超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 物語が進むごとにキャラクターのインフレが進んでいくのはお約束ですが、カズマさんだけは原作同様に全然全くインフレ出来ません、アイテムとスキルが増えて小回りが利くようになるくらいかな…、悲しいね。


一話 アリウス復興対策委員会 (①)

 

――ウトナピシュティムの本船 ブリッジ カズマ

 

 

 その後。カズマが、アリウスからテレポートで逃げ帰る場所として選んだのは、当然と言うべきか、連邦捜査部シャーレではなく、蒼森ミネが保有し、現在百合園セイアが身を寄せているセーフハウス・・・、でもなく。今のところ、カズマ以外に立ち寄る者が誰もおらず、一人でゆっくりとできそうな場所。………ウトナピシュティムの本船だった。

 

 本来なら、さんざんな目に遭わされる切欠となったこの場所に、しばらくの間は戻ってきたくはなかったのだが。そんなことを考える暇もなかったというか…。ただでさえ、いっぱいいっぱいのところに、アクシズ教の現在の姿をまざまざと見せつけられてしまったこともあり…、もうなんて言うか勘弁して欲しかったのもあって。余人から邪魔をされない場所+安全な場所+引き籠もれる場所、という条件で絞ったところ、選択の余地がなかったのである。そして。

 

 

 『………本当に良かったんですか? カズマ先生。

  あんな風にアリウスから逃げ出しちゃって…。

  それに帰るのでしたら、ひとまずセイアさんに報告をしに行った方が――』

 

 

 「………………あー。まぁ、そうなんだが。

  ――あのな、アロナ」

 

 

 『はい』

 

 

 「――正直言って」

 

 

 『………はい』

 

 

 「――――スゥゥゥゥウゥウウウウウウウウウウウウウウウ………」

 

 

 アロナは、カズマ先生の様子がなんとなくおかしいと身構えて。そのカズマはというと。大きく。大きく、大きく。息を吸って。吸って、吸って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――俺はっ、もうっ、働きたくないっ…!!!

  いい加減やってられるか!! 働けば働くほど厄介事が来るとかどうなってんだ!

  もうちょっと間隔を開けてくれよ! 具体的には来年くらいに!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それは、魂からの叫びだった。堂々たる宣言だった。その言葉には万感の思いが詰まっていた。要するに職務放棄すると言い放っていた。仕事をしたくない、ずっと家にいたい、働きもせずに面白おかしく生きていきたい…。そんなカズマの心からのダメダメな、切なる願いが詰まっていた。

 ――というかおかしくないか?とカズマは主張したい。少なくとも、アクセルで暮らしていた時には、最終的にニートを目指して頑張った末に、そこそこうまくいったのだ。だからもう、そろそろいいだろう、もう十分だろう? なんで最近の俺はいつもこうなるんだ? と、頭を掻き毟りながら、おおいに嘆いて。

 

 

 『そんな情けない事を、堂々と言わないでくださぁいっ…!!(><)

  アリウスが、あんな風になるまで焚きつけたのはカズマ先生じゃないですか?!

  今更見捨てるって言うんですか…!!』

 

 

 そうはさせまじ、とアロナが怒りを示すように両腕を上げて。続けざまに。いまのいままで、今日の今日まで。困ってる人たちを助けたり、独り立ちできるようになるまでまでサポートしてきたじゃないですか! と、叱責するかのように。悲鳴のような大声をあげるも。

 

 

 「………いや本当にもう、疲れたんだよ、休みたいんだよ!

  というか! アロナには以前に言ったかもが、俺の最終目標は変わってないんだよ…!

 

   ――元の世界に帰ることだ! 

  ここの連中の面倒を見てたり、助けてたりしてたのは…。

  まぁ成り行き上、仕方なかったというか。

  命の危険があるとか、世界が滅ぶとか、そのレベルの事件が立て続けに起きてたからで…。

 

  一段落付けて、やっと自分のことに取り組めると思ったら、すぐこれだ!

  ……言っておくが、俺はこれが連中に対して不義理だとは思っちゃいねーぞ!

  しばらくは自分のことに専念したい、俺が言ってることはそんなにおかしいことかよ?!!」

 

 

 『………それは』

 

 

 即座に否定するに難しく、かといって肯定するのも難しい。カズマの心の底からの悲痛な悲鳴を聞いて。アロナは喉から飛び出しかけた言葉を一旦は引っ込めた。しかしながら、アロナは、カズマがキヴォトスに来訪してから常に側に居続けたサポートAIであり、常に何かしら言い合いになって負け続けてきた実績があって。

 今度こそはと、言い合いで、討論で勝利するために。その為だけに専用アプリを入れてみて、カズマ先生との会話ログや、生徒さんたちとの音声ログを摂り続けてきた。その、未だ使いこなせていない感がありながらも、一言も漏らさずにログを録り続ける、機械的に正確な記録参照機能によって、すぐさま反論を思いつく。

 

 

 『――だ、だったら…、だったら!

  ベアトリーチェさんとの契約の履行はどーーーするんですかっ…!!

  そもそも!

  カズマ先生の両腕に刻まれたそれを解呪するために、その為に!

  その準備のために、アリウスの生徒さんたちをあんな風にしたんじゃないんですかっ…?!

 

  なんか途中から方針変わっちゃいましたけどっ…!!

