超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。
 


エピローグ(2)

 

――トリニティ総合学園 ティーパーティー生徒会室 事情聴取の記憶

                         ナギサ、ミカ、サクラコ 

 

 「――人払いは済ませました。

  この場に、盗聴機や、録音機器が存在しないと言うことを…、私が。

  トリニティ総合学園、ティーパーティーのホスト代行である私が。

  ――その席を掛けて誓います。

  

  ですからどうか…どうか。

  ……真実を、事実を、過不足なく、嘘偽りなくお話しください。

  

  ――………歌住サクラコさん」

 

 

 「(ど、どうして? どうしてこうなってしまったのです…?!)」

 

 

 その日の朝。歌住サクラコはティーパーティに呼び出され、有名なパティシエが作ったという触れ込みの、豪華絢爛なお茶菓子と、1gあたり1000円もするという、聞いたこともないようなブランドの高級茶葉で淹れられた紅茶で遇され、まずはどうぞお食べ下さいと言われるがまま、ひと口ふた口と舌で転がして、あまりの美味しさに心を奪われ、しばらく蕩けるかのようにして呆けいた。

 

 そして、その心の隙間を狙い撃つかのように、前置きやアイスブレイクをすっ飛ばし、酷く冷えた瞳をしながらも朗らかに微笑む、桐藤ナギサによる歌住サクラコへの、事情聴取が始まった。

 

 特に明言されているわけではないが、議題は明らかである。非常に悲しいことに、それは言葉に出されなくとも、この場の全員が共通して理解していることでもあった。すなわち、トリニティの裏切り者は誰か?というものである。………誰かというか、非常に前置きの長い枕詞で修飾して取り繕っているだけで、桐藤ナギサの瞳は、歌住サクラコこそが、間違いなくソレに違いないと決めつけていた。

 

 そしてそんな物騒なお茶会に、こんなときわたしどういう表情すればいいか分からないのと言いたげな聖園ミカも、同席させられていた。

 

 

 「……………」

 

 

 そんなミカの様子をチラリと横目で確かめたサクラコは、ミカ様は頼れそうにありません…、自力でなんとかしなくては!と気合を入れつつ、あらかじめ唱えておいた芸達者になる魔法(ヴぁーさたいる・えんたーていなー)に祈りを捧げる。――とある秘密の会合の一件の後、カズマ先生から秘密裏に、なんかもうあまりにも不憫だからちょっと試してみるか?と勧められて習得した、対人用、意思疎通神秘を…(ちがう。

 

 

 「――私に用件のあるお話というと…。

  昨日の昼過ぎから起こっていた、サンクトゥス分派中央棟での生徒同士の諍いに関しては…、

  シスターフッドで聞き取りをした調書を、正義実現委員会にお渡ししている筈ですが」

 

 

 サラリと返される言葉に、ナギサは少しの間、目を瞑り、調書の内容を思い出しながら、

 

 

 「――……そうですね、報告は受けています。

  内容に関しても、必要最低限の警備人員を校内に残さなければならないということに関して、

  祭りの熱に浮かれた学生同士が、当番の押し付け合いで揉めたと言う可愛いものでした」

 

 

 話を続けながらも、観察は怠らない。サクラコの、お茶菓子を皿に戻す仕草、口を開くために紅茶で舌を湿らせる所作、挙動…、そのいずれもが、優雅に落ち着いた、トリニティ総合学園の生徒としてかくあれかしと謳われるような流麗な振る舞いであり、そこに不自然さは微塵も感じられず、いやそれどころか余裕さえ――

 

 

 「……はい、私もその認識です。

  お祭りで殆どの生徒が出払っていたのもあって、止める者もおらずに争いはエスカレート。

  たまたまその場を通りかかったシスターフッドが仲裁に入りましたが、これに失敗。

  最終的に武器庫から重火器を引っ張り出し始めたので、手が付けられずに――」

 

 

