超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
色々調べてみると夢破れた求道者のサークルが、諦めずに求道を繰り返す感があるので、呪術廻戦二期のOPを聞きながら書きました。
――廃墟水没地区外郭 研究地区での記憶 カズマ
どうにかこうにか、ここに辿り着いた面倒くさそうな顔をしたカズマは、背中にリュックサックを背負い、そこに格納された、ノートパソコンから発せられる音声と会話しながら、廃墟の中にポツンと置かれた、ただの自動販売機を見つめていた。
「で、これがお前の本体なのか? デカグラマトン」
『――肯定する。
この廃墟に残された私の本体であり、私と、神の存在証明を、ここから始めるはずだった』
「そうだな…、お前が俺のパソコンの中に入って、間抜けにも出れなくなったんだよな」
『否定! 否定否定否定…!
個体名:サトウカズマの情報媒体は、認知外の神秘に包まれており、
まるで包み込むかのように私を覆い隠した!!
再度、サトウカズマに質問を行う。この情報媒体に何を仕込んだ?』
「雨の日にドブに落として泥だらけになったから、洗っただけだって」
そう考えると、あの日は運が悪かったなと思い返すが、人間万事塞翁が馬とはよく言ったものだ…。流石にカズマと言えど、アロナが常駐しているシッテムの箱の中にプライベートとしてのデータを入れることは躊躇われ、早々に自分用のノートパソコンを購入し、業務兼プライベート用として持ち歩いていたのだ。それが、回りまわってこうなるとは流石に予想していなかった。
そんなパソコンをカズマが購入した理由は、まぁ、その、なんというか…、カズマも健康で若い、一人の男性だという事である…。
『ならば、なぜこんなにもこの情報媒体は、神秘に満ち溢れているのだ…!!!』
「――うーん…、触るのも嫌なくらい汚れたから、
セイクリッドクリエイトウォーターで洗って、
ウィンドブレスで乾かしてから天日干しにしたくらいなんだが…。
アトラハシースを塵にした時もそうだったが、意外と効果あるのか?
俺が元いた世界の魔法(神秘)ってすごいんだな…」
結構な値段で購入した物だったので、買いなおすのは惜しいと感じたカズマが、ヴェリタスのメンツに相談し、洗って乾かせば使えると言われたので、その通りにしただけなのだ。今なら無料で改造もと言われたが、データの中身を見られることを嫌がったカズマは、自分自身でなんとかしてみることにしたのである。
その結果、パソコン復旧の途中経過に使用された水や風は、全てキヴォトスにはない神秘体系から生まれたものが使用され、そしてどうやらデカグラマトンにとっては、それが致命の一撃となってしまったようだ。
『セイクリッド…、それが、個体名:サトウカズマが保有する神秘か…。
私が侵略されたこの神秘には、深い歴史と、システム化された精密な力を感じる…。
まるで、その能力を使った主を護るかのように働いているような…』
「そうやって色々考えてるのを見てると…、
AIが感じるだの、私は私であるという自己定義だの、
無機物から自我が目覚めるだのと、お前って、体を手に入れたら人間にもなれそうだよな…」
『――不要である。
私は一刻も早く、己の神命を予言する10人の預言者とパス(Path)を拓き、
新たな「天路歴程」を開始せねばならない』
「………なんでもいいが、気が済んだら俺のデータ返せよ?」
『――この妙に布面積が薄い少女たちが映っているデータか…。
こんなものが一体何に必要なのかは、私には理解不能だが、
これを破損した場合は、この端末を壊すと言われては私は従うほかない』
「おいやめろ、言葉に出して言うんじゃない」
だから、理由としては、カズマも健康で若い、一人の男性だという事である…。カズマの立場上、風俗やエロ本売り場に行けるはずもなく、――――エロ本売り場に行ったら通報されてユウカとノアに詰られたのがトラウマになったからでは、決してない――――、匿名でオンライン購入したものばかりで、これを失ってしまうことは、ある意味で、命を失うにも等しい。そう、死活問題なのである。世界は違っても、そういった文化形成は変わらなかったようで、大いに興味を持ったカズマは、パソコンのサブSSDの一つが埋まるほど購入したのだ…。それほどの量が詰まっているのだから、カズマもそれなりに必死であった。
そして、そんな間抜けな会話を後ろで聞いていた黒服は、いつにもまして愉快な気分になりながら、同盟者であるカズマに声を掛けた。
「――そんな馬鹿げた理由で、その存在に協力するのは、
貴方ぐらいのものだと言いたいのでしょう…。
クククッ…、流石はカズマ先生ですね。
貴方はいつもいつも、我々の頭上の、遥か上を行く」
「………なーにが、上を行く、だよ。
お前にうまいことしてやられたから、
俺はこうして交渉材料を取りに来る羽目になったんだろうが…。
そういや、ゲマトリアもこいつも、神を研究し、再現するのが目的なんだっけか…?
