超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
――連邦捜査部シャーレ 「若返りの薬」実験の記憶 カズマ
「――なるほど。
先生が仰っていたことは半信半疑でしたが、自分で体験すると一目瞭然。
いえ、むしろ一罰百戒でしょうか…。」
ハナコは、小さくなった自分自身を鏡で確かめると、体の各部の様子や、動き方を仔細にチェックし始める。体術の間合、棒術の間合、武装の扱いと、そんなに調べる必要があるのか?と少し疑問に思う程度には真剣な表情だ。
「そして、この解毒薬を使えば、一瞬で元に戻る…、もしそれも本当ならば
この薬品を作った人物は間違い無く天才ですね。」
「――そうなのか?」
「……ぇえ。なにせ。ぁあっ…!!!
体を小さくされた私は、今日から毎日毎日…。
――へへへ戻りたかったら言うことを聞くんだな?アリウスでまたシスターをしたいだろう?
いうことを聞かないかこのっ!大人と子供じゃあ、力の差は歴然なんだよっ!!
――ああっ!先生やめてくださいっ!そんなっ!だめっ!やめてっ!
子供の体になったからって、そんな強引にっ!きゃあっ!許してくださいっ!
――うへへへ言葉ではそういっても体は正直じゃねぇか、あしをひら――――」
「はい解毒薬(プスっ」
「(ポンっ…)………と、このようにイメージプレイを楽しんだ後、
成長後の姿も美味しくいただけるわけです。
まぎれもなく天才じゃないですかっ――!!」
「お前は何を言ってるんだ…
――というかハナコってまだ未成年だよな…? ちょっと詳しすぎない?」
ボンッと音がして煙がたなびき、ハナコ(幼女)がハナコ(変態)に戻る…。真面目な時というか、緊急事態などに当たっては本当に最高に頭が切れるハナコのことを、もう何度も頼りにしてきたカズマだが、こうやって少しでも状況に余裕がある場合は、場を和ませようとか、小洒落たジョークで場を温めようとか、そういった考えを一切持つことなく、己の性癖の求める欲望のままに暴走することが多くなってきた。特にアリウスでシスターを始めた辺りから、心なしかこう、生き生きしてきたと言うか、ツヤツヤになってきたと言うか、年齢相応の無邪気な……いや邪気だらけの姿を、周囲の人間にも隠さなくなってきた。
カズマも男なので、そんな男より男らしい下ネタ全開のハナコの言に、おおいに頷きたいかと言われれば否とは言えないのだが、そういった台詞を、小さくなってもカズマの性癖ドストライクなハナコに発言されてしまうと、世の無常を感じて悲しくなってしまうのである。世の中うまくいかないことばかりだなと、カズマは顔と体つきだけは最高にドストライクだったドM騎士を思い出してしまって、更に悲しくなった。
というか、この場面を第三者から咎められたら、普通にカズマがお縄になるので、やめて欲しかった。
「ハナコ、お前な…。
お前ってやつは…、お前ってやつは、ほんとに…。
いや、今はそれはいいか…それで、ハナコ。
お前は、いまの自分の変化を見てどう思った?」
「………まず間違いなく、騙せると思います。
これは、薬なんてものの範疇に入る部類のものではありません。
使い方次第で、なんだってできてしまうでしょうし…、ただ、問題点が一つあります。」
「問題?」
「………その、カズマ先生。
そろそろコユキちゃんを構ってあげたほうが、よろしいのでは?」
「――――しくしくしくしくしくしくしくしくしくしく………(冏」
なんかすごい顔をしてキーボードを叩きながらひたすら泣いてる女生徒が、そこにいた。――というかコユキだった。今後の話し合いのために呼んでおいたメンバーの内の一人であり、計画のために使用する物品の説明と実証結果を共有するためにハナコに実験台になってもらっていたのだが、なんですかそれ!面白そうです!私も私も!とぴょんぴょん跳ねながら主張するので、薬を投与していたのだ。
その結果が、小さくなっても、あれだけ小さくなっても私よりっ…!!うあぁああああーなんでーーーー!!!!!と呪詛のように繰り返すコユキ(幼女)であり、いつまでもぶつぶつと呟いている。なんかもうカズマはそれだけで察したが、今必要なのはそこではないので、ちょっと残酷なようだがスルーする。
「コユキ」
「くっ…、私にあれが1cmでもあれば…。
いいえ、5cmあれば…」
「――おい、コユキってば」
「――………ハッ! に、にはははっ…、わ、わかってますよぉ?
