超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
いよいよ、その為に開かれたお祭りは、その時を迎えます。
そんな感じを、あおはるバンドアレンジを聞きながら書きました。
――トリニティ総合学園 ティーパーティー会議室 浦和ハナコの記憶
ハナコは、セイアと共に議論した、とある古代叙事詩を思い出す…。皮肉を語った寓話の…、予言を避けようとして、悲劇を招いてしまった王の話を。
王国が破滅に至るという神託を授かった王は、その運命から逃れようと尽力するも、その王の努力が、王国を破滅させた。王は、予言が現実にならないよう、あらゆる手を尽くした。予言者を追放し、神殿を破壊し、門を閉ざし…、やがて戦争にまで手を伸ばした。そして、そして――。自分が愛した家族や兄弟、家臣はみな命を落とし、国は荒廃した廃墟と成り果てた。
王は神託を知っていても、同じ結末を迎えた。ならば、どうすればよかったのだろうか。神託を受け取った時点でそれは運命だったのだろうか、それとも、その結末を知ったが故にそう決定づけられてしまったのだろうか。なにを、どこで間違えなければ、そうはならなかったのだろうか…。
「……単純なことだよ、ハナコ。
王の過ちはただ一つ…、彼が「王」で在るという事だけだ。」
「王、である事……?」
前提として与えられた条件の時点で、既に論理が破綻している、ということだろうか。破滅を回避するために尽力した「王」が、国を動かせるほどの「王権」を持っていることが、間違いと言うことなのだろうか。
「予言者を追放し、戦争を起こせるほどの権力を持ち――
そして、神託を授けられた「王」であった。其れが、王の最大の過ち」
それは、無能の烙印に他ならない。そして、余りにも残酷な結論だ。結果を知っている者だからこそ言える暴論のように思える。「王」が「王権」を持っていたことに、焦点を当てるならば――
「ですがセイアちゃん……、そのお話だと、王は何も間違っていない。
という事になってしまいます。」
「王が自身の能力を諦めていれば――神託を受けなければ。
予言が現実になる事は無かったのかもしれない」
「……その理論は、ちょっと強引な気がします。」
「――そうだとも、結果論に基づく強引な話。
このような物語に解など存在しないからね…。
ただ、私なら、そういう解釈をするという話さ」
ここまでは、寓話のお話。今を生きる私たちが、授業中に題材として与えられて、そして忘れ去っていくような、残酷な話でしかない。でも――。
「………では、「王」ではなく「王権」を持たない、
「善意の協力者」に、助けを求め……、
「王」として運(さだめ)られた命を、その人に委ねていれば、どうなったんでしょうか」
「それは――、そうだね…、反証ということかい?」
「解釈に物語が沿うならば、解はあると思いませんか?」
「――……ふむ。もし、もしも…。
そんな「善意の協力者」がいたのならば――」
それほどまでに信用できる、信頼させてくれるような、相手が、もしもいたのならば。王が、王であることは、間違いにならなかったのだろうか。自身の能力の限界に見切りをつけ、神託を共有し、しかしそれでも「王権」を振るった結果として、破滅を招いても。
そうなったとしても、後事を託すことのできる、信じることのできる「誰か」が、いてくれたならば――。
「そんな人が、都合よく、いてくれたならば。
そうだね…。少なくとも「王」は、孤独ではなくなるだろう…」
「孤独ではなくなる…、だけですか?」
「神託を抱えた個人が一人から二人になったところで、
考える頭が一つから二つになっただけ、だからね。
それに、善意の協力者が、只人の一個人でしかないなら、手の届く範囲は限られている。
おそらく、結末は変わらない」
「……ではセイアちゃんは、その善意の協力者の手が、
どこまで伸びる人なら、結末が変わると思いますか?」
「…………………。
「王」と同じか、それ以上、といったところだろうか。
同じ国からのアプローチでは限りがあるだろうから、そうなると…。
友好的な近隣国の王が、国をあげての規模で協力してくれる…。
そこまでの奇跡的な相手を味方につけることが出来れば、あるいは。」
「――……あるいは?」
「あるいは、で終わりさ。
そこからは、どうとでも言えてしまう。
もはや、私がその物語に、どうなって欲しいのかを語るだけになってしまう」
物憂げな表情でそう結論づけるセイアを見たハナコは、思わずと言った具合に、微笑ましいような感情が吹き出してしまって。
「……ふふっ、そうですか」
「なんだい、ハナコ。……その、含み笑いは」
セイアからの鋭い、ジト目の視線がハナコを貫く。あっと、いけないいけない。
「……ごめんなさい。馬鹿にしたとか、そういうわけじゃないんです。
だって、セイアちゃんはもう、答えを出してるじゃないですか」
「………なんだって?」
「孤独でないこと、同じ景色を共有できること、同じように遠くまで手が届くこと。
信頼できて、脅威に向かってともに並び立てること。
