超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 さらにクライマックスなので二日目の連続投稿です。
そんな感じを、引き続き、「杖と剣のウィストリア」OPを聞きながら書きました。

 聖園ミカ(余波&本体)編、決戦スタート!


十七話 Get Set,GO! キヴォトス路地裏大祭(夜の部) 流星(ホシ)に願いを――(③)

 

――キヴォトス路地裏大祭 ゲヘナ-トリニティ間 全線貸切特急(加速中…

             任意全員参加型イベント『流星(ホシ)に願いを――』 

             忍術研究部、、、、、、、、、、、、、、…etc

 

 

 当然のことだが、百合園セイアが生まれてから今までの間、両親よりも長く向き合ってきた未来予知や、その拡張発展である未来予知に等しい第六感とも言える直感、ミレニアム首脳部が総力を掛けて生み出した未来観測機関「讖(しん)MkXIII」の補助により可能になった未来観測と更にその上を行く未来干渉を、他者よりも幸運であるという事以外、特別である要素を持っていないカズマが使いこなせるはずもなく。

 だから、これはいつも通りのことなのだ。幸運なことに、カズマにはいつだって、事態を解決することが出来る、卓越した能力を持った誰かが、仲間にいたのだから。頼りになることよりも、迷惑を掛けられることの方が多かったため、あの三人にはそれほど表立って口には出さなかったが…。ともかく、それが出来る誰かが、このキヴォトスでも仲間として協力してくれるなら、それはカズマがアクセルにいた時と何も変わらない。いつも通り、その仲間たちに頼り、それぞれが、最高のパフォーマンスを発揮できるように、全力を尽くせばいいだけなのだから――。

 

 

 『システムリンク――、未来観測機関「讖(しん)MkXIII-2号機」

  カズマ先生が持つ神秘、未来予知と接続します…完了…!!

  このアロナにお任せください!! カズマ先生!』

 

 

 ふんすふんすっと興奮気味に、カズマの役に立てることが嬉しくてたまらないと言った様子を見せるアロナがそこにはいて。

 

 

 『――あっ、カズマ先生、まずいまずいまずいです!

  第一波の撃ち漏らし、弾着まで……、残り14秒!』

 

 

 「イズナ! その辺の壁を手裏剣で全部破壊してくれ…!」

 

 

 「――イズナ流忍法…! 秘儀!爆裂手裏剣、乱れ打ち…!!」

 

 

 もはや悠長に、列車の屋上に出ることの方が不味いと判断したカズマが、射撃の腕前よりも、手裏剣投擲術の才能に恵まれたイズナに戦場の見通しを広げることを指示する。そして、その正確無比な投擲術によって、死角が生まれないように破壊された列車内部からも目視で見えるほど、迫りくる流星の輝きがいや増してくるのが確認できて――

 

 

 「――この撃ち漏らしは俺がなんとかする!

  第二波は頼むぞお前ら…!

  アロナ、忍術研究部の詠唱開始を管制してくれ!!」

 

 

 『今すぐ詠唱を開始してください…!!』

 

 

 「――!! もうかよっ…、ミチル、ツクヨ、イズナ…!

  お前らが頼りだ! しくるなよっ…!!」

 

 

 「「「――黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の金光を望みたもう…」」」

 

 

 『カズマ先生、今ですッ…!!!』

 

 

 「――エクスプローーーージョンッ…!!」

 

 

 無詠唱にて、全ての呪文の上に君臨する、最高位の爆裂魔法が、ふたたび空を割る。

 

 

 『――第一波の撃ち漏らし及び残骸の撃破を確認しました…!

  カズマ先生! 忍術研究部の皆さんと一緒に第二波に備えて下さい…!!』

 

 

 カズマは、全身に襲い掛かる倦怠感によって体が動かなくなる前に、手元で青輝石を砕き、流星群の第二波に備えるために魔力を高めていく、

 

 

 「「「――覚醒の時来たれり! 無謬(むびゅう)の境界に堕ちし理!!

    無暁(むぎょう)の歪みと成りて、現出せよ……っ!!!」」」

 

 

 『ワカモさんに向かう以外の、流星群第二波を捕捉しました…!!

  カウントします…、6、5、4、3、2、1――――今ッ!!!』

 

 

 「「「「――エクスプローーーージョンッ…!!」」」

 

 

 シッテムの箱に管制された、カズマと忍術研究部の爆裂魔法は、正確無比に流星群の全てを撃破していき―― 

 

 

 『――流星群第二波の撃破を確認しました! お疲れ様です!!