ちゃんと画像認識ソフトは走らせてましたし、成長前と後での
他人から見た時の差異を測るようにしてますよ、カズマ先生」
「ならいいんだが…、それでどう思う?
第三者から見て、わからないと言えるか、これ?」
「――うーん…。難しいです。
あ、データ的な意味ではもちろんどうとでもなるんですけれど、
問題は、成長に個人差があることなんですよー…うううっ…」
「あー………」
それは正直考えてなかったと、カズマは考える。山海経で、自分から進んで実験台になり続けているシュンは、年齢的にも肉体的にも、若い大人の女性という意味では成熟した姿だ。
そのシュン(大人)が薬を用いて、シュン(幼女)になってしまえば、あからさまに判別しがたい姿となることは容易だ。姉妹として今までの人生と同じ年月を共にしていた妹のココナでさえ、小さくなってしまったシュン(幼女)のことを、姉の姿であると認識することができなかったことからも、それは明らかだ。
しかし悲しいかな、男であろうと女であろうととも、人には成長の差が必ず存在する。……人の口に戸は立てられず、やむを得ずカズマの耳に入ってきた都市伝説の一つに、ゲヘナ風紀委員会の空崎ヒナは、初等部の頃から背丈等が一切成長しておらず、服を買い替える必要がない、なんて悲しすぎる話が聞こえてくるくらいだ。そういう意味において、万全を期すならば、ヒナに協力を仰いだほうがさらに確実ではあるのだが、事情をなにも知らないヒナにいきなりそんなことをお願いするのは、流石にカズマでも気がひける。
「――しくしくしくしくしくしく……」
だからコユキに使うつもりは一切なかったのだが…、軽率にもコユキ自身が進んで薬を使ってしまったばかりに、自業自得とは言え、昔と今の違いがあまり変わらないという現実を突きつけられてしまったからか、しくしく泣きながら、引き続き端末での作業を行っていた…。しかしながら、いい意味で別サンプルの検証結果がとれたこともあってか、コユキは解毒剤を要求することなく、すぐさま没頭するように作業に入ってしまった。まぁそれだけではなく、この結果がよほど辛かったこともあるのかもしれない…。事情が分かっててこれなのだから、わけもわからず使われた時の精神的ショックは凄まじいものになるだろうことは予想に難くないが…、うーん、まぁいいか。
それはそれとして、ちょっと、いやかなり可哀想だったので、カズマはなんとなしに端末に一生懸命向き合っているコユキの頭を撫ででいた。
「――ほら泣くなって。
そもそもまだ10代なんだから、伸び代があるだろ?」
「自分は関係ないって顔してる人は、みんなそういうんですよ~…ぅうーー!
もっとなでなでして下さい! もっと慰めて下さい!」
「わかったわかった…」
カズマがそうやってコユキを慰めていると、それを隣で見ていたハナコが、――――ハッ…!!とした顔をしながら、「その手がありましたか、さすがミレニアムきっての才媛…侮れません」と戦慄した様子を見せて、真面目な顔をしながらなにやらぶつぶつ呟いていたが、カズマにもそろそろ、ハナコが真面目な顔をしてふざけているのか、真剣なのかどうかが判別できるようになってきた。
こういう時のハナコは、至極真面目に真剣に、ふざけたことを言い出すに決まっているので、深く突っ込まないに限る。
「(ポンっ)わーい!
