超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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ムリゲー第三部 X-dayスタート


十三話 Get Set,GO! キヴォトス路地裏大祭(朝の部)

 

――アリウス分校 修繕されたあばら家 サオリ

 

 

 寂れて荒んではいるが、あちこちがつぎはぎだらけになっても人が住む分には問題ない程度に修繕された部屋に、その様相と似つかない新品のラジオがテーブルにぽつんと置かれ、そこから、ノイズが時おり混ざりながらも、明瞭に音声が発せられるのを、サオリは窓の外を眺めながら聞いていた。

 

 

 『――当チャンネルをお聞きの皆さん、こんにちは!

  ――ザザッ――

  クロノス報道部の風巻マイです!

 

   本日、「風巻マイの時事分析」チャンネルでは、

  佐藤カズマ先生が、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに着任してから――ザザッ――

  を記念して行われる【キヴォトス路地裏大祭】について、詳しくお伝えしていきます。』

 

 

 「………」

 

 

 『――市民の皆さんが既にご存じのように、カズマ先生は先日の引退宣言によって、

  多数の生徒に惜しまれながらも、その実務を全て連邦生徒会に委ね、

  要請があれば、外交等の調整を行うと声明を出され、表舞台から消えました。

  ………ここまでに辿り着くまでに、カズマ先生が乗り越えた経緯を詳しく知りたい方は、

  先週の 【――ザザーザッ――】の――ザザッ――をご覧ください』

 

 

 「……アンテナの調子が悪いのか? 肝心なところが分からないな」

 

 

 サオリが困ったような顔をして、ラジオを窓際に寄せる。すると、ようやくノイズなく放送が流れ始める。

 

 

 『――引退したという事で表舞台に出ることのなくなったと言われるカズマ先生ですが、

  裏方に徹していても、方々でトラブルに巻き込まれるのは変わらないようでした。

  そして、今回の【キヴォトス路地裏大祭】は、そんなカズマ先生が一番最初に巻き込まれた

  路地裏の覇権を巡る騒動での、連邦捜査部シャーレに登録されたかつての、

  不良生徒たちが発起人となって――』

 

 

 ――キヴォトス路地裏大祭。計画遂行の日に、各学舎から生徒を離れさせ、トリニティでの暗殺を行いやすくするために行われる催し。と、サオリはカズマ先生から聞かされていた。

 よほど気合の入った催しごとなのか、どのチャンネルに変えても、あれこれと言い方を変えながらも、ニュースの一端に必ずと言っていいほど言及されていて、莫大な金銭と手間を掛けて行われるものだということが、いやでも理解させられた。あくまでも、放送を聞いたうえでの推察に過ぎないが。

 そう、あくまでも推察に過ぎない…。その程度の想像しか、サオリができていないのは、その準備や祭り自体への参加を、今回の主賓であるカズマ先生が、アリウス分校の生徒を次々と口車に乗せて連れ去ってしまったからであり、サオリは、それを断った数少ない生徒のうちの一人であるからだった…。

 つまり、殆どのアリウス分校の生徒は――真面目に訓練に取り組んだり、恐怖から逃れるように毎日を過ごし、遊んでいる暇などないと最初は突っ撥ねた者でさえ――言葉巧みにかわされ、誘導され、最終的に、

 

 

 「――お前らこのままことが進むんなら、いずれあっちで身を潜めることもあるだろうし、

  今のうちに空気感を掴んどいたほうが、任務をこなす時に役に立つんじゃないのか?」

 

 

 という発言に、アリウスのほぼすべての生徒が乗せられてしまい、まるで遠足にでも行くかのように生徒たちは引率されて、出かけてしまったからなのだ…。もちろん例外はいる。

 一部の、今となってはごく一部の、マダムの、ベアトリーチェの恐怖政治から抜け出せていない――私のような――生徒たちは、アリウスに残り、私が作った警備任務という名の、無為な時間を過ごしている…。とはいっても、それは形ばかりのものでしかなく、夜になるまでの間の、つかの間の休憩時間のようなものだ…。日が暮れ、夜道を照らす明かりがつき、空に花火が撃ちあがって、祭りが本格化した時が、仕事の始まりの合図となる。

 だからこそ、その時間まで気を張っていても仕方ない。任務の達成には適度な緊張と、緩みが必要だ。自分自身にそう言い聞かせながら、サオリは懐から、カズマ先生から貰った、路地裏大祭イベント参加無料券の束を取り出し、なんとなしに眺める。

 

 