  でも、カズマ先生が言ってた通り、流星群の残骸が迫っています…』

 

 

 「――こっからだ…」

 

 

 カズマは再度、手元で青輝石を割ると、同じく青輝石を砕いている忍術研究部に近付いていく。

 

 

 「あっ、主殿主殿…! イズナ、イズナやりま…」

 

 

 二度の爆裂魔法(エクスプロージョン)、二度の瞬間移動魔法(テレポート)を、外部から強制的に取り込んだ神秘に任せ、短時間の間に使用した副作用がイズナを襲い、カズマに万事うまく行ったと嬉しそうに駆けていこうとして。途中でそのまますっ転んでしまい。

 

 

 「――っと…!」

 

 

 それをなんとか急いで、カズマが受け止めに行く。

 

 

 「――わぷっ。あ、あはははは…、すいません主殿…。

  イズナ、やっぱり、うまく体に力が入らなくって…」

 

 

 「……う~ん、やっぱり、予行練習通りになっちゃったね~。 

  それより先生殿~。私も、鼻血が止まらなくなっちゃったんだけど…。

  ぬぐってぬぐって~…」

 

 

 「わ、わたしも、最後の石を砕くまではなんとかしたんですが…、

  も、もう、身体が、思うように動きません…ごめんなさい…」

 

 

 無理もない…、というか、無理をさせ過ぎたとも言える。この本番が来る前に、時間を空けて何度かアビドス砂漠で予行練習をした時も、似たような結果を迎えており、数をこなすごとに練度は上がってはいったのだが…、この中で一番耐性があったミチルでも、戦闘継続不能な症状が出ているのなら、これ以上の無理はさせられないと、カズマは事前の打ち合わせ通り、テレポートを唱えるために魔力を高めていく、

 

 

 「――ううっ、でもでも私は、イズナは!最後まで主殿にお供を…!!」

 

 

 「……私も気持ちだけはそう思ってるんだけど、

  この様じゃ、銃を持っても、めくらうちになっちゃうし…、

  先生殿の役に立つどころか足引っぱっちゃうって、イズナ」

 

 

 「ううっ、ごめんなさい。ごめんなさい先生…」

 

 

 力尽きてもなお意気軒高なイズナ、やる気満々だが冷静なミチル、なぜかずっと謝り続けているツクヨ。それを見たカズマは、胸に突っ込んだままの姿勢になっているイズナを椅子の残骸にもたれかけさせ、ハンカチでミチルの顔をぬぐってやって、申し訳なさそうに謝り続けるツクヨの前に陣取り、

 

 

 「――なーに言ってんだ。

  お前らがいなきゃ、俺はここに立っていなかったじゃねーか…。」

 

 

 だから、これからも頼りにしてるぜと、カズマは小さく呟き、

 

 

 「――テレポート」

 

 

 夜の天蓋を赤く彩った、三人の爆裂魔法の使い手をミネのセーフハウスへ送りつけ、

 

 

 【――路地裏大祭、実行委員会からお知らせ致します…。

  『流星(ホシ)に願いを――』に参加される方は、速やかに列車コース、

                     もしくは並走車両コースへお進みください。

  流星が迫っています。

  現時点でイベント開始となりますので、ご了承ください…。】

 

 

 【――繰り返し、お伝えします。

  『流星(ホシ)に願いを――』に参加される方は、速やかに列車コース、

                     もしくは並走車両コースへお進みください。

  流星が迫っています。

  現時点でイベント開始となりますので、ご了承ください…。】

 

 

 爆裂魔法が去った後の静かな夜空に、遠く大きく響くアナウンスと、二度目の流星の残骸が飛来する。そして、どぉん、どぉんと、カズマがいる場所からも聞こえ始めた遠雷のような音は、流星の撃破数によって賞金や商品を得られるという催しに釣られた、キヴォトス路地裏大会に来ていた参加者たちが放つ銃撃か爆撃のそれに違いない。

 

 

「――スゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ、ハァァァァァァアアアアアアアアァアアア……」

 

 

 ……既に未来は何度も変わっている、カズマと、セイアの選択によって。だから、カズマはそのことに関して、恐怖で体を震わせながらも考える。百合園セイアが佐藤カズマに出会うまでの間、延々と行っていた、未来を探し求める行為のことを。それが、どれほど危ういことだったのかということを。

 こんなものに常日頃から付き合わされるなんて、カズマなら御免こうむる。常人ならば、現実に、現在に生きることなどできようはずもない。視えてしまえば、抗いようのない絶望が襲い掛かってくると分かっていながら、未来に祈る事すら許されないのだ。だが、だが――、ならば。それでも。いつも通り、人事を尽くして、運を天に委ねるしかない。そして、キヴォトスで、この世界でカズマにだけ、その運すら天に委ねることなく、天を運に委ねる方法が、存在するのだから。

 

 

 「――幸運(ブレッシング)、幸運(ブレッシング)、幸運(ブレッシング)、幸運(ブレッシング)、幸運(ブレッシング)、幸運(ブレッシング)………」

 

 

 だが本当にそうだろうか…? ここぞと言う時に、この魔法を掛けて戦った時は、一度目は、爆裂魔法で内臓から全身を焼かれながら死亡し、二度目は、爆裂魔法で相手諸共と自爆しながら、地下深くの迷宮丸ごとを崩壊させた上で生き埋めになった。そんな無茶が出来たのも、生き返る手段があるという確信があったからだ…。いやいや待て待て二回目は全くなかったわ、結果的にそうなっただけだわ。…ではなくて、とにかく今はそうではない、死んだらそれで終わりなのだ…。

 

 

 「……………」

 

 

 カズマは、無言のまま、走行中の電車の上に乗れる足がかりを探し、這い上がり、なんとか立ち上がって見えた景色は。カズマの乗る列車に幾両かの列車が並走し、その少し外側をどこから集めて来たんだと言わんばかりの数の車両が追走する中で、どいつもこいつも必死な顔をして、迫る流星を撃ち墜としていくのに大忙しな様子が見える。ここから見えるだけでも、迎撃に失敗した上で当たり所が悪かったやつは車両や列車から放り出されているようだ…。それでもキヴォトスの住人なら、ちょっと気絶するくらいで済むのは未だにカズマは納得いっていないが、それにしたってこれは…。

