超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 vs.聖園ミカ編でランキングに載ったので、早めに更新です。
一歩間違えばゲームオーバーの物語もこれにて幕引きです…、そんな感じを「このすば三期OP」と「シン・ウルトラマン主題歌」を聞きながら書きました。

――それでは、これにて第三部閉幕です。皆さんまた逢う日まで!!


十八話 Get Set,GO! キヴォトス路地裏大祭(夜の部) 流星(ホシ)に願いを――(④)

 

 

――蒼森ミネのセーフハウス VIP用治療室 ミカ セイア

 

 

 「ミカ…」

 

 

 誰かに揺すぶられ、一番聞きたかった声が聞こえた気がして、聖園ミカは思わずといった具合に体を跳ね上げる。気が付くと、病室の様に施設が整えられた場所で、ベッドに寝かされていたようで、身体から白いシーツがこぼれ落ちていく。はてここはどこだろうかと辺りを見回すと、すぐそこに、なぜかランドセルを背負った百合園セイアがいた。

 

 

 「……………」

 

 

 「――――………ぶふっ」

 

 

 しばらくの間、いったい何なんだとぼーっとしていたミカだったが、意識がハッキリしてくるに従って、あまりにもあまりな光景に、思わず吹き出してしまう…。

 

 ――夢かな? 夢だよね? 絶対夢でしょ…? ワンチャン現実なんじゃないかというもはや願望に近しい妄想に関して、ミカは少しの間、思いを馳せて見るが、決定的な戦いの中で敗北したであろう自身のことを顧みると、やはり目の前の状況は夢以外にありえないと判断するに留まった。

 まぁでも?とミカはその思考のブレーキを一旦は外し、想像の翼を広げて考えてみる。……この状態のセイアちゃんと、ナギちゃんと一緒に『トリニティ総合学園 幼年部 入学式』と書かれた看板の前で記念撮影したりしたら? ……全身に広がる笑いの衝動で、体の震えが収まらなくなってしまった。

 

 

 「――くっ、くくく…」

 

 

 「……………」

 

 

 いやいやいや、流石に。どこの誰であろうと、トリニティ総合学園のティパーティーにそこまでの狼藉を働けるはずもないし、そのトップのホストたるセイアちゃん自身が、そういう風に捉えられてもおかしくない格好を許容しないに決まってる。たとえそんな例外があったとしても、そっくりさんのドッキリ企画止まりになるだろうことは想像に難くない。そもそも、その前にセイアちゃんの代名詞たる未来視で妨害されるだろうし…、面白いのは面白いんだけれども、かなり勇気のいる行為になるだろうから、やっぱりこれは夢なのだ。

 

 

 「……………うーん」

 

 

 「……………」

 

 

 はてさて、と。ちょっと腕組みをしながら、目の前のセイアを注意深く観察しつつミカは考える。面白いのはともかくとして、夢というのは記憶の整理と深層心理の願望が入り混じるから、支離滅裂なごちゃごちゃしたものになると聞いたことがある。つまり、これは私の記憶と願望が混ざった結果のはず。つまり、私がセイアちゃんと、もっともっとお話ししたかったという後悔が…、でもなんでランドセル? 

 いやいや、夢なんだから真面目に考える方が馬鹿げているのかもしれない…。無理やりかつ荒唐無稽に考えればいいのだ。ランドセル。小学生。ナギちゃんと一緒だった。つまりセイアちゃんも一緒になれば解決する。セイアちゃんが小学生になれば解決する。――うん。私は何を考えてるんだろうか…。

 ミカは、自問自答と自分ボケ自分突っ込みを繰り返していくうちに、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきたのだが、自分自身がよく分かっていないことを何となく把握出来てきたような、勉強のとっかかりを掴むことが出来たような感触を得て、結論を出した。

 つまり、小学生の時から今の高校生になるまでの間、ずっと一緒だったのはナギちゃんで、セイアちゃんとは高校生からだった。私がセイアちゃんと小学生からずっと一緒の仲だったらよかったとか、ちょっとは考えなくもなかったことによって、目の前にランドセルを背負った私の願望通りのセイアちゃんが現れた…。なるほど。――私の夢、控えめに言ってバカじゃんね?

 

 

 「くくくっ…くっ…」

 

 

 「……………」

 

 

 ミカは腕組をしたまま、ちょっと俯きつつ、笑いを噛み殺すように震えた。夢の中であるという安心感(思い込み)と、意識が戻るついさっきまで、銃と拳に加えて口撃でボコボコにされていたストレスもあり、変な笑いのテンションがミカを襲っていたからだ。

 その思考速度に関しても、サンクトゥス分派中央棟死闘時の緊張が抜けないままであったせいか、誰が止めるでもなく真空に走る稲光のように次々と、今の精神状態に最適な答えを求め、ミカに都合のいいように解釈されていく。

 

 

 「ふぅ…」

 

 

 「……………」

 

 

 ミカは、心を平静に保つために、小さく息を吐き、目の前のセイアを再度見る。やっぱりランドセル背負ってる。じーーーっと見つめ続ける。見つめ返される。無表情のまま、無言で私を見つめ続けている。

 冷静になるよう努めて考えてみても、相変わらず意味が分からないままのミカであったが、生きているように見えるセイアを見つめ続けたからか、妙に高鳴る動悸や、無意識に全身に広がる謎の震え、そして最悪な気分も収まってきた。ふぅ…。

 

 よし!とミカは自らに言い聞かせるように気合を入れ、夢の中とは言え折角なので、この狂った格好をしたセイアとなんとかコミュニケーションを取り、なにかしらの反応を引き出したいように思えてきた。

 ミカはセイアとの会話のやり取りを記憶の中から引っ張り出し…、私が覚えている通りのセイアちゃんなら、遠回しに難しい言葉で厭味ったらしく上から目線で、頼んでもいない教壇の講師が講釈を垂れるみたいにペラペラ喋ってくれるはず、と結論付け、とにかく煽ってバカにして挑発すればいいやと、アクセルを踏む準備をする。

 

 ――そういえば、と口を開く直前にミカは思い出す。睡眠時であるのにも関わらず、覚醒状態と同様に考えたり動けたりするような、この類の夢は、明晰夢というらしい。ミカ自身、余りこの手の夢に遭遇したことは無かったのだが、ここまで自由にできてしまうのなら多分行けるだろうと、いつも通り脳に出力された言葉を、アクセルべた踏みでそのまま吐き出すことにした。

 

 

 「――セイアちゃん知ってる?

