超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
そんな感じでダイナゼノンのOP聞きながら書きました。
カズマがかつてアクセルで冒険者をしていた頃…、というよりも冒険者生活をする前の頃。神様生活が長すぎて、人間としての最低限の尊厳なんぞゴミ箱に捨てて来たと言わんばかりのチンピラみたいな駄女神に振り回されて、肉体労働に明け暮れながら、毎日毎日泣いていた頃。
そんな頃から、カズマは早くも異世界という言葉にワクワクなんかしなくなっていた…。然もあらん。なんせ、食堂で働いてたら、畑でサンマが栽培されてて意味が分からないし、バナナ売り屋になんとか雇ってもらったら駄女神が宴会芸でバナナを消し飛ばして首になるしで…、そんなこんなで、にっちもさっちもいかなくなった異世界初心者の二人組には、もはや単純肉体労働以外の道以外あろうはずもなく、カズマの引篭もりのニートには肉体労働が辛すぎるという主張は、こんなに面倒見のいい人たちはいないわよ!という駄女神の励ましによって、あっさり棄却され、実際にめちゃくちゃ親切な上に面倒見が良すぎる街壁修理の強面連中と仲良くなって、飲んで食って騒いで働いての生活を送っていた…。端的に言って労働の喜びに目覚めてしまって、冒険者として身を立てて行くとかいう当初の目的をすっかり忘れており、その日の稼ぎを全て唐揚げとシュワシュワに替えて食って飲んで騒いで風呂入って明日の為にゆっくり寝ることしか考えていなかった。これは言い換えると、明日までしか、考える余裕がなかったとも言える。
もう少しなんとかならなかったのかって?なるはずがない。そのための、最初の転生特典であり、本来ならば、どれを選んでも遺漏なく異世界生活を送ることのできる強力なチート能力ばかりだったのだが、死んだばかりのカズマの目の前で、ポテチ食いながら人の死に様を馬鹿にする駄女神に一杯食わせてやりたいという感情を優先してしまったがために、そのスタートダッシュが盛大に事故ったのである。そう、だから、カズマにとっての異世界とのファーストコンタクトとは、チートで無双してウハウハでハーレムなファンタジーなんかではなく、ただひたすらの現実の連続だった…。悲しいかな、現実はとても手強かった。
たったの1000エリス(=1000円)の金を、老人からせびって冒険者登録するところから始まり、住む場所がないからと冒険者ギルドに紹介された馬小屋で寝泊まりする羽目になり(すごく臭い)、急ぎで人探しをしてそうな人に駄女神がぶつかられたのをいいことに、わざと銅貨を数枚落した上で、その十倍以上の金銭を要求する当たり屋みたいなことをするしで(でもその巻き上げた金で豪勢になった夕食はうまかった)、そんな現状を突き付けられる度、カズマは何度も何度も、情けないやら悔しいやらで泣きに泣いたが、泣いたところで何かが変わるわけでもなく、ただただ、泣くことしかできなかった。そして、そんな涙が枯れる頃には、カズマはいろいろなことを諦め、受け入れていった…。まぁ、受け入れなければ心が壊れると言うのもあったが、どちらにせよ現状を正しく認識するのは、必要なことだった。俺はそう、俺たちは…。
――いまの自分は、カズマは、日雇い労働者かそれ以下の存在だ、ということを認識して。
あっ…、となって、そこまで考えが至ったところで、カズマは一旦何もかもを忘れて日々を送ることを決定した。心が弱いと言うなかれ。冷暖房完備で据え膳下げ膳状態の引篭もりのニートには余りにも辛すぎる現実だったのだ。むしろここまで頑張れてることをまず褒めて欲しいとカズマが切実に考えていたのもあり、加えて言うならば、この時のカズマは年齢的に言えば、まだまだ未成年の高校生風情でしかないのだ。親心に甘えられる環境で、引き篭もりのニートをしていた一学生には、この状況はあまりにもハードモードすぎる…。そりゃあ現実逃避も捗ろうと言うものである。飲んで食って騒いでいる間は何もかもを忘れられるし、駄女神が飲み過ぎて口から虹を描いているのを介抱する時に咄嗟に我に帰ったとしても、明日は容赦なく襲いかかってくるのだ。辛い肉体労働の日々、労働の苛烈さから荒くなる金遣い、一向に貯まらない貯蓄、このままじゃだめだとわかっていても、とりあえず明日一日の食費と雑費を稼ぐ必要があるという現実に、思考は押し流されていく。