 これじゃあいずれ破綻する、とカズマは考える。今回のは確かに賞金や商品ありきのイベントだが、協力して当たらないと危ういものでもある。この調子で統制も取れず、手当たり次第に迎撃しているだけでは、流星に依る飽和攻撃に耐えられず、カズマはセイアが視た通りの結末を迎えるだろうことは未来視を使わなくても簡単に予想できた…。だが、ここだ。ここを乗り越えれば、後は殆どが何とかなると言う確信が、カズマの中にはあった。

 だから、カズマはとうとう真剣に命の覚悟を決めた。魔王軍幹部と決着を付けるための策として、全てを投げ出すような、命を失う覚悟と――、この場に集ったバカ共に、背中を預けて命を張る、全てが終わった後の、辿り着くべき未来を信じて。

 

 

 「――――………あとは頼んだぞ!

  おまえらぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

  ――デコイ!!

  ――プロテクション!!!

  ――スピードゲイン!!!!

 

  アロナ! うまいこと誘導してくれよっ…!!」

 

 

 『――はっ、はいっ…!!』

 

 

 カズマは叫ぶと同時に一人で駆け出し、しかしその速度は、特急列車が未だ最高速に乗っていないこともあって、誘導弾のように追いすがり飛来する星々の速度に敵うものではない。三々五々に散っていた星々の残骸は軌道を変え、侵入角度を幾度も幾度も折り曲げながら、まるでアニメーションの誘導噴進弾(ミサイルランチャー)のようになってカズマへと迫る。

 ここで一応念のために補足しておくが、爆裂魔法でバラバラにされた残骸が時速200km程度で迫り来る脅威というのは、普段からバカスカ銃弾で撃たれまくってるキヴォトスの人間にとっては痛い痛いで済まされるような笑い話だが、カズマにとっては当然そうではなく、補助魔法の恩恵無しに一粒でも貰えば体に穴が開き、当たり所が悪ければ即死する。だから、とにかく逃げるしかない。

 

 

 「ぅぉおおおおおぉおおおっ…!!

  いだっ!いだだだだだだっ…!! しっ、死ぬ! 今度こそ死ぬ!」

 

 

 『隕石の破片の軌道を予測します! カズマ先生、可能な限り避けてください!』

 

 

 しかし思うようにいかず、

 

 

 「雨みたいに襲ってくるのにどーしろってんだ!」

 

 

 『ええっ…!? ……えっーーっと!

  網膜投射します! なんとかしてください!!』

 

 

 「なんとかできるかぁーー!!!」

 

 

 とは言いつつも、それなりに参考にはなったので、カズマは自身に芸達者になる魔法(ヴァーサタイル・エンターテイナー)を付与すると、軽業師のような奇怪で機敏な動きで列車の上を駆け抜けていく。

 

 

 『じゃ、じゃあ使いますか、バリア?!! 巡行ミサイル一発までならいけます!

  ものすごい勢いでバッテリー消耗しますけど…!』

 

 

 「――どうしようもないのが来たらアロナの判断でやってくれ!」

 

 

 カズマが乗車する貸切列車側も周囲の喧騒に気が付いたのか、その速度が徐々に上がっていっているので、全力で走ればなんとかなりそうな気がするが…。

 

 

 『わ、わぁ…! マズいですマズいですカズマ先生…!!

  さっきからバリアを発動させてるんですが、なんかすごい勢いで削られてますぅ…!!』

 

 

 「――はぁ?!」

 

 

 走りながら後ろを振り返ると、流星の残骸が、まるで鞭のように何度もしなりながらカズマに向かって降り下ろされており、その度にギャリギャリギャリギャリッと、チェーンソーで岩を削るような音がして。

 

 

 「……うっそぉ」

 

 

 『このままだと時間の問題ですーーっ!!』

 

 

 やばいやばすぎる万事休すかと、走りながらも、様々な打開策をグルグルと考え始めたカズマの頭部に装着されたインカムが、突如、通信状態になり。

 

 

 『――なぜ私を置いていったのか合点がいったともカズマ先生!

  今から私の指示通りに動きたまえ…!

  先頭車両まで行けば、ラストライブ後の彼女たちが助けになってくれるはずだ!!』

 

 

 「――セッ、セイア?!」

 

 

 どうしてお前が?!と問う暇もなく。

 

 

 『――とにかく今は走りたまえよ…!!