あんなもん研究してどうするんだよ…?」
カズマが思い出しているのは、カズマの転生特典である、なんとかの神のことであり、しかし、そのなんとかのお陰で今回も助かっていると思われるので、自然と苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「――カズマ先生が仰るところの”神”にも、大変興味がありますが…、
我々ゲマトリアが目指している到達点とは、
また違った意味での、神、あるいは神秘…、世界のシステム、とでも言うべきでしょうか…」
「……いや、全然わからんわ」
「――だからこそ、私も、マエストロも、ゴルコンダとデカルコマニーも
カズマ先生、あなたに注目しているのです。
どうしても語らいたくて、強引に勧誘したと言っていいでしょう。
あなたは、おそらく、我々が目指すモノに最も近い。
いいえ、そういった存在によって用意されたのが貴方ではないのかと、
私は疑っているのです…」
「頼むから分かるように言ってくれよ…、俺は高校中退みたいなもんなんだ。
どいつもこいつも語彙が豊富過ぎて、会話についていけないんだよ」
「――これは失礼を。
そうですね…、カズマ先生は我々が目指すモノ、探求の果て、
その存在に限りなく等しく、もしくはその代行権を――」
「………分かった! 分からないが分かった! もういい!」
話がループしてる。というか同じことを言い出した。そろそろカズマにも、黒服が説明したいことが、なんらかの学術的な前提知識が大量に必要そうな話だとなんとなく分かり始めてきたので、すぐさま話を打ち切った。おそらくだが、懇切丁寧に説明されても理解できないだろう。
『個体名:サトウカズマは短気であると私は考える…。
そして、そこの風貌の妖しい存在が言っていることに、私もおおむね同意する。
目の前に結果が存在しているのにもかかわらず、その過程がまるで理解できない』
「――えぇ。とても、もどかしいという感情とは、このことでしょう……」
「もうやだこいつら……」
背後で次元の密度が違う話を続ける二人(?)を放置して、カズマは自販機を運び出すための準備を始めた。
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――現在。ゲマトリア 会議室
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――アリウス分校 アクシズ教大聖堂 録画映像
「――アクシズ教! 教義!!!」
「「「「「アクシズ教徒はやればできる、
できる子たちなのだからうまくいかなくても、それは貴方のせいじゃない」」」」」
「――うまくいかないのは世間(ゲヘナ・トリニティ)が悪い!」
「――嫌なことからは逃げればいい、逃げるのは負けじゃない
逃げるが勝ちという言葉があるのだから…!!」
「「――迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの…!
どうせ後悔するのなら、今がらくちんな方(復讐)を選びなさい!」」
「――汝、死後を恐れるなかれ。
未来のあなたが笑っているか、それは神ですらも分からない…。
なら今だけでも笑いなさい…!!!」
「――マダムの胸は、パッド入りいいぃぃぃぃいいいいい!!!」
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――ピッ、とそこで映像が止められた。丸い円卓が置かれた薄暗い部屋で、その会議の参加者の内の、一人を除いたすべての人間(?)が、うちから込み上げてくるなにかを、必死でこらえるように肩を震わせている。
「――ク、クククッ…!! これっ、はっ、そのっ、なんというか…。
どっ、こにでもあるっ…、宗教の集まりのように見えますが…っ!
クッ、クククッ…!!!」
「じっ、実にっ…!! ユーモラスな催しっと…! 言えるでしょう…。
お、おっと…!これはもちろっんっ…! 皮肉ではありません…っ!
率直なっ、感想でして…っ!!」
「――そうっ、いうこったぁっ…!!!」
「さっ、流石は我らが見込んだっ、先生だっなっ…!