要するに人一人、生きるだけで金がかかるのだ…。幸いと言っていいのかどうか分からないが、駆け出し冒険者の街アクセルは、牧場の主が、モンスターが襲ってきたら対処することを条件に、素寒貧の冒険者たちの寝床(馬小屋)を格安で提供してくれるので、路上にテントを張ったりするようなスラム生活を送らずに済んだし、行政が主導する清潔な公衆浴場があったから、不衛生から病気になることもなかったし、冒険者ギルドが、金のない駆け出し冒険者の為に安い食事をメニューに載せてくれていたので、異世界のいろはが分からないカズマであっても、何とか生きていくことは出来た。そう、生きていくことは出来た…。しかし、そこに希望はなかった。
ただ、生きていくために、生きているような日々を送りたいからという理由で、カズマは異世界転生を受け入れて、魔王を斃せだのとか言うふざけた提案を了承したのではない。そこに、希望を見たから異世界に行ってみようと思ったのだ。まだ見ぬ冒険、戦いの日々、出会いと別れ、魔法と神秘、ここではないどこかへ。今の自分自身を打開するような、変貌させるような、そんな、明日を夢見て。生きていくための希望を…、カズマが心底求めてやまないそれが、異世界にあると期待したから一歩踏み出したのだ。そしてそれは、そういった不明確な希望というものが、誰しも持っているべきそれがあるからこそ、”人間らしく”今日も明日をも生きていけるのだと、カズマは考えるようになっていった…。
――――ただし、アリウス自治区には、そんなものは、一つもなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――アリウス自治区 アクシズ教大聖堂前広場(建設中)
アクシズ教布教中の記憶 大司教カズマ
「――わぁ~~~!!! カズマ先生ありがとうございますっ!!」
ヒヨリに新発売のファッション雑誌を手渡しながら、アリウスに来た当初は、そんなことを考えていた時期が俺にもありました、とカズマは遠い目をしながら考える。
「(スススススッ、スススス! スススススッ!)」
「………はいはい、新しい花の種だろ?
白いのがいいって言ってたから花屋に適当に見繕ってもらってきたぞ…。
分かってる分かってるって、育て方説明書みたいなのも貰ってきたから、ほれ」
「(ピョ~~ン、スススッスッ! ススス!)」
「見つかると面倒だから教会で育てていいかだって?
まぁ、いいんじゃないか? じゃああの辺を花壇にするか」
「(――――ダッ!)」
こんな時ばっかりは、異世界転生するときに貰った言語理解というチートにカズマは感謝した。まさか手話にまで対応しているとは恐れ入った。お陰様で、何故か、頑なに喋ろうとしないアツコとの手話による会話もスムーズに済んでいる。
「サオリが報告に行ってる間に付いてきてと言われて来てみれば…。
――――驚いたよ。
ヒヨリはともかく、姫まで手懐けてるなんて…。
シャーレの先生っていうのは、そう言う事が得意なんだね…」
なにかイカガワシイ行為をしている事を咎めるような瞳で、ミサキはカズマを睨みつける。女子生徒からの軽蔑の視線にカズマは思わず、うっ、となって胸を抑え、何も悪いことをしていない筈なのに、なぜか言い訳をする他なくなってしまう。
「おい、人聞きの悪い言い方はやめろ…。
あいつら二人にも教会の建設を手伝ってもらってるから、その対価を渡しただけだからな…。
アリウスで金持ってても、そんなに外に行く機会もなければ、
時間的余裕もないって言うから、いろんなもの持ってきて好きな物選ばせてんだよ…」
「二人、”にも”…?