  セイアちゃん高校生になっても、ランドセルが似合う背格好のままなんだよ?」

 

 

 「開口一番の初手で喧嘩を売ってくるとは流石に予想できなかったよミカ…!!」

 

 

 いつも通りに…、いやそれ以上に毒を吐くミカの発言に対して、顔を林檎のように赤くして、プルプルと震えて怒りを耐えているかのような姿を見せる、百合園セイアの生き生きとした姿を見て、ミカは、嬉しい筈なのに少し落胆した。やはり、夢は夢に過ぎないということに。――なぜならば、あの夜、背中に背負い、最後に武器庫の中に下したセイアは、血が全身から抜け落ちたような青白い肌をして、――あっ。

 すぐさまミカはぶんぶんと首を振り、死のイメージを遠ざける。しかしそう思えば思うほど、フラッシュバックのようにその瞬間を、あの、頭を撃ち抜かれた姿が、最後に見た、力なく壁にもたれかかる姿が、想起されてしまう…。

 それは嫌だった。今はそんなの知らないし、考えたくもない。だからミカは、あらためて目の前のセイアをじっと見る。何度見てもランドセル背負ってる。………私の夢の中のセイアちゃん、バカ丸出しじゃんね?とか考えてたらマイナスのイメージがパッと消えた。

 

 

 「………はぁ。まぁいいさ。

  なんだか挙動もおかしいのが気になるが、この通り、私は生きている。

  事情を説明するとだね…、わたしは、未来を知悉していたからこそ対策を打った。

  最良とは言えずとも、最善の道を選び取るための方策をね。

  それがこの結果さ…」

 

 

 ふふっと、ミカの内心を知る由もないセイアが、訳知り顔で嘯くが。

 

 

 「あははっ、ランドセル背負った小学生がなんか言ってるー!(指差し

  未来知ってて、小学生になるとか意味わかんないじゃんね?

  ――それに、相変わらず難しいことばっかり。

  セイアちゃん、小学生の時でも友達がいないんでしょ?ちょっとは自覚した方がいいよ?

  高校生になってもそのままになっちゃうよ?というかなったよ?」

 

 

 自分の夢の中のセイアなら好き勝手にしていいと、ミカは煽りまくった。

  

 

 「………(イラッ…!!!

  そうかい、ちょうど私の頭もかち割れたことだし、ミカのその良く鳴りそうな頭に、

  ここから漏れ出た教養と品格を詰めてあげようじゃないか…!」

 

 

 「うっ…、冗談でもやめてよ。

  私の夢なんだから、本当にそんなことされたら夢が醒めちゃうでしょー!」

 

 

 「………夢? ミカ、なにをいって――」

 

 

 セイアがちらりと視線を横に流し、それに釣られるようにミカの注意も移る。するとそこには死んだ魚みたいな眼をしたカズマ先生がいて。あれ?カズマ先生もいる?とミカは首を傾げた。

 あんなことがあった手前、どう見てもセイアを害するアリウス側についていたとしか思えないカズマ先生が、夢の中だとしても、どの面下げて出て来てるの?って感じでミカにとっては不愉快極まりなく、ここは私の夢なんだから消えてくれないかなという念を結構必死に送ってみるが、何も変わらない。

 話しかけるのも近づくもの嫌だな、なんとかならないかなとか思いながら、やはり夢は夢だから、明晰夢と言っても簡単には行かず、そうそう上手くいかないか…、とミカが半ば諦観している間にも、話は勝手に進んでいく。

 

 

 「――取り込み中悪いんだが…、

  紐セイアが話が進まないって怒ってるからさ、その」

 

 

 「――――は?

  確かにこの状態のミカの認識は早急に正す必要があるが…、しかし」

 

 

 「紐セイア…?」

 

 

 案の定というべきか、夢にありがちな謎の言葉と共に、何の脈絡もない展開が始まろうとしていた。ミカはうんうんと頷きながら、そうそう、夢ってこういう感じになっちゃうから困るんだよねー、とか暢気に考えていた。

 

 

 「……一応、俺も説得したんだが。

  ほら、俺がお祓い(ターンアンデッド)してる関係で、俺に対しての贔屓がすごくてさ…。

  今のこの状況は許し難いとか言って怒ってるんだよ…」

 

 

 「――そ、それは…、し、しかしっ…?!!

  待っ、待ってくれたまえそれは本当に待ってくれたまえよあっやめっ…!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――紐ビキニ(セイア顔)の複製体(ミメシス)が、その場に顕現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――え”っ?」

 

 

 「後生だ紐セイア…! お願いだから実演はやめっ――」

 

 

 そのユスティナ聖徒会の複製体(ミメシス)が気を利かせてくれたのか、最初からセイアの顔を模した状態で顕現したのを見て、なんかネット上の画像を雑コラしたような見た目だな…やばいなこれ…、とカズマは呟くと、誰かの指示に従うかのように手持ちで余っていた”若返りの薬”を、紐ビキニ(セイア顔)の複製体(ミメシス)に呑み込ませる。

 ――ポンッ、と軽快な音がして、全身に凹凸の少ない人向けの紐ビキニセイアがその場に現われてしまい…、更にそのままテキパキとその紐ビキニセイアにトリニティ総合学園の制服が着させられて、ランドセルを背負わされるところまで本物そっくりにされてしまう。……夢の中でしかないが、それでも活き活きとしたセイアちゃんと少しでも話せる!、と殊勝なことばかり考えていたミカは、もうそれで限界が来た。

 

 

 「――あはっ、あははははははははははっ…!!!(指差し

  いっ、いくら夢だからって限度があるでしょ、セイアちゃん体張り過ぎだって…!!

