超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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第四部?
知らない子ですね・・・()


第四部
プロローグ


 

――アリウス自治区 アクシズ教大聖堂 大司教の執務室 アズサ

 

 

 ………その場の勢い、という言葉がある。

 

 カズマがキヴォトスに連れ去られてからというものの。日常的に命の危機に晒され、文字通り生きるか死ぬかの世界で生活することを強いられて・・・。

 

 散歩をしているだけでも頬を弾丸が掠めていくようなご近所付き合いが、一日の食事の回数よりも多いがために、ひぃひぃと情けない悲鳴をあげつつも、現状を少しでも良くしようと駆けずり回り。運よく元の世界へと逃げ帰れそうな算段が、つきそうになったその時に。とうとう空から隕石が降ってきた。それも一つや二つではない。ゲームや映画の演出でしか拝んだことがないような、空と地を埋め尽くすほどの流星群だ。

 

 カズマにとっては大変不本意なことに、いつも通りといえばいつも通りの話ではあり。これもまた、なんとかしなければ死ぬ以外の未来がなかったので、あの手この手を捻り出してなんとかした。せざるをえなかった。だというのに、更にその直後から、思わず両手で頭を抱えるような問題が起きてしまう。・・・・・・・・・なぜ一時の休息すらも許されないのか、ちょっと意味が分からない。カズマの唯一の取り柄ともいえる、幸運の高さは機能していないんだろうかと、最近悩み始めている。

 

 そもそも、だ。余りにも苦しかった今回の一件を解決したカズマのこれからの予定としては、しばらくの間は外出なんぞせずに、キヴォトス発祥のベストセラー系ゲームでもしつつ、スナックやファーストフードにジュースを楽しみながら、不健康極まりない閉じた生活を送る予定だったのである。・・・・・・まぁ、あんまりやりすぎるとアオイかリンあたりに引きずり出されたり、どこからともなく遊べだの構えだのと面倒が舞い込んできて、一人の時間を奪われてしまうので、一定期間の雲隠れが必要なのだが。

 

 そういったカズマの欲望に塗れた無意識が、誰にも干渉を受けなさそうな場所である、連邦捜査部シャーレの執務室・・・は、ミネによって出入り口が破壊されたから保全上の問題があって使えない。よって、カズマが所属する”ゲマトリア”の・・・、厳密に言うと、黒服とカズマで合同利用中なウトナピシュティムの本船を選択し。事態が終着を迎えていたのもあり、ここならば、と安心するかのようにそのまま寝入ってしまったのだ・・・。

 

 

 ――いま考えると、うかつとしか言いようがない。

 

 

 そんな風に。完全に気の抜けていたカズマの無防備さにつけ込むように。あるいは運命が嘲笑うかのように。まずアロナが暴走した。あるいは暴走させられた、のかもしれない。今のところ、明確な原因も理由も不明である。・・・・・・とにかく、まぁひどく最悪な未来を一度目は原因不明のまま、二度目はカズマ自身のポカによって体験させられてしまい、過去にないほどの最悪な気分を噛み締めていたところに、解決したはずの地雷(ミカ)が爆発したという報告を受けてしまう…。爆発した理由は…、まぁ分からんでもないが、正直やめてほしかった。

 

 ………色々な面倒ごとに、ようやく一定の決着がついたばかりであり、カズマとしては、しばらく休んでいたかったのだが。とはいえ放置するわけにもいかず、碌な準備も、戦力も揃えられないままに、おっとり刀で駆けつけてみれば、今まで頑張って支援してきたアリウス自治区が、アクシズ教大聖堂以外は、聖園ミカの流星群の神秘によって、ものの見事にぜーんぶ、クレーターだらけにされていて。

 絶望しながら探索を始めてみると、ゲマトリアに迫られてアリウスの支配者への就任要請をされるわ、その元々のアリウスの支配者さんはアリウス自治区もろとも虫の息になるまで叩きのめされてるわ、カズマが信仰している神様の権能の仕様を勘違いして失敗するわで。雪崩のように叩き込まれてくる圧倒的事態に、凡人かそれ以下の精神キャパシティしか保有していないカズマが耐えきれるわけもなく。過去に例を見ないほどのストレスの過重多圧によって、爆発寸前だったのだ。