それって、どういう――」
「おーい、せんせー!」
状況をいまいち把握しきれないミサキが、カズマに対して更なる追及を行おうとしたが、その言葉にかぶせるように、建設中の教会から声を上げながら人影が寄ってくる。ミサキは盛大に舌打ちをしながら、大事な仲間を陥れているかもしれない脅威に対する警戒心を一段階上げつつ、いましがた上がった声の方に視線だけ向け、
「ちょっと、今こっちは取り込み中なん―――――――は…?」
そこには、シスターがいた。走り寄ってくるシスターがいた。いやそれはそうだ教会なんだからシスターくらいいるだろう、むしろいなければおかしい位なのだが、問題はそこじゃない。
「――――あっ、あ…?」
なんだ?なにがどうしてそうなっているのだ。ちょっと意味が分からない。ミサキはなんとか言葉を続けようとしたが、唐突に役立たずになってしまったミサキの口は、パクパク開閉するばかりで、うまく音を出すことが出来ない。ちなみにその間、カズマは、カズマに声を掛けてきた方向に、頑なに眼を向けようとしなかった。
「………うん、どうした? ミサキ、具合でも悪いのか?」
「あ、ああああ、あんたっ! は、はぁぁああああ???!!
えっ…?! なに? 待って待って分からない…。
あんたってそんな奴だっけ…? 違う違うそうじゃない…。
どうしてそんな恰好をしてるの、アズサ?!」
あまりにもあんまりな視覚的に破壊的な衝撃がミサキを襲い、いつものようなダウナーでなにごとにもやる気のなさそうな機械的なミサキの相貌が崩れ、鬼気迫った表情となり、アズサに詰め寄る。
「――なんだ、そんなことか。
見ての通り、これは当教会の聖服、シスターとしての聖装だ。
なにもおかしいところなどない、立派な服装だろう?」
えっへんどうだ、と誇らしそうに無い胸を張るアズサに対し、ミサキは少しほっこりとした感情になったが、今直面してる問題はそれで済まされるような話ではなかった。
「(――――キッ!!!)」
「(――――サッ!)」
ミサキから向けられる、向けられて当たり前の、まるで変態でも見るような厳しい視線からカズマはすぐさま視線を逸らした。余りにも気まずかった。そこには、アズサになんてものを着せてるんだと言う厳しい弾劾の感情が灯っていた。まぁ、それはカズマにも分かる。でも言い訳をさせてもらえるならば、そのシスター服のデザインを最終的に決めてしまったのは、カズマでは決してないのだと言わせてもらいたいところだ。しかし、ここでそんなことを声高く主張しても、疑念や疑惑を深めるだけに留まらず、ますます追及の声が強くなるだけだろう。だからカズマは沈黙を選ぶしかない。
「………あぁ、なんだ。すまない、ミサキ。
もしかしたら、先生と話していたのを私が中断してしまったか…?
要件を少し伝えたかっただけなんだ…、すまない。
――先生。聞いてくれ、また新しい信者が増えたぞ。
シスターUHは凄いな、次々と信者が増えてな…。
先生の話も聞きたいと言ってるから、時間が出来たら後で来てくれ」
「お、おう…。そりゃよかった、後で顔出すわ…」
ニッコニコの笑顔で”絶対だぞ!”と言いつつ、そして、自身の格好のどこがおかしいのか全く理解していないアズサは実に暢気そうな様子で、シスター服を風にはためかせ揺らしながら、建設中の教会内部へと戻っていく…。シスター服は動きやすさ優先のためか、スリットが多めに取り入れられており、なんというか、とてもきわどいデザインになっている。そんなのを、風にはためかせながら正面から歩いてくるし、後姿を見せつけながら歩いていくのである…。大問題であった。大問題の部分に関して、本人の前でちょっと口にするのは憚れるので、ミサキは言いたいことが山のようにあっても何も言うことが出来なかったが、
「(――――ガチャコン!)」
「――――待て待て待て待て!!!!待てって!死ぬ!死んじゃうから!!