  ふふふ、普段からそのくらいの事が出来るんなら、もっと友達もできるじゃんね!

  お、お腹痛いっ! 夢なのに滅茶苦茶痛いっ…! ひーっ…!!!(バンバンバンバン…!」

 

 

 笑いの衝動が全神経に行き渡り過ぎて、感情の制御が完全にできなくなったミカは、床やら壁やらをバンバン叩いていつまでもいつまでも笑っており、それと引き換えなのかカズマとセイアの間に漂う空気は完全に死んでいく。

 

 

 「ええぃ!! 万事円満に終わらせる為に、この話し合いの場を設けたと言うのに…!

  ――これで四度目だとも…!!!

  そんなに笑い転げたいなら、もっと笑わせてやろうじゃないかミカァ…!!!」

 

 

 セイアは背中に背負っていたランドセル(ミレニアム製全身ホログラム迷彩装置)をベッドの上に手荒に置くと、途端にその場に160cm近い身長のスラリとした百合園セイアが現れ、ミカは一旦笑うのを止めて、その姿を上から下までじろじろと、その年齢相応に育った肢体を眺め、満面の笑みで指差し一言。

 

 

 「――ダウト☆」

 

 

 あははははははははははっ…!!!と、再びミカは笑い始め、

 

 

 「言いたいことはそれだけで構わないと判断させてもらうとしようじゃないかっ…!!」

 

 

 笑い転げていて碌に抵抗できないミカに、セイアの両手の五指がわきわきと襲い掛かり、ミカは笑わせられすぎて腹筋が攣りそうなほど痛くなってしまい、

 

 

 「待って待って待って! セイアちゃん、お腹痛い痛い痛いって…!

  あははははははははははっ…!!! もっ、もしかしてこれ現実なのっ…?!!」

 

 

 「――どうやらミカの頭はまだ夢の中にいるようだから、

  私が現実という名の痛みを嫌というほど刻んであげるとしようじゃないかっ…!!!」 

 

 

 「ごっ、ごめんごめんごめんなさい!

  お願いだからもうやめて脇をくすぐらなあははははははははははっ…!!!

  ちゃっ、ちゃんとお話を聞く! セイアちゃんのお話を聞きたいから!

  お願いだからもうあははははははははははっ…!!!」

 

 

 「………なぁセイア、俺もう帰っていいか?」

 

 

 「もう少し待っていてくれたまえよカズマ先生…!」

 

 

 「カズマ先生助けてあははははははははははっ…!!!」

 

 

 ミカが息も絶え絶えになって、身動きが取れなくなるまでそれは続き…、仕方ない仕方ない、ここでここまでやっておかないとミカの精神の均衡が保てないから仕方なかったのだよ、とどう考えても後付けにしか聞こえないことを訳知り顔で嘯く未来視持ちのセイアの言に、納得していいのか突っ込んでいいのか判断できなかったカズマは、小さく溜息を吐くと、ベッドの上でぴくぴくしているミカに近寄り、備え付けパイプ椅子に腰かける。

 

 

 「……大丈夫か? ミカ」

 

 

 「………………だ、だい、じょぶ。

  あ。そっか。そっか。あは……………」

 

 

 そっか。あの夜起きたことは、きっと全部カズマ先生が仕組んだことで。それがなければ、きっと。あの夜の出来事は、散々あの子に言われた通りに…、全部その通りになってもおかしくなかったのだろうと、ミカは思い返す。

 確かに確認したセイアちゃんの死。制圧されて、そしておそらくその後は…。セイアちゃんの不在に慌てふためくトリニティと、私の部屋に置かれた趣味の悪いプレゼントボックス。底から浸み出る赤いナニカ。それはきっと、脅迫と悪意がたくさんたくさん込められたもので。もしも、もしもそうなっていたらなんて、こわくてこわくて考えたくもないけれど。自分自身の胸の裡で思い描く最悪の事態っていうのはきっと、そんな都合のいいものじゃない。

 すべて奪われる。すべてを喪う。……だから、わたしは、私はきっと。そのままその事実に見合うだけの成果を手に入れなくちゃいけないと思って。もう大事なものを無くさないようにと思って。ナギちゃんだけは、守らなきゃいけないと思って。私の方が強いから。強い、はずだから。だから――でもそれは、セイアちゃんが生きてるならもう考えなくてもよくて。

 

 

 「………あれ?」

 

 

 ……わたしバカだからよく分かんないんだけど…、多分この件は、セイアちゃんの殺害を企むアリウス側と、セイアちゃんから助けを求められたカズマ先生側の戦いだったという事でいいんだよね? とミカは、今起きている状況から推察して、思考の海に深く深く沈みこんでいく。

 

 そもそも、さ。私、ここまで肉体的にも精神的にもボコボコにされる必要あった? 寄ってたかって制圧された記憶しか浮かんでこないんだけど? まず最初に私に話を通すのが筋じゃんね? ……まぁ確かに? 考えなしにセイアちゃん殺しそうになってた私が言える義理じゃないけど? アリウス側の意図に関して、なんにも気が付かずにカズマ先生に、セイアちゃんを病院送りにする手伝いしてって言っちゃったけどさぁ…、それでも言ってよ。私めちゃくちゃ泣きながら戦ってたんだけど。というかあいつの言葉攻めでめちゃくちゃ泣かされたんだけど。あ、なんか腹立ってきたかな、うん。そうだよね、やっぱりひどいよ。あそこまでする必要あった? ないよね!? あーもうそうだよ、カズマ先生が全部悪いじゃんね!