 

 それでもカズマは考えていた。思考していた。脳髄を全力で回して打開の一歩を開かねばと踏ん張り、事態を収めないといけないという強い意識があった。アリウスの生徒たちを、時間を掛けてでもどうにかしないといけないという配慮もあった。ただ、その意識も配慮も。虚空に溶けそうな言葉を口にする、アツコの虚無に満ちた瞳に見つめられて、すべてが決壊したわけなのだが…。

 

 ……つまり、その。なんというかあれなのだ。その場の勢いとはそういうことで。そんなことを一言も思ってなかったのかと問われれば、そんなことはないと間違いなく答えるカズマではあるのだが。とにかくそうじゃないのである。本当なら何というか、サオリが言っていた通り「もうベアトリーチェがいないから、仲良しこよしでやりましょう」案を結構真面目に考えていたりしていて…。

 いや本当に。そもそもエデン条約締結に関する、トリニティとゲヘナの確執の原因の一つである、キヴォトス二大テロリストは大体なんとかしたのだから、アリウスの件が穏当に解決できていれば。聖園ミカが錠前サオリに提言した、白洲アズサをトリニティ総合学園に転入させた後、そのコミュニティの中で一定の成功を収めさせることを証明として、”トリニティとアリウスの和解の象徴”に祀り上げるといったような、非常に緩やかかつ回りくどくて時間の掛かる、しかし効果的な政治的交渉の一手を踏めるはずだったのだ。

 

 そうなれば、初期にこの話を纏めた、聖園ミカと錠前サオリの政治的影響力は、たとえその成果の大小がどうであれ、成功を収めたという意味を前面に出して、支持を集めるための活動を大きくすることができる。ここまでくれば、後はカズマなんぞよりも頭のいい連中がこぞって話し合いを始めるだろうから、それを横から眺めながら、求められた時にたまに口出ししてやればいいだけで、あとは御役御免となって、エデン条約締結までの間は自由の身となれるはずだったのだ。

 つまり、すわ素晴らしきニート生活と夏のバカンス編!が始まる予定があったかもしれないのである。カズマ的には断然そっちの方がいいに決まっているのだ。よって。

 

 

 「――……う、うん。流石はカズマ先生だな。

  その、なんというか、まるで山火事を起こすみたいな策を考えていたとは…。

  てっきり私は、対聖園ミカ戦での戦闘指揮の一端を受けていた時に。

  ああいう嫌がらせみたいな手法が、先生の本領なんじゃないかと思っていたけれど。

  もっとひどいな…。

  

   まぁ、でも。その…。ほら! 

  結果的にアリウスの皆から失われてた、生きる活力みたいなものを取り戻せたこと、だし…。

  だから、なんていうか、時間は巻き戻らないことだし…」

 

 

 もう、諦めたほうがいいんじゃないかな…、とアズサは目を泳がせながらとどめを刺すかのように結論付けてしまい。

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 そこは。一際豪奢に飾り立てられた、アクシズ教大聖堂の専用執務室の真ん中で。そこの執務机にへばりついて、一通り弱音を吐いて嘆いた後、力尽きたかのようにとうとう何も言わなくなってしまった男がいて。

 

 それはキヴォトスで、現在も話題沸騰中の連邦捜査部シャーレの先生であり。路地裏を支配し、アビドスを温泉で救い、ゲヘナの二大テロリストを手懐け、SRT特殊学園を復興させ、ミレニアムサイエンススクールで完全顕現したアトラハシースを撃滅し、トリニティ総合学園のネームド最強格の制圧を成し遂げ。とうとうアリウスの支配者になってしまった、この世界でおそらくは、一番か弱い存在でもあり…。――というかカズマだった。

 

 

 「………まったく。

  さっきまであんなにかっこ良かったのに、仕方のない先生だな」

 

 

 だからか、カズマを見つめるアズサのジト目な視線の裡には。理解の感情が多分に含まれていて。まぁ、それでも残念なものを見つめるような失望の念までは隠し切れておらず・・・、それでも。その口から紡がれる言葉が不満に満ちていながら、その顔ばせは。愛おしいものを見つめるかのように、淡く微笑んでいた。

 

 

 「――それで。これからどうするんだ、カズマ先生?