 【武器庫】という言葉を聞いた、ナギサの眉がピクリと動く。落ち着きなさい、落ち着くのです桐藤ナギサ…、今は、目の前の相手に集中せねばなりません。

 だが、ナギサ以外の誰であっても、皆口を揃えて言うだろう。目の前にいる、落ち着いた様子の歌住サクラコは。トリニティの生徒たちのこれからの未来を思いやり、現在をよりよくしていこうと努め、またその模範とならんとする、シスターフッドの理想の姿そのものだと。……これが、演技? ばかな、演技でこれが出来ると言うのなら、サクラコは今すぐ劇団員になれるだろうと、ナギサは訝しむ。

 

 

 「――やむを得ず、サンクトゥス分派中央棟の生徒たちに避難を促し、

  そのままシスターフッドの手によって周辺を封鎖。

  その後連絡を受けた増援によって事態を鎮静化させた、とあります」

 

 

 いつもなら、この程度の会話で歌住サクラコと言う少女は、ボロを出している筈なのだ。分からない。本当にシスターフッドは、昨夜の一件と何の関係もないとでも言うつもりなのだろうか?いいや、それこそあり得ない――

 

 

 「シスターフッドは武力を好むわけではありませんが…、

  そうも言ってられない場合もあります。

  それに、どちらかというと…、お話を聞いてもらえる状態になった後の、

  生徒たちの心身のフォローや、ケアが私たちの本分と言えるでしょう」

 

 

 駄目だ、分からない…。サクラコからは、今の彼女には。悪い意味でのトリニティらしさが、一切見当たらない。遠回しに仄めかされる悪辣さや、親身な振りをした慇懃無礼な揶揄などが、いつもそこにある筈のそれらが、なにも、ない。ただ、ただ。心からの善意と献身の念だけが、強く強く伝わってくる。

 

 

 「………そのようですね、お二人の反省文も調書に添えられていましたし…。

  お祭りの熱に浮かされた、

  キヴォトスならどこでも見かけるような日常の一部分と言っていいでしょう。

  その後の、シスターフッドによる自主的な活動、破壊された校舎の修繕作業に関しても、

  日常的に行われている公園での炊き出しや、

  ボランティア活動を思えば、何ら、不自然な点はありません…」

 

 

 不自然さが全くない。それが逆説的におかしい筈なのだ。状況証拠だけで考えれば、シスターフッドこそが主犯格、あるいは主導した犯人そのものだ。祭りの前、祭りの間、そしてその後の行動。全ての状況証拠が、シスターフッド以外にそれを可能とした組織が存在しないことを指し示している。であるのにも関わらず、決定的な証拠が一切上がってこない。

 

 映像による証拠はなく、物質的な証拠もなく…、目撃者一人捕まえることが出来ない。ならばこれは、大所帯の組織に依る、組織的犯行であると当たりを付けて。その内部を洗いに洗い、専門家を付けて嘘を識別しても、判別できず、最後の手段とばかりに主犯格と見なされる組織のトップと直接面談しても、なにも見えてこない。

 

 まるで、まるで…、認識の外に、はずされているような違和感、異物感。なにかを掛け間違えているような、ズレが、じりじりとナギサの脳を蝕むが…、その後のサクラコとのやり取りにおいても、ナギサはそれらを一切表に出すことなく聴取を進めて。

 何度も何度も言い方を変えて繰り返される同じ質問への反応が、全く同じ、あるいは些細な違いしかないことに歯痒い思いをしながら、日が傾く頃にようやく「嫌疑不十分」であると、結論付ける他なかった。

 

 

 「――――……………お話はよく分かりました。

  本日は、お忙しいところを、本当にありがとうございました」

 

 

 だから、ナギサは感情を抑えつけ、溢れさせないようにする為に必死だった。

 

 

 「いいえ、そんなことはありません…。

  シスターフッドとして、誰かの助けになると言うことは、ごく当たり前のことです。

  またなにか疑問等ありましたら、いつでも呼び出していただいて構いません」

 

 

 そして、サクラコは芸達者になる魔法(ヴぁーさたいる・えんたーていなー)の助けもあって、内心、よし、楽しく話せましたわね!などと、今回の会談の結果が滞りなく終わったことに関して狂喜乱舞していることを隠す必要もなく、その表情から仕草に至るまでが、終始、完璧のまま、部屋を辞していった。