 

 

 「カズマ先生一発ぶん殴ってもいい? ううんもう殴るね!(ブオンッ!」

 

 

 「うおっ…!!! ちょっおまっ」

 

 

 「………私、あの夜にさんざんっ、馬鹿にされたし!

  それで自分自身がバカだってよく自覚したから、教えてっ…!(ブオンッ!

  欲しいんだけどっ…!(ブオンブオンッ…!」

 

 

 「――バインドッ!」

 

 

 「なにこれ?(ブチィ…!

  そんなのいいから、なんであそこまで私を追い込んだのか教えてくれないなら…。

  ――私の為に殴るね☆」

 

 

 「うっそだろ、それワイヤー製…ってもう殴りかかってきてるじゃねーか!!

  うおおっあぶっ…!しっ、死ぬ!!

  流石にゴリラみたいなお前に殴られたら一撃で死ぬって…!!!

  セッ、セイア!! ミカを何とか説得して――」

 

 

 「――私も協力するよミカ。

  その後にゆっくり事情を説明しようじゃないか……」

 

 

 「ちょっ、セイア?!!!」

 

 

 「………セイアちゃんにしては話が早いから、偽物じゃないかって疑うところなんだけど、

  たぶん、さっきのあれを見る限り、カズマ先生にそういう目に遭わされ続けてきたんでしょ?

  だから、今ならセイアちゃんと、とっても楽しくお話しできるって思うんだ♪」

 

 

 「――天地が引っ繰り返ることもあるものだと私自身も驚愕しているよ…。

  天変地異よりも珍しいことだ。私と君の意見が一致するとはね」

 

 

 「――あははっ、そうそう。そういう一言余計なのがセイアちゃんだもんね。

  今だけはなんだかとっても嬉しい……、うん。

  だから後で、いーっぱい、お話ししようね♪

  ――で、誰がゴリラなのかな? カズマ先生…?(スンッ」

 

 

 「ひ、ひぃっ…!!!

  ブ…、ブレッシング! パワード! スピードゲイン! プロテクション!

  ――ヴァーサタイル・エンターテイナー!!!」

 

 

 「あ、それ知ってるー。

  やっぱりあのアリウスの生徒もカズマ先生の仕込みかぁ…。

  そっかぁ…、じゃあ、多少、手荒にしても死なないよね?」

 

 

 「今ミネを呼んだ。

  彼女が来るまでがタイムリミットだ、後は彼女に看病をお願いするとしよう」

 

 

 「セイアちゃん冴えてるー☆

  じゃ、カズマ先生、覚悟はいいよね……」

 

 

 「よくない!!!」

 

 

 カズマは逃げ出した!しかし、回り込まれてしまった!聖園ミカと百合園セイアの怒りからは逃げられない…!!聖園ミカと百合園のセイアの連携攻撃…!!………カズマはめのまえがまっくらになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――蒼森ミネのセーフハウス 治療用の病室 ミネ 

 

 

 「――なんと言いますか。

  カズマ先生はなぜ死なないのが不思議なくらいに、生きておられますね…」

 

 

 「………うん。

  そうだな…、俺もそう思う。本当に」

 

 

 その後しばらくして意識を取り戻したカズマは、回復魔法を使うことなくミネから手厚い治療を受けていた。なんとなく、ケジメというか、ミカに対して、もう少しなんとかしてやれることはあったんじゃないかと言う後ろめたさみたいなものがあり、一瞬で怪我が治ってしまう方法を避けたのだった。

 

 

 「カズマ先生が、ミカ様のことはまかせろと仰るので、お任せしました…。

  あれほどの”救護”を成し遂げられましたので、余り心配していなかったのですが、

  まさかセイア様まで加担されて、襲われているとは…」

 

 

 「――いやセイアには、前からちょいちょい襲われてたぞ…」

 

 

 「……今回はミカ様がいたことで、より大事になった、ということですか…。

  それにしたところで、そこまで殴られてあげる必要もなかったのではないですか?」

 

 

 ミネはカズマの心を見通すかのように、目を細める。病み上がりのミカ様程度なら、カズマ先生が逃げに徹すれば…、あるいは、すぐさま瞬間移動の魔法(テレポート)を使って逃げてしまえばよかっただけなのだと、ミネは続ける。

 

 

 「………まぁ、それはな。

  なんていうかさ、俺は裏切りたくなかっただけなんだよ」

 

 

 「……………」

 

 

 ミネは、カズマの言葉を待つようにして沈黙を保つが、そっぽを向かれてしまい、それ以上話す気がないようだと察すると、小さくはぁ、とため息をついた。

 

 

 「それで、ここまで手の込んだことを、ですか。

  カズマ先生が、あくまでもアリウス側だと強く印象付けさせ、

  事が済んだ後に、ミカ様をセイア様に会わせる段取りを組み、その上で。

 

  ――カズマ先生は、

  ミカ様の最初の願いさえも、叶う余地を残そうとされたのですね…」

 

 

 最後の言葉を、囁くように言祝ぎながら…、ミネは、カズマへの治療行為を続けつつも、自身の裡に持つ独特の価値観に基づいて、今回の顛末を評価する…。

 確かに、お話を聞く限りでは、ミカ様のそれも”救護”に違いないといえるでしょう。困窮しているアリウスに手を差し伸べ、その同盟関係を、独裁という”救護”によって導く。全ての条件が何もかも上手く噛み合えば、間違いなく最短最適の模範解答となりうる劇薬は、だからこそ誰もが喉から手が出るほど欲しがるもの。

 しかしそれは、アリウス側に唆された奸計であり、実際にはセイア様が排除されようとしていた。そしてその状況を逆手に取り、カズマ先生がミカ様を”救護”したことによって、ミカ様の”救護”に溢れた初心は護られた。これぞまことの”救護”!! 素晴らしいです、カズマ先生!! やはり、カズマ先生には救護騎士団に来ていただく他ないのでは…?