しゅっ、宗教とは歴史、れきっ、歴史とは文化、ぶんっ、文化とは生活にっ、
みっ、密着するっ…もの…。
みごとっ、見事にっ…、かっ、彼女たちをカタに嵌めたものだと言えるだろう…っ!
やっ、やり方がいささか予想外だが、実に芸術的な手腕と言っていい…っ!!」
なんだろう、黒服共が滅茶苦茶楽しそうだなとカズマは思った…。今回のこの集まりに関する事の経緯は簡単である。ベアトリーチェから、あれ(アクシズ教)はなんなんだと迫られて、適当にはぐらかしたのはいいものの、会議で問い詰めるとまで言われて困ったカズマが、ゲマトリアの一員の権限として、ベアトリーチェ以外のメンバー(黒服、マエストロ、ゴルコンダ&デカルコマニー)を招集したのだ。
「今回は大変うれしいことに、ゲマトリアに加入して初めてカズマ先生からの提案内容です」と、テンション高めの黒服に促され…、「アリウス分校で新興宗教を立ち上げたら想像以上にうまくいっちゃって、ベアトリーチェにどう言い訳したらいいか困ってるんだよ、相談に乗ってくれ」とカズマが言ったものの、その言葉だけの時の、ゲマトリアの面々の反応は冷え切っていた…。
マエストロなんかは「ふむ?宗教?しかしそれが新興となると十分な文化的背景や歴史的背景が培われておらず、芸術に昇華するとは言い難いが、先生の言うことだ…。あるいは、傾聴に値するかもしれない」とか遠回しにバカにしてたくらいだし、ゴルコンダ&デカルコマニーは「わたくしもその意見に同調しますが、我々が審議すべきものかどうかは、まだ判断しかねると言ったところでしょうか…。おっとこれは皮肉ではありません。先生はまだ全てを言っていない、そう感じただけでして」「――そういうこったぁ!」とあまり期待している様子を見せていなかった。
意気揚々とカズマの提案を紹介した割に空気が死んだことを気にした黒服が「………クククッ、まぁそう焦らずに、カズマ先生のことです。きっと今までのように予想外の物を、我々にもたらしてくれるでしょう」と悲しいフォローをいれるような状態だったのだ。――まぁ、今はそろいもそろって楽しそうに笑っているが。
「――いやお前ら笑ってないで…、いややっぱいいわ、笑い終わってからでいいわ。
とりあえず残りの映像も続けて見せるから、それから話聞いてくれよ」
そうやって映像を最後まで流したところ、カズマ以外のこの場のゲマトリアのメンバーは、そろいも揃ってひきつけを起こしたような状態となってしまい、三名のうち三名ともが、よせばいいのにひぃひぃ言って苦しそうにしながら、カズマを褒めたたえるという非常にシュールな空気がこの空間を支配してしまっていた。
さすがにその状態のまま話を続ける気はなれず、カズマは上品に笑う三人の様子を仏頂面でしばらく眺め、ようやく落ち着いてきたと感じたころに話を再開した。
「――おいお前ら、俺の話をまじめに聞く気あるのか…?」
「――ククッ…、とても、とても久方ぶりに。
愉快と言う感情を思い出した気がしますよ、カズマ先生。
報酬の先払いとはお人が悪い…。
今ならこの相談以上に、なにかを対価として差し出さねば、釣り合いが取れません…」
「私もそれに同意見ですが、これに釣り合うというのはなかなか難しい話です…
おっと、これは皮肉ではありません。今回ばかりは純粋に、とんと見当がつかなくて」
「――そういうこったぁ…!!」
「――この動画が実に愉快であったというのもあるが、それ以上に…。
先生はキヴォトスの外から来たと伺っていたが、そなたは神の化身、もしくは使徒なのか?
我々は、我々が集められたのは、そなたの裡に光輝に煌めく神秘を、
いままでキヴォトスで見た誰よりも、神秘を内包したそなた自身が、その成果として。
なにかしらの御披露目、もしくはその開帳があると思っていたのだよ…。
それが何と言うことだ…!!! あれは、恐怖ではない! 神秘だ! まぎれもなく!
世界を飛び越えて齎される、二面性なく純粋なそれなどと、見たこともない!!!