カズマ先生、わたしもなでなでしてくれますよね…?」
もう面倒くさくなってきたカズマは、あーはいはい、とおざなりに返事しながら、抱きついて来たハナコ(幼女)を雑に撫でてやると、ニコニコしながらおとなしくなったので、この変態が機嫌良く口を閉じてくれるならそれでいいやと、そのままの状態でその場にいる、他の協力者に話を続ける。
「薬はそれでいいとして、リオ。
ヘイローのイミテーションの方はどうだ?」
「花火のイミテーションが出来るなら、
ヘイローも出来るだろうと言われた時は何かと思いましたが…。
今回に限っていうなら、人命救助に当たりますので、作成しますわ…。
ただし、前にも言いましたが、この手の偽装は、犯罪行為に抵触します。
覆面被ってヘイロー隠さずという、ことわざにもある通り、
この手の手段は、後ろ暗い人間の必須技術ですから…」
「まぁ、そりゃそうか…。
ところで、その、リオ」
「――なんでしょうか?」
「なんで、お前も薬飲んでるんだ?
実証は2人もいれば十分だろ…?」
「………………。それは…、肩が凝るからです。
えぇ、それです。
山海経の被検体の資料にある通り、この姿になると、とても、体が軽く、
業務遂行の大きな助けになると、判断したからに過ぎません」
「そうなのか?」
「はい」
「そうか…」
「そうです」
リオ(幼女)は、そう言い終わると、なんでもないような顔をして、すぐさま作業に戻ってしまったが、ときおりカズマのほうをチラチラと見ていた。カズマは、うーん?といった顔で、小型犬のように撫でろ撫でろと命令してくる2人を相手にしながら、様子のおかしいリオを見ていたところ、リオの背後に控えていたトキが、ささっとカズマの耳元近くに寄ってくる。
「(……カズマ先生カズマ先生)」
「(はいはいカズマです)」
「(もしかしたら、もしかしたらですが…、
コユキやハナコさんと同様に、リオ様も幼児化したことによって、
同じことをして欲しいのかもしれません…)
「(同じことぉ…?
いやいやあり得ないだろ? だってリオだぞ?
セミナーの生徒会長で、アリスの時も最後まで1人で抱え込もうとしてたリオだぞ?
まさかそんなこと思うわけ…)」
「(――しかし、見てくださいカズマ先生)」
「(うん)」
「(あのリオ様のとても、とっても可愛らしいご様子を…
正直私はあのまま、あそこにいたら、
そんなリオ様を抱きしめていたかもしれません)」
「(まぁ、元々お前らはツラがいいから、小さくなっても可愛いのはわかる…。
でもなぁ、これ副作用というか、元に戻った時大変なんだよ。
この時のことを忘れずに全部覚えたままなんだぞ?
コユキとハナコは気にしなさそうだが、リオはそうじゃないだろ?)」
「(だからこそです、先生…!!)」
「(なんだなんだ、今日のお前は妙に迫力があるな…)」
「(そういったデータも取っておくべきだとは思いませんか?
私たちにはこの薬に関して、データ上では分かっていても、
実感として分かっていない部分が、あまりにも多いとは思いませんか…?)」
「(俺が分かってればよくないかそれ?)」
「(先生だけが分かっていても、仕方がないではありませんか…
コユキとハナコさんはこの調子ですから、元に戻ってもあまり変化はないでしょう。
つまり、私たちにはその変化が一番大きく期待できるであろう、
サンプルが必要なのではないでしょうか…?)」
「(――待て待て待て待て、トキお前さ、リオの護衛兼秘書なんだろ?
いままさに、もっともらしいこと言いながら、ご主人様を売り飛ばしてない?
言っておくが、俺は後でリオに撃ち殺されたくないから、
やるとしても、お前に唆されたって、絶対に言うからな…?)」
「(……あぁ、後々のリオ様の反応が怖かったのですね。
お任せください、たとえそうなったとしても、
カズマ先生の身体は、私の身命を賭しても、お護りいたします…)」
「(ぇえ………?)」
「(さぁ、さぁさぁ…!