 

 

 「……………(ジー」

 

 

 「……………(ブルッ」

 

 

 カズマは、美人で、スタイルが良い上にトリニティでも上から数えた方が早いほどの綺麗な女子生徒に、褒められながら、手づから治療をされるのは控えめに言って最高だなとかちょっと考えていたのだが、そのミネからのカズマを見る目に、アクセルの三人娘がダメな感じの話をし始める時に似た空気が漂ってきたのを感じて悪寒を覚え、すぐさま別の事に気を逸らさないと不味いと、本能のようなものが警告し始めたので、必死に話題を考えた。

 

 

 「……ぇーと、えーと! そそ、そういやあの後!

  ミカから逃げ回るのに必死で、あんまりどうなったかを覚えてないんだけどさ…!」

 

 

 カズマはミネと出来るだけ目を合わせないようにしながら、あぁーミカとセイアの怒りが収まってるといいなぁー、などとわざとらしく話題の転換を図る。……幸いなことなのかどうかは分からないが、ミネによる、素晴らしい”救護”の腕持ち主認定をされてしまっているカズマ先生からの発言なこともあり、真面目にミネはその時の事を思い返した。

 

 

 「――……私が部屋に突入した時には、

  セイア様は縛られて床に転がってましたので、安全確保の為にそのまま部屋外へ。

  セイア様の安全を確保してから再突入したところ、

  顔中をパンパンに膨らませた謎の不審者が、ミカ様から逃げ回ってるのを見て即座に、

  盾で吹き飛ばしました。」

 

 

 「――おい待て」

 

 

 ふふんと、わたくし、仕事しました!みたいな誇らしそうなドヤ顔で見つめられて、カズマはそれ以上の反応を返すことが出来なかった。もうなんかこれ以上ミネと会話をしなくても、何となく言いたいことが分かると言うのもあったが。

 どーせ、問い詰めたり諫めようとしたところで、緊急避難でした!”救護”はすべてに優先されますので、致し方のないことです!!とか圧を掛けられながら力説されるに決まってる。うんもうこれ以上見えている地雷に突っ込むのはやめにしようそうしようとかカズマは考えたが、

 

 

 「その後、”邪魔する気?”と仰られるミカ様と戦闘になってしまいまして…。

  勿論、状況的に不審者に見える方が、

  カズマ先生以外あり得ないと分かっていましたので、保護を優先しつつ、

  そのままミカ様を制圧しようとしたのですが――」

 

 

 ”ふぅ…、それなりに暴れてすっきりしちゃった…、ちょっとセイアちゃん持って行くね☆”とか言って、どこかへ行ってしまったとミネは語った。その上で、カズマ先生を咄嗟に盾で吹き飛ばさなければ、これだけの傷で済まなかったかもしれません、本当に良かったです、と続けられて、カズマはますますミネのことが分からなくなったが、それはそれとして、とても感謝したので、普通に手を合わせて拝んだ。

 

 

 「――ありがとうございます、ミネ様…」

 

 

 「は、はい…? えぇ、まぁ。当然のことです」

 

 

 そして同時に、カズマの脳裏に爆裂娘やドM騎士のことが思い浮かんで、理解はできなかったが納得する。恐らくだが、蒼森ミネの中で”救護”というのは、もはや理屈ですらないのだろう。その心の裡で燃える執念のようなものは、そうであれと固く結ばれた生きるための誓約であり、ミネが”救護”のために生きるのではなく、”救護”がミネそのものなのだ。その在り方を否定する事はもはや、ミネの人生そのものを否定するに等しいがために、たびたび会話が成立しないんだろうとカズマには察しがついてしまい、やっぱり諦めることにしたが、それと同時に、自分自身にもそういうところは幾つかあったなと思い至る。

 フウカと美食研究会の時なんかそうだ。あれだって、その方が都合がいいからという理由で、フウカに何も説明せずに騙し討ちのような形で巻き込んだ。その結果、土下座で謝罪をしてから泣き喚かれたのを必死に慰め、その後滅茶苦茶怒られたからまた謝り倒し、いろいろ便宜を図ることを約束して実際に便宜を図って、更に罰として週一で給食部で作るフウカのご飯を食べるよう約束させられて…、ようやく許してもらえたのだ。

 ………うん。今後は、もう少しスマートな方法を考えようというか、もっと話し合うべきだったなとか、今更ではあるが、ミカに対する対応の不味さのようなものを改めて感じ、カズマはちょっと反省する。

 

 

 「――ま、とりあえず今までのことはセイアが全部説明してくれるだろうから…、

  積もる話もあるだろうし、明日辺りにでも――」

 

 

 「お話はだいたい聞いてきたよ?」

  

 

 ガラガラッ―と、病室のドアが開き、聖園ミカがその場に現われ。

 

 

 「………あれ? カズマ先生、なんで魔法で顔を治療してないの?」

 

 

 「――ミカ様」

 

 

 すかさず、ミネがカズマを庇うように立ち塞がり、盾を構え、

 

 

 「――あー…、もうあんなことしないってば…。

  セイアちゃんから、今までの事は聞いたしね…。

  でも、どうしてもわからないことが、一つだけあったの」

 

 

 コツコツコツ、と。ゆっくりと、こちらに歩み寄るミカは。何かを噛みしめるかのように、呑み込もうとするかのように、喉に通らない疑問を、なんとか消化しようとするように眉をしかめながら、

 

 

 「セイアちゃんの未来視に従った、これはいいかな…。

  そこに辿り着くためにみんな全力だった、これも分かる。

  じゃあ、アリウスにあそこまで肩入れする必要があったのはどうして…?