  今はとりあえず、アリウス分校の全生徒に。

  持ってきた食料を炊き出しにして、お腹一杯にして寝かしつけるように指示してある。

 

  その指揮を。一緒に来たアクシズ教徒の彼女たちと、

  手伝いたいと言える程度に元気のある有志が執ってるから・・・。

  明日の朝・・・、ううん。少なくとも昼までなら、持たせることはできると思う」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 私も手を尽くすけど、その後は。どうなっても知らないぞという、優しい最後通牒を。尚も未だに、他にも選択肢はあったんじゃないかと、死んだ魚のような目をして現実逃避という名の後悔をし続けているカズマ先生に突きつけて。それでもピクリともしない様子を見たアズサは、ちょっと部屋の空気を入れ換えた方がいいかもしれないと、窓を開け。ついでに、食事をして少し落ち着いた様子を見せているらしい、アリウス分校の生徒たちの姿でも見ようと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「気合い入れろぉ! ――アクシズ教! 教義ぃ!!」

 

 

 「「「――ゲヘナ倒すべし! トリニティしばくべし!!!」」」

 

 

 「「「――ゲヘナ倒すべし! トリニティしばくべし!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――バタン!とアズサは窓を閉じて。

ううん。今のカズマ先生には、まだちょっと刺激が強いかもしれないな、とアズサは即座に切り替えて。まずは、この状態のカズマ先生をなんとかして回復させる必要があった。

 

 

 「・・・・・・カズマ先生、少し待っていてくれ」 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 しばらくすると、アズサは深皿に盛られた二人分のシチューを手にして戻ってきて。配膳し。カズマが座る執務机の真向かいに椅子を持ってきて。二人は、互いに向かい合って食卓につくような形となった。

 

 

 「――ほら、カズマ先生。こっちは先生の分だ。

  私のもそうだが・・・、少し多めにもらってきた。

 

  ……トリニティの一件に対応するために、先生も含めて。

  私たちは、最低限の流動食しか口にしてなかったから・・・、だから」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 「少なくとも今夜は、いっぱい食べて、ゆっくり寝ることができるはず。

  私たちも、アリウスの皆もきっとそう・・・。だって、これは。

  このシチューは、先生が最初に持ってきてくれたご飯と同じだから」

 

 

 ピクリ、とカズマの顔が動き、アズサの方を見つめるような気配がして。

 

 

 「元々これは、先生の指揮の下で。アリウスでのクーデターを成功させた後に。

  捕虜になった生徒たちに、シチューを配食することで精神的揺さぶりを掛ける。

  ――という先生から学んだ、離間の計のための戦術物資だったのだけれど」

 

 

 その必要はなくなっても、私たちには結果的に必要なものだったみたいだ。と淡い微笑みと共に言葉が続けられて。・・・・・・年下の小さい女の子に、気を配られながらそこまで言われてしまって。カズマは降参すると宣言するかのように、深いため息をはいた。・・・・・・・・・まぁ。なんというか。ここまで一生懸命に、心を尽くしてくれる様子を感じ取れないほどカズマも鈍感ではなかったというか。

 

 

 「――・・・・・・分かった、分かったよ。飯はありがたく戴く。

  その後から善後策を考える。それでいいだろ?」

 

 

 「――うん、カズマ先生。

  でも、私にできることがあったら言って」

 

 

 そうして。しばらくの間カチャカチャと、特に言葉を交わすでもなく一心不乱に二人は食事を摂り。思っていたより消耗していたんだなと。腹が膨れていくにつれて、いろいろなことに考えが及ぶ余裕が出てきたカズマは、あ、と思い出す。

 

 

 「そういえばイズナは・・・?」

 

 

