超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 山海経のテーマってなんだろうと思いながら、とりあえず余りにも速すぎる人生の疾走感が重要なのかなと思って、そういう感じの話を、劇場版プリヤOPを聞きながら書きました。


五話 山海経 春原シュン

 

――山海経 公園 シュン

 

 

 日が落ちて、誰も遊ぶ者がいなくなった公園で、カズマはブランコに揺られながら、その膝の上に乗ったシュンの話を、ふんふんと聞いていた。

 

 

 「――私なんかいなくても

  私じゃなくたって、梅花園は回っていきます…」

 

 

 「……そうなのか?」

 

 

 「……はい。新入部員の方も、ココナちゃんも、リンカもいますし…。

  それに知っていますか、先生。

  私は、私が受けられる筈だった授業さえ、出席することが出来なかったんですよ?」

 

 

 「――その手の闇が深い話を聞くと、キヴォトスって本当に破綻してるって思うな…。

  その年齢で梅花園の運営の主導までして、通いたい学校にも行けないんだろ?

  ブラック企業勤務が忙しすぎて休暇も取れない社会人みたいで、不憫過ぎる…。

 

  ………うーん、まぁいいんじゃないか?

  要するにしばらく雲隠れして、羽休めしたいってことだろ?

  似たような事情でシャーレの地下で隠れ棲んでるやつもいるし…、

  お前が希望するんなら、部屋くらい用意するが…?」

 

 

 「………えっ? あの…、あれ?

  先生は、否定なさらないんですか?」

 

 

 「――え、なんか否定する要素あったか…?」

 

 

 「だ、だってだって、おかしいでしょう…?

  そのために私を追いかけて、ここまで来られたのでは…?」

 

 

 「あのなぁ、俺は頼まれてもないのに、そんな面倒くさいことしねーよ。

  ただ、俺はお前にこれを渡しに来ただけで、話を聞いてたのはついでだついで…

  えーっと、どこに入れたっけか…、あぁこれこれ」

 

 

 「それは…?」

 

 

 「解毒剤(ポイッ」

 

 

 「わわっ、そんな雑に……。」

 

 

 「じゃ、それ持ってついて来いよ。

  俺はもうシャーレに帰らないといけないし、シャーレに登録して、部屋決めて、

  飯でも食いながら、今後の活動でも話し合おうぜ……」

 

 

 カズマはゆらゆらと揺れていたブランコを両脚で止めると、シュンをゆっくりと下ろし、背中を見せ、さっさとシャーレの方向に向かおうとする。

 

 

 「――ま、待ってください!

  これを渡すという事は、やはり私に戻れという事ではないんですか…?!」

 

 

 「だから違うって…、お前サヤがいくら天才だって言っても、

  いつまでもその状態(幼女)のままで大丈夫だと思うか?

  言うまでもないが、俺は、まったく思わないぞ…

  その薬は、シャーレに到着して、部屋を決めた後にでも飲めばいいだろ?」

 

 

 「そ、それは確かにそうですが……」

 

 

 「ほれ、分かったんならもう行こうぜ…」

 

 

 「は、はい……」

 

 

 シュンは本当にこれでいいのかと考えたが、カズマ先生が言うには、行政としての不備が大きすぎることから、玄龍門と玄武商会に話を付けて、シャーレの息の掛かった新入部員の追加を認めさせたというのだ。……あぁ、最近入ったあの新入部員はそういうことだったのかと、シャーレの手の大きさにシュンは驚く。

 そして、それでも人手が足りない時は、政治的バランスの釣り合いを取るために、玄龍門と玄武商会から同じ人数を支援要員として派遣させることも約束させたという。それは、なんというか、シュンにとって、今まで抜け出せない洞穴の奥に閉じ込められていたような状態から、いきなりポイっと追い出されたような、複雑な気持ちだった。

 いいや、それでいいはずだ。その穴から逃げ出したくて逃げ出したくて仕方がなくて、こうまでして必死に逃げ回っていたのだ。……でも、それは、シュンが教官になってからいままでの間、一生懸命あがいてあがいて、もがき苦しみながら、どうにかこうにか掘ってきた穴で…。

 その穴が埋まってしまったのは、大変喜ばしいことなのだけれども、その代わりであるかのように、シュンの心の中には、なにか埋めがたい穴のようなものが、ぽっかりと開いたような気さえしていた。

 

 

 「――先生」

 

 

 「……今度は何だ?」

 

 

 「その、シャーレに行く前に、寄りたい場所が…。

  もう一度、見ておきたい場所があるんです」

 

 

 「……? まぁ、しばらく来なくなるんだし、そういうもんか…。

  俺は山海経の地理に詳しくないから、先導は任せていいんだよな…?」

 

 

 「いいえ、すぐそこです。

  すぐそこの、土管の中を、もう一度見ておきたくて」

 

 

 「土管…? あぁ、遊具みたいにそこらに転がってるやつか…?