 「――ヒヨリ、はいつも通りだが。

  アツコも、あんなに無気力だったミサキでさえ、楽しそうな顔をして出かけてしまった…。

  いや、いい、それはいいんだ。

  カズマ先生がアリウスに来てからというものの、私たちから失われていたものが、

  戻って、いくような……。私自身は、それが――――」

 

 

 歓迎すべきことなのか、忌避すべきことなのか、サオリの中では判断が付かなかった。このままでいいのか、カズマ先生に付いて行っていいのかと思い悩む。……そして、それはある種の、自己防衛行動であると、サオリは気が付き始める。

 裏切られても悲しまなくて済むように、裏切られても絶望しなくて済むように、裏切られても期待しなくてよかったと嗤うための。サオリのベアトリーチェに対する、マダムに対するスタンスが、そのまま出てしまっていることに気が付いて、サオリは奥歯を強く噛んだ。

 

 

 「――――違う、あの人は、カズマ先生は、違う……はずだ。

  これだけのことをしておいて、今更、いまさら、我々を裏切るだなんてことが……」

 

 

 あってはならないことだと、サオリは考え、ふたたび手元にあるその無料券を見る。

 

 

 「――――――――……様子を、見に行ってみるか」

 

 

 その日、アリウス分校は、文字通り空っぽになった。……激昂するベアトリーチェを除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――キヴォトス路地裏大祭実行委員会本部 お祭り運営委員会

                    シズコ、ウミカ、フィーナ

 

 

 「――百夜堂出張版、キヴォトス路地裏大祭ですよ!

  もぅ、大規模過ぎて今から笑いが止まりませんよーー!! えへっ、えへへへへへっ…

  うぇへっ、えへへヘっ…。ぁあー、さいっこうですよぉー………」

 

 

 「……お頭!どうシマしょう…、委員長がおかしくなってしまいマシタ!

  なんだか顔面が溶けているように見えマス!!」

 

 

 「ほっとけほっとけ…、どうせ客の一人でも来れば、すぐ元に戻るって」

 

 

 「そう、デショウか…? うーん、分かりマシた!」

 

 

 当然のことだが、カズマには都市規模の催し物を主催したことなどなく、ノウハウなんぞはまったくなかったので、百鬼夜行連合学院の騒動の時に知り合った、その手のイベントを一手に引き受けている専門家に全部ぶん投げ………、もといそこから齎される莫大な利益と宣伝効果を餌にして、出張を依頼したのだ。

 

 

 「――――ハッ、いけないいけない…。温泉のことと言い、今回のお祭りと言い…、

  先生が次々と百夜堂をキヴォトス中に轟かせるようなものばっかり持ってくるせいで、

  私の顔面が戻りにくくなっちゃったじゃないですか! 責任を取ってください、責任を!」

 

 

 「ぇえ…? それって、俺のせいなのか…?」

 

 

 「おーぅ、お頭、罪作りな男デスネー!」

 

 

 とは言えど、カズマとしても前回押し付けた百鬼夜行学院での花火の一件や、今回の祭りに関しても、ほぼほぼシズコによる手腕に頼りきりであると言う自覚があり、機嫌を損ねてそっぽを向かれるのもまずかったので、

 

 

 「あー、分かった、分かった…。

  今回は俺からシズコに頼んだことだしな…、

  お祭り運営委員会の活動があったら手伝うから、それで勘弁してくれよ…」

 

 

 「――――あっ、言いましたね、言っちゃいましたね!

  ウミカ、先生にあれ見せてあげて!」

 

 

 シズコがそう言うと、少し後ろの方でカズマとシズコのやり取りをニコニコしながら見ていたウミカが、自慢げな顔をしながら、ふんすっと気合を入れつつ、懐に収めていたそれを取り出す。

 

 

 「フッフッフ……。

  ちょっと強引かなとは思いましたが、まんまと私たちの策に嵌まりましたね、先生…。

  じゃじゃーん、これがなんだか、先生には分かりますか?!」

 

 

 「なんだそれ…? んー、権利書、か?」

 

 

 細かい文字がびっしりと並んだそれを上から下までざっと眺めたカズマは、そのページの最後に載っていた企業名を見て思わず、うっ、とひるんだような声を上げる。そんなカズマの様子に気付くこともなく、お祭り運営委員会の三人はテンション高めに快哉の声を上げた。

 

 

 「何を隠そう、私たちお祭り運営委員会は、

  南国の島々にある『ロスト・パラダイス・リゾート』の

       『リゾート使用権』を正式に購入したのです!!」

 

 

 「――結構な金額だから、ほんとは方々に借金したり、

  百夜堂を担保に入れたりして、契約するはずだったんだけど…」

 

 

 「お頭から、今回の話を頂いたので、金額の都合がついてしまったんデース!!」

 

 

 「ロスト、パラダイス、リゾートぉ…?