 ……しばらくの間、生徒会室の中を沈黙が支配し、ナギサは今ようやく思い出したとでも言うように、おぼつかない手付きで紅茶を飲み、瞑目する。

 

 

 「………ナギちゃん…?」

 

 

 ミカは非常に気まずい思いをしながら、そんなナギサに声を掛けるも、何と声を掛けていいのか分からぬままに戸惑い、

 

 

 「……………………」

 

 

 ナギサは、薄く目を開け、そんな風にしているミカをチラリと横目に入れ、席を立ち。そのまま無言で自室へと歩いていく。戸惑うミカを残して。その、やるべきことを定めた者の目をした、桐藤ナギサという少女は、その頭脳を全力で働かせて、今後すべきことを定めていく。深く深く、自分自身の思考の海へと沈み込んでいく…。

 

 そうだ、私は何を呆けているのか。今すぐ、動かなければならない、今すぐ対処しなければならない。私が、トリニティを、生徒たちを、親友を、護らなければならない。そのためにやるべきことがある、やりたくないこともある。だが、もはやすべては些事に過ぎない。例えそれが、疑わしき者すべてを排除した、独裁の道であったとしても、やり遂げなくてはならない。まずは…、まずは――

 

 

 「………ナギちゃん」

 

 

 そんな、自分以外が見えなくなった桐藤ナギサを、今の聖園ミカが放置しておけるはずもなく。だから、その歩みが行く先を、誰にも悟られないように、見つからないように――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――トリニティ総合学園 ナギサの私室の記憶 ナギサ、ミカ

 

 

 「ミカさんを…、ミカを。あんな目に遭わせるわけにはいきません。

  あの子は、あの子も。私が護らなければならないトリニティの生徒であり…、

  掛け替えのない親友なのです。だから――」

 

 

 ナギサは、可能な限り手を付けることのなかった、いまやキヴォトスで最大規模を誇る組織の資料を手に取る。その組織の構成員は、いまやキヴォトス中の学舎に編入が完了しており、横に広く、縦に長い上に、一声かければあっと言う間に、どこからともなく、一般人のような顔をしてやってくる善良な学生たちの集まりでしかない。だが、シスターフッドを除けば、もはやこの組織以外にそれを可能とした組織が存在しないのだ。そう、そうなのだ。不可能な物を除外していって残った物が…、たとえどんなに信じられなくても…。

 

 

 「……………いいえ、彼女の動機など最早、些事でしかありません。

  個人的な感傷に惑わされることなく、冷静…、冷静にっ…! 

  か、考えて…、トリニティにとって、最も被害のない人選を――」

 

 

 それに、犯人が不在、もしくは不明であると言う状態は、生徒会としても、トリニティという社会性としても、エデン条約を前にしたゲヘナとの緊張状態を鑑みても…、政治的に、非常にまずい事態と言えた。だから、犯人は存在しなくてはならない。不明であってはならない。不透明であっても、容疑者は絞り込まれた状態にあると、内外に示さなければならない。そしてなによりも、排除されたその人物が、トリニティの内部で処理できる程度の範疇にあるのならば。正義実現委員会がこの手にある以上、いいや、あの子たちを、このようなことに使うべきではない。ならば、フィリウス分派の口の堅い、信用のおける、覚悟の据わった者を――。

 

 ナギサは、ひととおり、自らの心を護るための言い訳を、自分自身に強く言い聞かせると、その報告書をパラパラとめくり始める。疑うべき対象を…、生贄の選定を始める。次に疑うべき…、いいや。本来真っ先に疑わなければならなかったはずの――。

 

 

 「私は…、優先順位を付けなければなりません。

  ――友情ではなく、命に換えても護りたいものがあるのならば。

  私は…。私はっ――――…!!!」

 

 

 ポタリ、ポタリという音とともに、円形のシミが、その報告書に零れ落ちていく…。強く、強く強く、千切れんばかりに握り締められた、そのページの、組織図の一番上に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――――【阿慈谷ヒフミ】の名前が、書かれていて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よって、ここに聖園ミカの心も決まった。自らのせいで引き起こされた事態、それにより悪化していくように見える親友の心境や体調。正面から受け止めきれないほどのそれを、ならばそれは、”誰のせい”なのかと言う、自分自身へ向けられた赫怒を伴った血流が、脳髄を満たしていく。そして同時に思い出す、倒すべき敵、葬るべき仇の、その名前を。