眼がマジだヤバイっ――!!! うおっ――!!」
「動くな、当たらない…」
「当たったら死ぬんだよ!」
「好都合、今すぐ殺してあげる――!!!!」
ひとしきりそうやって、わーわーぎゃーぎゃーと、カズマとミサキは死の追いかけっこを繰り広げ…、数分後、ワイヤー製のロープでグルグル巻きにされミサキが地面に転がされていた。
「――――クッ、私もアズサのように、洗脳して辱めるつもり…!!」
悔しげな顔をしながら、カズマを親の仇でも見るような視線で睨みつけるミサキの主張は、至極まっとうなものであった。何も事情を知らない第三者が、この状況に直面してしまえば、まぁそうなるだろうなと言う感じであり、更に言うならば、カズマによって制圧されたミサキの状態を誰かしらに見られてしまえば、ますますその誤解が加速すること請け合いであった。
………短時間ではあるが激しい運動をしたのもあって、ミサキの体全体が上気して赤くなってしまっており、なんというか、そういう物語の導入みたいな絵面になってしまっているのである。言い逃れは非常に難しいと言わざるを得ない…。そしてその様子というか喧騒は、建設中の教会の内部まで響いており、なんだなんだと見に来る誰かが現れるのも、時間の問題だった…。
「――――あらあらあらあら! まぁまぁまぁまぁ!!
騒がしいので、なにかと見に来ましたが…。
先生、そう言う事なら一番に私を呼んでいただかないと!!」
純白の白鳥が、空へ羽ばたいていくような聖装を纏った、見た目だけは非の打ち所がないほど完璧なシスターUHの姿を、カズマは視界の隅に認めて、説明をする手間が省けたと喜ぶべきか、余計に話が拗れて面倒くさくなりそうだと嘆くべきかしばらく迷ったが、男のカズマが状況を説明するよりは、女性のシスターが話の主導権を握った方がミサキも納得するだろうと判断して、もう全部任せることにする。
「いいか、この状況を見て、
お前が何を思ってるのかは置いておくとしてだ「――ええっ、そんなっ♡♡」
――うるさい黙れ。いつものやつだ。同性同士の方が話も早いだろ…?
色々と見てもらって、なんとか納得させてくれ。
闇討ちでもされたら、あっさり俺は死ぬんだからな…」
「……私としては、先生との会話をもう少し楽しみたいのですが…。
命に関わる問題なら致し方ありませんね…。
分かりました、いつものように、お話をしておきますね♡」
「頼むわ……」
シスターUHに全てぶん投げたカズマは建設中の教会に逃げ込むように走っていくさなか、後ろの方から”クッ、変態の新手…?! ちょっとなにその手は、その手の動きを止めて…!!ちっ、近寄らないでっ…!”とか”うふふふふふ♡、大丈夫です、大丈夫ですよ♡♡。痛いのも、苦しいのも、辛いのも、最初だけです。それを乗り越えてしまえば――”とか”ちっ、近寄るなぁぁぁぁぁぁぁああああ――!!”みたいな断末魔が最終的に聞こえた気がしたが、カズマは両手で耳を塞いで何も聞こえなかったことにした。
その後、カズマは、アズサとハナコによって着々と増えつつある信者の群れに対し、アクシズ教お得意の「あなたの欲望のままに生きなさい、可能な限り世間様の迷惑にならない程度に、でもゲヘナとトリニティは絶許だから何してもいい」という、とにかくどんな欲望だろうが性癖だろうが趣味嗜好だろうが全肯定して、集められた信者総動員で個々人の自己肯定感を高めまくっていた。やってることは現代社会で跳梁跋扈している悪徳宗教のやり方と全く同じだったので、こんな嘘臭い方法でうまいくいくわけないだろと言うカズマの目論見は、箱入り洗脳教育だけで生きてきたアリウス分校の生徒たちには当てはまらなかったようで、その効果は、恐ろしくなるほどに覿面だった。ちょっと心配になるくらいの勢いで、アリウス分校内での信者が増えている。
おいおい大丈夫かよこいつら俺だからよかったけど、キヴォトスの路地裏にでも放り出せばあっという間に身包み剥がれるか、騙されていいように便利使いさせられて使い捨てられるんじゃないかと、カズマが真剣に心配するくらいには、アリウス分校の生徒たちは”疑う”という事を知らなかった。
いや、その表現は正確ではないかもしれないと、カズマは思う。彼女たちは”疑う”ということを知っていた。ただ、アクシズ教徒となることによって、アクシズ教を信じることによって得られるメリットが、彼女たちにとって余りにも魅力的に過ぎた、というだけなのだ…。
それもこれも、新興宗教は生活面で役に立つ、現実的なメリットが存在しないと成立しないだろうというカズマの至極まっとうな論理に基づき、その信仰心の深さと、飛び抜けた適性を持っていたアズサにあるものを教えてしまった事が発端となって、この現状があるのだ…。分かりやすく言うと、教会内での、毎日毎日、目にする日常風景が、これなのである――。
「――ヒール! よし、治ったぞ!