  そんな大規模展開できるような企業いたっけか…?」

 

 

 そうやって喜ぶ、お祭り運営委員会の三人の様子を見ながら、カズマは少し首を傾げる…。路地裏、キヴォトス二大テロリスト、公安局、SRT特殊学園、そしてアトラハシースと、解決しなければ文字通りお先真っ暗だったカズマは、何をするのにも金だと、幸運の女神様に心の中で平謝りしつつも、普段発揮できていない自分自身の潜在能力を意図的に使いに使い、ひと財産を築いていた時期があった。その結果、後ろ暗いことから真っ当な商売に至るまで、なんでも取り扱ったカズマからしても、『ロスト・パラダイス・リゾート』なんてのは、聞いたことも見たこともなかったのだ。

 

 

 「………………ちょっと、それ、見せてもらってもいいか?」

 

 

 「いいですよー!」

 

 

 ウミカから書類を受け取り、カズマの持てる限りの契約関係の知識を総動員して隅から隅まで精査するが、これといった穴が見つからない…。見つからないのだが、『ロスト・パラダイス・リゾート』というのがどうにも引っ掛かる…。

 南国の島々を開拓及びリゾート地としての運営をしているような、資金力のある大企業なら、カズマが見逃している筈がないのだ。アトラハシースの一件で、保有していた知的財産を全て金銭に替えてしまった時に、その買収に関して、名乗りを上げていてもおかしくないような規模の企業にしか見えない。それになによりも、書類に記されている、契約をした場所も場所だ…。

 

 

 「――――オクトパスバンクねぇ……」

 

 

 カズマは、お祭り運営委員会の面々にその時になったら協力すると伝え、なんだかきな臭いにおいのするその銀行と、その金の流れを、コユキにでも調査してもらうかと思いながら、今回の祭りに関する、メインイベントの時程表の打ち合わせを三人と行った後、視察してくると言って、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――キヴォトス路地裏大祭 BLOCK:ミレニアムサイエンススクール

             全身没入型対戦格闘ゲーム「アバンギャルド」

 

 

 「――すっ、すげぇ!!」

 

 

 「もう16連勝だろ…?

  本人の戦闘能力が低くても、格ゲー極めたらあそこまでできるのかよ…」

 

 

 「ていうか、あそこまでの操作レスポンスに対応できるミレニアムの技術おかしくないか…?

  実況のやたらうるさいやつが、フレーム単位での操作入力可能とか言ってるぞ…」

 

 

 「いやいやいや…、だとしてもだ。

  ゲームの中でゲームコントローラーで対戦できるのはUZQUEENだけだろ…」

 

 

 コユキを探して、ミレニアムサイエンススクールが出す会場の一角にふらふらとやってきたカズマの眼に、妙に人だかりが出来ているブースが目に入った。巨大モニターまで用意して行われているような大規模な催しのようで、画面の中では、コントローラーを握った、ゲーム開発部のユズと、ユズにコマンドを打ち込まれているアバンギャルド君が、C&Cのネルと銃弾を交わして戦っている様子が見える。

 

 

 『――クソッ、てめー卑怯だぞ!

  これフルダイブ型の対戦ゲームだろ?! なんでアバンギャルド君なんだよ!』

 

 

 『アバンギャルド君MkIIIです…っ!』

 

 

 『いやわかんねーよ!! どっちでもいいわ!!!

  てか、そいつが搭載してるの人一人に向けていい火力量じゃねーだろ!!

  ゲームバランスどうなってんだ!!!』

 

 

 『こ、このゲームはまだ試作段階、だから…っ、そこっ!!!』

 

 

 『――畜生! こなくそっ…!!

  ざっけんな…!!! 私じゃなかったら対戦成り立ってねーぞ!!

  このクソゲー開発部が!!!』

 

 

 ――――あっばか。とカズマが思った時にはもう遅かった。ゲームの画面内であるのにもかかわらず、ユズの瞳に炎が宿るのを、カズマは確かに目にしていた。

 

 

 『………だ、だったら、逃げるん、ですか?』

 

 

 『――――――――………あ”?』

 

 

 『――ひうっ…!!』

 

 

 『………………』

 

 

 『……が、がんばれ、がんばれわたし…っ!

  すぅぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ…』

 

 

 『………………』

 

 

 『………いっ、いままで、今日の発表までに、対戦をお願いした方は……、

  ど、どの人も、キヴォトス各校の中でも、上から数えた方が早い人ばかりの

  あ、圧倒的な戦闘能力を持った人を、カズマ先生にお願いして、取り持ってもらいました…』

 

 

 『そ、それもこれも、ギヴォトスに住むすべての人に、

  難易度別の対戦格闘ゲームが出来れば、み、みんな、楽しんでくれるかなって思って…

  そ、そうやって説明して、データ取りの為に本気で対戦してもらえました…。

  だ、だからこその…、アバンギャルド君MkIIIなんです…。

 

  わ、私が言っている意味、分かりますか…、ネル先輩…』

 

 

 『……いいや? ごちゃごちゃ言ってて全然分かんねーな。

  もっと分かりやすく言えよ?』

 

 

 『わ、分かりました…、ネ、ネル先輩は――――』

 

 

 ユズは、全身に気を入れるように大きく息を吸い、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――――勝てる相手とだけ戦って、楽しいですか?』

 

 

 『上等だごらぁ!!! その糞ロボットいますぐぶっ潰してやるよ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秒で挑発に乗ったネルと、その言葉をはっきりと言い放ったユズを見た観客が沸き立ち、会場は更に熱気を増していく。うーん、あのユズがネルに対してあそこまでの啖呵を切れるとは、成長したなぁとしみじみ思うカズマであったが、このフルダイブゲームを本気で楽しんでいる時のユズは、大体こんな感じであるということをカズマは知らない。対戦中に対戦相手との会話が必ず発生することもあってか、煽りの技術まで覚えてしまったのは、ちょっと、いやかなり想定外だが…。

 あの調子なら放っておいても大丈夫そうだなと判断したカズマは、あらかじめ教えられていた、関係者以外立ち入り禁止と書かれたエリアを探し、貰っておいた許可証を使い、電子ロックされた区画を抜けて、奥へ奥へと進んでいく。そして、ここの、ミレニアムサイエンススクールの今回の催し物の心臓部と言える場所にまで辿り着き。

 

 

 「――ようこそ、カズマ先生」

 

 

 楽しそうな顔をした、ヒマリに出迎えられた。そのヒマリの悪くなっていた脚は、以前カズマがパッと治したので、もう大丈夫なはずだが、今も尚、髪や制服と色を合わせた近未来的な車椅子に腰かけながら、手元に投影された仮想キーボードを叩いている。

 

 

 「データ収集は順調に進んでるみたいだな」

 

 

 「……そうですね、ゲームという形が良かったのか

  全ての学区における、実力者のデータが揃いつつあります。

  そして――」

 

 

 そして、ヒマリは奥に設置された、人が一人すっぽりと入るようなポッドに目を向け、

 

 

 「彼女はそれらと、戦い続けています」

 

 

 顔の部分だけが外から見えるようにされたポッドには、狐坂ワカモが目を瞑り、時折顔をしかめている様子が見える。

 

 

 「勝率はどんなもんだ…?」

 

 

 「5分5分、と言ったところでしょうか。

  ゲームの仕様上での勝敗なので、

  現実での勝利に繋がるかと言われると、疑問を覚えますが…、

  いまのところは順調に、継戦能力の向上は図れているかと」

 

 

 「……まじかよすげぇな…。

  キヴォトス各校での最大戦力の何が怖いって、

  どいつもこいつも人間の形をした要塞みたいなもんだからな…。

  堅い防御、強い砲撃、縦横無尽の機動力…。

  腕に自信がなくても、少しでも頭が働くやつなら、

  普通は敵に回そうとは考えない。敵対した時点で逃走か、降伏だな」

 

 

 もうなんていうか人間の形をした熊かゴリラと戦ってるようなもんだよな、怖すぎるわと言いながらカズマが体を震わせていると、カチリ、と電子音が聞こえ、

 

 

 「――録音しました」

 

 

 「おいやめろ」

 

 

 ニヤついた表情を隠そうともしないヒマリが、カズマの方を向いてスマホを見せびらかしていた。思い返すと、最近どいつもこいつもこんなのばっかりであり、俺は迂闊なことを何も言えないのかと天を仰ぐしかない。そんなカズマの様子を見ながらヒマリはほくそ笑み、

 

 

 「………まぁ、私も先生の意見にはおおむね納得できるところが多いのですが、

  もしこれが、私の手がついついうっかり滑って、ネルさんや、アリスの耳に入ったら…」

 

 