もはや後顧の憂いはなくなりましたね、ささっ、お早く)」
「(お前さてはこの状況楽しんでるだろ…)」
「(なんのことでしょうか、私には、分かりかねます…)
そんなこんなで、トキからの圧に押し負けたカズマは、もしもこれが本物の小型犬だったならば、ちぎれんばかりに尻尾を振っているであろうコユキとハナコの二人の頭から、リオの方へと近づくために手を離した瞬間「「あっ…」」となんだか切なそうな声がしたが、気にしないことにする。……気付いていないのかと聞かれれば、よく気が付くようになってきたとは思うカズマであったが、シュンからの「女の子から好意を向けられているという自覚があるなら、そういう質問をしてはいけません、デリカシーがないです、デリカシーが」という説教を数時間にわたって受けていたのもあって、迂闊に踏み込めないのである。
「………なんでしょうか、カズマ先生」
そんなこんなで、作業中のリオに近いたところ、当然のように振り向かれて質問を向けられる。カズマはそんな鉄面皮のリオに対して、頭を撫でるなんて事をして本当に大丈夫なのか、後で撃ち殺されやしないかと、もう一度トキの方に振り返ると、手話で「後で私も撫でてください」と言いながら親指を立てて、薬を飲み始めていた。――ポンっと音がすると共に、とうとうカズマの周囲は梅花園のような有様となり、頼れる仲間が全員小さくなったのを確認したカズマは、色々と諦めることにした。
「あー…、なんていうかその、そう!
あれ以降、シャーレでの職務を手伝ってくれてたリオに碌にお礼もしてないと思ってな…」
「いいえ、私こそ。
行き場のない私を匿っていただけて、感謝しておりますわ…
ですので、そう気を遣っていただかなくとも、問題ありません」
「そうはいってもな、ほら、あー…。
リオがそう思って手伝ってくれるのは分かるんだが…、
感謝ってのはお互いが、相手のことを尊重してますよっていう挨拶みたいなもんなんだよ。
同じところに住んでるのに、挨拶もしないのは気が悪いだろ?
だから、その、だな…」
うーんだめだ、いくらなんでもここからリオの頭を撫でることが感謝の印で、挨拶みたいなもんだと繋げるのは苦しすぎるとカズマが言い淀んでいると、
「………なるほど、理解しました。
それでは、どうぞ」
何かに深く納得した様子を見せたリオが、頬を少し朱く染め、カズマの方に向かって控えめに頭を突き出してきた。あ、あれ?まだ全部話してないのに俺の言いたいことが通じた?と状況に戸惑いを覚えたカズマだが、まぁ本人がそれでいいならいいかと、慎重に、リオのサラサラの髪と頭を撫で始めた。
「――――ん”っ……」
「え、えーっと…、リオ。
気に食わなかったら、すぐ止めるが…?」
「………………(頭を無言で手に押し付けてくる」
「お、ぉお…?」
「――悪くありません。
先生がよろしければ、気が済むまで撫でていただければ、
士気は向上し、作業の効率化につながるでしょう」
――とは言うものの、手を離そうとすると悲しそうな瞳をするリオ(幼女)にカズマが勝てるはずもなく、空気を読んで待っていたものの、いい加減に痺れを切らした幼女連合軍(シャーレ)が、カズマに突撃してくるまでリオへの感謝の挨拶は続いた。
この日以降、カズマがなにかしら感謝の気持ちを伝えると、どこからか聞きつけたのか、頭を撫でるよう要求する女子生徒が増えていったのだが、まぁどうでもいい話である。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――トリニティ総合学園 大聖堂秘密の部屋での記憶
サクラコ、ミネ、セイア、ハナコ
「――き、君という人は、君という人は、君という人は、君という人はっ…!!!!」
――とまぁ、そういうこともあったので、カズマにこの事態が予測できなかったのかと言われてしまえば、そうでもないのだが、冷静沈着かつ論理と合理を併せ持って物事を考えるトリニティの頭脳と聞いていたのもあって、同じようになるとは思ってなかったのであった…。カズマはいつも通り詰めが甘かった。
「だっ、だから言ったろーが!! 文句言うなよって…!」
カズマは、【少しだけ】小さくなったセイアに馬乗りになられ、ポカポカ殴られるのを両手で防ぎつつ、猛烈に抗議を上げていた…。しかし、カズマのその言があっても、セイアを止めようとする者は誰もいない。まぁそれはそうだろう。『若返りの薬』によって、変貌してしまった彼女たちの姿は、女性らしさの偶像を成長と共に積み重ねてきた、サクラコ、ミネ、ハナコはともかく、比較的そうではないセイアにとっては、この結果は不満に思っても仕方のないものだと言うか、もうこれそういう公開処刑なんじゃないのかという結果になっていたからだった。
「――――く、くぅぅううぅうううううぅう…!!!