  ――アリウス側だと強く印象付けさせ、ってどういう意味?」

 

 

 「……ミカ様」

 

 

 立ち聞きとは、お行儀が悪いですよ、とミネが窘めようとするが。それを遮るようにカズマが、

 

 

 「それ。セイアは話さなかったのか…?」

 

 

 「セイアちゃんは、カズマ先生に直接聞いたほうがいいとしか言ってくれなくて…」

 

 

 「うーん…、まぁいいか。

  ここで話すような事でもないし、場所変えるか…よっと」

 

 

 カズマはミカに向けて、掌をかざし、

 

 

 「――テレポート」

 

 

 瞬きする間もなく、二人の姿が消え失せて。ミネは、はぁ、と深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――ウトナピシュティムの本船 ブリッジ ミカ

 

 

 「――っと」

 

 

 「わっ、わわっ! ええっ?! こ、ここどこなの…?!」

 

 

 突然周囲の景色が切り替わり、まるで見覚えのない近未来的な一室の中にいると認識したミカがおおいに慌て、あたりをキョロキョロと見渡す。

 

 

 「どこかっつーっと…、まぁ俺の隠れ家みたいなもんか?

  他の誰にも聞かれないようにする場所で、ゆっくりできそうなのが、

  ここ以外に思いつかなくてな…。

  気づいたら自室が盗聴器だらけだったり、監視カメラがハッキングされてたりと

  キヴォトスの連中はやりたい放題だからさぁ…」

 

 

 ここが何処なのかはともかくとして、なにもない空間を遠い目で見つめながら、”プライバシーってなんだっけ…?”と嘆いているカズマ先生を見てると、ミカはなんだか不憫に思えてきて、

 

 

 「……え、ええっと? 先生も苦労してるんだね…?」

 

 

 ミカは、先程までの疑問が吹き跳んでしまったのような顔で、とても気の毒なものを見るような瞳で思わず労わってしまう。

 

 

 「ま、それは今はいいんだ…、えーっとさっきの話の続きだったな…

  ほれ、ここに座れよ」

 

 

 「うん、ありがとう、先生」

 

 

 カズマは、ウトナピシュティムブリッジ後部に備え付けられている、近未来的な会議エリアにミカを誘導し、ミカに座るように勧め、同じようにカズマ自身も腰かけてから、口火を切り始めた。

 

 

 「――ひとつ、指定の日に、百合園セイア暗殺計画に協力すること。

  ――ひとつ、アリウス分校の、戦力増強に協力すること。

  ――ひとつ、指定の日に、アリウス分校を率いて、トリニティとゲヘナを制圧すること。

  ――ひとつ、この契約内容を関係者以外に漏らさないこと」

 

 

 「………えっ?」

 

 

 ミカが驚いたのは、カズマの言葉にではない。目の前の、カズマの両腕が一瞬で炭化でもしたかのように黒ずんで、ボロボロと崩れ落ちていく様を見たからで。

 

 

 「セイクリッドブレイクスペル!

  セイクリッドハイネスヒール!」

 

 

 そして、その現象はカズマが唱えた魔法によって一瞬にして完治し。

 

 

 「慣れたとは言え、痛みがないのが怖すぎるなこれ…。

  ていうか、ミカは関係者に入ってないのかよ、どう考えても関係者だろ…」

 

 

 カズマが文句を言うようにぐちぐちと呟くと、再びカズマ自身に襲い掛かってきた黒ずみのようなものがサッと引いていき、それらが両腕の中に引っ込む。

 

 

 「……どっ、どういうことなの…?!!」

 

 

 「立て続けに起きた事件に対処しっぱなしだった俺が、

  そういうやつらに嵌められたって話だよ」

 

 

 「そっ、そうじゃなくてっ…!!」

 

 

 「さっきの見たろ? そういう、呪いの契約なんだよ」

 

 

 「そうでもなくて…! って、の、呪い…?!!」

 

 

 「契約を果たせば、今見た呪いは消える。

  だから俺はいやいやアリウスに肩入れしてる、それだけだ。それだけ」

 

 

 「それだけ、って…」

 

 

 ミカは思わず拳をギュッと握りしめた。それは怒りの感情の発露ではなく、整理しきれず心の裡から零れ落ちたもので、それがなんなのか分からず、なんとかこぼすまいと確かめるように必死に握り締めた。とても大事なもののような。その、なにかを、両手で包むようにして、必死に考える。

 それだけの人が、あそこまでアリウスの為に動くのが、それだけなのだろうか。それだけの人が、いま私の目の前で、死の危険を厭わずにすぐに行動できるのが、それだけなのだろうか…。いいや違う。それだけじゃないのを、私は知ってる。だって、カズマ先生は、カズマ、先生は――。

 アリウスがあんな風に、いい空気になっていったのも、私が、セイアちゃんを殺すことに利用されそうになった計画を、乗っとってしまった事も。私が、セイアちゃんとナギちゃんに止められた、アリウスと仲良くしていきたいって言う計画の話をした時も、いっぱいいっぱい、調べてくれて…。

 

 そんなの、そんなの。”それだけ”で、やれることなんかじゃ、ない…。

 

 

 「お、おい。そんな瞳で俺を見るんじゃない…

  いいか、俺はな――」

 

 

 カズマは、なにかを言おうとして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

――連邦捜査部シャーレ キヴォトス路地裏大祭の後片付けの記憶

            カズマの執務室 黒服

 

 

 「――お疲れさまでした…、カズマ先生」

 

 

 いつかの、巻き戻しを見ているかのような光景だった。机にべったりと顔と両手を投げ出して、ぐったりとしているカズマには、視線の高さのせいで顔までは見えないが、喪服のようなスーツを折り目正しく着込んだ、紳士然とした男が机の側に立っているのが見えていた。急に目の前に現れたようにも見えたが、キヴォトスもアクセルと同じく変態ばかりが集う土地であり、今更その程度のことでカズマは驚いたりしない。

 そして、あの時と同じく、カズマにはもうこれっぽちも余力は残っておらず、だらけた姿勢のままで黒服に問いかける。

 

 

 「なぁ、お前ってもしかして、俺のストーカーなの…?」

 

 

 「――ククッ、熱烈なファンであることは否定しませんが…。

  ともあれ、今回も無事に済んだようで何よりです」

 

 

 「おいストーカーの部分を否定しろよ」

 

 

 「……………」

 

 

 「だから否定しろよ…!、ったく。

  ……はぁ。あれのどこをどう見たら”無事”に見えるんだよ。

  それに、お前はいまさら何しに来たんだ? 