 そこで言葉を区切ると、ヒマリはカズマに向けてニッコリと満面の笑みを浮かべる。分かってますよね、という幻聴が聞こえるようだ…。言わんとするところは、この音声をバラされたくなかったら、ヒマリのなんらかの要求を聞けという事なんだろうが、

 

 

 「お前それ言外に、ネルとアリスをゴリラか熊扱いしてない…?」

 

 

 「はて、なんのことでしょうか…? 私は何も言っていませんが。

  たまたま、大音量にしたこの音声が…、

  色んな方の耳に入る危険性がある、と示唆しただけに過ぎません…」

 

 

 「詭弁じゃん…」

 

 

 「カズマ先生にだけは、言われたくありませんね…」

 

 

 「――甘いな、俺のは詭弁じゃなくて、保身って言うんだよ」

 

 

 「もっと駄目ではありませんか…」

 

 

 なぜか自信満々に言い放つカズマに、というかなんで自信満々なんですかと呆れたようにヒマリは呟いたが、まぁいいですと続けると

 

 

 「――今回のお祭りの影響で、私の手持ちの電子部品を大量に放出してしまったのです。

 ですので、先生には、荷物持ちをやって頂けないかと思いまして…」

 

 

 「……いや、お前もう歩けるじゃん」

 

 

 未だに車椅子に座り続けているヒマリを見て、カズマは首を傾げる。

 

 

 「――まぁ、カズマ先生はこんないたいけな美少女に、大荷物を持って歩けと?」

 

 

 「そもそも、その車椅子に乗せればいいだろうが…、自動で動くんだろ?」

 

 

 その車椅子を使って、共同で開発した未来観測機関の件の時に、工具やらネジやらを便利に運ばせたり、音声入力を使って工具を作業中の部員に渡したりと、製作補佐のようなことをさせて便利に使っていたのを、カズマも見ていたので、純粋に不思議に思った。

 

 

 「それはできません」

 

 

 「なんでだよ…」

 

 

 「……お疲れ様会で、アリスと話していた時のことなのですが…、

  『ヒマリ先輩は物語後半に出てくる、実は最強キャラポジションなんですね…!

   アリス、分かります!! かっこいいです!!』と言われてしまって…」

 

 

 ふふふっと、ヒマリは満更でもなさそうに微笑む。

 

 

 「……満更でもなかったのか」

 

 

 「――ミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカー…。

  この誰もが周知の称号に、実は最強だったが付く。

  いい、いいですね…、実に王道で、私に相応しい内容と言えるでしょう…。

  普段は隠している、というのもポイントが高いです。」

 

 

 「………………」

 

 

 もしも効果音が付くのならば、キラーン!という感じの音を響かせて、キメ顔をするヒマリに何も言えなくなったカズマは、知力も魔力も高くて、世界最高峰の頭脳を持っているのにも関わらず、その持てる能力全てを、いかに格好よく最高に浪漫溢れた演出として表現することに余念がなく、人生の大半をそのために費やしていると言っていい、紅魔の里のバカな連中を思い出して、ちょっと悲しくなった。

 しかしながら、そういえばミレニアムサイエンススクールの尖った連中は、”頭がいいのにバカの集団がいる!”と揶揄されてしまうくらいには、定期的に騒動を巻き起こしていたなと、その筆頭候補である生徒を何人か思い出して、うーんあんまり変わんないかもしれんと、思い直して、

 

 

 「……まぁ、アリスが喜んでるんならいいか」

 

 

 「そうでしょう?」

 

 

 そして、そういった浪漫はカズマも嫌いではなく、加えるなら、カズマも含めて、ミレニアムサイエンススクールのだいたいの人間は、アリスに対して、これでもかというくらい甘々だった。可愛くて元気一杯なアリスに全力で褒められると拒めない病気に罹っていると言えるかもしれない。

 

 それはそれとして。

 

 

 「――で? 買い物はいつ行くんだよ?」

 

 

 「………あら、行ってくださるのですか?」

 

 

 「セイアの件を含めても、今回はお前らにだいぶ協力してもらったし、

  別に買い物くらい、いくらでも付き合うが…」

 

 

 「………」

 

 

 ヒマリは何か言いたげな顔をしつつ、その表情はぷくーっと膨らんでいき、不満げなものになっていく。

 

 

 「いいですか、先生…。どうやら先生は、私とお出かけすることの意味を

  理解していないようですので、いま一度言っておきますが…。

 

  ――ミレニアムの清楚な高嶺の花であり、みなさんの憧れである「全知」の学位を持つ、

  眉目秀麗な乙女から荷物持ちをお願いされるなんて…、

  先生はなんて…、そう。

  なんて! とびっきりの幸運の持ち主であるのかを、理解してください」

 