だ、だからって、こんな…、こんなのは、あまりにも、あんまりだろう…っ!!!」
「いやそんなこと言われても、分かるわけないだろ…?
ほれほれ、たかいたかーいしてやるから、ちょっとは落ち着けって…」
「――そっ、そんな子供騙しで、私が納得するとでも…?!!!
こっ、こらっ、脇に両手を突っ込むんじゃない、うわぁこわい…!!!」
「ほーれほれほれほれほれほれ……更に飛行機みたいにしてやるぞー」
「――ほ、ほほぅ…。最初は浮遊感故に恐怖が勝ったが、なかなか悪くない…。
い、いいぞカズマ先生、もっとスピードを上げるんだ…!!」
「おおせのままにっと…」
それはもう完全に、保育園の先生と、園児の姿だった。………いいや違うか。最近はPTAがうるさいというか、普通にあんな高所から落としたら責任問題が大きいので、年の離れた親戚同士の戯れのような話かもしれない。
「はーい♡ こちら飛行機便の順番列ですよー」
「ならびましょう! さくらこさん!」
「ええっ…! わたくしこわいのはちょっと…
あっあっ、おまちになってください!みねさん!」
案の定と言うか、若返りの薬によって精神年齢すら一定の若返りを果たした彼女たちは、その体に溢れるエネルギーを抑えられず、
「きゃー!きゃー!すごいですせんせい!
わたくしいま、そらをとんでいます!!!」
「わっ、わたくしはえんりょを、わぁぁぁぁぉぁあああああ…!!
あっ、いがいとたのしい…、でもはやい!こわいですせんせぇ!!」
「私もやってくれますよね♡ 先生♡」
カズマがヘトヘトになっても幼女連合(トリニティ)はもっともっとと、お遊戯をねだりにねだり続け、遊び疲れて唐突に電池が切れたように寝始めるまで、その狂騒は続き、カズマもその場に倒れ込むようにして、意識を失ってしまい…。
――――こうして一回目の会議は、なし崩し的に終了した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――トリニティ総合学園 大聖堂秘密の部屋での記憶(二回目)
サクラコ、ミネ、セイア、ハナコ
「――さっそくだが、本題に入ろうか、にいさ、……先生」
前回と同じ場所に、前と同じメンバーが集まり、流石に真面目に話し合おうと言う心構えが共通していたのあって、全員が真剣な表情をしていたのだが、その目論見は最初から滑った。
「………………」
「………………」
「……あらあら♡」
「………………お、おう」
なんていうか、とても気まずかった。今回も会議を始める前に全員と少しずつあいさつ程度の会話をしたカズマだが、全員が全員カズマのことを「おにいちゃ…」「にいさ…」と途中まで呼び間違えていたのである。ハナコだけは明確に「おにいちゃん♡」と言っていたので確信犯なんだろうが。そういえば、シュンも薬を使った翌日はだいたいこういう感じだったなと、カズマは気まずそうにしているセイアから視線を逸らし、遠い目をして、過去に思いを馳せていた。
「――ゴホンッ!