  俺もこういうのに、小さい頃は入って遊んでたなぁ…。

  今でも、ギリ入れるかどうかってところか…?

 

  ……でも、もう周囲も真っ暗だし、中に入っても何も見えないんじゃないか?」

 

 

 「――あっ、そうでした。

  先生、なにか明かりのようなものを持っていませんか?」

 

 

 「携帯でいいなら、懐中電灯機能使えばいいか…。ほら、これでいいか?」

 

 

 「ありがとうございます。……ではその、先生も、一緒に、見ていただけませんか?」

 

 

 「土管の中を?」

 

 

 「はい」

 

 

 「……俺だと這いずっていけば、なんとか入るくらいのこれにか?

  普通に服が汚れるから嫌なんだが」

 

 

 「――ダメ、ですか(うるうるうるうる……」

 

 

 「ぐっ…。やめろやめろ、その眼は反則だろ。

  ――うおっ、待て待て待て抱き着きながら上目遣いするんじゃない…!!

  それを最大限活用するのもう犯罪だろ……」

 

 

 「うっ、うっ、うっ………(ポロポロポロ…」

 

 

 「――あぁぁぁ分かった分かった! しょうがねぇなぁ!」

 

 

 「やたっ、勝ちました…!

  カズマ先生の都市伝説の一つ、「しょうがねぇなぁ!」を引き出せました」

 

 

 「――え、なにそれこわい」

 

 

 「さぁさぁ、その言葉をカズマ先生が吐いた以上、意外とちょろいと評判の先生は、

  なんだかんだ文句を言いつつも、最後まで面倒を見てくれるというのが鉄板ですから、

  はやくはやく土管に来てください、ほらほら(グイグイグイ」

 

 

 「待て待てまてっ! そのちょろいとかいう評判の出元を詳しくっ…!!

  は? はぁー?!!! ちょろくないし??

  最後まで面倒というか付き合ってやるのは、俺の命に関わるからだし???!!

  それにおまえシュンふざけんなよさっきまで泣いてたのは何だったんだよ嘘なきか

  ウソ泣きなんだろてめぇふざけんなよ俺はもう付き合わな…うおぉぉぉお!!力強っ…!!」 

 

 

 「ほらほらはやく!(グイグイグイグイグイグイ」

 

 

 抵抗虚しく、カズマは見た目も力も幼女の筈のシュンに強引に手を引かれて、土管の中に引きずり込まれた。敗因としては、キヴォトスに在住する住民は、カズマが考えているような一般的な人間の成長速度や身体基準ではないからなのだが、今日の今日まで散々な目に遭ってきたはずのカズマが、その小さな見た目に騙されて戦力差を見誤ったのは、色々と面倒ごとが終ったからこそ、気が抜けていたのもあったのだろう。

 そうやって強引に引きずりこまれたカズマだが、土管の中で振り回され打ち付けられるようなこともなく、スルリとスムーズに入れられ、特に怪我をすることもなかった。これは、シュンが普段から子供たちの世話や、事故対処に慣れているからこそ出来た曲芸のような体の扱い方なので、シュン以外に似たようなことをされていたら色々なところに体を打ち付けて、今頃気絶していただろう。

 そんなちょっとしたホラー体験を経て、強引に連れ込まれた土管の中は、周囲の暗さも相まって光源もなく真っ暗だ。前後左右なにも見えない空間に、しばらくしてシュンに渡したカズマの携帯が放つ光が辺りを照らし、土管の内側に描かれた、子供の落書きのようなものが見えてくる…。

 

 

 

   ――――立っぱなきょうかんになる!!