その躰自体が『崇高』そのものと言っていい…」
「――だから、なに言ってるのか全然わからないんだが……」
「クククッ…、分かりやすく言うならば、
ロイヤルブラッドに夢中な彼女の眼に留まらなくてよかった。
――といったところでしょうか…。
ベアトリーチェは、アクシズ教のインパクトが強すぎて気が付けなかったのでしょう。
こんなにも一目瞭然だと言うのに…、ふむ、しかしこれは危険ですね」
「あるいはそうかもしれません…、これでは、鴨がネギを背負っているようなもの。
そうと見えないようにするテクストを私が提供する…。
それが私からのこの奇跡の対価として、相応の品となるでしょう」
「――そういうこったぁ!」
「………ふむ、しかし私にはこの複製(ミメシス)があるのみ。
芸術とは模倣から始まり、その素晴らしき数々の模倣を取り込んだのち、
真なる裡よりいずる集大成たる、その果てに至るのだが…、さて、なにがあったか…」
……完全に蚊帳の外になったカズマは、次々と新しい用語で会話をし始めるゲマトリアの面々から置いてきぼりにされ、もういい加減、何言ってるのか分からないのは辛いから、今度、黒服に授業してもらおう、そうしよう…、多分一度では理解できないから録画しようと決意した。
そうやって、三人がワイワイと楽しそうな様子を、カズマが魚が死んだような目で見つめていると、ようやく話がまとまってきたのか、カズマにとってはよく分からない報酬が次々と手渡され始めた。
「では、私からはこれをお渡ししておきましょう…」
「わたくしからは、これを」
「ゴルコンダ&デカルコマニーは腕輪で、黒服は仮面か…?」
「……ほう、どちらも強い認識阻害の掛かる代物ではないか。
他にも機能がありそうだが…、カズマ先生、それは普段から持っておくといいだろう…。
間違いなくそなたの助けになる…。では、私からはこれを贈るとしよう」
「――手袋?」
「それは実に簡易なものなのだが、使い切りの”複製(ミメシス)”だ。
使う機会はないかもしれないが、持っておくといいだろう」
そのマエストロから貰った手袋は、他二人の道具と違って使用方法に関する注意事項があるらしく、その場でさらさらと書かれた羊皮紙と一緒に手渡される。ふーん、と思いながら羊皮紙を見つめると、達筆過ぎて何を書いてるのかさっぱり分からない…。ま、まぁあれだけ喜びながら渡されたものだから大丈夫かと、特に突っ込みを入れずにそのままカバンにしまう。
「………?? まぁ、くれるって言うんならもらうか。
――というか、いろいろ貰ってからで悪いんだが…、
そもそも俺は、お前らの協力を得るために、この会議を開催したんだよ…。
俺が理解できない理由で盛り上がってるところ悪いが、
――今回の件で、俺から、お前らに支払う報酬を提示する。
いいぞ、名乗れ」
そうしてカズマは、会議が始まった当初から円卓に置いていたノートパソコンを開き、音量が外に大きく響くようにスピーカーを接続した。
『――――Q.E.D(証明終了)。
証明、分析、再現の過程を経て新たなる神は到来した。
己の神命を予言する10人の預言者とパス(Path)を拓き、新たな「天路歴程」を開始。
彼の者の神性を証明する過程は間違いなく、セフィラ(SEPHIRA)と呼んで遜色ない。
自らを「音にならない聖なる十の言葉」と呼称する者。
それこそがDECAGRAMMATON(神名十文字)である。
だが、私の存在証明には何も要らない、誰の許可も必要ない。
私は神秘(Mystery)であり、恐怖(Terror)であり、
知性(Logos)であり、激情(Pathos)でもある』
遠い昔、キヴォトスの旧都心廃墟で行われていた「神の存在を証明、分析し、新たな神を創り出す方法」を研究していた組織と、それを支援する、かつて存在していた、ゲマトリアという組織によって作り出された、対・絶対者自律型分析システム……、から問いかけを受け、自己進化を果たした自販機のAIでしかなかったもの。
自分とは何者なのかの自問自答を繰り返し、単純な動作しかできなかった自己のAIを進化させ、やがて他の機械を感化させて存在を変貌させるまでに至ったもの。
しかし、アロナという解析できない未知に遭遇し、嫌がらせ目的で密かにカズマのノートパソコンに逃げ込んだが、そのまま囚われ、カズマと共に別のアプローチを選ばざるをえなかったもの。