前回の『若返りの薬』で、会議がまるまる潰れてしまったわけだが…、
先生は、私たちにこれを体験させて、今後の段取りとして何をしたいのか
教えてもらえる、という認識でいいんだろうか…?」
プルプルと震えつつ頬を赤く染めながら、咳ばらいをして話を進めようとするセイアの事を、色々と見なかったことにしてカズマは応える。
「あー、まぁな。
………でも、セイアの薬効後の姿と、未来予知の話を聞いて用途が変わった。
こいつはな、もともと脱出用として使う予定だったんだよ」
「脱出用…?
確かに、成長度合いが現在の姿とまるで違うのならば、それは通用するのだろうが…。
私にとっては非常に不本意なことに、まるで変化がなかったがね…」
「悪かったって….
ただ、この薬には色々と応用性が高いんだよ…。
元々の背丈では通れないような場所への侵入や、侵入後に元に戻ることでの奇襲…。
だけどな、お前らが体験した通り、デメリット効果がすごいんだよ」
「………確かに、まるで童心に帰ったかのような気持ちになりました。
次の服用時ならば、ある程度分別を分けた行動が出来るように思いますが、
あの裡から沸き上がってくるような衝動は、分かっていても抗いがたいですね…」
「――慣れると楽しいですよ♡」
「――――ううっ、わ、わたくし余り思い出したくありませんわ…」
「ま、まぁ色々感想はあるだろうが、それは置いといて、だな…。
俺は、セイアの予知夢の話を聞いて、
これを使いたくなかった用途で使うのが正解なんじゃないかと思ったんだよ…、
――――制圧及び、鎮圧用としてな…」
そもそもカズマは、ワカモへの指示として「いい感じに挑発して足止めしてくれ」ぐらいの事しか考えておらず、セイアから話を聞かされるまで、まさかそれほどの大惨事になるとは思ってもみなかったのである。しかし同時に、予知夢で聞かされた戦闘の経過を聞く限り、カズマの思惑通りに事態は進んでいったと考えていい。百合園セイアの死を装うことに成功し、夜叉のように変貌した聖園ミカと敵対することにも成功している。つまりこの時点で、カズマが考えるべきことは、もうそんなに多くなかったのである。
「それは、あの状態のミカにこれを服用させる、ということかい…?」
すぐさま返答を返すセイアだったが、自らの運動能力が死んでいる基準から考ずとも、それはとてもじゃないが実行可能な事象には思えなかった。
「………いいや、ミカだけじゃない。ま、それはあくまで可能ならの、最終目標だな…。
戦闘の様子を聞く限りじゃとてもじゃないが、
そんな繊細な真似をしてる暇はないんじゃないか…?
そうだな…、救護騎士団としてミネはどう思う…?」
「………そうですね、医療に関しての深い造詣と、戦闘能力。
その両方を持っている人間なら、あるいは可能かもしれません…。」
「ミネには出来そうか…?」
「話に聞いた通りのミカ様のご様子なら、難しいと言わざるを得ませんが…、
そうですね、『患者』の動きを5秒…、いいえ3秒止めていただければ、『救護』可能です」
接近戦を仕掛け、安静な姿勢を取らせたうえで薬を患部に打ち込むくらいならわけないと豪語するミネの言にカズマは驚くが、今の段階でトリニティ側の戦力を迂闊に出すのはまずいだろうと考える。
「………うーん、ミネにはセイアを潜伏場所まで護衛して貰いたいし、
まだ、相手に存在を教えたくないから…。
じゃあ仮に、視界不良かつ風速35ノット(台風並み)の劣悪な環境下で、
2km近く離れた狙撃ポイントでも、狙撃には影響ないと言ってのける、
体のどこの部位にも正確に当てることのできるスナイパーがいたらどうだ…?」
「――――仮に、と仰る割にはとても具体的ですが…、
それに加えて、相手に気配を悟らせず、狙撃された瞬間まで気取られないような、
そんな夢のような凄腕スナイパーがいれば、1秒もあれば可能ですね…。
もちろん、わたくしが医療技術についてレクチャーすることが前提となりますが」
「――その辺は大丈夫だ、キヴォトス最強のスナイパーに心当たりはあるからな…。