 大聖堂前での生徒指導方針宣言後。アリウス分校全生徒からの熱狂的な支持を獲得したカズマが、二度も爆裂魔法(エクスプロージョン)を撃ち放ってくれたイズナを忘れるわけもなく。あらかじめONにしておいた現在位置探知アプリによって、イズナによる二度目の爆裂魔法(エクスプロージョン)発射地点を把握していたのもあり。アズサと一緒に駆けつけた敬虔に過ぎるアクシズ教徒たちに、その捜索をお願いしていたのを思い出したのである。・・・・・・・・・アズサが窓を開けたときに嫌でも聞こえた、外で威勢よく気炎を上げているのが、どこの誰なのかに気づいて、連鎖的に記憶がつながったともいえるが・・。

 

 

 「――ん? あぁ・・・」

 

 

 カズマより少し早めに食べ終わった様子のアズサは、口許についたシチューを布巾で丁寧に拭いてから。

 

 

 「力尽きて動けなくなってた彼女なら、

  私がテレポートでシャーレの仮眠室まで運んでおいた」

 

 

 「あー・・・・・・、そうだな。

  そのほうがいいか?」

 

 

 「うん。その・・・、ほら。

  今のアリウスは、ちょっと不安定な時期だし・・・」

 

 

 カズマとアズサはちょっと無言になりつつ窓の外に目をやり。遮音ガラス越しに見える敬虔なアクシズ教徒たちが、なにやら暑苦しく熱を上げている様子を見て。カズマはスキルで獲得した読唇術によって。アズサは自力で培ってきた読唇術によって。何を言っているのかを注意深く読み取り・・・。カズマはちょっと、いやかなり後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――邪神だと・・・?』

 

 

 『てめーいま我らが祀る神に向かってなんて口聞いたか分かってっか?』

 

 

 『………殺すか』

 

 

 『――そうだな』

 

 

 『まず吊そう…』

 

 

 『知ってっかお前?

  投石ってのはよぉ、この世で最も使われ続けてきた兵器らしーってことをよ・・・』

 

 

 『………広場に吊して死ぬまで投石の刑か?』

 

 

 『――まぁな』

 

 

 『ただ私たちもそこまで鬼じゃない…』

 

 

 『あぁ』

 

 

 『――我らが神は寛大だからな』

 

 

 『それはそうだな…』

 

 

 『気が済むまでボコボコにした後チャンスをやるよ』

 

 

 『――改宗のチャンスだ』

 

 

 『慈悲深いよな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――うん、慈悲深いな」

 

 

 「アズサさん???!!」

 

 

 え待って待って待って、なにあれどういうこと?どういうあれなの?と、何も理解できそうにない混乱の坩堝に突然たたき込まれたカズマは、いったいどういうことなんだという視線でアズサに問いかけ、

 

 

 「・・・・・・あ、そうか。えっと、カズマ先生。

  アクシズ教がアリウスの国教になっていて…。

  御神体のアクア様が、通貨の単位になったところまではいいか?」

 

 

 「うん。なにひとつとしてよくないんだが・・・??」

 

 

 アズサは若干申し訳なさそうな顔をしつつ、五段階くらい順番をぶっ飛ばした言葉を放ち、カズマの現実を置き去りにしていく。

 

 

 「・・・・・・・・・え? なに? なんなの??

  俺が知らない間に、何が起きてたんだ・・・?」

 

 

 「――ごめんなさい、先生。

  もしかしたら先生が何も知らないのは、私のせいかもしれない。反省している。

  だから、最初から話すよ・・・」

 

 

 「もう既に嫌な予感しかしない・・・」

 

 

 ・・・・・・アズサが語るところによると。アクシズ教の開祖となってアクシズ教アリウス派大司教となったカズマが、信者が増えるにつれて様子がおかしくなっていくように見える、というような話が、敬虔なアクシズ教徒全員から、アズサへの報告として上がってきたことで、事実確認をすべきだという結論が下され。

 極力、主観性を排除した上で事態を把握するために、アクシズ教大聖堂内での、大司教カズマ先生お世話係を、がっちりとローテーションで交代しながら、複数人によって何度もヒアリングを行ったところ、「洗脳じみた手段を使って、未成年の思想をこんな頭のおかしい悪徳宗教に染めてしまって申し訳ない気持ちで一杯だ」というような後悔を。大司教カズマ先生がしきりにされている様子から、先生の精神の安定のためにも、思想強めにアクシズ教万歳を唱えることは控えるべき、もしくはこっそり信仰するべき、という論調が高まった、らしい。