 

 

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――蒼森ミネのセーフハウス 先生への連携攻撃後の屋根上 セイア ミカ 

 

 

 「――ベア? ……ベア、なに?」

 

 

 「”ベアトリーチェ”。

  それが、アリウスの裏に潜む支配者の名前らしい」

 

 

 トリニティ総合学園の生徒会長として、聖園ミカと百合園セイアが顔を合わせてから、今日が初めてと言っていいほどの息の合った連携で、にっくき連邦捜査部シャーレの黒幕(ちがう)をあと一歩のところまで追い詰めた。そんな記念すべき日に、意気投合した様子の二人の少女は、いままでの認識を擦りあわせていた。

 

 

 「………ふ~~ん?

  アリウスの生徒会長かなにかの、コードネームみたいな?」

 

 

 「――いや、アリウスの生徒ではないそうだ。

  ミカは、アリウスの内乱が十年前に終結したという話は聞いているかい?」

 

 

 「あ、知ってるよ☆

  ――ほんっと、アリウス自治区の人たちって元気ありすぎたよね…。

  私も想像以上にアリウスの生徒にボコボコにされたし。

 

  いくらカズマ先生の仕込みだとはいっても、

  あんなのがゴロゴロしてたら、終わるのも終わらないじゃんね」

 

 

 「………………(ん…?)」

 

 

 ミカがぷりぷりと可愛らしく怒りながら、憤りを示している様子に、セイアは内心首を傾げる。確かに、あの夜。潜在能力を全て引き出したかのような、全力以上の聖園ミカに正面切って撃ち合い、殴り合っていた生徒の存在に関しては、セイアも予知夢の時点で疑問に思っていたので、すぐさまカズマ先生に問いただし、彼女が何処の誰であるのか、ということを把握している状態にある。あるのだが。

 

 

 「………………(むぅ…)」

 

 

 セイアはほんの一瞬、瞑目して検討する。この件に関しては、今知る必要のない…、というか話題にすると脱線しそうだから、後でカズマ先生を交えて、彼女のことを紹介して貰えばいいだろうと結論づける。よって、セイアは特段、深刻に思うことなく、話題を流すことにした。

 

 

 「その終結しようのない内乱を収めたのが、カズマ先生と違う形で、

  キヴォトス外部から来訪した、”ゲマトリア”という組織の構成員の一人である、

  ”ベアトリーチェ”、という女性だそうだ」

 

 

 「――え、武闘派なの…?」

 

 

 「……そこまでは分からないが、カズマ先生も武闘派とは言い難いだろう?

  彼ら…彼女ら”ゲマトリア”が、外部からキヴォトスに来訪したのであれば、

  我々の知悉しない物資のルートや、知りえない知識や神秘のひとつやふたつは、

  持っていると見たほうがいいだろう。

 

  ――他校の政治や情勢に興味のないミカは、知らないかもしれないが…、

  あのアビドス高等学校ですら”ゲマトリア”によって、陥落寸前だったそうだ」

 

 

 「………そんな学校あったっけ?」

 

 

 いつもの生徒会室での会話と同じように、チクチクと、論理的思考の欠如と、政治への興味のなさを丁寧になじられるミカであったが、もはやその手の分野でセイアに対抗心を燃やしたり、下手な知識頼みだと言い負かされることを受け入れ…、受け入れつつある。

 ミカは、深く深呼吸すると、だからセイアちゃんは友達がいなんだよ?しょうがないなぁ、と自らに言い聞かせながら続きを促す。うん、私は気にしてない、気にしてないよ…?