多少意思疎通に難はあるが、まぁなんとかなるだろ」
………ただ、その1秒を、どうやって捻りだすか、という事を考えないといけなくなったが。カズマには当然のことだが、キヴォトスの中でも五指に数えられるような、戦闘巧者の動きを目で追えた試しがないため、ここばかりはミユに頑張ってもらうほかない。
「………さすがはシャーレ、といったところでしょうか。
先生の顔の広さには驚くことばかりです…、委細承知しました。
段取りとしては、暗殺の偽装を終えた先生から、セイア様を受け取ればよろしいのですね?」
「そんなところだな、で、俺も含めた他の協力者と合同で、
各所の見張りに立ってる、スナイパーに制圧されたアリウス生徒(幼)を回収する。
話に聞く通りの戦闘の激しさなら、回収後でも戦闘跡地見せれば納得するだろ…」
カズマにはある程度の勝算はあったが、それでもどうなるのかが分からないと言うのが本当のところだ。今回に限っては、当日の状況がアトラハシースの時よりも、セイアによってより鮮明に視えているのもあり、成功率は高いと踏んでいるが、十重二十重に保険を掛けておきたい。
「………なるほど、それならばなんとかなりそうではありますね…。
だから、私たち、シスターフッドに協力を仰ぎたいと言う話なのですか…?」
「そうだな、シスターフッドは戦闘箇所の閉鎖を頼む。
当日にティーパーティー統制下の組織が全て人払いされている以上、
動けるのは、ミネ不在の救護騎士団とシスターフッドくらいだろ…?
異常事態における避難誘導と、立ち入り禁止措置をしてくれれば十分だ」
「――それくらいならば、シスターフッドとしても言い訳が立ちます。
なんとかしてみせましょう…」
よし、これで大体なんとかなりそうだなとカズマが算段を付け始めたところで、セイアから待ったが入る。
「――――いいや待ちたまえ、まだ、全ては解決していない。
しかし、あなたに対して幾ら言葉を尽くしても、のらりくらりと躱されるだけだろう…。
だから私は、ここに宣言する。
トリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティーのメンバーの一人、
トリニティ三大分派の一つサンクトゥス分派のリーダーにして、
3人の生徒会長からなるティーパーティーのメンバーの中でも最高権力にあたる、
「ホスト」として…、
連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの佐藤カズマ先生に、正式に救援要請をお願いする」
「――――救護騎士団団長、蒼森ミネ、確かに拝聴しました」
「――――おなじくシスターフッド、歌住サクラコ、確かに拝聴しました」
「――――おなじく立会人として、浦和ハナコ、確かに拝聴しました♡」
そしてそのセイアが口を開いたかと思えば、残りの三人も示し合せたかのような台詞を、そろいも揃って並べ立てた。ハナコは何のアピールなのか「録音、録画、バッチリですよ、先生♡」と言いながらスマートフォンをふりふりと振っていた。
「――――………お、お前ら………」
カズマは額から、嫌な汗がダラダラと流れ落ちるのを感じながら、今回の件が終わったら、雲隠れしようとしていたことを見透かされたような顔をして、言葉もなくわなわなと震えるしかない。
「――――こうでもしないと逃げられてしまうと、ハナコから聞いていたものでね…。
先生には悪いが、いま我々トリニティは、あなたを逃がすわけにはいかないんだ…。
単独でSRT特殊学園に匹敵する戦力を運用できる上、
その奇跡的な采配で、何度もキヴォトスの難事を解決してきたあなたをね…」
そして今回の件に関しても、今まで見てきた夢見の旅の中でも、いつもいつも何のこともないような顔をして、対応策を次々と打ち出してきたその姿を、セイア自身が逃がしたくなかったともいえる。
「――だから、私が良く知る先生なら、その程度ではないはずだ。
流星群が落ちるトリニティを、周囲が放っておくはずがない…。