  ミレニアムの時と同じで疲れ果ててる俺に、

  まーた厄介ごとでも持ってきたんじゃねーだろうな…」

 

 

 「――いいえ。ただ、ご忠告に参ったのですよ、カズマ先生。

  もっとも、我々と違い、真理と秘儀をその手とその身に持つ貴方には、

  余計なお世話かもしれませんが…」

 

 

 コツ、コツ、コツ、と靴音を鳴らしながら黒服はカズマの方へ近づき、あらかじめ手にしていた部屋備え付けの折り畳み式パイプ椅子を開き、カズマの執務机の少し前に陣取ると、そのまま腰かける。

 

 

 「カズマ先生は、お分かりになっているからこそ、ベアトリーチェを除く我々に、

  デカグラマトンを与えたのでしょうが…、それが、裏目に出てしまいまして」

 

 

 「……おい、お前らはあの玩具で遊ぶから、大人しくしてるって話だったろーが」

 

 

 「勿論、もちろん、我々はそのつもりでした…。

  ククッ…、しかしカズマ先生、我々は貴方の邪魔はしませんが、助けもしないのです。

  そして、予定の何倍も早く完成した玩具を持て余しておけるほど、我々の忍耐も、強くない」

 

 

 「………おい」

 

 

 「――申し訳ありません。実に、実に、申し訳ありません…。

  あんなものを見せつけられて黙っていられるほど、我々も、大人ではなかったという事です」

 

 

 陶器が罅割れたような漆黒の双眸から垣間見える、裡なる光を煌々と輝かせながら黒服は言い放ち、カズマはおいおい勘弁してくれよといった表情を浮かべる。

 

 

 「………忠告ってのは、お前らの我慢が利かなくなったってことか?」

 

 

 「――それもあります。私が来たのは、代表して、というところです。

  マエストロや、ゴルコンダ、デカルコマニーでは、

  そのまま戦闘になってしまうでしょうから…」

 

 

 だらけていた姿から一変して、大人のカードとシッテムの箱を構えて臨戦態勢になったカズマを視界に入れつつも、黒服は、座ったままの落ち着いた様子で、言葉を続ける。

 

 

 「カズマ先生。あなたは、無力ではありません。

  それは、今までの戦いが証明しています。

  時に狡知であり、時に奸計を巡らせて状況をコントロールしてきたあなたは。

  独りであることの限界を、誰よりも熟知している…。

  ですが――」

 

 

 黒服は、カズマが持つ大人のカードを指し

 

 

 「で、あれば尚のこと、それを使い続けるのはおやめになって下さい。

  使えば使うほど削られていくはずです、あなたの生が、時間が。

 

  ……食事をし、電車に乗り、家賃を払う。

  そういった無意味でくだらないことでさえ、あなたはもうままならない。

  アトラハシースの一件以降、連邦捜査部シャーレで、職場で寝泊まりをしているのが、

  その証拠ではないですか…?」

 

 

 誘惑するように、誘導するように、黒服は言葉を続ける。

 

 

 「面倒くさいと、知ったことではないと、言っていたではありませんか。

  そこまでの事をして、なんになると言うのです?

  元々は、あなたの与り知るところではなかったものに」

 

 

 「………………」

 

 

 「――もういいではありませんか、カズマ先生。

  これほどまでに『善意』に溢れた『大人』の行いは、さぞお疲れになったことでしょう…。

  あなたがやってきたことは、それほどのことなのだと、私は評価しています…。

 

  望む通りに裏社会を改造し、連邦捜査部シャーレという法規で縛り、

  キヴォトス二大テロリストを常識の内側に引き摺り込み、平凡な日常へ押し込んだ。

 

  シャーレの権力によって有名無実なSRT特殊学園の生徒を傘下に収め、

  キヴォトス騒乱にかこつけてSRT特殊学園を再興した上で、連邦生徒会に実行力を持たせた。

 

  ミレニアムの騒動の末に完全顕現したアトラハシースを、

  その脅威を、未来でも視るかのように予測した準備と、カズマ先生の秘儀で薙ぎ払った。

 

  今回の件は、もはや説明するまでもなく…。

 

  そして、貴方ただ一人だけが持つ神秘と知識を惜しげもなくアリウスに広めた成果は、

  エデン条約が迫るトリニティとゲヘナに対抗するのに、十分なものとなったでしょう…」

 

 

 「………………」

 

 

 だからもういいのだと、貴方は十分以上にこのキヴォトスに、生徒たちに尽くしてきたのだから、心の底からのその望みを叶えてもいい、解放されるべきなのだと示すように、黒服はその両腕を広げる。

 

 

 「いまや、ウトナピシュティムの本船さえ、あなたのものとなった。

  それを使って、カズマ先生が言うところの、”元の世界”に帰ってしまえば、

  いかにベアトリーチェの持つ神秘と言えども、その毒牙をあなたに向けることは、

  叶わないでしょう…。――それとも、それともカズマ先生、貴方は」

 

 

 ここまで言葉を尽くしても、まだ足りないのならば、それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――貴方は、そんなにも。

  このキヴォトスに住まう人たちのことを、好きになってしまったのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 

 

 カズマはその質問に応えることなく、緊張していた四肢から力を抜くと、自身の執務机の椅子に、どっかりと沈み込むように座り、外の景色を眺めはじめた。

 

 

 「……クククッ、沈黙は金と言ったところでしょうか?」

 

 

 「………………」

 

 