――……そんな人がいれば、あるいは、なんとかなるかもしれないって」
「……………」
セイアは、そう言われてからしばらくの間、目を瞑り、自身の発言を顧みて。
「結末は、分からないさ」
「――えぇ、そうですね。」
言葉にはならずとも、そうなったらいいな、という物語はそれぞれの胸の裡にあって…。寓話の「王」が、破滅の運命に抗ったように、力及ばず叶わないと理解っていても、未来を求めるその心は、決して届かぬ天に輝く星に、それでも届けと、手を伸ばすのだ――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――連邦捜査部シャーレ 地下実験室
その日、その時。キヴォトス路地裏大祭が開催される前。百合園セイアが、破滅の運命を、歌住サクラコ、蒼森ミネ、浦和ハナコ、そして連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの「カズマ先生」に共有して。カズマ先生の伝手により、ミレニアムサイエンススクール首脳部を抱き込んだ結果、調月リオによって、百合園セイアの自己肯定感を情け容赦なく木っ端微塵に粉砕された後からしばらくのこと。すくすくと成長しつつあるセイアは、カズマから究極の三択を突き付けられていた…。
――選択肢 其の壱 ハイレグ(覚悟)
――選択肢 其の弐 紐ビキニ
――選択肢 其の参 スリングショット
以上、好きなのを選んでどうぞ。
「――カズマ先生(ギリリッ…」
「………(サッ」
「――――!!!! まぁまぁまぁまぁまぁ♡!!!!!」
いまやキヴォトス全土に影響力を持つほどに勇名を馳せ、セイアが想像するよりもどこまでも手が届きそうな連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの「カズマ先生」が提案した、今後の為の解決案(ユスティナ聖徒会の協力)の一つがこれだった。余りにもむごい仕打ちだった。もしかしてもしかするとセイアが普段から着用している服装に関して、一言なにか文句を言ってやりたいから、こんなに肌面積が多いサンプルばかり用意されたのだろうか…、あぁそれよりも、なんだかさっきからギリギリと奥歯辺りが五月蠅くて敵わない。
落ち着け、落ち着くんだ百合園セイア。荒ぶる精神状態が無意識の体の情動を抑えられなくなっている…。私は責任ある立場の人間だ、常に冷静でなければならない。例えそれが、私の理解に及ぶ範疇のものでなくとも、それは新たな知見でしかない。そう、私は決して井の中の蛙ではない。かつて、ティーパーティのサンクトゥス派のトップに立つために争った時に、対立相手から予知夢ばかりに頼りきりの
「これがトリニティ…! その体現者たちのかつての似姿…!!
文献に書かれた過激派とは、彼女たちのことだったのですねっ…!!!
なんてことでしょう、まさか、まさかそんなっ…!!!!」
「――ガハッ…!」
「おっ、おいセイア大丈夫か?
あの変態(ハナコ)は喜んでるみたいだが、お前はそうじゃないもんな…。
焦らず、ゆっくり、ゆっくり息を吸えよ…」
そうじゃない!!と声を大にして言いたかったが、乙女にあるまじき咳込み方をしてしまったのもあって羞恥感が全身を襲いしばらく顔を上げられそうにない。――というかこの三択をセイアに与えた、背中を優しくさすってくれてるカズマ先生はともかく、セイアがどうにか必死に事態を飲み込もうとしている最中に、まさか味方であるはずのハナコに、背中から思いっきり刺されるとは思ってもみなかった。ありえないとは思うが、もしかしたらもしかして、この二人は共謀して私を嵌めようとしてるんじゃないだろうかと考えてしまうほどだ。くそっ、若返りの薬の時と言いこの兄さんは全くもう!どうせコメディめいた衝撃を前面に押し出して――違う兄さんじゃない。ではなく!
ふぅーー…、カズマ先生の言うとおり、まずは精神を落ち着けてゆっくり考えるべきだ…。カズマ先生が持ってくるこの手の話は、一見、若返りの薬の時と同じく、何の役にも立たないように見えるが、この人は、そういうものをどうにか有効に使う手立てを捻り出してしまう、少し感性の尖ったところがある。だからこれも、無意味なものではなく、先の件と同じく、状況を打破するために先生が用意したものだと考えるべきだ。これを、わざわざ私に見せた理由を考えるんだ。
つまり、私の予知夢の中で、これがなければ解決できない時系列を考えればいい。この、服装のセンスがちょっと理解できないユスティナ聖徒会の存在の意味を。どうやれば、それが可能になるだとか、そういうのはいい。結果から無理やりにでも、手段の結論を考えるだけでいいのだから、考え方はもはやこじつけでもいい筈だ。と、なると――
「ゴホッ、ゴホッ…。――ありがとう先生、大分、気が楽になってきたよ」
「お、おう。そうか? 無理するなよ…?」
「……ありがとう、先生。そして、ハナコ…?」
「……はい? どうかしましたか、セイアちゃん?」
「――聡明な君のことだ。分かってて、先程の発言をしたと受け取っても?」
「………。なんのことでしょうか?