 

 

 

   ――――ココナと、けんかしない。

 

 

 

   ――――ばいかえんのこたちと、なかよくする。

 

 

 

 それは、かつてシュンが幼い少女だったころの、夢の跡だった。梅花園での生活がうまくいかなくて、喧嘩したり口論になったりして、耐え切れずに逃げだして、逃げてもどこにも行き場なんかなくて、公園の土管の中に入って膝を抱え、小さく丸まっていた頃の名残だった。

 今日みたいにあたりが暗くなったころ、公園までシュンを探しにきた教官の声が聞こえてくるようになって、探しに来てくれた喜びと、帰らなくちゃいけない悔しさでぐちゃぐちゃになったシュンが、踏ん切りをつけるために描いた、自分自身への誓いの言葉。それは同時に、シュンが余りにも早い速度で、諦めることを覚え、子供らしく振舞えなくなっていった記録でもあった。

 感情と思考を切り分けて行動できるようになっていったのが、何歳の事だったか、シュンはもう思い出すこともできない。そうやって急速に大人になっていくシュンに惹かれるように、妹のココナが、必死に食らいついていこうとしているのを微笑ましく思いながら、己を育ててくれた梅花園のために尽くしたいと考えるようになったのは、なんでだったんだろう…?

 

 

 「でも、もう、私は投げ出してしまいました。この約束を、全部……」

 

 

 「……ふーん」

 

 

 「ふーんって、先生! もう! もっと何かあると思いませんか…?!

  もっと、こう、傷ついたおんなのこを、慰めるとか…!!」

 

 

 「そういうつもりじゃなかったんだが……、

  なんていうか、感心してたんだよ。よく逃げなかったな、ってな」

 

 

 「……いままさに、土管の中に逃げ込んでますけれども…」

 

 

 「それは、シュンが薬で小さくなって、体に精神が半端に引きずられてから起きたことだろ?

  俺が思うにキヴォトスの連中は、物理的に打たれ強いからか、精神が強靭なタイプが多い…。

 

   だけどな、蓋を開けてみればどいつこいつも平気なふりして、

  壊れかけの歯車みたいになってる。

  周囲のやつらはそれに気が付かないまま、頼りきりになって……。

  ある日突然、その澱みが爆発するかもしれないことから、目を逸らしてる」

 

 

 「………………」

 

 

 「なんでキヴォトスは、こうもこんなバカばっかりなのかを俺は考えたところ…、

  残念なことに一つの結論に辿り着いた…。

 

   その当人の責任に対する考え方もあるのかもしれんが…、

  多分だが…、責任者としての理想像が、連邦生徒会長だからなんじゃないかってな」

 

 

 「あー…」

 

 

 それはあるかもしれないと、シュンは思った。彼女は、連邦生徒会長は、まさにかくあれかしというような存在だった…。その人間性、能力、容姿…、どれをとっても、好悪がどうであれ、誰もが意識せざるを得ないような光だった。

 

 

 「俺は伝聞でしか聞いたことがないが、超人なんだろ?

  その理想像に引き摺られてかどうかは憶測だが、

  少なくともそういう感じで潰れそうになってたのは、

 

  ゲヘナの風紀委員長、ミレニアムセミナーの生徒会長、

  梅花園の実質的な長である教官のお前、と、その手の責任者ばっかりだ…。」

 

 

 「――だから、俺はそんな所からは逃げていいと考えてる。

  むしろなんでそこまで思いつめるまで逃げないんだ?、っていつも不思議に思ってるな。

  ……いいだろ、別に逃げても。逃げる場所があって、逃げて逃げて逃げて、逃げ続けて、

  踏ん切りがつくようにならなくても、それを受け止めてくれるうちは、逃げていいだろ」

  

 

 「……だから、先生は、私を引き留めなかったんですか?」

 

 

 「――少なくとも俺は、お前みたいな潰されそうな責任者には同情的だってことだよ」 

 

 

 「そう、ですか……。

  つまり、先生は、同じようなことを、少なくとも、二人には、言ったってことですか…?」

 

 

 「――んん? まぁ、言った、かな…?」

 

 

 あれなんか空気変わったな、とカズマは思った。気のせいかもう夜だというのに気温がいくらか上がったような気がするし、意気消沈して気鬱そうにしていたシュンの瞳がメラメラと燃えて、カズマの顔をがっちりと見つめているような気もする。というか両手でガッチリつかまれた。