 

 

 「――だけど私たちの溢れる信仰心は止められなくて、

  仕方なく路地裏の帝王を頼ったんだ・・・。

  彼女は。ヒフミはとても親身になって、私たちを助けてくれた。」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(絶句」

 

 

 キヴォトス各地へのアクシズ教会支部の建設。清貧のみではやっていけないのでアクシズコーポレーション設立と共に、アクシズ教大聖堂敷地内にある噴水から湧き出る聖水を原料にした、石鹸や洗剤等の生活用や衣料用洗剤の販売。その管理のためのアクシズバンクに。新通貨アクアを発行と・・・、拠点と経済的立脚点を整えた上で後ろ盾になってくれた路地裏の帝王の存在もあって順調に進み。しかし。状況がそこまで進むと、各地で熱心にアクシズ教を広めるための勧誘合戦が起こり、自然と土着宗教との対立が発生した、らしい・・・。

 ヒフミはいったい何をやってるんだとカズマはちょっと思ったが、その繋がりが生まれる発端となった過去を思い出す。……そういえば、そういった感じのアクシズ教徒の面倒を見てもらえるよう、一時的にでも手配したのは、他ならぬカズマ自身であったことを思いだして、開けかけた口を閉じる。

 

 

 「カズマ先生も知っての通り。

  アクシズ教は、虐げられてる人間や、行き場のない人間の受け皿としては最適だけど・・・。

  言ってしまえば、おおらかというか、欲望を肯定するような教義ばかりだろう?

  教義の一文に、何事もご近所迷惑にならないようにするよう、ほどほどに。

  ――と書かれてはいるが・・・得てして人間は、都合のいい部分だけ見がちだからな。

  

  そういう行儀の悪い新しい信徒が。アクシズ教の名で騒ぎを起こしてしまって、その」

 

 

 「邪神呼ばわりされたのか・・・?」 

 

 

 「・・・・・・・・・うん。

  だから、これは仕方のないことなんだ。

  私たちは絶対に、それを認めることは出来ない。

 

  あそこの彼女たちは、その場に居合わせてしまって・・・。

  怒りの余り、どちらも。問答無用で締め上げてしまったらしくてな。

  だから、今度同じことが起きた時のために。

  アクシズ教は慈悲深いということを示すために。

  ――そして舐められないように、口上を練習している。

  カズマ先生の言うとおり、キヴォトスでは舐められたらお終いだからな」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 カズマは、自分自身が威勢よく口から吐いた言葉を、アリウス分校の生徒たちが既に体現している姿を見せつけられて。内臓を力強く殴りつけられたような痛みを感じて思わずお腹を押さえる。――ワンアウト。

 

 

 「だから、その。カズマ先生」

 

 

 「うん」

 

 

 「彼女たちも必死だということを、分かってあげて欲しいんだ」

 

 

 チラッ、とアズサは窓の外を見て。カズマもそれに習うかのように窓に視線を向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『慈悲深いだろーーがよぉ・・・。

  ――お前らが無意識に、当たり前に享受しているものを。

  一緒に探そうと、手を差し伸べてくださった我らが神の偉大さを。

  有り難くも、その一員になって知ることが出来るっていうのは。

 

  ………”知る”っていうことが。”知らない”ことよりも。

  なによりも慈悲深く、有り難いことだろーーがよぉーー、・・・なぁ?』

 

 

 『――あぁ。

  いいか、百歩譲って。百歩譲って、だ。

  あたしらが気狂いだってのは聞き流してやってもいい。

  狂信者だってのも、まぁ。千歩譲って許してやってもいい・・・。

 

  だが。だがよぉ――』

 

 

 『――――……”邪神”ってのは許せねぇなぁ・・・。

  ゆるせねぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇっぇよなぁぁぁああああぁぁあぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ…!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 カズマは死んだ魚のような瞳でそれを見つめ、アズサは誇らしいものを見るようなキラキラとした瞳で応援するかのようにそれを見つめて。

 

 

 「アズサさんアズサさん」

 

 

 「――はいはいアズサです」

 

 