 

 やれやれとでも言うように首をふるふると振りながら、語りだすヒマリに、

 

 

 「――あーはいはい、なんだよ飯でも奢れってか?」

 

 

 と返してしまうカズマを、ヒマリはジト目で睨むが、むむむと少し唸って考え直す。

 

 

 「――食事、先生と食事ですか、ふむ、まぁいいでしょう…。

  では、その日は、しっかりと私をエスコートしてくださいね?」

 

 

 「……分かった分かった、何か考えとく」

 

 

 最終的に機嫌がよくなったヒマリを見てカズマはホッとしつつ、夕方になる前にワカモを起こしてくれるように頼むと、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――キヴォトス路地裏大祭 BLOCK:救護騎士団・救急医学部

             トリニティ・ゲヘナ合同医療本部

 

 

 【――路地裏大祭、実行委員会からお知らせ致します…。

  路地裏の覇者レース予選でケガをされた方は、レース会場メインゲートから出て左へ、

  合同医療本部へ向かってください。

 

  ――繰り返し、お伝えします。

  路地裏の覇者レース予選でケガをされた方は、レース会場メインゲートから出て左へ、

  合同医療本部へ向かってください。】

 

 

 ヒマリとの会話後、ミレニアムの会場で聞き込みをしたカズマは、フルダイブゲームを見物していたミレニアムの生徒から、コユキちゃんならレース会場に向かいましたよと聞き、その時ついでにどうぞと貰った会場案内図を頼りに歩いていると、お祭り会場全体に響くような告知放送が聞こえてきた。

 

 

 「……路地裏の覇者レース?」

 

 

 地図上には『レース会場』としか書かれていない筈のそれが、急に馴染みのある、余り思い出したくない過去を想起させるものとなって、カズマの背筋を這いまわる。

 言葉の字面を口にして追っていくだけでも、なんだか嫌な予感がしてきたカズマが、ふと上を見上げると、あちらこちらに”合同医療本部はコチラです!”という誘導用の看板やら横断幕やらが掛かっていて、しまいには電光掲示板まで掲げて、告知している様子が見える。

 なんとなしにその流れていく電子の文字列を追っていると、〝数々の証言により再現された、カズマ先生のハジマリの日を追体験せよ!〝という煽り文句満載なお知らせが流れてきて…、カズマは嫌な予感が的中したことを確信し、途端にその全身からダラダラと嫌な汗が流れ始める。え?ちょっと待て、なんだ? どういうことだ…?

 

 

 「ご説明しましょう!」

 

 

 「――ヒュッ」

 

 

 ぬっと、カズマの認識範囲外から快活な声が聞こえ、いつものトリニティ総合学園の制服ではなく、専用のナース服を装備した鷲見セリナが、カズマの背後からニュッと出現した。あまりにも突然すぎて、一瞬カズマの息が止まったが、なにごともなかったかのようにセリナは言葉を続ける。

 

 

 「――そろそろ来られる頃かと思ってましたので、お迎えに来ました、カズマ先生」

 

 

 「お、おう…、そうか?」

 

 

 そう言ってにっこりと微笑む、セリナのいつも通りではあるが、突然の出現に驚いたカズマは、ドクンドクンと、鼓動の早くなった心臓を片手で抑えながら応える。本当に心臓に悪いから、スキル感知範囲内のはずなのに、何もなかったはずの場所から突然現れるのはやめて欲しい…。

 

 

 「そ、それで? 説明ってなんだよ?」

 

 

 「……ううん、御説明差し上げようと思ってましたが、予定変更です。

  カズマ先生? 最近、目眩や吐き気はしていませんか?」

 

 

 心配そうにカズマの目を覗き込むセリナを見て、カズマは、目眩?吐き気?と聞かれて、ここ最近の自分自身のことを振り返る。

 確かにここ最近は、朝目が覚めるたびに胃の奥から吐くものもないのに吐き気がするし、実際吐くし、立ち上がろうとすると何故か世界がぐるぐると回りだして、足元がおぼつかなくて転ぶこともしょっちゅうだ。まぁ、しばらくするとなにごともなく大丈夫になるし、現代社会で三徹を繰り返していた時より症状は重いが、今日の為にいろいろ動き回ってたから、疲れてるんだろうなくらいには考えていた。

 カズマは特に隠すとこでもないなと思ったので、セリナに今しがた頭に思い浮かんだ内容をそのまま伝えると、心配そうに垂れていたセリナの両の柳眉が、怒っていますよと主張するかのように吊り上がっていく。

 