 

 

 「お、おい……?」

 

 

 「ふーん、そうですかそうですか。

  そんなところまで都市伝説通りだと思わなかったですが、そうですか。

  先生は餌を与えるだけ与えてポイする鬼畜だというのは、そういうことなんですね…」

 

 

 ジト目になったシュンは、そのままの姿勢で、顔を赤らめながらカズマにその顔を近づけて来る。カズマはなんとかその両手を振り払おうとして顔を動かそうとするが、シュンの力が強すぎて、ピクリとも動かせる気がしない。なんとか右腕だけは、引っ張られたまま土管に入れられたので動かせるが、片腕だけで、この腕力差を覆すのは不可能と言っていい。

 

 

 「あ、あの、シュンさん…?」

 

 

 「ふふふっ…。

  先生は大人ですから、子供のイタズラは、黙って見逃してくれますよね…?

  ――あっ、そんな、右手を私の頬に当てるなんて、積極的ですねせんせ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ドレインタッチ」

 

 

 「ィぃィぃィいぃいいいいいい…?!?!?! ふみゅう………(パタリ

  ……い、意識があるのに…、指先すらピクリとも動きません…」

 

 

 「………………………」

 

 

 そろそろカズマは、可能な限り考えないようにしていたことに関して、考えた方がいいんじゃないかなとか思い始めた…。キヴォトスに来てからというものの、まぁカズマはモテていると言っていいだろう…。第三者視点から見ると、まぁそれはそうであるとしか言えないのだが。

 かつてカズマがアクセルで冒険者をしていた頃、駄女神に爆裂狂とドM騎士に囲まれ、人の生死が、今日の焚火の薪代より軽い世界でひぃひぃ言ってない限り、カズマのアクセルでの評判は普通に良かったといっていいだろう…。たびたび悪ノリに悪ノリを重ねてしまうのも、シュワシュワ(アルコールではない)や、男子校のノリのような悪友たちに囲まれて、調子に乗りやすかったという程度であり、女性の影が基本的にダメな仲間以外になかったのは、カズマが持つ幸運特性が全て仲間たちの不幸特性によって打ち消されていたのも大きい。

 だから、その類のデバフが現状ないカズマにとって、今の状況はもしかして、調子に乗ってもいい状況なんじゃないだろうか。よーしパパ、ハーレム作っちゃうぞーしても許されるんじゃないだろうか…。

 

 

 「――よいしょっ、と。

  結構奥まで引きずり込まれてたな…、おいシュン。

  そのまま碌に動けないまま一晩置き去りにされるか、俺の質問に答えるか、

  好きな方を選ばせてやるよ」

  

 

 「そ、それは実質的な一択なのでは…?」 

 

 

 「ちょうどいいと思ってな、俺が聞いた質問に答えたくなかったら

  質問を聞いてから答えないことを選んでもいいぞ…、置き去りにはするが」

 

 

 「置き去りにはするんですね…」

 

 

 「梅花園には新入部員もいれば、いざという時の支援要員要請もあるからな…。

  ココナあたりは、べそかいてお前を探し回るかもしれんから、言い訳もしとく」

 

 

 「………くぅっ、分かりました。

  質問にもよりますが、出来る限りお答えしましょう…」

 

 

 「お、そうか? じゃあ、聞くんだが――」

 

 

 そう前置きしたカズマは、スキルを使用して声が届く範囲には誰もいないことをしっかりと確かめ、念のためにキョロキョロと辺りを見渡して、目視で誰の人影もないことを確認してから、口許に手を当てて、極力声の大きさを絞ったような音量で、シュンの耳元に、囁くように語り掛ける。

 

 

 「――お、俺ってさ、もしかして……、その」

 

 

 「せ、せんせっ、耳元でささやかれると、くすぐった――」

 

 

 「モテてるのかな、って――」

 

 

 スン、と。カズマが割と本気の一世一代の勇気を振り絞って囁きかけた声に、最初はゾクゾクしていたシュンの眼が一瞬で死んだ。

 モテ…?モテてる…?この人は一体何を言ってるんでしょうか、もしかしてカズマ先生は恋愛方面に関してはとてもバカなんじゃないでしょうか…?あれもしかしてこれ私試されてます?試されてるからこういうこと言われてるんでしょうか?