また怪我をしたら、私のところに来るか、
私と同じシスター服を着ている彼女たちのところに行くといい。
いつでも治してやる!」
「う、嘘…。木のささくれで出来た傷が一瞬で跡形もなく…??
消えないと思ってた生傷まで消えてる…、うそでしょ…」
「ほーら! だからシスターアズサのところに行けばすぐ治るって言ったでしょ?
あんたは疑い過ぎなのよ、ありがとうございます!シスターアズサ!」
「ヒール!」「――ヒールヒール!!」「エリアヒール…!!」「癒しの奇跡をここに…、ヒール!」「ヒィィィィィィィィルルルルルル…」「ヒールで遊ばないの!!慈悲深い神が齎してくださった奇跡なのよ…!」「――また戦闘訓練で重傷者が出たわよ!どいたどいた!死んでさえなければなんとかなるわ!セイクリッド持ちはどこ?!!」「私ならここだ…!」「アズサ!」「シスターアズサだ…!」「アクア神への信仰心が特段高いものだけが取得できる、聖なる加護持ちのアズサだ!」「傷口は洗ったか?軟膏は?包帯は?よし…、セイクリッドハイネスヒール…!!」
「――あ、あちこちで奇跡が、な、なにこれ…?
は、ははははは…、わたし、ゆめでもみてるの…?」
ところがどっこい、現実である。事の発端であり、元凶であるカズマ自身も、今のこの状況を夢かなにかだと思いたいところだが、現実は無常であった。ちなみに、この建てかけの教会の中で熱心に活動しているのは、かつてアズサの凶弾によって斃れ、カズマによって再びこの世を謳歌することを許された、元アリウス分校の生徒にして、現ヒフミ率いる路地裏世界の住人たちであり、いまこの場では、シスターUHに統制を任された狂信者たちである。
彼女たちは当然であるが、アクシズ教の敬虔な信徒である。そしてその信仰心の向かう先は、その御祭神であり祀られる神として、教会の最奥に神々しく見えるよう配置されているアクア神像であると彼女たちも理解はしているが、実際は違う。そりゃそうだろう…。
その信仰と信奉、偶像として崇め奉る熱視線はすべてがすべて、カズマに向けられており、その熱は冷えることを知らない。その熱が、本気度がどのくらいかというと、彼女たちのボスに当たるヒフミの伝手(リオ)を頼り、声と姿形にヘイローまで偽装できるようにするため、ミレニアムの最新技術の一つであるホログラムを全身に纏った上で、忌々しい記憶の残るアリウスの土地を再度踏む事を誰一人躊躇しなかった、というくらいに熱のある本気度である。覚悟が決まりすぎていて、とても恐い。
その上で、アリウス分校の生徒たちと触れ合うことによって、自分たちのことが露見しかねないという、大きなリスクを背負ってまで、カズマのやることに付いてこようとしているのだから、その狂い具合は、あの忌々しいアルカンレティアのアクシズ教徒たちに近づきつつあるのだが、幸いなことに、いいや不幸なことに、悲しいかな、いまだカズマにとってあずかり知らぬことである。
そんな、肝心な事をいつも知らないカズマが、ここはあいつらに任せといても大丈夫だから、俺も建設現場に顔を出して手伝いに行くかと思い立ち、工具置場の方に歩き始めると、背後から声を掛けられた。
「――先生♡」
「あー、ハナコ…、終わったのか?」
「はい♡。滞りなく。ミサキさんにも分かっていただけました…。
アリウスでの用事はこれでひと段落といったところででしょうか。
教会建立の竣工式で行われる集会までは、
アズサちゃんと彼女たちに任せてしまっても、何とかなると思います」
「アズサはともかく、
あいつらまでやる気になってくれるのは正直助かるんだが…、
なぁ、ハナコ。なんか嫌な予感がするから、やっぱ集会はやめにしないか?」
「……まぁ。それを止めるなんて、とんでもありません。
それに、アクシズ教を盤石のものにするには、
大掛かりな説得力が必要だと仰っていたのは、先生ですよね♡」
「それはそうなんだが…、いやなんて言うのかな、こう。
ここまで大規模になるのは想定外だったというか…、