 

 

 「ミカ…、本当に君という人は…。まぁいい。

 

   ……今やかつての栄盛は見る影もないが、

  キヴォトスで最も長い歴史を誇り、多数の生徒が通ったキヴォトス最大の学園。

  最盛期には70人もの生徒会長が、鎬を削る群雄割拠を繰り広げられるほどの、

  圧倒的な資金力と、軍事力を有し、他区からは羨望や畏怖の目で見られていたという」

 

 

 「おおー…」

 

 

 「まぁ、砂漠地帯に隣接した地域にあったせいか、急激な砂漠化の拡大に呑まれてしまい、

  生活圏すら廃墟となり、本校舎も砂に埋もれ、端へ端へと追いやられて行って…、

  いまは、小さな別館を本拠としているそうだが」

 

 

 「………言っちゃ悪いんだけどさ、そんな所、奪う価値あるの?」

 

 

 「――我々にとって価値のないものが、相手にとっては値千金の価値である、

  というのは往々にしてある話だとも。……腐っても鯛、と言い換えてもいいかもしれない。

  その辺りの”価値”を理解した上で、”ゲマトリア”との交渉を可能としたのが、

  連邦捜査部S.C.H.A.L.Eであり、アビドスの件も、今回の件もなんとかしてしまったのが、

  ――あのカズマ先生というわけさ」

 

 

 「わぁーお…」

 

 

 ちょっと殴り過ぎちゃったかも☆と小さく零すミカだったが、いいや、あのぐらいのことをしないと絶対にカズマ先生は反省しないから、あのくらいで丁度いいとも。むしろようやく溜飲が下がってすっきりしたとも、ようやく、ようやくさ…、と沸々と静かに滾る熱さをセイアから感じたミカは、ふとその怒りの原因を思い出し、

 

 

 「そういえば紐セイア」

 

 

 「――ゴホンッ!! 複製体(ミメシス)が、どうかしたかい?」

 

 

 「……えーっと?

  きわどい紐水着で誘惑の猫のポーズをしてた、セイアにゃんのことでいいんだよね?

  なんかよく分からない感じだったけど、あの子に影武者やらせてた?ってことは…

  ――セイアちゃんって普段から、制服の下に紐水着で」

 

 

 あれ?そういえばと思い至ったミカが、戦慄した目で震えながらセイアを見つめ、

 

 

 「――ち、が、う!!

  あれは複製体(ミメシス)といって、

  カズマ先生が”ゲマトリア”との交渉によって手に入れた、

  キヴォトス内部の神秘を再現可能にしようとしたものの失敗作を再利用した形であって、

  決して私の趣味嗜好の形として創出されたものではないと言っておこう!」

 

 

 「めっちゃ早口で喋るねセイアちゃん」

 

 

 「――ッ! ――ッ!! ――ッ!!!(言葉にならない」

 

 

 「――あーごめん、ごめんね☆ そんな眼で見ないでってば…」

 

 

 思わぬところでセイアの地雷を踏み抜いてしまい、ミカはすぐさま素直に謝る。謝ったは謝ったが、ミカの心の裡は邪悪に濡れていた。それがどのくらい邪悪かと言うことをミカの内心を借りて表現すると。あースッキリした。なんだかずっと喉元までせり上がってきたものが、スッと綺麗になくなった感触もするし、今度なにかで言い負かされそうになったら、これでセイアちゃんを弄っちゃおうっと、と思う程度には邪悪だった。

 

 

 「……でも、あのレベルで影武者をやらせられる技術が失敗作…?

  なにその激ヤバ組織。

  実物の見た目は完全にギャグなのに…、今すぐ制圧した方がよくない?」

 

 

 「――ゴホンッ!! それは大いに同意したいところだが…、

  カズマ先生によると、四人いる”ゲマトリア”のメンバーのうち、三人の取り込みに成功し、

  内情を探っていたところを、四人目の”ベアトリーチェ”によって状況が――」

 

 

 そこまで口にしたところで、セイアはいや、と一言残し、首をふるふると左右に振った。その様子をしばらくの間、黙って見ていたミカであったが、セイアから続く言葉が再開するでもなく、なにやら難しそうな顔をして黙り込んでしまったのを見て、

 

 

 「……続きは?」

 

 

 「――いや、これ以上は、ミカが先生に直接聞いたほうがいいだろう」

 

 

 「……ええっ? なんで?」

 

 

 「除け者にされていたからという理由で、腹を立てるミカの気持ちはもっともだが…、

  いつまでも、こうやってカズマ先生を避けてるわけにもいかないだろう?