  カズマ先生の致命傷になり得る残骸の回避のみをナビゲートする…

  それ以外は、とにかくまっすぐ先頭車両まで走ればいい!!』

 

 

 「――よしきた!!」

 

 

 セイアは、カズマとは遥か遠く離れた場所で、集中するかのように目を瞑り…、閉じた瞳の中に見える未来を視る。カズマ先生の姿を捉える。先生を導くための未来が、次々と樹形図のように指し示され、それが辿りつく極点を見失わぬように、必死になって追いすがり続ける。あぁ。あぁ、そうだ。

 ………楽しかったはずなのだ。未来が見えるたびに変わっていく、景色の中にいることが。嬉しかったはずなのだ。その未来に辿り着いて、変わらぬ仲を保てる、気の置けない友人たちに囲まれていることが…。

 それが怖くなったのはいつのことだったろうか。私が幸せになる事が、必ずしも全体の幸福に繋がることは無いと、無常な未来から突き付けられた時だったろうか。さっきまで隣で笑っていた誰かが、薄暗い瞳と銃口をこちらに向けながら、敵対することになると視えてしまった時だったろうか…。

 なんにせよ、私はその瞬間から、効率と打算を考えて生きることを強いられるようになった。だから、私は。常に未来の中で揺蕩ようになり、現在とは、それが確定するのを待つだけの、意味のない時間となった。そうして自然と、私は、いつも蚊帳の外から、他人事のように諦めていた。

 

 

 『――二歩後にしゃがむ! 走って!』

 

 

 『カズマ先生そのまま飛んでください!(><』

 

 

 「しゃがんで!はしって!とぶうううううううううううう!!!!!!」

 

 

 だというのに、こんなにも…、こんなにも!! 自分自身が不甲斐ないと思ったことは無い!! 憎くて憎くて堪らない。この場で隣に立つことが出来ない己自身が。悔しくて悔しくてしょうがない。関係のない安全な場所で、他人事のように眺めることしか出来ない現在(イマ)が。こんなの知らない。知らなかった。いいや知っていたはずだったのだ。きっと忘れてしまっただけ。心の裡で叫び続けるそれを押し殺すのを、息をするように慣れてしまっただけだから。

 ――楽しい! 未来とは、こんなにも、煌めいて視えるものだっただろうか。掴み取りたい未来(モノ)の為に、必死に足掻くことの出来ることが。当事者の一人として、たとえ舞台袖であってもこんなに必死になれることが。あぁ…、全ての流星の残骸が、カズマ先生を追うように集まって――

 

 

 「――カッ、カズマ先生?!」

 

 

 「ヒフミか!」

 

 

 「なっ、なにしてるんですかぁ…?!!

  ってわわわっ、りゅ、流星が…、もうもうもうっ…!

  なっ、なんとなく分かりましたから、はやく!! はやく乗ってください!!」

 

 

 「助かる!」

 

 

 カズマは、命からがら先頭車両に辿り着き、ヒフミが乗るライブ用車両に飛び乗る。その背中を追いかけるようにしていた流星の残骸が集い、一塊となったそれらは、空駆ける蛇のような威容を纏い、一瞬前までカズマが立っていた先頭車両を喰いつくす。当然、列車は脱輪し、次々と後続を巻き込んで破壊の嵐を巻き起こしていく。その最中で流星の残骸も巻き込まれるが、全体数から見ると微々たるものでしかない。それよりも問題なのは、突如カズマを追い掛けるようになった流星の残骸を、鴨打ちだとばかりに撃破しまくっていた、祭りの参加者達をも多数巻き込んで脱落させてしまったことにあった。

 自らも銃を手に取って、迫りくるそれらを迎撃していたヒフミは苦しそうな顔をしながらそれを確認すると、運転席にいるアクシズ教のシスターに「運転を今すぐ変わってください!貴方は迎撃を!!」と言い放つと、カズマにも覚えがないほどの華麗なドライビングテクニックを披露しつつ、速度で劣るライブ用車両を巧みに操り、他の三人がいる方向へとハンドルを切っていく。

 

 

 「おっ、落ちる落ちる転ぶってあぶねっ…!?」

 

 

 「しっかり捕まっていてください!

  間違いなく、僅かでもスピードを緩めたらそこで終わります…!!

  ――ワカモさんとミユさんが成し遂げるまで、

  流星のほとんどは私たちで引き受ける…これでいいんですよね?!!!」

 

 

 「いいや!それじゃダメだ!

  もう時間稼ぎで何とかなる話じゃなくなった!

  トリニティに侵入したアリウスを全員のすだけじゃあ、事態を収拾できなくなった!

  ――原因を叩く! 流星は全部壊して、ミカは鎮圧する方向で動く!」

 

 

 「もうこのパターン慣れました!

  先生の嘘つき!

  時間稼ぎで逃げるだけでいいって言ってたじゃないですかぁー…!!」

 

 

 「悪かったって…!!

  でもその割には、臨機応変に立ち回れる立場と、仲間を揃えてたじゃないか!

  ――流石だな、ヒフミ!」

 

 

 「そこ褒められてもうれしくありませーーーん!!!」

 

 

 ヒフミは顔をぐにゃぐにゃに歪めながらも、予定が即座に変わった場合の対応にも最早慣れたものなのか、少し離れた場所で流星群の残骸を迎撃する三人がいる車両に近付いていくが。

 

 

 「――光よっ…!!!」

 

 

 「きっ、キリがないわっ…! こんなのどうしたら…!!!」

 

 

 「ラストライブなのに、いっぱい弾薬を積んでたのってこういうこと…?