 カズマはなおも、宣戦布告をしてきた相手から視線を外したまま、どんどんと不貞腐れたような表情となっていく。それは黒服にとって、何よりも雄弁な回答だった。だが、そうだとしても。ゲマトリアとしての立場と、個人的な友誼を天秤に載せ、あくまでもフェアに、公平に選択肢を示すべきだと黒服は考える。たとえ結果は分かっていても、それは定められた儀式の礼法の様に、重要なことだった。

 なればこそ。黒服自身が提言する「大人」の流儀に則り、このキヴォトスを変革していく姿を好ましいと思うところから始まった、カズマ先生の望みに沿って願いを叶えてあげたいと言う個人的な友誼の心と、ゲマトリアの「黒服」として、連邦捜査部シャーレのカズマ先生の利益を害する立場にあるということの意味を、公平に問わなければならない。

 

 

 ――――これから始まる、なにもかもの前に、立ち向かうのか、立ち去るのかを。

 

 

 「………カズマ先生、先ほども言った通り。

  我々は貴方の邪魔はしませんが、助けもしないのです。

  しかし、我々があなたに恩義を感じているのも確かです…。

  ですので、これではフェアではない、と考えたからこそ。

  最初に言った通り、ご忠告をしに参った、という次第なのですよ…」

 

 

 ――カズマ先生、ここが分岐点です。と、そう嘯く黒服の顔は。表情なんてないはずなのに、顔中に走る罅割れが笑顔の形をしているだけで、感情表現をしているわけではないにも関わらず、楽しくて楽しくてたまらないと言った、まるで新しい玩具を与えられた子供が、はしゃいでいるかのように、カズマには見えた。

 ……そもそもカズマは、黒服の主張する事に、いっさい反論することが出来なかった。なにもかもがこいつの言うとおりだ。面倒くさいと、知ったことではないと吐き捨てた回数は計り知れないほどある。もう何もかもを放り出して帰りたいという、情けない願いを叶える現実的な手段も見つかってしまい、その願いが強まる日はあっても、弱まる日はない。

 

 だけど、なぜだろうか。

 

 

 ”――このまま放置すれば、ゲヘナとトリニティが地図上から消え、

  仕掛けたアリウスすらその動乱に呑み込まれて、全てが消えても、ですか…?”

 

 

 黒服が使うことを止めろと、自分自身の為にならないと言うカードを使う度、なにかを思い出しそうになるのだ。かすみかかって茫洋とした、泡沫のようなイメージが、シャボン玉のように浮かんでは消えていく。

 そのあやふやな追憶の中で、カズマは、ここまで誰かから、心の底から貴方を信じていますという視線を強く向けられたことは、人生でただ二度しか身に覚えがないことを思い出す。

 世界の滅亡を防ぐ最前線、その中心の白亜の城で、鬼に金棒となるように育てられた第二王位継承者。そういえば、こいつとも常に、何か困ったことが起きて、何とかしないといけなかった時には、そういう関係だったなと思いだす。こいつ…? 誰だ…?妹のように、扱っていたような…、妹?カズマに妹はいない。

 いいや誰だとか、そんなことは今重要じゃない。問題なのはそいつが言う事が、なぜだかカズマには、根拠はなくとも事実だと分かってしまう事だった。そして、それと同時に、思い出す。

 連邦生徒会の、路地裏の、SRT特殊学園の、ゲヘナ学園の、百鬼夜行連合学院の、アビドス高校の、ミレニアムサイエンススクールの、山海経の、トリニティ総合学園の、アリウス分校の、悲しみと、怒りと、憤りと、喜びを、浮かべる彼女たちの顔を、笑顔を。カズマが、不幸にもキヴォトスに来てから関わってきた、幸福な全てを。思い出した…、思い出してしまった。

 

 

 「………………はぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああああもう…」

 

 

 カズマは両手で頭を抱えると盛大に溜息をついた。

 

 それは現状に対する嘆きであったり、どうして俺はいつもいつも合理的な判断が出来ないんだというような自分自身への失望であったり、いままで助けてきた生徒たちからもらったお礼の品やお礼の言葉を裏切ることに対するうしろめたさを捨てきれない己の甘さへの落胆であったりした。

 

 

 「――しょーがねぇーなぁー…」

 

 

 カズマが、不貞腐れたように頬杖を突きながら、小さくそれだけを呟いたのを聞いて、黒服は我が意を得たりといった様子で立ち上がり、

 

 

 「………結論は出たようですね。それでは、カズマ先生。

  また会える時を、楽しみにしています…」

 

 

 カズマはうんざりしたような顔で、踵を返して去っていく黒服を見送った。

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――ウトナピシュティムの本船 ブリッジ ミカ

 

 

 「ううん、私知ってるよ」

 

 

 カズマがなにかを言いかけたのを、ふるふると首を振るミカに遮られ。

 

 

 「先生のそういうのって、つんでれ、って言うんでしょ?

  仕方がないから、私が先生の事、助けてあげるね☆」

 

 

 ミカは、悪戯な笑みを浮かべながら、分かっていますよといなすように俯くカズマの手を取り…、そうして、聖園ミカが、連邦捜査部シャーレの生徒として、登録された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 【第三部 完】




 よし、今度こそ(連載)サトウカズマ先生、完!! でいいでしょ…。
どうすればバッドエンド以外に持って行けるか、条件厳しすぎて頭おかしくなりますわよ!みたいな感じでバッドエンドばっか書いてましたが、なんとかなりました。――というわけで成し遂げましたわよエデン条約編!勝ったッ!第三部完っ…!なんかちょっと違う気がするけどエデン条約編なのは間違いないからオーケーですわね!

 第四部…? ……スゥー、そろそろ許して欲しいかなって…。
冷静に考えて欲しい、登場人物の履修範囲が広すぎることを、書いてる時間よりも履修時間の方が長いことを、読者様方からの感想/要望/評価/お気に入り/ここいいね/ツイッターでの読了報告と感想/ランキング入りが、多ければ多いほど、私の承認欲求モンスターが成長するということを…。
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