 そして、セリナは懐から無線機を取り出すと。

 

 

 「(――ザザッ…)セナさん!急患です!!」

 

 

 『(――ザザ―…)新しい死体ですか?』

 

 

 「(――ザッ…)死体ではありませんが、

  このまま放っておくと死体になってしまうくらいには急患です!」

 

 

 『(―ザッ…)分かりました。

  位置情報に従い、今すぐ制圧に向かいます』

 

 

 そして、そのなんだか物騒な通信が終わった途端、予備動作が分からないような動きでカズマの背後をとったセリナは、逃がさないとばかりにカズマの両肩を抑える。

 常日頃から病院勤務で、注射や治療を拒もうと暴れる患者を抑えるための対応に慣れたセリナの膂力は、カズマ基準で言うところの鍛えられた成人男性のそれを凌駕しており、とてもではないが振り解けるものではない。

 もちろん、普段のセリナならこんなことはしなかっただろう。患者の体と精神に寄り添うのが救護騎士団のモットーだ。しかし、今回に限っては、とてもではないが看過できるレベルを超えていた。

 

 

 「……あの? セリナさん?」

 

 

 「…………………」

 

 

 なんだろう、背後のセリナが何も言わないのにも関わらず、〝私はいま、とてもおこっています!〝という空気だけは伝わってくる。

 

 

 「――現着。セリナさん、新しい死体は……、なるほど。

  外科専門の私でも、ここまで顔に出てる方を見るのは久しぶりです。

  この方が、シャーレのサトウカズマ先生なのですね…」

 

 

 そして、ストレッチャーのようなものをガラガラ言わせながら、面識はないが、おそらくゲヘナ所属であろうナースキャップを被った女生徒が現れて。

 

 

 「――セナさん」

 

 

 「えぇ、セリナさん」

 

 

 阿吽の呼吸なのか、二人の間に名前を呼び合うだけで意思疎通が取れるからかは不明だが、たちまちにその両名から両脇を抑えられたカズマは、問答無用でストレッチャーに乗せられる。

 

 

 「――ちょっ…! おい待て、俺はまだやることが…」

 

 

 「口を塞ぎます」

 

 

 「――モガっ! モガガモガッ!」

 

 

 猿轡をかまされ、

 

 

 「はーい、カズマ先生、暴れないでくださいねー」

 

 

 てきぱきと、ストレッチャーに乗せられたまま、身動きが取れないように縛り付けられ、合同医療本部に連れ去られて行った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――………行ってしまった、か」

 

 

 そして、その様子を、少し離れた場所から見つめる影がひとつ…、錠前サオリである。

 路地裏大祭の会場に辿り着いたサオリは、引率してきたアリウス分校の生徒たちに班を作らせた上で、カズマ先生から貰っていた無料券を配布し、偵察任務を言い渡して自由行動を執るように命令した。くしくもそれは、かつてカズマが、百鬼夜行連合学院のお祭りでホームレス四人組を言いくるめた詭弁と同じものであり、しかしそれを知る由もないサオリは、着実に、わるいおとなの悪影響を受けていると言えた…。

 そうして一人になったサオリは、手元に残った無料券を使って、スクワッドのメンバーを探しつつ屋台等を回って食事をとっており、そんな中でようやく見つけたカズマ先生に接触を図ろうと画策していたところ、ナース服を着た二人組が有無を言わさず急患だ!急患だ!と言う感じで連れ去っていってしまい、途方に暮れていた。

 サオリとしては、少し挨拶程度のことをして、時間に空きがあるようならスクワッドのメンバーを探すのを手伝って欲しかったのだが、

 

 

 「仕方ない、私一人で――」

 

 

 「――あっ、こんなところで何をしてるんですか?!

  もう、出場選手は試合会場に集まってますよ?!」

 

 

 “予選会場はコチラ”と書かれたプラカードを持った生徒が、ぱたぱたと足音を立て、焦った表情をしながらサオリの方へと駆け寄ってくる…。

 カズマの動向に集中しすぎて、周囲のことに注意をあまり払っていなかったサオリにとっては預かり知らぬことだが、現在開催中の最大規模イベントである路地裏の覇者レースは、本選となる夕方まで、あまりにも大量にエントリーされた選手たちによる、いつ終わるとも知れない一次、二次、三次予選会が継続して行われており、その次の試合の集合場所の一つに指定されているエリアに、たまたまサオリが居合わせてしまったことにより、そのレース案内役と思われる生徒に有無を言わさず片手を握られ、こっち!こっちですよ、はやく早く!と言われるがままに引きずられるように走ってしまう。

 

 

 「……ま、待て!