  ヒフミさん、ヒフミさーん!!」

 

 

 駄目そうだ…。くそっ、もうダメか、なんとかならないかとカズマがハンドルを握るヒフミに目を向けると、いつの間に着替えたのか、それとも下に着込んでいたのか、そこには青い修道服を纏ったヒフミがいて。

 

 

 「――いきますよっ…! みなさんっ…!!!!」

 

 

 ヒフミが誰かに呼びかけるような号令を上げたのと同時に、カズマとイタズラ☆ストレートの乗る車両を囲むように、幾つも幾つも幾つも…、数えきれないほどの生徒が、青い修道服を風に靡かせバイクを駆って飛び出してきた。その中には、なんだか楽しそうな顔で参加しているアリウススクワッド(サオリ除く)の姿も確認できて、

 

 

 「――は、はぁ…?!! な、なんでアクシズ教徒が…??!」

 

 

 「みなさーーーーん!!! タダ券のご飯は、おいしかったですかぁーーーー!!!」

 

 

 おぉーーー!!!と、大気が稲妻が走るように震え、今にも大地が揺らぎそうなほどの大音量が、元気よく帰ってくる。それを聞かされているヒフミの瞳には、少し、いや結構な恨みの籠った感情が灯っていたが。そしてその矛先が、なんだかカズマにも向いているような気がして。キッと、刺すような視線がカズマを貫く。

 

 

 「あ、あの、……ヒフミさん?」

 

 

 「どうしてあんなにタダ券、刷っちゃったんですかぁ…?!!」

 

 

 「そりゃ好きなだけ持ってけって言うから…」

 

 

 「持って行きすぎなんですよぉーーー…!!!」

 

 

 ヒフミはカズマといつも通りの漫才を繰り広げ、ギャーギャー言いつつも、バイク集団の中央部へと進んでいく。そして徐々に、イタズラ☆ストレートが乗車する四台の車両を囲むように、アクシズ教徒のバイクが対空の陣形を取る。そこまで状況が進んでもいっぱいいっぱいなのだが…、そんな二人の嘆きと騒ぎをこの狂騒の中でも聞きつけた、このキヴォトスで最も敬虔なアクシズ教徒の幾人かが、それを元気づけるかのように、声を張る。

 

 

 「……カズマ大司教!お任せください!

  このぐらいの危機、私たちにはなんてことありません…!!」

 

 

 と、擲弾発射器を担いだ女生徒が気炎を上げ、

 

 

 「――私たちに、明日を夢見る希望と、その明日をくれた先生に!

  この程度お返しできなきゃ、女が廃るってもんです!!!」

 

 

 と、二丁の散弾銃を交互に振り回す女生徒が続き、

 

 

 「命を救っていただいた恩に、報いることができているかは分かりませんが…。

  ――分かることもあります!

  そうやって先生が必死になってる時は、誰かのためだって!」

 

 

 最後に、機関銃を掃射することに長けた女生徒が、意思が強く込められた瞳でチラリとカズマを見つめ、すぐ迎撃に戻る。

 

 

 「――――……お前ら」

 

 

 カズマは思わぬところから、掛けられた言葉に声を失う。そしてヒフミも、それを聞いて自然と頬が緩み、

 

 

 「――私も。彼女たちも。他の参加者さんたちも…。

  先生の言うことが正しいから、協力してるんじゃありません…。

 

  いつだって、カズマ先生が苦しそうに立ち上がる時は…。

  それが、どんなに難しくても!

  最後には、みんなで笑っていられる未来に繋がっているって、信じているから…!!」

 

 

 「………ヒフミ」

 

 

 「だから、もっともっと頼って下さい、カズマ先生!

  私も、みんなも。

  先生に頼られているってだけで…、それだけで…!

  それだけで、どれだけでも、頑張れちゃうんですから…!!」

 

 

 「…………」

 

 

 カズマは、今まで喉につかえて呑み込めなかったなにかが、ストンと、胃の中に落ちて、それが妙にしっくりと嵌まったような感覚を覚えて…、だから。力強く、そして意地が悪そうに、笑った。

 

 

 「――よぉーっし、ヒフミ!」

 

 

 「こ、今度はなんですかぁ…!!」

 

 

 「俺の代わりにデコイを使ってくれ、出来るだろ?!」

 

 

 「あっ、やっぱり前言撤回します! 

  私嫌ですからね!

  カズマ先生、絶対これを私に押し付ける気ですよね! ぜったいそうですよね!」

 

 

 「何言ってんだ!

  俺に頼られたら嬉しくて頑張ってくれるんだろ?! 

  だったら頼むぜヒフミ!

  あの日から、お前は最高に頼りになる相棒だからな!」

 

 

 「だ、か、ら! 

  カズマ先生はそう言うのがずるいんですってばぁーー…!

  あぁ、もう! 今回だけですからね!」

 

 

 

 

 

 

 ――――デコイ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ヒフミがそう叫ぶと同時、その身から発露した神秘が眩く輝き、カズマに向かっていた流星群の残骸は全て向きを変え、ヒフミにその牙を向く。

 

 

 「もうもうもうもうっ…!!

  みなさーーーん!! お願いしまーーーす!!」

 

 

 路地裏の帝王の号令にすぐさま呼応した、アクシズ教徒たちとイタズラ☆ストレートがすぐさま指揮系統を繋ぎ、ヒフミに襲いかかる残骸を処理していく。いつ終わるとも知れないほどのそれらが襲いかかってきているが、これだけの人数で圧倒できるなら、時間はかかるが時間の問題でしかない…。だから、次にカズマがやるべきことは決まっていた。

 

 

 「ヒフミ! じゃあ、あとは頼むぞ!」

 

 

 「そんなことだと思いました!