私は純粋に、トリニティの生き証人に感銘を受けただけ、ですよ…?」
ニコニコと、なんの他意もなさそうにするハナコをしばらくの間見つめるが、その微笑みに、友人と語らっている時に浮かべる以上のものをセイアは見つけることが出来ず、少しため息を吐いてから思考を切り替えた。ハナコお得意の、本当に何の意図もなさそうに見せる笑顔の能面は重厚な上に、不自然さが全くないのを忘れていた。
「ハナコ、君ってやつは…。それが本当に本音に聞こえるから恐ろしいよ…、まったく。
しばらく混乱していたが…、私も理解したよ、カズマ先生。
――この巫戯化た格好をした、かつてのトリニティの似姿の意味をね」
「………………えーっと、俺はまだ何も言ってないんだが、
そこまで言うんなら覚悟は決まったんだな…?」
どうやってそれができるのかは不明だが、おそらくは、百合園セイアの影武者を作るために、この意味も原理も不明な、謎の不思議オカルトを利用するのだろうということくらいは、流石に察することができたため、セイアはカズマ先生に話の続きを促すことにした。
「――あぁ、もちろんさ…
上からの服の着せやすさなどを考えると、このビキニの個体が」
「じゃあそれに若返りの薬を投与だ、ハナコ」
「――はい♡」
「先生、ちょっと待とうか??????」
お願いだから待って欲しい。何故ハナコも不思議そうに首をかしげながら注射器の準備ができているんだおかしいだろうと言うかもうそれ確信犯じゃないかそれに君には医療従事経験がないだ「ああ、薬師サヤさんとミネさんから太鼓判をもらってるので、大丈夫ですよ♡」そうかそれは安心――じゃない!!、と言うやりとりを視線だけでその場にいる二人に訴えたセイアは、なんだか、考え過ぎのせいかくらくらしてきた。
「――カズマ先生、ちょっとこのグラフを見てくれないだろうか…。
ほらここ、ここには日数経過におけるわたしの成長グラフが描かれているわけだ。
しかるに、祭りの当日には私はそこのビキニの個体とおなじ身長になってるわけで」
「うんうんそっかー。ハナコ、いいぞやれ」
「――はい♡(プスッ」
「どうしてなんだい…??」
セイアの必死の抵抗虚しく、現実は容赦なく襲い掛かってきた。呆然とそれを見つめるしかない状態になったセイアに対して、カズマはやれやれと妙に腹の立つ仕草でリアクションを取り、
「あのなぁ、セイア。
お前が成長し出してから、ほとんど外出してないだろ?
出るにしてもミネが付いた上で、ランドセル背負わされてたろ?」
「ミレニアム製の、全身ホログラム迷彩装置と言ってくれたまえよ先生…!!」
そんな間の抜けた会話をしている間にも、若返りの薬を投与された
「――!!!! ――――!!!!!」
「待て…! 待てって!
これに服着せて、影武者にするんだから仕方ねーだろうが…!」
「久しく忘れていたよ…!
私にも、乙女の尊厳を穢されたという憤怒が起こり得る事をっ…!!!
一度ならず二度までも! 覚悟したまえよカズマ先生…!!」
「――ちょ…! おいハナコ、ハナコーー!!