  私はその出場選手とやらでは――」

 

 

 「実行委員会が参加者だけに頒布している、

  レース参加者用バッチをつけてるじゃないですか!?

  次が詰まってるんです、早く行きましょう!」

 

 

 そういえば、カズマ先生が大量に置いて行った無料券の他に、俺も知らされてない特別なイベントへの参加チケットの様なものらしいから、興味があったら付けていけばいいと但書きがあったバッチを、なんとなしに付けていたことを思い出す。

 

 

 「いやしかしだな――」

 

 

 「レース妨害側の参加者は、希望者が多すぎてもう締め切っていますよ?

  妨害側のみなさんが張り切りすぎて、なかなか脱落してくれないので、

  一人でも多くレース参加者さんに倒してもらわないと…、

  このままだと、レースにならなくなっちゃうんですぅ…!」

 

 

 悲痛そうに叫びながらも、尚もサオリの話を聞こうともせず、初手から断りを入れている相手を連れて行こうとするのはやめろだとか、そんなのでレース運営は大丈夫なのかと、サオリは大いに疑問に思うが、どうもサオリを引っ張っていく生徒にはそういうことを考える余裕もないのか、あわあわとした様子で、とにかくレース会場に向かうことしか頭にないようだった…。

 少し前の常に張り詰めていた状態のサオリなら、その細い腕を乱暴に振り解いて立ち去るところだが、生活面が改善され、精神面にも余裕が出来て、少しそうではなくなった今は、電光掲示板で見た、カズマ先生の過去に由来しているような記念レースなら、出てやってもいいかと考え始めていた。

 それにサオリは、自身の戦闘能力に関して、そこらの各校のトップクラスに単騎で挑んでも、勝てはしないが負けもしない程度には戦えると分析していたため、たかが学生が組んだ記念レース程度、ちょっとやそっとのことでやられはしないと結論づけ、

 

 

 「――話を聞かないやつだ…、まぁいい。

  ………おい、レースには出てやるから、お前の名前を教えろ」

 

 

 「わ、私の名前なんか聞いて、ど、どうするつもりですかぁ…?!

  も、もしかして、こんなレースに参加させたことを後でお礼参りするためにっ…!!」

 

 

 サオリは意外なことを聞いたと言うように眉を上げ、ふっと笑う。今もサオリを引っ張る、その小さい手もそうだが、一見すると、どこかふわふわとした見た目の生徒から、そんな物騒な言葉が飛び出してくるのが意外だった。

 

 

 「……そんなに危険なレースに無理矢理連れていくのもそうだが、

  そうやってなし崩し的に私を巻き込もうとするなら、

  せめて後で報酬の一つでも貰わないとな。」

 

 

 そんなサオリの言葉に、その生徒はホッとしたのか、

 

 

 「――お、お礼って報酬の方のお礼ですか?

  そ、それならいくらでも出しちゃいます!!

  もう特別ゲスト枠で定期的に出場させられるのは嫌なんです!!!

  妨害側のみなさんを合同医療本部送りにしてくれたら、追加報酬も出しちゃいますっ…!!」

 

 

 満面の笑顔でそう返すものだから、ますますサオリは面食らってしまい…、なるほど、カズマ先生がアリウス分校の生徒にコチラ側を見ておけというのは、あながち間違いではなかったのかもしれないと、妙な見当違いの方向でサオリは得心する。なんせ、先程まで感じていた、見た目と発せられる言葉の乖離が激しいというのは、アリウス以外のキヴォトスにおいても認識の誤りなのだろうと気付かせてくれたのだから。

 ……なんだか愉快な気持ちになってきたサオリは、この妙な案内の生徒に興味が沸き、気が付くと、

 

 

 「――錠前サオリだ」

 

 

 そう、名乗っていて、

 

 

 「……あっ!はいっ…!

  えっと、わたしは、私の名前は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――阿慈谷、ヒフミですっ…!!

  よろしくおねがいしますね、サオリさんっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――阿慈谷ヒフミと錠前サオリ。……カズマから最も悪影響を受けた生徒と、影響を受けつつある生徒の最初の邂逅は、その日の朝のことだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 そんな感じでお祭りのはじまりはじまり、という話でした。
最近の更新では1万文字を超えるのが普通になってしまって、短編的にまとめて終わらせたい私としては計画がどんどん崩れ去って行ってぐぬぬな面持ちです。なんで短くできないのか…。

 と、ところで、評価、ここすき、お気に入り、しおり、【感想】も、もう少しいただけないかなって…。
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