ2年くらいで、インディーズバンドの数が増えた。勿論、演奏のレベルに差はあるけれど、下北沢の街にはギグバックを持つ高校生や大学生の姿が、以前より多い。

拙くても、一生懸命にギターをかき鳴らす少年少女たちの姿は好ましいものに見えた。青臭くもまっすぐな歌詞。青春コンプレックスが無くなったわけじゃないけど、最近はあまり気にならない。

「わたしたちも、もっと頑張らないと」

不意に、リョウさんが呟く。

そうだ。そうだよね。星の数ほどあるバンドの中で、見つけてもらえるのはほんの一握りの輝きを持つ星だけだから。

「…もっと、頑張らなきゃ。」

私も、決意を新たにする。

結束バンドを、最高のバンドにするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌々日。

久しぶりの合わせで練習ができる日だった。少しでも長く練習できるように、私とリョウさんは15分前に集まる。いや、バイトの習慣で集合時間前に集まる癖がついただけなんだけど。

私たちの前にスタジオ練習していたバンドは居ないらしく、店長さんは

「まだ時間じゃないけど、入ってて良いよ。チューニングと慣らし、しときな。」

とのことで、私とリョウさんはスタジオに入る。置かれているパイプ椅子に背を預けながら、私たちは各々チューニングと慣らし、そしてどちらから言い出すでもなく軽く数曲合わせながら、2人が到着するのを待っていた。

「ふ、2人とも、遅い、ですね…」

「そうだね。もう時間過ぎてるのに…」

そう会話をして、私たちは今一度ギターとベースに目を落とす。ジャカジャカ、ジャンジャカ。適当に思いついたフレーズを奏でながら、更に数分待つ。

「ごめんねー!遅れちゃった!」

「すみません!寝坊しました!」

約束の時間から15分近く過ぎた頃に、残りの2人がやってきた。

「じゃあ早速、合わせよっか!」

虹夏ちゃんのスティックがカウントを刻む。曲の滑り出しは上々。Aメロが終わり、サビを迎える直前、ドラムのリズムが、喜多ちゃんのギターが大きく崩れる。

「わっ!?」

「ごめんなさい!ミスしちゃいました!」

「あ、だ、大丈夫です。じゃあ、気を取り直してもう一度…」

 

 

 

また、同じミス。

何度も、何度も。

 

 

 

「虹夏ちゃん、喜多ちゃん。」

「どうしたの?ひとりちゃん。」

「調子悪いなら、早めに切り上げましょう。」

「大丈夫よ!元気よ?」

「あたしも元気だよ。」

私の言葉に、そう嘯く2人。

 

 

「…じゃあ、ちゃんとやってくださいよ。」

自分の言葉とは思えないほど、低い声が出た。

「ぼっち。」

リョウさんの静止させようとする声。踏み留まるチャンスをくれたのにも関わらず、口火を切った私の言葉は止まらなかった。

「大学生活が忙しいのは分かります。楽しいのも、分かります。けど、一曲マスターするための練習時間は、充分ありましたよね。なのに、2人とも序盤でミスするし、たまたまじゃなくて何度も同じところばかり。」

「ミスは謝ったじゃん。」

「謝ったどうこうじゃないです。ちゃんと練習したんですか。練習した上でのミスなら、もっと早く気が付けるはずです。志麻さんに相談したり、何かしらの解決策を講じれる時間があったはずです。」

「喜多ちゃんも、ピッキングの速度が違います。今まで弾けてた速度のはずです。ピッキングを意識するあまり、左手が疎かになってますし。」

「そ、それは…」

「技術不足なら、作曲したリョウさんに相談できたはずです。リョウさんは弾き手がギリギリ弾ける絶妙なラインを見極めて作曲をしてくれてますし、それこそギターだったら私に相談できるはずです。」

「ぼっち、そこまで。」

烈火の如く燃え上がっていた苛立ちを、リョウさんの声と脳天に落とされたチョップが吹き飛ばす。ふと我にかえり、2人にした失礼な言動が頭をよぎって、膝から崩れ落ちそうになる。

「す、すみません、出過ぎた真似を…」

「言い過ぎ。でも、間違ったことは言ってない。…虹夏。郁代。悪いけど、わたしたち帰るから。」

「待って!まだ時間…」

「そうですよ先輩!」

「…時間があろうと関係無いよ。これ以上は練習にならない。時間の無駄でしょ。2人が来る前に軽くぼっちと合わせてたし、それで充分。このままやってたら、こっちの調子まで狂うし。」

それじゃ、とギグバックを背負って部屋を出るリョウさん。それに倣って、私も部屋を出た。

 

 

 

 

こちら、コーラとカルーアミルクになります。

そう言って店員さんは、私たちに飲み物を置いた。私たちはお通しを摘みながら、頼んだポテトや唐揚げが来るのを待っている。

 

「あ、あの!」

沈黙が辛くて、それを破る。今日の謝罪を、伝えなければ。

「きょ、今日はすみませんでした!」

「…何に対しての謝罪?」

あっけらかんと、リョウさんは言った。

「練習、ぶち壊してしまって…」

「あぁ、あのこと。なら、謝るのはわたしの方。ごめん。」

「なっ、なんでリョウさんが謝るんですか!?」

「わたしが言わなきゃいけない言葉だったから。ぼっちに言わせて、ごめん。」

そう言って、リョウさんはカルーアミルクを呷る。喉を鳴らしながら一気に。ぷは、と気持ち良さげな声を漏らしながら、リョウさんはグラスを机に置いた。

「そりゃ、不安に思うよね。わたしだってそうだ。」

ぽつぽつと、リョウさんが語り出した。

「虹夏が…郁代が、大学に進んでさ、交友関係が広がって。それ自体は、別に悪いことじゃないと思うんだ。その繋がりからライブに来て、わたしたちのファンになる人だっているかもしれないし。結果的に、わたしたちの利益にもなる。物販も売れるかもしれないし、そのファンからさらに…みたいな、そんな感じでさ。」

「そ、それは、そう、ですけど…」

「けど、実際はそううまいこと行かないもんだね。無駄に広がった交友関係のせいで、虹夏も郁代も、練習できる時間も、する気力も、少しずつ減ってるんだと思う。もっと上手くなりたい、って気持ちより、楽な方に流れていってるんだろうね。2人とも、孤独に練習するより他人といた方が気が楽なんだろうし。」

その点、わたしとぼっちは交友関係が狭いから安心だ、とリョウさんは残ったお酒を呷る。

ごくごくといい飲みっぷり。飲み方はお姉さんに似ているな、なんて、くだらないことが頭を過った。

「これから、どうなるんでしょう…」

「…これから、か。」

私の呟きに、少し淋しそうにリョウさんは微笑む。カラン、とグラスの氷が崩れる音が響いた。

「今日のぼっちとわたしの言葉で変わらなかったら、そこまでなんじゃないかな。」

「そう、ですよね…」

変わるんでしょうか。さあ?なんて会話が続くと、店員さんが唐揚げやポテト、リョウさんが追加したおつまみ類数品を運んでくる。

「ま、今後のことはまた今度で。」

いただきます。そう合掌しておつまみに手をつけるリョウさんと話しながら、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃぼっち、お疲れ。」

終電より余裕を持って食事を終えて、私たちは帰路についた。珍しくリョウさんが奢ってくれて、

「次はぼっちの奢りね。」

なんて言いながら、ひらひらと手を振って去って行った。

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