黙って見てないで助けてくれ! すでにちょっと力負けしてるんだよ!」
「………うーん、そうですね」
ハナコはチラッと、普段は澄ました顔で、内心をできるだけ見せることなく論理だった話の進め方をするセイアが、今やその影なぞ見当たらないほど顔を真っ赤にしつつ、隣にハナコがいるのもお構い無しに、明確に感情に突き動かされた行動をとっているのを見て。
それが、なんだかとても嬉しくて。
「………セイアちゃんに加勢します、えいっ♡」
「ちょ、ぉまっ…!」
カズマはハナコの掛け声とともに背後から優しく拘束され、その結果、動くことが出来なくなった。この時のハナコの力の入れ具合は、カズマが少しでも身動きすれば、いつでも振り解ける程度でしかなかったのだが、いい加減長い付き合いでカズマのことをよく理解してきたハナコは、その背中に二つの柔らかい感触のものを強く密着させて…、すると途端に”くっ…!!!”とわざとらしく苦しそうな声を出して、カズマはピタッと動かなくなった。
「ふっ、ふふふふふふっ…!!」
そしてそれを好機とばかりに、両手をわきわきさせ始めるセイア。
「………な、なぁセイア? お前が前言ってたじゃないか…
我々には言葉がある、たとえ関係を構築すること自体が難題となるような相手でも、
相互理解の為に言葉を尽くすことこそが肝要なのさ、って…」
それを見て何をされるか察したカズマは、全身を恐怖で震わせながら尚も往生際悪く抗弁するが。
「覚えていてくれて嬉しいよカズマ先生…、そして続けてこう言ったとも。
言葉だけでも、想いだけでも、伝えきれないことが往々にして存在し、
その是非を問うため、矛を交え、勝者と敗者という解答を、歴史は証明し続けてきたとね…。
つまり私の怒りを思い知るときが来たという事だよカズマ先生覚悟――ッ!!」
眼前に迫るセイアは当然聞く耳を持たなかったので、さしものカズマも危機感を覚え、背中の感触は惜しかったが逃げようとして。
「くっ、流石に逃げ(ガシィ…!
――あ、あの、ハナコさん…?」
「――はい♡ なんですか、カズマ先生?」
「おっ、お前なら分かるだろ…? キヴォトスの住人と比べて貧弱な俺が…、
お前らの気の済むまでやられたらどうなるかって…!!」
「――――………なんのことか、分かりかねます♪」
「――ちょ…! おいハナコ、ハナコさーん、ハナコ様ーー!!
な、なぁセイアも! 話を! 話をしよう! 話をしようっ…!! あっ――!」
その後、カズマは乙女の尊厳を蔑ろにするとどうなるのかという事を、喉が枯れ果て、呼吸もままならなくなるほど責め立てられることで、思い知らされることになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――連邦捜査部シャーレ 地下実験室(折檻後)
「よーしよし、よーしよし♡」
「………ぅぅぅうううううぅうううううううう」
セイアの気が済むまで、いろんなところをくすぐられて笑い転がされる羽目に陥ったカズマは、ちょっと人に見せられない顔にされてしまい、顔面を両手で覆ってさめざめと泣きながら、ハナコの膝枕の上で慰められていた。そのすぐ傍でセイアが、セイア(紐水着)に予備の制服をいそいそと着用させて、宵闇青肌以外の違和感を無くそうと必死に変装させていた。
…させていたが、服を着せていけば行くほど、肌の青と制服の白のコントラストが顕著になってしまい、何も知らない人が一見すれば、なんかもうそう言うプレイの為に用意されたお店の人だと言われても否定しきれない扇情さを醸し出していた。つまるところ要するになんかエロかった。ハナコは、その様子にとても何か言いたそうな顔をして目をキラキラさせていたが、カズマを慰めることの方が優先度が高いのか、場を荒らすような発言は控えているようだ。
セイアは、はぁ…、と少し短い溜息を吐くと余計な思考を脳内から追い出し、現実逃避の様にそういえば先生が出したこの子は一体どういう原理で動いてるんだろうかとか、見た目がセイア自身とほぼ同じだから呼ぶときに同じ名前では困るが、全く違う名前でも困ったことになりそうだとか建設的なようなそうでもないようなことを考え。
「――……よし、君の名前は青セイアに」
「(――プイッ)」
「………おや?」
カズマ先生からもたらされた不思議アイテムに疲れ果てたセイアが、非常に安易でテキトーな名付けを自身の影武者(予定)に行ったところ、そっぽを向かれてしまう。そして、その青セイア(仮)は、たったったったと、軽快な足音を立てながら未だにハナコに膝枕されているカズマ先生の方へ向かい、
「――――――――、――――。」
何かを言ってるようだが、何を言ってるのかさっぱり理解できない…。青セイア(仮)の喉から発生している特殊な音に規則性は感じられるので、長い時間を掛ければ法則性を見つけられそうではあるが…。
「――そのセイアの普段見えない痣の場所を詳しくっ…!!!!(ガババッ…!!」
おいちょっと待て。待ってくれ。青セイア(仮)もなんでスカートをたくし上げようとしてるんだ待て待て待て待て!!!!