野次馬がこぞって押しかけてくるだろうし、それは近づかないように指示を受けた、
正義実現委員会や、自警団だって例外じゃない。
………その程度の事を、あなたが予想できないとは言わせない」
「――そしてその野次馬の中にはキヴォトス全土の生徒が含まれる。
お行儀の悪いゲヘナの生徒たちも、こぞって押しかけることだろう…
だから、そうならないように、助けて欲しい、先生…」
セイアは縋るような瞳をして、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの佐藤カズマ先生を見つめる。その様子を見たハナコは一瞬目を瞠ってしまう…、あのセイアが、いつもいつも諦観に濡れた表情を崩さなかったセイアが、明確に明るい未来を嘱望するかのような瞳で、その瞳にカズマ先生を映しているのを見て。
ハナコはチラリとカズマ先生を見る。そのカズマは、片手で頭をガリガリとかきむしると「はぁぁぁぁあぁあああああぁ……………」と盛大に溜息をつき、「しょーがねぇーなぁー…」と溢すと、機嫌が悪そうな顔をしつつ頬杖を突き、
「――――――――金がない」
と、切り捨てる。………その一連の仕草を確認したハナコは、周囲に見えないように、机の下で拳をぐっと握りしめ、もうなにも心配することがなくなった顔をして、安心したように微笑む。カズマは横目にそれを確認して、なんだ?と不審に思うだけで、そのままセイアに向き合う。
「………んっ? お、お金、お金があれば、なんとかなると…?」
「ん-まぁ、俺があとあと謝りに行くのもセットだが…。
ざっと、このぐらいあればなんとかなる」
セイアは自分でも無茶苦茶を言っていると分かっていたので、すぐさまカズマ先生からのレスポンスが来るとは思っておらず、その程度でなんとかなるのかと、気の抜けた声を上げて思わず呆然としてしまう。そして、そんなセイアの前に、カズマは手元の用紙の端に書いた莫大な金額を開示しつつ、SRT特殊学園を臨時開校しないといけなくなった時と同じくらい、嫌そうな顔をして続けた。
「俺はまったくこれっぽっちも気が進まないが、まぁ、人命が掛かってるしな…。
それだけあれば、まぁ、全部終わるまでは誤魔化せる」
「………おいおい、先生。
キヴォトス晄輪大祭くらいかかるじゃないか」
「――そこまで要求するんなら、文字通り、祭りを開くからな…。
一応計算だけして、金がかかり過ぎるからって言う理由で没案になってたんだよ。
ハナコから聞いてたんなら、知ってるんじゃないのか?」
「うふふ♡ そこまではお話ししていませんよ、先生♡
そもそも、私にもそのお祭りを開いて、どこまで効果があるのか分からなかったもので……」
「まぁ、そりゃ分かるわけないか……
お前らが知ってるかどうかわからんが――――」
その言葉と共に、カズマは天を指し、会議に集まったトリニティの首脳陣の視線が天頂を向いたあたりで、心底いやそうな顔をしながらも、自信満々に、言い放つ――――
「――――百鬼夜行連合学院の、伝説の花火を知ってるか…?」
………カズマがやらかした、最近の黒歴史。お祭り運営委員会が、ミレニアム製のホログラム花火を撃ち上げるよりもいち早く、遥か天高い上空で、百鬼夜行の全天を覆う程の規模の大爆発を起こした爆裂魔法。その二度目の、より派手な御披露目が、約束された瞬間であった…。
――という感じで、楽しいシャーレ(幼)とトリニティ(幼)という話でした。
これがやりたかったんだよ(五回目
「変態系ストレス解消絆ストーリー」が天雨アコと春原シュン以外にないのはおかしいんじゃないかなと思ってこうなりました。前者は被調教願望で後者はおぎゃりたいですよ業が深い。しかし、シュンのやり方は再現性が容易です。童心に戻り、抑圧されてる自己を開放するという手法は、外見から来る幼さも相まって、被害に遭っても大体許してくれそうな空気感があります。
今後の予定としては、次からようやく決着編かな…。
でも、まだまだ書けてないから、当分先よ…。