  いいですか、カズマ先生…!!」

 

 

 「ペロロジラvs.メカペロロジラ。 セットでどうだ!」

 

 

 「しょうがないですね! ここは任せてください!」

 

 

 「――テレポート!」

 

 

 力ある言葉共に、その場からカズマが消えうせ、本当に仕方のない人なんですからと、ヒフミは嘆きながらも、その顔は笑っていた。まったくもうまったくもう、カズマ先生は本当に理解しているんでしょうか…。賞金や賞品が出るとはいえ、たくさんの人たちが、こんなにも集まって、流星を火器で撃ち落とすなんて馬鹿げたお祭りに一生懸命になってくれるのは、きっと誰もが、お祭りに参加したいからなんかじゃないのに。

 

 前に出て参加するよりも、後ろでゆっくりと眺めていたい人だっていっぱいいる。かくいうヒフミ自身もそうだ。お祭りに参加してはしゃぐよりも、それを眺めて楽しむ方なのだ。……ま、まぁ?裏方側が多かったというか板についてきたせいか、そういう趣味嗜好になってしまったのもあるにはありますが…。

 それに、どうせカズマ先生の考えることだ…。あの日と同じく、とにかくたくさん巻き込んでしまえば、不確定要素が増えて勝機が生まれるとか考えて、こんなことを思いついたんでしょうけれども、その考え自体が矛盾を孕んでいることに、きっと、先生は気がついていないに違いない。

 

 私は、私たちは、追いかけているだけなのだ。追いかけたいのだ。流星のように輝いて、煌めく、その彩りを。その、空を駆けるような姿に、祈りを込めて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――トリニティ総合学園 サンクトゥス分派中央棟 ROUND2!! 狐坂ワカモ vs. 聖園ミカ

 

 

 「――――あははははははははははは!!!!!

  さぁさぁどうされましたの…?

  おひとりで戦ってた時の方が、よほど、お強かったですわよ…?!!」

 

 

 ミカの神秘である流星群がすべて排除され、セイアを背負ったミカを相手にして圧倒的優位に立ったワカモは、四方八方、壁や天井を飛び回り、銃口をセイアに向けてズガンズガンと撃ちまくりながら、隙を見ては接近し、セイアを奪い去ろうと飛びかかる。

 

 

 「――うっとおしいっ…!

  このままじゃ戦えない…、セイアちゃんを早く安全などこかに隠さないとっ…!!!」

 

 

 しかしミカもさるものの、流星群を全て砕いたことによって消耗したワカモの動きを何とか両目で追うと、その攻撃を全て正面から受け、いなし、かわし、敵対する相手から絶対に目を離さないようにしながら後退していく。

 

 

 「ふっ、ふふふふふふふふふふふふっ……!!!!

  さぁさぁさぁ…! 手伝って差し上げますわ、あんよがじょうず、あんよがじょうず…!!」

 

 

 「クソッ――――!」

 

 

 ズガンズガンと、ミカの足元にばら撒かれる銃弾がセイアに当たらないように庇いながら、誘導されていると勘付きつつも、セイアを背負っている以上、これ以上セイアを傷つけられないためにも、敵の魔の手から奪われないためにも、銃弾が来ない方向、近接を仕掛けられない方向へと逃げざるを得ない。そうこうしているうちに、サンクトゥス分派が所有する、武器庫の方へと誘導されていることに気が付く。そのさなかで、どうにか他の居住者を巻き込み、事の事態を外へ知らせてもらおうと、意図的に破壊行動を行いながら不規則な方向に逃走するミカだったが、不思議なことに、どこの部屋に入っても。どの壁をぶち破っても、まるで示し合せたかのように、どこにも人の影すらない。

 

 

 「――――っ…?!!! なんで、どうして、どうして誰もいないのっ…!!!」

 

 

 「………だから、あなたは頭が軽いと言ったのです、聖園ミカ。

  我々は、書面も交わしていない、薄氷の上に成り立つような協力関係に過ぎません…。

  故に、ここで、貴方と戦闘になることも想定していてしかるべき…。

  ………事と次第によっては、その背中のお可哀想な子と同じように…、

  ここで抹殺される可能性を、考えておくべきでしたわねぇっ…!!!」

 

 

 休む暇を与えぬように、間断なく注がれる銃弾の雨をミカはすんでのところで避けながら、反論する。

 

 

 「――このっ…! 好きかって言って…!!

  セイアちゃんはまだ死んでないっ…!!

  背中越しに、鼓動の音が伝わってくる…、心臓の音が聞こえるんだからっ…!!!」

 

 

 「――――――――んっ…?」

 

 

 そんな相手の間の抜けた声が聞こえたかと思うと、攻撃の手が一瞬止まる。もちろん嘘だ。鼓動の音も、心臓の音も聞こえはしない。だが、とにかく隙を作るために、なんでもいいから相手の気を逸らす必要があっただけなのだが、うまくいった…。ミカはその機を逃さず、すかさず逃走に入り、武器庫の方へひた走ると、走りざまに施錠された鍵を銃で撃ち抜き、金属製の分厚い両開きの扉を片足で左右に開くと、内部へと逃げ込んでいく…。ミカはセイアを部屋の最奥に慎重に降ろすと、

 

 

 「袋小路ですわよっ…!!!」

 

 