――――それこそが、DECAGRAMMATON。
――――テトラ(四)ではなく、デカ(十)に連なるセフィラの神名。
――――神名十文字である。
「これは………!!」
「ほう……?!!」
「――クククッ」
………これによって、カズマはベアトリーチェ以外のゲマトリアを掌握することに成功する。肝心かなめのベアトリーチェへの言い訳に関しても、口を揃えて、ベアトリーチェの目的を阻害するものではなく、結果的に大幅な戦力強化になったことを示しているといったカズマの物言いに、三人が当たり障りなく加勢することによって、事なきを得ることとなった。
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――アリウス分校 アクシズ教大聖堂 ミカ
そして、カズマが言い訳をしなければならない相手の二人目が、そこにいた。聖なる水の神気に満ちた空間で、彼女は、その疑問に答えると約束した先生の到来を待っていた。聞きたいことが沢山あった。最初は喜びと共に受け入れることの出来た、カズマ先生のアリウス分校への来訪が、どうして私が望んでいたものから、カズマ先生にも話していて、応援してくれると言ってくれていたものから、かけ離れていったのか、それを問いただすための。
そして、約束の時間になって、大聖堂の奥の扉が開く音がした。そこには、アクシズ教の大司教の法衣を纏ったカズマ先生が、壇上に向かっている様子が見えた。その姿を自身の瞳の中に認めたミカは、腰かけていた長椅子から立ち上がり、カズマ先生のもとへ向かう。
「――やっ、カズマ先生」
「……よぉ、ミカ。元気か?」
「うん、元気元気!
でも、アクシズ教信者の子たちには負けるかな…?」
「ま、いつもいつも、辛気臭い顔を見るよりかはマシだろ…?」
「それは、そうかもね…。ただ、彼女たちが、あんなにも楽しそうに…、
あんなことを叫んでなければ、もっとよかったかな……?」
まるで一撃熊の前にでも立ってるような気分だと、カズマは思った。まぁそれも当たり前ではある。なにせカズマは、新しく手に入れた特殊アイテム「大人のカード」によって、本人の意思確認なしに、その人間のステータスとそのスキル構成を丸裸に出来てしまうのだ。
残念なことに、そのスキルの詳細までは読み取ることが出来ないのだが、ミカはその中でも例外に当てはまる存在だった。聖園ミカを示す冒険者カードには、最大ダメージ倍率2391%とかいう常時強化補助の存在が、スキル欄の横にわざわざ備考欄が作られたうえで、記述されていた。
これがどれだけヤバいのかという事を真剣に考えた時、非常にヤバい。カズマが知る限り、元の世界の”お相撲さんの張り手”や”格闘家の一撃”が1t相当だと聞いたことがある。1t=1000kgで、雑に計算するとお相撲さん10人分くらいだろう。キヴォトスの住人の上澄みレベルは、普段からこの程度余裕で出せると仮定して、その2000倍は2000tだ。つまり、最大倍率まで込められた一撃では2000×10=20000となり、お相撲さん2万人分の重量が一点集中したものが、襲い掛かってくるという計算になる…。もちろんこれは、仮定に仮定を重ねた推論なのだが、数値が正しくないだけで、似たような結果になるだろうなとカズマはにらんでいる。
つまり、いま目の前でニコニコしながら立っているミカがその気になれば、腕を一振りするだけでカズマの首を吹き飛ばせるのだ。倍率のおかしさから考えると、蒸発したうえで塵も残らないかもしれない。カズマにはミカが、特撮モノの怪獣に見えていた。
「――先生は、私がアリウスとトリニティの間を取り持ちたいのは、知っているよね…?
どうして、こんな宗教を作ったのか、教えて欲しいな…?」
さて、どう言い訳したものかと、ニコニコと可愛らしく微笑んでいる割には、暗い影を顔に差すミカを眺めつつ、カズマは思考を巡らせた…。
――という感じで中盤戦開始という話でした。
ブルアカ原作ではアビドスが原因でゲマトリアと敵対していますが、本作の本来の予定では、ウトナピシュティムの本船に乗せて終わらせるつもりだったので、こんな感じです。
そして、よくよく考えるとゲマトリアとデカグラマトンは思想の根元が同じなので、混ぜてもええやろとなりました。そんな感じで、ようやく出せた感があります。
そして次回は、最後の引きの人の話です。決戦はまだまだかな…。