 「最初の方に言ってた、俺の精神の安定を慮って。

  アクシズ教信仰を控えたり、こっそりやるって話はどこにいったんだ・・???」

 

 

 「――うん? だって、カズマ先生が言ったんじゃないか」

 

 

 「うん」

 

 

 「心の底から素直になって、思うことを全部やってみろって」

 

 

 「うん、言ったね・・・」

 

 

 再び。カズマは、自分自身が威勢よく口から吐いた言葉を、アリウス分校の生徒たちに真っ直ぐ受け止められた結果を見せつけられて。内臓を力強く殴りつけられたような痛みを感じて強く強くお腹を押さえつける。――ツーアウト!

 

 

 「・・・・・・それに、こうも言ってたじゃないか。

  何のためにアクシズ教を立ち上げたか思い出せ!、って」

 

 

 「(顔面を両手で覆う)」

 

 

 ――チキショウ、ぐぅの音も出ない!

 

 

 カズマはどうしてこうなったとアズサに問いかけ、そして嘆くが。全てが全て、今まで自分自身がやってきた所業がそのまま全部跳ね返ってきているだけであるということを、ただただ思い知らされるだけで・・・、つまるところ、スリーアウトを謳うまでもない、自業自得の完全試合であった。

 

 

 「………よし。

  カズマ先生が納得してくれたところで。今後のアリウスの善後策について、話し合おう」

 

 

 「――おい待て。俺が納得した要素が一つでもあったか?」

 

 

 「カズマ先生は、この手の討論で勝ち筋が見えたら、

  相手が泣きを入れるまで詰めに詰めるのを私は知っている。

  それが出来てないから、この話はもう終わりでいいんじゃないか?

  

  ――それとも、またアリウス全校集会を開いて、

  今まで言ってたことは全部、一時の気の迷いでしたとでも、皆に言ってみるか?」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 その後、どうなっても知らないぞと。アズサは続けて。カズマは、顔をいびつに歪めながら悔しげに。アズサに完全に言い負かされた上での提案に、しばしの間、思いを馳せてみて。なおも熱狂的に、アクシズ教の聖句を斉唱しているように見える、アリウス分校の生徒たちの様子を眺めて。

 

 

 「――――・・・・・・・・・暴動が起きる、か?」

 

 

 口許に手を当てながら、その後の展開について予想する。おそらくは、碌なことにならない。

 

 

 「………もっと酷いことになるかもしれない。

  もうアリウス全体が、その気になってる。

 

   旗頭のはずのカズマ先生が、

  突然アリウス全域に放った言葉を翻してしまうと、士気が地に落ちてしまうし。

  既に指針が示された以上、裏切られたと思って、勝手に動き出してしまう者も出ると思う。

  一度そうなってしまえば、アリウス全体の統制はカズマ先生の手に二度と戻らない…。

  ――とは言わないけど、しばらくの間は混乱が収まらないまま、

  もう一度アリウス自治区内で、大規模な内乱が起きてしまう可能性だってある」

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 「私は状況がどうなっても、カズマ先生につくけど。

  みんながみんな、そうじゃない。

  ……共通の目標、共通の敵をカズマ先生が唱えて、アリウスは今度こそ。

  自分たちの意思で、それに乗ったんだ。

 

  ――ゲヘナ倒すべし、トリニティしばくべし。

  まだおおっぴらに言えない。その聖句を唱える声が、熱狂の渦が。圧がある。

  だから、早めに考えた方がいいと思う」

 

 

 「――善後策をか? ・・・・・・つってもなぁ」

 

 

 カズマは、もう何も考えたくありませんというような。げんなりした顔をして。ガックリと項垂れて。ガリガリと頭を掻いて、ため息を吐きながら、思いついた言葉をそのまま口に出していく。

 

 

 「・・・・・・んー、とりあえず・・・。

  アリウスってそこらの雑魚との戦闘経験は十分そうだけど。

  キヴォトスの上澄み・・・、各校のエース、ネームドっていうのか?