「――えいっ♡(ブスッ」
「めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁあああああ…!!!」
完全にスカートがたくし上げられる前にハナコによって目つぶしが行われ、カズマ先生が今度は痛みで悶絶してごろごろと転げまわっていた。よ、ようしゃないねハナコ…、とセイアは戦慄するが、しばらくして今度は両目を抑えてしくしく泣き始めたカズマ先生に「ヒール♡ ヒール♡」とハナコが神秘を唱えているのでそのうち泣き止むだろう…。
それよりも、セイアは今しがた起きたカズマ先生と青セイア(仮)の謎の会話の流れに関して問いただす必要があると考え、念のためにスカートをめくられないよう少しぎゅっと布地を握りながら三人の元へ近づいていく。
「カズマ先生、ちょっといきなり過ぎましたが、流石にダメですよ…?」
「………くっそ、そんなことよりハナコ。お前はしっかり見たな?」
「――――………それは、えぇ、バッチリと♡」
その言葉にセイアは思わずピタッと立ち止まり、待ちたまえよハナコお願いだからその辺にしたまえよ。私でもそろそろ泣きが入るかもしれないからね…という視線で抗議を行おうとするが、
「――――、―――――――――。」
「よしその場所、を…? はいはいカズマです。
………いやいやいや、流石にそれはやめてやれよ」
「(コクコク)」
「――お前ら三人ともやたらとトリニティの生徒に厳しくない…?
昔と今が関係ないとまでは言わないけど、もうちょっと優しくしてやれよ…」
「(ブンブン)」
ハナコにもセイアにも全く理解できない謎の会話が、カズマ先生と青セイア(仮)の間で成立しており、話が勝手に進んでいく。ハナコは少しあっけにとられた顔をしていたが、すぐさま切り替えると、
「……カズマ先生、先程と、そして今も。
この青いセイアちゃんと意思疎通が出来てるように見えるんですが…、
彼女は、何を言ってるんですか…?」
「………そうか、お前らには聞こえないのか?」
その辺りで、セイア(本人)が三人のところまで辿り着き、眉を寄せて訝しげにしながら
「……私もそれを知りたいと思っていたところなのだよ、カズマ先生。
彼女に自由意思があり、私の安直なネーミングに反意を覚えたと言うなら、謝罪したい」
「―――――――――――、――――――――。」
そしてその会話を遮るように、再度、青セイアがカズマになにかしらの言葉を発し、カズマは微妙に嫌そうな顔をした。
「………………ッスー。ハナコ、セイアを抑えられるか?」
「待ちたまえよカズマ先生、既に嫌な予感がするのだが」
「配置に付きました♡(ギュッ」
「――ハナコ????」
「ちょっと頼むわ…。でもなぁ、説明するのは余り気が進まないんだよな…。
あー…、まずこちらの彼女と…、そこで待機したままの残りの二人もそうなんだが。
トリニティ総合学園がかなり嫌いです。そこに所属している生徒も」
「(コクコク)」
「(コクコク)」
「(コクコク)」
「ぇえ…?」
青セイア(仮)とハイレグとスリングショットは一斉に力強く頷き、しかしそれ以上の行動を起こす様子はなく、余計にセイアは困惑を深めた。いまのいままで凄く協力的に薬の投与を受け入れたり、百合園セイアの影武者を務めるための似姿になったりと、その姿勢だけを見るならばとても協力的であったので余計に困惑するほかない。無言でそうですよね嫌いですよねとばかりにうんうん頷いているハナコは見なかったことにする。
「あとセイア自身がさっき言った通り、安直なネーミングにとても怒っていて…、
自分の呼ばせ方は自分で決めるから、
今後はその呼び方をしないと言うことを聞いてくれないらしい…」
「(コクコク)」
「――……私の浅慮が招いた結果だからね。致し方ないことだ。
それで、今後、彼女のことは何と呼べば?」
「――――――――、――――。」
内緒話でもするかのように青セイア(仮)から耳打ちされたカズマの、セイアを見る目がどんどん気の毒なものを見る目になっていき、その内容を告げるために何度か口をパクパクさせていたが、音として意味のある形を取らず、最終的にセイアからサッと目を逸らしてしまう。
「――――――――、――――。」
しかしながら、そんな態度は許されず。
「……あー、今すぐ言わないと二度と協力しないって言ってるから、
これは俺が悪いんじゃないからな? 怒るなよ? 頼むから怒るなよ…?」
「………若返りの薬の件と、先の一件である程度の耐性が付いたとは思うが…。
――おやハナコ? どうして拘束を強めるんだい?」
「念のためですよ♡(ギュッ」
「よしハナコそのまま抑えてろよ頼むからな…。
で、だな。――――あーっと、そのー………」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる青いセイアから、急き立てるかのような指示を受けたらしきカズマは、とうとう観念する他の選択肢がなくなってしまい、それでも躊躇うようにしばらくの間は目を四方八方に彷徨わせていたが、やがて諦めがついたのか、出来る限りセイアから眼を逸らしつつ――
「――セクシーセイアか紐セイア(ボソッ」
「二度ならず三度までもっ…!!!!