 「――――これで、セイアちゃんは…」

 

 

 振り向きざまに、飛び込んで来ようとする敵を撃ち抜く。空中でバランスを崩したそれに向かって、走る、駆ける、飛ぶ。

 

 

 「だいっ、じょう……ぶっ……!!!!」

 

 

 稲妻のような勢いで両足でのドロップキックを決め、

 

 

 「ちぃぃぃいいいいぃいいいいいいいいいいぃいい……!!!」

 

 

 部屋外に吹き飛ばす。吹き飛ばされたワカモは、天井、壁をバウンドし、廊下を勢いを殺せないままに転がりながら遠ざかっていく。油断なくそれを視界に入れたまま、ミカは後ろを振り向きもせずに、武器庫の扉を、肘や裏拳で何度も何度も殴りつけ、扉の形が歪んで壊れて二度と開かないように整形する。

 これまでのセイアを庇いながらの戦闘行動で、ミカは全霊を振り絞って動いたと言ってよく、碌に呼吸もせずに全力稼働した体は、その至る所で静脈を破裂させ、その足からも、身体を支える力が失っていくのを感じていた…。ダメだ、まだ終わってない…、落ち着け、落ち着かなきゃと言い聞かせ装備を確認するが、残弾はゼロ。銃身も赤熱の兆候が見え始めていることから、長物の鈍器くらいの用途しかない。ミカは最早、肉弾しか戦闘手段がないことを悟ると、余計なものをその場に捨てていく。

 

 

 「……………ごぼっ」

 

 

 口から血が出てきた。少しふらつく。まだ、まだだ。まだ倒れるわけにはいかないと言い聞かせながら、霞む視界の向こう、はるか遠くで黒い影が、ミカと同じように銃を捨て去りつつも、立ち上がったのを確認して、

 

 

 「わ”た”し”が”っ……!」

 

 

 喉から血が逆流し、口腔を満たし、言葉に詰まり、

 

 

 「――わ”た”し”が”っ”…、セ”イ”ア”ち”ゃ”ん”を”っ”……!!!」

 

 

 無理やりそれを飲み下し、喉に血が絡んだ湿った声のまま、ミカは気炎を上げ、ワカモは空に信号弾が二つ上がったのを確認して。

 

 

 「………合図が来ましたか。ならば、やるべきことはただ一つ――――」

 

 

 「ま”も”る”っ”………!!!!」

 

 

 ミカは、遠くで何かを小さくつぶやく影に向けて、決着を付けるために走り出す。

 

 

 「――――ROUND3…、さぁいよいよですわ、聖園ミカ。

  あの方の目的を叶える為、時間を稼ぐだけでも全力を尽くしたわたくしは、

  もう立っているのもやっとなほどで、既に、満身創痍ですが…。

  十重二十重に保険を掛けるという点において、我々を運用するという点において、

 

   そして、なによりも。

  目的を達成するために必要な、仲間を集めるという点において――。

  余人の追随を許さない、あの方の後背を、あなた如きが、追える筈もありません……」

 

 

 そう、既に満身創痍だ。もはや、指をピクリと動かすだけでもひどく億劫に感じるが、それでもと、ワカモは動くことを拒否する体を叱咤して走る体勢を取る。信号弾が示す、カズマ先生からの信頼の為に走り出す。

 この時が来た時の為に、わざとらしく、カズマ先生から貰った特殊な青輝石のアクセサリーをこれみよがしに何度も見せていたのだ。そして、激しい戦闘でボロボロになったワカモの制服からは、全ての青輝石が砕け散ったアクセサリーが完全に露出していて。だからこそ聖園ミカは、最後の力を振り絞るようにして、突撃してくることが出来るのだ。

 残念なことにワカモにはもうそんな力など…、弱音を吐くな。萬年参の強い副作用も併さって、また、先程の一撃が響いて、くそ、全てを振り絞ってようやく、ただ走ることが精一杯だ。だが、徐々に思うように力が入らず、まだだ、だとしても残る全ての力を振り絞って、走る速度を、ダメ、申し訳ありませんあなたさ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――――ワカモ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、燃え尽きたと思っていた心根の奥から、燃え上がるようなものを感じて。

 

 

 『まだ意識は失ってない前提で話す…。

  お前のお陰で用事は全部済んだ!

  あとは、ミカの神秘を剥がして、狙撃して終わりだ…。

 

  遠くからでも激しい戦闘をしてるのは分かってたから、

  お前にこれ以上を求めるのはあれなんだが…、まだいけるか…?

  ――いや、いいや違うか』

 

 

 全身に焔が巡るように、活力がみなぎってくるのを感じる。千々に乱れた筋繊維の一本一本に至るまで。細く、強く、捻じれて、束ねられていくような――

 

 

 『――――後は、お前だけが頼りだ! あのピンク髪に、一発かましてやれ!』

 

 

 「………あはっ…!!!!」

 

 

 ダンッ…!と踏み外しかけていた一歩を力強く踏み出して、ワカモは主の言葉に応える。

 

 

 「あはっ…、あはははははははははははははははははは…!!!」

 

 