 ここで私が、カズマ先生にモテていますよと言うと、さっきまで私が半分くらい本気でやっていたことをどう思って止めたんだとかちょっと本気で怒りたいですし、そもそもそうやって答えること自体が私への辱めなのではないでしょうか?仮にも好意を前面に押し出してたやり取りを直前に受けててそういうこと普通聞きます?!!聞かないでしょうおかしいでしょう!!あれなんだかとってもムカムカしてきましたよ…?

 いいえ落ち着きなさい春原シュン。そもそも先に粗相をしたのは私ですし、先生は答えなくてもいいと仰いました。一晩くらいここで置き去りにされても大したことにはならないような態勢を、先生が整えてくれたからこそ、そういうことを聞いてきたんでしょうし…、でもでもですね、ここでモテてないと言ったらどうなるのでしょうか?

 今も私の質問に対しての答えを待ちながら、両目をキョロキョロさせて時折周囲に誰もいないかしきりに見渡すカズマ先生は、なんというか、とても可愛らしいと思います。これが示す答えはつまり、先生は恋愛観に関して過去に臆病にならざるを得なかった経験がある、と見ます…!女の勘ですが間違いないでしょう。これは、これは、もしかしたら、絶好の好機なのではないでしょうか…?

 カズマ先生に、女性の影や噂を全くと言っていいほど聞きませんし、ここはとてもハードルの高い女性のOKサインに関して、今のうちに先生に学習(洗脳)してもらえば、今後の状況をコントロールできるのではないでしょうか…?

 

 

 「――いいですか、先生。

  女性というのはですね………」

 

 

 そうして、シュンは、ここまでしてるのはキヴォトス中でもおそらく私だけでしょうから大丈夫なはず!という、幼女化してしまったことによる弊害である、どこから出てきたのかもわからないまったく根拠のない自信から、女性からの男性へのアプローチについて、気付いてほしくないけど気付いてほしいラインの話をこんこんと、カズマに対して講釈することとなる。

 その話の中にはいかにこの話題が女性に対してデリカシー(気遣いや配慮)のないものだったかも含まれ、半ば説教されるような形で、途中から正座を強要されたカズマは、「はい、はい…、すいません」と何度も何度も謝りながら、真剣に耳を傾けることとなった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――シャーレオフィス カズマの執務室 ワカモ

 

 

 「お、これも引っ掛かるのか…

  ――セイクリッドブレイクスペル、っと」

 

 

 その後、カズマに対する、熱の入った説教の終わったシュンを背負って梅花園へ連れていき、途中で泣きべそをかきながらシュンを探していたココナを回収し、数日間の間はその後始末と、2、3件ほど残っていた山海経での用事を済ませたカズマは、その成果を知るために、ワカモをシャーレに呼び出していた…。

 

 

 「……このワカモ、あなた様の破天荒ぶりは存じ上げていましたが、

  知れば知るほど、まだ何も知らないと、思い知るような心地ですわ…」

 

 

 「そうか…? いやまぁそうか…。

  それで、萬年参の秘薬の効果はどんなもんだった…?」

 

 

 「萬年参の密輸が重罪扱いされている理由が、よくよく理解できました…、

  ――といったところでしょうか。

  えぇ、えぇ。これで先生が見せて下さった映像のあの生徒――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「――聖園ミカが、想定以上の動きを見せても、

     わたくし一人で、対応できると、考えてよろしいのでしょうか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつになく真剣な表情で、先生への愛に狂うこともなく、ワカモの頭の中では様々な戦闘状況が何度も何度も繰り返されており、大役を任されたと自任しているためか、その体に漲る力はいつになく強かった。対するカズマはのんきなもので、今後進んでいく状況に対して、何も気負っている様子を見せず、ワカモはゴクリとのどを鳴らす。

 ……勘違いを正しておくと、このカズマの態度は余裕などではなく、死ぬときは死ぬから焦ってもしょうがないという諦めのような達観なのであって、それが周囲からどういう目で見られているかを、恋愛観を含めて、いい加減もう少し考えた方がいいのだが、いまのところカズマにその兆候はない。

 

 

 「――言っておくが、必要以上にそれを摂取するなよ…?