堪忍五両と分かっていても、限度があることを理解したまえよカズマ先生ッ…!!!」
………という感じで、一悶着どころか、二度三度と揉めに揉め、どちらの名前にも決めないなら紐水着姿で今後活動するという、カズマに翻訳の主張通りに脱衣し始めた「セクシーセイアもしくは紐セイア」の態度を見せられたセイア(本人)は自棄糞気味に”ひっ、紐セイア! 貴方の事は今後、紐セイアと呼ばせていただく!”と、叫んだことでようやく事態が一段落ついた。
カズマは、この場の二人に、もう少しこの特殊なユスティナ聖徒会に関して、詳しい事情を説明しておきたかったのだが、ハナコはともかく、セイアがいるこの場では余計に話がこじれそうなので止めておこうかなと考えたところで、
「――カズマ先生」
セイアを宥め終わったらしいハナコが声を掛けて来て――そのセイアはというと、紐セイアに予備の全身ホログラム迷彩装置(ランドセル)を背負わせたり、なんとかコミュニケーションを取ろうと画策しているようだ――うんほっとこう。それよりも、いつになく真面目な顔をしたハナコがそれ以上口を開かずに見つめてきているので、説明しろという事なのだろうとカズマは察し、
「――俺が”ゲマトリア”に入ったって話、前にしただろ?」
「……彼女は、いえ、彼女たちは。
そこで手に入れた成果物、ということでしょうか…?」
「………海辺の無人島のユスティナ聖徒会、その彷徨える戒律の守護者たち、だとか。
正直よく分からないんだが…、そいつらを俺に寄越したやつは、
「再現性…。つまりその団体、”ゲマトリア”は。
この現象を再現し、運用するまでの手順を研究している、と…。
カズマ先生は、本当に何でもかんでも引っ張って来られますね…」
「ハナコに渡したその腕輪も、その”ゲマトリア”の伝手で貰ったものだしな。
”潜伏”との相性はどうだ?」
「――ミユさんと行動を共にしても、誰にも気づかれない程度には。
たまにですが、すぐ横にいる筈なのに、私の方を見失われるようになってしまって…。
何故か目をキラキラさせて喜ばれてしまったのですが、あれはどういうことなのでしょう?」
「………あー。しばらく付き合ってやってくれよ、才能のあるやつは孤独なんだよ」
「………………なるほど???」
理解は出来なかったようだが、なんだか納得はしているようだったので、本当に才能のあるやつはこれだからとカズマは心の中で毒づく。
「話がズレてしまいましたね…、”成果物”なのは理解しました。
しかし、彼女たちが、”戒律の守護者”である以上、私たちに協力する義理はない筈です。
どうやって、カズマ先生はそれを可能としたのですか?」
「………あー、どうやって説明したらいいのか難しいんだが。
廃墟アミューズメントパークの、スランピアの件を覚えてるか?」
「……カズマ先生が、アリウスでアクシズ教を始めてからお祓いに行った場所ですよね…?
最近は、再開発が始まったと聞いていますが…」
「それそれ。俺さ、
ハナコは思わずといった具合にこめかみに手を添え、しばらくの間、天を仰ぎ。
「………………。分かりました。
分かりませんが分かりました。お祓いが出来るようになった、と」
「この手の相手には、今までいまいち効果がなかったんだが…。
アクシズ教大司教に就任してから、急に声が聞こえたり、魔法の利きが良くなってな…」
「………………」
「――で、
もうその瞬間からダース単位でめちゃくちゃに話しかけられてさ…、
海辺でもうちょっと遊びたかったーだの、せめて置いてきた宝物見ておきたいーとか、
無理矢理に顕現させられた上に、働かさせられるとかうんざりだ永眠させろーとか、
………特に最後の訴えが一番多くてな」
「………幽霊みたいな存在なのに言ってることが世知辛いですね…」
「そーだろ…?