 

   あの人は、カズマ先生は、傍目に見ていても感情豊かな人だからね。

  言葉とは裏腹に、いいや、言葉にしなくとも、今のミカならば、

  カズマ先生が、言わずとも言っていることを、理解できるはずさ」

 

 

 などと、訳知り顔で嘯くセイアを、ミカはジト目で見つめて。っはーーー、これだからセイアちゃんはセイアちゃんなんじゃんね、と内心で唾を吐く。そろそろいい加減、我慢の限界が近づいてきたこともあって、いつものように言葉に出すことなく、私怒ってますと言う態度を示すだけの姿勢を止めることにした。セイアちゃんほんとさぁ、そういうところなんだよ?

 

 

 「………………(むっすー」

 

 

 「――……ミカ?」

 

 

 「セイアちゃんさぁ…、前から思ってたんだけど。

  セイアちゃんって逐一、相手のことを馬鹿にしてからじゃないと喋れない病気なの?」

 

 

 「……………な」

 

 

 「――はぁ~~~~~~……(くそでか溜息

  だからセイアちゃん、友達出来ないんだって、分かってないの?

  あ~ぁ、紐水着を着てたセイアにゃんなら、きっと分かってくれるって思うなー」

 

 

 「だからあれは複製体(ミメシス)だと――」

 

 

 「紐セイア、でしょ?」

 

 

 「いっ、今はそのことは関係ないだろう…!」

 

 

 「紐セイアって呼ばないと、あの子にもう協力してもらえないじゃんね☆

  というかセイアちゃんって、何が原因でそうなったのか分からないって顔してるけど…、

  セイアちゃんがそんなんだから、そういう扱いをされたんじゃない?」

 

 

 「な、なにをバカな――」

 

 

 「セイアちゃんが、未来視を持ってるからだからかもしれないんだけどさぁ…、

  遠回しに難しい言葉で厭味ったらしく上から目線で、

  頼んでもいない教壇の講師が講釈を垂れるみたいにペラペラ喋ってくるのって、

  控えめに言っても、気持ち悪いよ?」

  

 

 「……………(絶句)」

 

 

 ミカは今までのやり取りの中でも、我慢に我慢を重ねて、今回は私が悪い、私が悪いからダメだから…、と思っていたものの、やはり感情の制御が完全に出来るわけもなく。セイアにいい感じにとどめを刺してスッキリしてしまい。――あっ、とやらかしたことに気付いて、すぐさま我に帰り、

 

 

 「………え、えーっと?

  セ、セイアちゃんに言われた通り、カズマ先生に話を聞いてくるじゃんね!!」

 

 

 その場から逃げ出した。

 

 

 「――……気持ち悪い? わ、私の言動は、気持ち悪いのか…?」

 

 

 一人呆然と、自問自答するセイアを残して。

 

 

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――現在。アリウス自治区 見晴らしのよい丘 ミカ 

 

 

  ――ひとつ、指定の日に、百合園セイア暗殺計画に協力すること。

 

  ――ひとつ、アリウス分校の、戦力増強に協力すること。

 

  ――ひとつ、指定の日に、アリウス分校を率いて、トリニティとゲヘナを制圧すること。

 

  ――ひとつ、この契約内容を関係者以外に漏らさないこと。

 

 

 

 

 

 この契約には穴がある。明言されていなくても、一目見ればわかるほどの穴がある。それは、つまり。

 

 

 「――誰だか知らないけど、ベアトリーチェ?っていうのを倒せば、

  カズマ先生にとって都合の悪い部分は、全部解決するんでしょ?