教会がどんどん完成に近づいてきて、信者も爆発的に増えてきてるのを見ると
なんか騙してるみたいで、普通に心苦しいんだが…」
「………うーん、そうですね♡
でも先生、そう仰られる割には…、ノリノリで炊き出しとか、土木工事とか
先頭切ってやられてましたよね…、妙に手馴れた感じで。
温泉開発部の方にでも習ったんですか…?」
「(………うっ)あー、まぁそんな感じだそんな感じ…。
それに仕方ないだろ? 監視付きでアリウス地区をうろつくことを許可されてるってのに…、
ここ、ろくな飯屋もなければ、というかそもそも店がないし…、
じゃあ飯とかどうしてんだと思って、話しやすそうなヒヨリに話を振ったら…、
涙ぐまれながらその辺の雑草を渡されて、”私の晩御飯でよければ”とか言われたんだぞ?!!
くそっ…! 俺の知ってるアクシズ教はこんなに善良じゃないってのに…!!」
自身の善行を、まるで神に弓引く罪業を犯した大罪人のような顔をして、カズマは割と本気目に頭を抱える。そんな様子を生暖かい視線で見守るハナコは、あぁなるほどそういうことですか得心行きましたと、目を細め、先生の過去の奇行に思いを馳せる。
「………ぁあ、マリーさんと一緒に買い出しや、
路地裏への大量炊き出しをされていた理由はそれでしたか…。
いまさら統制の取れたあそこに、
そんなことをしてるのはどうしてなんでしょうと思っていましたが
あれは予行練習だったんですね♡(………安心しました)」
「――なんでそんなことまで知ってるんだよ…。
というか最後、良く聞こえなかったが、なんか言ったか?」
「いいえ、なにも♡」
「そうかぁ…?」
「そうですよ♡」
「うーんそうかぁ……」
カズマが地方へのドサ周りを任されてから、陰に日向にその補佐を行ってきたハナコは、普通の高校生としての感性を持って生きてきたカズマの制御方法を少しずつではあるが心得てきていた。ハナコにとって都合の悪い問題を、カズマ先生に先延ばしさせるには、どうすればいいのかという方法論も確立し始めており、カズマはあっさり流された。しかしこの場合はカズマでなくとも流されたかもしれない。
ハナコ発案によるシスター服をハナコ自身が着用しており、その着こなしは完璧だ。さらに言うならば、そうやってシスターハナコとなった姿は、妖艶さと淫靡さを併せ持ちながらも、清楚で貞淑な落ち着いた色合いを纏うような艶姿となっており、そんな格好で体を寄せられながら囁かれたら、カズマでなくとも思考能力を失おうというものである。つまり、この時のカズマの鼻の下は完全に伸びていた。
もしもこの時に、ハナコが、自分自身への向き合い方と、世界への向き合い方、その精神を満たす世界を有していれば、ここからの展開もあったろうが、今はまだ、その時ではなかった。そう、いまは、まだ――。だから。
「――カズマ先生、頼まれていた件、お話が付きました。」
「………あぁ。じゃあ、いよいよか」
「……はい。今夜、大聖堂秘密の部屋に集合する手筈になっています」
ハナコにしては珍しく、至極真面目な顔をしてカズマに用紙を手渡す。よし真面目な話だなと、神妙な顔をして受け取ったカズマの目に、女の子らしいポップで可愛らしい手書きで『秘密の夜の会合! 私たちこれから先生と〜』と題された文字が飛び込んできて、思わずぐしゃっとしてから破りそうになったが、鋼の意志でスルーする。しかしながら、ハナコが顔を赤らめながら、横流しの視線を送っている様子を見せる時は、だいたいからかってくる合図というか、構って欲しいサインであり、それなりの反応をしないと後で拗ねたり、より大きな反応を引き出そうとするハナコによる悪戯が始まってしまうため、ある程度反応せざるを得ない…。
「――おい…」
「うふふ♡ どうかしましたか? 先生♡」
「このふざけた名前の集会の、主催者が俺になってるんだが…」
「えぇ♡ そうですね。カズマ先生がいないと始まりませんから…」
「ハナコお前…、これさすがに俺以外に配ってないよな…?