俺も死んでまで働かされるのは流石に可哀想だなって思ったから、仏さんの言うとおりに、
シスターフッド式で弔いながら、順番に
「はい」
「今残ってる三体だけはちょっと強すぎて、すぐどうにかできるような感じじゃなくてな…
仕方ないから、儀式場作るからちょっと待っててくれって言ったら、
我々に出来ることならなんでも協力するから、
後生だから成仏させるのはそれからにしてくれって」
「――その、なんでも、というのは?」
「なんだっけ…? 確か地下の秘密通路のギミックがどうこうとか」
「分かったカズマ先生もう分かったもういい」
気が付くとすぐ側に立っていたセイアが、顔を真っ青にしつつカズマの発言を咎めた。その顔色だけなら隣に連れ立ってる紐セイアと色が同じに見えるなとかカズマは呑気に考えているが、トリニティ総合学園の生徒としての、生徒会長であるセイアの立場からすると、政治的な意味で話が変わってくる。もしかしたら、もしかしたらなのだが、いまそこで楽しそうに百合園セイアの影武者として振舞うことを楽し気にしている彼女は、かつて、ユスティナ聖徒会において最も偉大と謳われた聖女バルバラに連なる者なのかもしれないのだ。もしもそうならば、最初にハナコが言った通り、この三人の方々はトリニティの体現者であり、過激派であり、生き証人であり、似姿どころかご本人様のうちの一人である可能性がある。幽霊という存在としての、その複製や残滓であったとしても、カズマ先生が引っ張ってきたのだから、可能性なんていう曖昧な話でもないのかもしれない。
それほどまでに、ここに居る彼女が、紐セイアが、幽霊のようなオカルト的存在になっていても、影武者を務めることできると言う特殊性の持つ意味は重い。あまりにも重すぎる。……第一回公会議で、最後まで統合に反対したアリウス派への弾圧を行ったのがユスティナ聖徒会なら、弾圧していたはずのアリウス派を密かに匿い、逃がしたのもユスティナ聖徒会なのだ。だから、もし、もしも私の推測が当たっているのならば、だからこそ彼女は、恩のあるカズマ先生には協力的でも、私たちに対してはこの塩対応なのも頷けるというもであり、それは、つまり――
「(ムフンッー!)」
ぐるぐると思いを巡らし、セイアがますます顔を真っ青にしていく様子を、紐セイアがその通りだと言わんばかりに、腕組みをしながら自慢げに、うんうんと頷いていた……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――現在。トリニティ総合学園 サンクトゥス分派中央棟 聖園ミカ
――そして、夜の帳は落ちていく。
それは、誰にとっても平等で、誰であっても抗えるものではなく、
「……セイアちゃんはここにいる。
――……静かに、病院にでも、送ってくれれば……。
そういうことだから、よろしくね♪」
トリニティ総合学園とアリウス分校の、仲良く手を繋いでいくための穏当な外交としての最短の道が、未だ正式に同盟を結んですらいないアリウス分校の生徒を、内密にトリニティ総合学園へ侵入させる手引きを行った上で、現行のトリニティ総合学園の生徒会長にして、その最高権力者の「ホスト」を武力で排し、その権力の座を奪い取ると言うことの意味を、”こっちとあっちの事情を知ってる私が権力を握れば、その後のことがスムーズに進むだろう”程度にしか考えていない、聖園ミカにとっても、その時は訪れる。
「………」
そして、聖園ミカに手引きされ、「スクワッド」の護衛と、”コト”が起きた時のために侵入を果たした、アリウス分校小隊Aの小隊長は、聖園ミカに何かを言おうとして、結局思いとどまり、
「……これについては、「スクワッド」に任せます。」
今後の予定を伝えるにとどめた。
「……スクワッド?」
ミカは記憶の奥を探る。それは確か、錠前サオリが率いる、サオリが手ずから鍛えた部隊の名前だったはずだ。何度もトリニティとアリウスを行き来するうちにサオリから紹介という形で面識を得ており、その特徴的な姿から名前まで咄嗟に出てこなくとも、大体のイメージはパッと出てくる。
――仮面の子、マスクの子、陰気な子、そして白洲アズサ。
ざっと周囲のアリウス分校の生徒を見渡すが、そのいずれのメンバーも見当たらないため、ミカは思わずといった具合に、思いがけないことを聞いたというような、間の抜けた返答をしてしまい。
「――はい、ご存じでしょう? ほら、あちらをご覧ください」
そして促されるままに、指差された中空が示す先を見て。そこには、百合園セイアの自室の窓から、窓の外へ空中へ、宙吊りの。粗末な木材のようなもので、より多くの人に目撃させるために、見せしめの様に磔にされている姿があり。
「――――え?」
――パン。と一度だけ、乾いた声が鳴り響き。ガラスが割れたような音がした。
「………………は?」
百合園セイアの、その頭部で煌めくヘイローが砕け散り、頭部を貫いたと思しき銃痕から、血が流れ出し、体がビクビクと瘧(おこり)ように震え、力を失い――
「………ぇ、えっ? なっ、なんで、どうして…?
な、なにがどうなって、え…? なんでそんなことに…?
だ、だってだっておかしいでしょどうして…?! うそでしょ?
だって、わたしは――!」
そんなこと指示した覚えはない…!!と、隣で中空を指し続けている筈のアリウス生徒に事の次第を糾そうとして、もうそこに、誰もいないことに気が付き。
「――……たいへん、たいへん鈍いですこと…。
今のを見て、なにも理解できなかったのですか…?