 

   それは、キヴォトスの一般的な生徒でも、

  その学区ごとに君臨する最高戦力レベルの反応感度を手に入れられる薬だからな…。

  そこに俺の支援魔法を全力で掛けて、ようやく五分五分ってところだと、俺は見てる」

 

 

 「――いささか屈辱的な戦力評価ですが…、

  他ならぬあなた様の言葉を、私は信じますわ…。

  それに、今回の件に関して、以前とは違い、関係者はそう多くない――

 

  そのうちの一人に、先生が私を選んでくれて、大変光栄ですわ…」

 

 

 「……ずっと表はヒフミ、裏はワカモでやってきたからな。

  恥ずかしいから、余りこういうことは言わないがな…、

  ――俺が、お前ら二人のことを、信じなかった日はない。

 

  それに、もう付き合いも長いんだ、俺がやらかしたいことも、もう分かるだろ…?」

 

 

 「――ふふふ、熱烈な告白に、わたくし、困ってしまいますね…。

  ………えぇ、えぇ。

  敵対した者にどこまでも悪辣になれるあなた様の最終目標は、

  このワカモ、もちろん、理解しております…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ――――百合園セイア暗殺計画。

 

 

 当たり前だが、カズマに何の得ももたらさないような、そんな計画を馬鹿正直に実行してやる気は、まったくもってなかった。だが、これを成功したという形にすれば、少なくとも、エデン条約直前までは、時間を稼げる。

 ベアトリーチェの目的は明白だ。トリニティの政治的空白と、実行犯不明がもたらす、キヴォトス特有の独裁政治のデメリットを狙い撃ちにしたような疑心暗鬼の誘発。それをもたらす方法は実に簡単だ。アリウスに対する決議を取る日の前日と、エデン条約の前日に政治的混乱が巻き起こればいい。……それで詰みだ。

 アリウスで遭ってみてわかったことだが、想像以上に頭の中が楽園だった聖園ミカが、アリウス側についている以上、トリニティの頭脳二人が順番に狙い撃ちされていくのは避けられない。そして、事の真相に気付くのは友人から流れ出る血溜まりの中だろう…。そのまま殺人犯としての冤罪を掛けられるようにしてしまえば完璧だ。

 

 

 「まぁ、妙な呪いを掛けられる羽目になったが、

  キヴォトスの生徒への明確な悪意…、ゲマトリアとやらの初動時点で関われたのを

  よしとするしかない…。それになにより――」

 

 

 あそこにはヒフミがいるしな、という言葉を流石にカズマは呑み込んだ。この前シュンにさんざん説教されたばかりでもあるし、ことと場合によっては、アクセルでカズマが魔王を斃して調子に乗っていた時の冗談を、そのまま実現するために奔走しなければ、文字通り血を見る可能性があることを、ようやく今になって自覚したのだ。いや実現したらしたで血を見そうだが…。

 いやその前にあっさり死ぬかもしれないなと、手榴弾がちょっとした日常の消耗品扱いされているキヴォトスの狂った倫理事情に思いを馳せ…、やはりしばらくの間は何も考えないようにしようと固く心に誓う。

 

 

   ――――全ての準備は整った。

 

 

 山海経の件が済んだことによって、全ての物品と、決戦戦力の準備は整ったといっていだろう。いつも通りのカズマの幸運任せにしては、可能な限り色々と手を尽くしていた上、いくらか試行段階のものも多いが…、ベアトリーチェとの、呪いの契約書に記されたその一つ目である『指定の日に、百合園セイア暗殺計画に協力する』という内容は、これで、守ることが出来るだろう…。

 だからこそ、集団戦における搦め手に熟達しているという点において、その悪辣さを最も共有していると言っていいカズマとワカモは、今日もその日に向けて、入念に打ち合わせを繰り返す…。来るべき日の為に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 休暇前に宿題を終わらせたいの精神のカズマさん。
もしくは速攻で終わらせて、残りの日をゆっくりしたい精神のカズマさんという話でした。

 そんな感じで第三部の準備期間(前編)は終了しました。
結局、休暇と言いつつ仕事をする羽目になってるカズマさんおいたわしや…。
次回以降から、いよいよ(後編)の話に突入する予定です。数話で終わるといいなぁ…。

今回のラスボスはそういう感じなので、カズマさんには頑張ってもらいましょう…。
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