これをネタに訴えられたら、さすがに勝てないんだが…」
「――――………うふふ♡」
「――おいやめろ。
ただでさえクロノスにゴシップネタ書かれまくってんのに、
こんなもんが人伝にでも流出したら、また妙な噂が広まるだろーが…」
「大丈夫ですよ♡ この案内用紙は、先生専用ですから…♡♡」
「――はいはい、俺専用、俺専用…」
カズマは思うところがあったのか、丁寧に用紙を折りたたむとポケットに収納してしまい、その様子を見たハナコが若干不服そうに頬を膨らませる。
「………最近の先生は、反応がどんどん淡白になっている気がします…。
これが倦怠期なんでしょうか♡」
「なーにが倦怠期だよ…。
おふざけであっても、わざわざ手書きで寄越してくれたものを
粗雑に扱うのはどーかと思っただけだって…、いいから話を戻すぞ」
ふざけた名前の集会に記されていたメンバーの名前を思い出しながら、カズマは改めて本題に入る。
「――で、ハナコ。そいつらに話を通しに行くっていっても、こんな少人数でいいのか…?
事前に話し合った通り、勘付かれるのは不味いから、
演技できなさそうな人間を省いたってのは分かるんだが…」
「………影響力という点でも、実行力という点でも、
話を通しておくべき相手は、この三人で十分でしょう。
まぁ、今回選出したメンバーの中で、演技できない方もお一人いますが…、
彼女は素でいろいろと誤解される方なので、大丈夫です♡」
「まぁ、ハナコの見立てだから大丈夫なんだろうが…。
一人以外は、名前しか分からないから、どんな奴か教えてくれよ。
――――……というか、三人目に関しては、ほんとに来るのか…?」
「えぇ、もちろん、みなさんいらっしゃいますよ♡
――今回の集会で先生が、いままで接点のなかったのが、二人。
ひとりは、シスターフッドまとめ役、歌住サクラコさん。
ひとりは、救護騎士団 団長、蒼森ミネさん。
そして、我々が良く知る、最後のひとり――――」
「私たちの暗殺対象である…、
トリニティ総合学園の生徒会ティーパーティーのメンバーの一人、
トリニティ三大分派の一つサンクトゥス分派のリーダーにして、
3人の生徒会長からなるティーパーティのメンバーの中でも最高権力にあたる、
「ホスト」にあたる人物…」
「――――百合園セイアさんです♡」
――よし!これでちゃんとしたアクシズ教だな…!(現場猫感
これがやりたかったんだよ(四回目
現代人の感覚では、新興宗教に危険なイメージの方が先行します。つまりアズサたちと同じように、入信するに足る、脳を焼かれるような圧倒的な光が必要だったんですね…(メガトン構文
という感じで、次回はそういう話です、ようやくですねぇ…。
全然関係ない話なんですが、瞬間的にHP全快できる勇者パーティと戦わないといけない魔王陣営ってどういう気持ちなんでしょうね…。