そして、この場からあなたが手引きした方々がいなくなったのも道理でしょう…。
その程度も咄嗟に理解できないから、あなたはこうなっているのです…」
嘲るような、嬲るような声が背後から聞こえ、同時に銃弾が放たれたのを察知して、ミカは咄嗟に身を捻る。
「……あらまぁ、聞いていた通り、戦闘のセンスだけはお高く止っていらっしゃいますのね。
撃ってから回避されるのはもう慣れてしまいましたが…、まったく。
その残念なオツムの方も、そのくらい動けばこうはならなかったでしょうに…」
ミカはそのまま相手の射線上から身を隠すように動き、その謎の人物から放たれた攻撃の意思と、その言葉に不審な点を感じ、月灯りでなんとか視認できないかと遮蔽物の影から目を凝らし、それが、アリウス分校の制服とガスマスクを装備した人物であることを確認して。そして同時に、ミカの胸の中でわだかまる怒りと戸惑いを、感情のままにぶつけるように大声を上げる。
「なんで、なんで…。なんでセイアちゃんを殺したの…!!!
私は、病院送りにするくらいに痛めつけるだけでいいって――」
「――……ァハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハ…!!!!
滑稽ここに極まれりですのね!
いいえ!いいえ!聞いていたとはいえ、ここまでとは恐れ入りました!」
「なにをっ――!!」
「さきほどまで貴方が案内していた方も、そのことを言うべきか迷っていたようですが…。
誰も言わないのならわたくしが言って差し上げましょう…、聖園ミカ。
あまりにも憐れで、見ていられませんもの――」
百合園セイア暗殺計画。錠前サオリの指示。実行犯は白洲アズサ。手引きは聖園ミカが行う。聖園ミカの提唱する、トリニティ総合学園とアリウス分校が手を取り合う輝かしい未来の為に。その最短の道を邪魔する要素は全て排除する。その為に、アリウス分校が聖園ミカの細かい要請を取り合わず、スクワッドの、錠前サオリの指示に従い、いま目の前で速やかに行われた、聖園ミカを最短でホストに導くための、無情の計画の全容。そして、だからこそ、聖園ミカの精神は、その情報を正面から受け取り、消化することなどできず――
「………どうですか。感想を、聞かせて下さいまし…?」
五月蠅い。
「――わたくしは、感想を聞かせろと言ってますのよ?」
雑音が聞こえる。
「分からない人ですわね、哀れな
ほらはやく、このひとごr――――」
――黙れ。とそう考えた時には、ミカの片手には、そのアリウス分校の生徒の顔面が、強く強く握りしめられていて。そのまま、近場の壁に叩きつけた。ドガッ。叩きつけた。ドガッ。叩きつける。ドグシャッ。湿った音が聞こえる。もういいさっさと終わらせよう。一層力を強く込めて。
「――ろし」
「うっ、うるさいうるさいうるさいうるさいっ…!!!!」
「何度でも言って差し上げますわ、この――」
「その口を、閉じろぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉおおおおおおおお…!!!」
何部屋も何部屋も、壁を突き破りながら次々と壁に叩きつけても、顔が見えなくても分かるような、ニヤニヤと嗤う態度を歪ませることもできなくて。
「――おっと、こちらは通行止めですわ」
こちらが攻撃している筈なのに怯むことなく腕を掴まれ、ひらりとすり抜けられて、激昂しながらも目指していたセイアの部屋の方向への進行を遮られて。
「――どいて」
「お断りしますわ」
「――どいてよ」
「嫌ですわね」
「どけ」
「貴方があの子にしたような手段を使えばどかせると、お思いになりませんか?
間接的ではなく、直接的な手段で」
対峙する二人の手元で同時に、月光が煌めき、装填を完了する音がして。銃身に込められた弾丸の数だけの殺意が、お互いの体を打ち据えていく。音高く鳴り響くその銃声の嘶きは、キヴォトス中で開かれている喧騒の一つとして処理され…、ここに、運命を覆すための舞台の幕が上がる。
「――急がないと」
それを”潜伏”した上で、認識阻害の腕輪を付けた浦和ハナコが見届けて。”若返りの薬”が充填されたピストル型注射器を構え、ひた走る。その舞台の幕引きを、なんとかなるかもしれないなんて言う、都合のいい物語の結末を、目指すために。
――という感じでラスボス戦開始です。
セイアが弄りやすすぎてセイアばっかり書いてる気がする。なんてこのすば向きの人材なんだ…、ネタが多いセイアが悪いよセイアがー。そしてようやくワカモのところまで辿り着きましたわよ…。
更新が遅いのは…、私の中のイマジナリー聖園ミカが強すぎるのが全部悪いかなって…。