  その辺の脅威を知識としては知ってるけど、体で理解してない感じがするから。

  ワカモにやらせてたダイブ型対戦ゲームで、

  磨り潰されながらの遅滞戦闘が成立するまでゲーム漬けにするとか、か?」

 

 

 「・・・・・・聖園ミカ対策で作られたあのゲームか。いいんじゃないか?」

 

 

 カズマが各校の実力者に協力をお願いして、ゲーム開発部を引き連れて作ったダイブ型対戦ゲームには。1on1仕様は当然として、キヴォトスでの市街地戦、屋内戦も視野に入れた仕様が、いくつか実装されている。

 そこでの戦闘難易度を最大に設定すれば、各校のエースが部下を引き連れて同時に襲いかかってくる、阿鼻叫喚の地獄を体験することも可能であり・・・。そういえばワカモは、データ上とはいえ、それらに単騎で勝利していたような・・・。ま、まぁあくまでもゲームの範疇で作られたものではあるので、行動パターンを覚えていけば、多分なんとかなるのだろう・・・。なんとかなるよな・・・?

 

 

 「――うん。私は先生を信じていた。

  カズマ先生は、やる気がなさそうな顔をしていても、しっかりと考えてくれている。

  良かった・・・、本当に良かった。

  これで、アクシズ教急進派を納得させることが出来そうだ」

 

 

 「ちょっと待て。また俺の知らない言葉が出てきたんだが???」

 

 

 「――――??? 知らないって事はないだろう、カズマ先生。

  ほら、窓の外の彼女たちが」

 

 

 「あー!やめろやめろやめろ!それ以上口にするな!!

  ―――聞きたくない、これ以上、なにも聞きたくない!!!

 

  もういいよ!窓の外のそいつらの話はよ!目に入れたくもねーよ!

  二回見ただけでも十分に分かったから、これ以上の口上練習を見てられるか!!」

 

 

 

 

 ――テレポート!!

 

 

 

 

 そう言って。断末魔のような悲鳴を上げながら。カズマ先生がその場から一瞬にして消え失せる。アズサはその様子を、きょとんとした表情をしつつ見送って・・・。ううん、少し急ぎすぎたかもしれないなと反省するような顔を見せた後、窓の外に向けて手を振る。

 すると途端に。今の今まで、鬼のような形相で口上の練習をしていた、最も敬虔なアクシズ教徒たちの動きはピタリと止まり、隊列を組んで駆け足で。窓のすぐ側まで駆け寄ってきて。それに合わせて、アズサは窓を開けて。隊列の先頭に立つものが、口を開く。

 

 

 「――大司教の様子は、如何でしたか・・・?」

 

 

 「・・・・・・・・・時期尚早だったかもしれない、反省している。

  あれほどの啖呵を切ってくれたのだから、

  とっくのとうに覚悟を決めてくれたのかと思ってたのだけれど」

 

 

 アズサは悩ましげな顔をしながら、ようやく、我々の本懐の一端を遂げられそうだったのにと嘆くも。それに呼応するように、隊列の二番目のアクシズ教徒が苦笑しながら。

 

 

 「仕方ないでしょう、アズサ司教。我ら急進派の長よ。

  カズマ先生は、我らの神は。

  その御業を誇りもせず、御業を我ら全てに分け与えたうえで、

  ――これからの道すら、お示しになられた。

  いつまでもそれに甘えていては、いけないということなのかもしれません」

 

 

 「・・・・・・うん、そうだね。

  私たちは神に祈ることはあっても、依存してはいけない。

  まずは、新しく経典に追加された。

  我々が取り戻さなければならない、青春の物語について。

  どうすればそれが出来るのか話し合うのが先決かもしれない」

 

 

 でも青春って何だろう、とアズサは考え込むも。硝煙と血に塗れた半生を送ってきた記憶や思い出からは、何も見いだすことが出来ず。途方に暮れていると。隊列の三番目のアクシズ教徒がおずおずと。

 

 

 「・・・・・・で、は。

  予定されていた暴動は、お止めに、なります、か…?」

 

 

 「あ、そうだ。それがあった。

  うん、もう意味がないからやめにしておこう」

 

 

 「・・・・・・で、は。

  アズサ司教は、納得されました、か…?」

 

 

 「私たちを説得できるだけの言質は、カズマ先生と今話した分で十分だと思う」

 

 

 「……わたしは」

 

 

 言外に、納得できないという空気を漂わせ始めた様子を、アズサは感じ取って。なるほど、残りの二人はどうなんだろうと、視線を移せば、少なからず、同意見であるという無言の視線がそこにはあって。

 

 

 「そうかな・・・?