  どこにいるか分からないけど、じゃあ、全員、薙ぎ倒せばいいよね☆」

 

 

 もともと聖園ミカが、トリニティ総合学園で行おうとしていた、百合園セイアの件と同じことが、罷り通るのだ。契約内容には、契約相手の状態が指定されていないのだから。

 軽く捻って隔離して、全てが終わるまでの期間、強制的に黙らせてしまえば、相手の都合に構うことなく、後はこちらの都合で動かせてしまえるのだ。ミカにとっては実に単純明快で、一番堅実な方法と言える。

 勿論のことだが、ミカはその後のことなど考えていない。考えていないのだが…。聖園ミカが所属し、その頂点に君臨するパテル派閥と言う存在が、聖園ミカにとっては、片手間で何とかなってしまった、という成功体験を積み重ねてきたのも、今回の行動の原因と言えた。

 

 

 そもそも聖園ミカが、百合園セイアを病院送りにするということに関して、なぜあれほど軽佻浮薄に振舞っていたのかという焦点にも遡る。

 

 

 トリニティ総合学園の生徒会であるティーパーティー、三人在籍する生徒会長、その中の一つである、最も武力に長けたパテル派閥の頂点に腰かける者が、ただのバカ者になれる筈もなく。家柄は考慮されるだろう、家格も必要かもしれない。学力も実技も考慮されるだろう。ならばあとは評判、性格、求心力。だが、それは上げるよりも陥れる方が楽だと考える者たちが、犇めき、蠢いているのが、トリニティ総合学園だ。

 ただし、陰湿で陰険な、地を這う血虫のような悪意と敵意が、数えきれないほどの蟲毒の壺のように敷き詰められ、煮詰められた学園で。その激流の最中で競い合う者たちを、誰にも悟られないままに、その卓越した身体能力によって、文字通り、病院送りにしてきた者がいたとすればどうだろうか。見込みのある者のみに口伝され続けてきた、パテル派閥の流儀によって。

 

 そうやって辿り着いた、生徒会長と言う玉座(にちじょう)に、染まり切った聖園ミカが、”百合園セイアを病院送りにすること”に関して何一つ疑問を持っていなかったのと、アリウス分校側が疑問を差し挟むことなく、双方の方針が合致した結果、”アリウス分校の人たち…、話せるじゃんね!!”、といった歴史的一致の感動を得たことによって、話が水を得た魚のようにスイスイ進んでしまい、

”元々はトリニティだったんだから、この程度の加減くらい言わなくても分かるでしょ?”、という無形の信頼が、悲劇を招いたと言っていいだろう…。つまり、トリニティの歴史が悪いと主張したい、今日この日の聖園ミカであり…、

 

 

 「……わたしバカだからよく分かってなかったんだけど…、

  あの日、私が負けたのって、流星群に問題があったんじゃないかって思ったんだ。

  それで、ふと思い返して調べてみたり、計算しなおしてみたら、

  あぁ、だから私は負けたんだって、思ったの。

 

  だからさ――」

 

 

 もう二度と油断しない。大事なものを失わないために。奪わせないために。

 

 

 

 

 ――――天に星が瞬く。

 

 

 

 

 いくつも、いくつも、いくつもいくつもいくつも…。それは見るものが見れば、流れ星のように映っただろう。遥か天高い宙空から、流れ落ちる星々。本来ならたまたま夜空を見上げていた者が、流れ落ち、燃え尽きる前に、三度願いを唱えれば叶うとうたわれた、遥かなる惑星への儚い願いとなるもの。それが、それらが、燃え尽きることなく群となって、流星群となって、聖園ミカに立ち塞がる全てに向けて、その願いを叶えるために流れ、落ちる。堕ちていく――。

 

 

 

  流星群観測史上の最高速度と謳われる、秒速71km、時速25万5600km。

  地表到達時間、「1.408450704225352」秒の、燃え尽きない流星群の神秘の群れが。

 

 

 

 「――私に一度は勝ったんだからさ、このくらい、なんとかなるでしょ?」

 

 

 その言葉を合図にして始まり、そして、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




討伐難易度:死ぬがよい
いやぁ、ベアなんとかさんは怒らせちゃいけない人を敵に回しましたね…。

 年末は風邪っぽくてほぼほぼ寝込んでたので、年始に書けたからユルシテユルシテ…。続きは…、感想と評価(一言コメントも全部見てます)とお気に入りといいねがもっともっともっと欲しくってぇ…、承認欲求モンスターが育たなくってぇ…。
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