 何故だろうか、身体が羽のように軽い。今更ながら襲ってきた、萬年参の副作用は止まらず、視界が赤く染まり、口腔や鼻孔から血が溢れ出しているのにも関わらず、ワカモはその口から笑いが溢れ出すのを堰き止めることが出来なかった。だが冷静に思考できているか?出来ている。目的を見失ってはいないか?見失っていない。一撃を食らえば終わりなのは何も変わっておらず、聖園ミカを斃すわけにはいかず、そのミカへライフル弾を頭部に直撃させようと、大したダメージにならないのならば――――。

 ワカモの全身が、体全体がどこか神秘的な水色に輝く。敬虔なアクシズ教徒なら、この程度出来て当然の事ですわと、一心不乱に、カズマ先生が信仰している二柱の神に祈りを捧げる。水色の神秘が泡立ち、白色の神秘が立ち昇っていく。水色は怒っているような感じで膨らんでいき、白色は更に大きな力を発揮するように天を突いた。

 ワカモは駆けながらスキルの事前段階を確認すると、聖園ミカがしているのと同じように、右の拳を握りしめ、更に加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 速く、もっと、もっと速く――!

 

 最早、どちらの目にも相手のことしか見えておらず、ただ、ただ、相手よりも、早く、速く、事を成すことのみを頭に、心に、そして、拳に――。

 

 

 「――セイクリッドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 「――あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

 

 長い廊下の両端から、決着を付けるために二人は駆け、

 

 

 「ブレイクッ――!!!」

 

 

 「――これでっ…!!!」

 

 

 接近戦の間合いまで近づき、拳に全力を込め、

 

 

 「――スペルブロォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 「――しィずめぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 そして――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――結局、狐坂ワカモは、聖園ミカに勝利することは出来ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのことを、ワカモは、一撃を食らい、窓に叩きつけられ、壁をぶち破り、宙空に体が放り出される浮遊感を感じ、必死に意識を繋ぎ止めながら、状況を確認していた。廊下の壁も破られ、見通しはよくなり、しかし、その場はミカとワカモの衝突の余波で粉塵に塗れており、まるで台風の様に、大気が荒れ狂っているさまを確認して。

 

 

 「――おつかれさん、ワカモ」

 

 

 地面に衝突する直前に、誰かに抱き留められ、確信する。勝利条件を満たすことに、成功したということを。正面から真っ向勝負をして圧し負けた側が何をと思うかもしれないが、ワカモはもはや、抗うことが出来ないほど急速に閉じていく視界の中で、それを目に入れる。そう、この条件下での、1on1では確かに、わたくしの敗北は動きませんが――

 

 

 「――――………な、んで? なんで…? なんでカズマ先生が、そこにいるの…?

  えっ…? だって…、あれ? どっ、どうし――――」

 

 

 わたくしを吹き飛ばした粉塵の中からでも見えていますのよね、聖園ミカ?だから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――いまだ』

 

 

 『――RABBIT4、了解』

 

 

 誰にも見つからず、誰にも悟られない。戦闘が始まる前からずっと身を潜め、あらかじめ未来演算されていた箇所を狙うかのように、ずっと集中状態を切らさずに待機していた、キヴォトス最強のスナイパーが、2㎞離れたそこにいて。だから。聖園ミカが、死闘に勝利したことによって気が緩み、ダメ押しを重ねたこの一瞬が、文字通り命取りだった…。――パスッ、と気の抜けた空気のような音がして。

 

 

 「――――――――て?」

 

 

 未だ粉塵が止まない、拳によってぶち抜かれて見晴らしがよくなった廊下の一角でミカは、呆然としたような声を上げて。鈍い痛みを感じて、そうはならないはずの、腕に突き刺さったライフル弾を見て。信じられないものを見たかのような、心から慕っていたものに裏切られたような、なにもかもを失った表情を――。

 

 

 『――カズマ先生避けっ――!!』

 

 

 『若返りの薬』が効いたことを示す、ポンッ――、とした音が周囲に響き渡り…、それが間違いなく作用し、ミカ(幼)になっているのにも関わらず、だから、それがなんだと言わんばかりに、カズマに向かって、一息で。何もかもを後で考えればいいとばかりに突撃する姿が見えた時には既に手遅れで――

 

 

 「――――?!!」

 

 

 それは、百合園セイアが未来観測で見た、サトウカズマへの間違いのない致命の一撃。過程は違えども、結果は収束する。結末が定まっていないそれへ。だからこそ、それは発動する。サトウカズマが保有するスキルの一つ、自動回避(幸運値依存ランダム自動発動)が。よって、聖園ミカの間違いなく当たったという確信が外れ、だから――

 

 

 「――スリープ」

 

 

 それが、その日の戦いの終わりを告げる、最後の音になった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――という感じで、最後は幸運で命拾いしたという話でした。ファンブル引いてもスペシャルでなんとかなる綱渡りみたいな人生やな…。

 ブルアカ原作でのターミネータっぷりや、イベ戦闘での”もうあいつ一人でいいんじゃないかな感”が合わさった、わたしがかんがえたさいきょうのみか、を書けてとても満足しました。もう無理。
 メインの戦い(ROUND1~)は、基礎的な部分はセイアの未来視で書かれた通りなので省略ですの。流星群迎撃戦とスーパーキヴォトス人バトルが同時並行で行われてる流れで考えて貰えば…。そして、もうシリアスバトルは今回で使い尽くしたので、次回はアトラハシス編と同じく話のオチ、というか後片付けです。
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