  でも、私は信じている、あれで十分だって。十分すぎるって。

  カズマ先生を信じられる理由が、信仰ではなく。

  ――信頼が、私たちには確かな形で在る事を、思い出して欲しい」

 

 

 一息。

 

 

 「………たとえ、その言葉が。

  その場の空気に当てられた、その場限りの勢いだとしても。

  いくらカズマ先生がそう言い繕っても。

 

  先生は、先生の生徒たちに。

  私たちに掛けた言葉の意味を、その重さを。

  その重さから、逃げたことは、一度もなかったじゃないか…」

 

 

  「………………」

 

 

  「………………」

 

 

  「………………」

 

 

 なんてことはないように当たり前に。当たり前すぎて誰も気に留めていなかった日常を形にしたようなその言葉に。三人の。最も敬虔なアクシズ教徒たちは沈黙し。ゆっくりと咀嚼するかのように、アズサから、アズサ司教から投げかけられた言葉を飲み込んで。

 自然とその体を動きを、それぞれの作法で神への祈りを捧げる姿勢を取り。深く深く祈りを捧げ、感謝する。

 

 

 「………納得した?」

 

 

 「――はい」「……はい」「は、い」

 

 

 「じゃあ、一緒に他の皆の説得に行こう。

  ――心の底から素直になって、思うことを全部やってみろ、は。

  教義として新しく取り入れるべきだけれど。

  ご近所様の迷惑にならない程度に、という教義にもある通り、このままの調子だと。

  私たちが、カズマ先生に受け入れられないなんていう本末転倒なことになってしまう。

  そうなると、私も困る。

 

  ………それに、我らの神に、あんな表情(かお)はして欲しくない。

  心安らかに、心穏やかに過ごせる安定した環境を私たちが整えてあげないと。

  整えてあげれば、カズマ先生のことだ。きっと。ずっと。

 

  ――私たちの側を離れようなんて考えは、起こさない」

 

 

 いつまでもいつまでも。我らの神は、我らと共にあってくれるはずだ、と。むすっとした顔でアズサはそう告げて。その場の三人を従え、暴動予定地点だった場所へ向かって歩き出す。………アズサの認識は間違っていない。もしも、そんな姿や遣り取りをカズマが一度でも目撃しようものなら、先程のように。どうにかして距離を取るように動くだろう。

 それをアズサが無意識に感じ取れるのは、これまでのカズマとの付き合いの長さによって培われた賜物でもあり・・・、本懐を遂げるための手段として、この後。アズサと他三人によって説得を受けたアクシズ教急進派は、その凶暴性を保ちつつも、徐々に落ち着きを取り戻していきながら、キヴォトス中に浸透していくこととなるのだが、それはまた別の話であり・・・。

 

 

 

 

   ――アリウス分校 一年生。白洲アズサ。

 

 

 

 

 アクシズ教アリウス派、急進派派閥の長であり。その信者を増やすことに最も成功した、浦和ハナコ司教の薫陶を受け、急速に求心力を高めていった大司教直轄の司教の一人でもある、敬虔なアクシズ教徒の現在の姿は、そんな感じであった…。

 

 




 お久しぶりでございます。第四部開幕でございまして。

 開幕速攻でヘタレた新しい物語の始まり始まりにございます。第三部で燃え尽きた筈だったんですが。そして、話が全く進んでないように感じるのはどうしてなのか。解せない。そしてなんで始まってしまったのか。それはね、職場で過度なストレスを受けると筆が進むからなんですね(違う違う)。これはひとえに読者様方が、感想を書いてくださったり、評価を下さったり、捜索掲示板で紹介して下さったりと、私の承認欲求モンスターを成長させてしまうからなのですよ。えぇ、ええ…!ところで。

Q.どうしてこんなことになったんですか?
A.カズマさんが新興宗教の開祖として成功したからです(成功とは・・・?
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