  ――途中から急に、

  いつものカズマ先生だって感心していた私の時間を返してくださぁいっ…!!』

 

 

 「はーーーーー?! 知ったこっちゃねーし?!

  それにその呪いとやらもな、元の世界に帰れさえすれば!

  その手の解呪に世界で一番長けてるバカがいるから一発で解決するんだよ!!

  あのバカを頼るのは癪だが、よくよく考えたらそれが一番早いしな!

 

  さーーー、はやくウトナピシュティムの本船を起動して、

  黒服の探索ログを参照して、俺の元のいた世界を探して帰るぞ俺は俺はぁ…!!」

 

 

 ヒャーッハハハハハッ…!と壊れ気味に、その汚らしい口調に相応しい、人間として最低極まる小物じみた悪党面をしながら、カズマは高笑いして。

 

 

 『あーそうですか、そうですか…。

  そーうーなーんーでーすーねー…』

 

 

 ――プチッ、と。アロナの中で、何かが千切れる音がして。へぇぇぇぇぇぇぇえええ? そうなんですねぇーー…、ふぅぅぅぅぅぅぅん…、と呟きながら。晴天のように輝く空色の瞳が据わっていき。気合いを入れるように、クワッと見開かれて。

 

 

 『――カズマ先生がそんな人だとは知っていましたけど!

  そんな最低な事を平気で口にする人だってのも、知ってましたけど!!

 

  ――でも残念でしたね、カズマ先生!

  私がいることで起動までは出来ても、この船の使い方はカズマ先生には分からない!!

  黒服さんに協力して貰えば出来るかもしれませんが…、今はいません!

  まぁ、連れてくれさえすればいいので、時間の問題かもしれませんが…。

  でもでも! カズマ先生が、そんな態度をとり続けるなら、私にも考えがあります!!』

 

 

 「――ハッ!

  画面から出れないポンコツAI風情がなにを『カズマ先生の神秘の制御を今すぐやめます』待て、よせおい」

 

 

 頬を膨らませてリスのような顔をしたアロナは、頭の上に浮かぶヘイローを、その精神状態を顕すかのようなトゲトゲ状態にして…。

 アロナは激怒した。必ず、この邪知暴虐の化身を、カズマ先生を分からせねばならぬと決意した。よって、一つ一つ、今のカズマ先生に、致命打となるように手を尽くしていく。

 

 

 『――未来観測機関「讖(しん)MkXIII-2号機」との接続状態を解除。

  それに伴い、サトウカズマの神秘ツリー「未来予知」との接続状態を解除。

  キヴォトス外の神秘”■■■■神”との接続制限を解除しています…。

  サトウカズマへの神秘の収束及び、暴走状態の兆候を確認…』

 

 

 「――待って?!!! 本当に待って?!!!」

 

 

 『……ふふふふふ? 

  散々言い負かして馬鹿にしてきたAIにやり込められるのって、どんな気持ちですか?

 

   ――カズマ先生は。

  あの日から私がいないと生きるのが難しい体になっちゃったのを忘れたんですか…?

  さぁ、それが分かったら、いつまでも拗ねてないで今後の対策を考えるんですよぉ…!!』

 

 

 「てめー卑怯だぞ!」

 

 

 『あーあー、実に。耳に心地よいですねぇ…。

  敗者の泣き言が、こんなにも心を満たすなんて知りませんでしたよぉ…

  ――えっとぉ、なんでしたっけ、カズマ先生?

  私の助けがないと、夜も満足に寝れない、佐藤カズマ先生…?』

 

 

 「――こ、この野郎…」

 

 

 ………そうして。それ以上の反論がカズマには思いつかず…。ある意味で、もっともらしいカズマの自己主張は、そのロジックを一番身近で浴びせられ続けてきた、シッテムの箱のサポートAIによって封殺されてしまい…、仕方なく、本当に仕方なく、カズマは今後のことについて。既に考えていたことに関して、いやいやではあるが、頭を回すことにした。

 

 

 「………アズサにはとりあえず、戦闘対策に関しての話しかしてなかったけど。

  それよりも優先しないといけない、一番最初の、一番時間の掛かる作業があるから、

  そのことに関して考えるのも憂鬱だから、しばらく何もしたくなったんだよ…」

 

 

 くっそ後で覚えてろよアロナ…、などとぶちぶち言いつつも、カズマは、本当の本当に考えたくなかったことに関して、手を伸ばし始めて。アロナはそんなカズマの様子を見て、良かったと微笑み。

 

 

 『………本当にカズマ先生は、口も態度も最低なのに、

  ちゃんと考えないといけないことは考えてるんですね…。

  ――というか、憂鬱になるほど大変なことって、なんですか…?』

 

 

 「アロナお前な…。

  なんで一番、俺の側にいたのに、それが分からないんだよ…。

  手順も、段取りも、進め方も、ある意味でアリウスは。

  一番しんどい、一番時間の掛かった連中と同じ…、いいや。

  未だに保たないといけない、アリウスの秘匿性を考えたら、現状はもっと酷いぞ?」

 

 

 それは謎かけのような形をした問い掛けで。しかしカズマとしては、アロナに全ての答えを与えたつもりで。ちょっと考えたら分かるだろ?という視線をアロナに向けると、そこから黙り込んでしまい。

 

 

 『………………』

 

 

 「………………」

 

 

 しばらくの間、考えを整理するような無言の時間が二人の間に流れて。アロナの中で。これからどうすべきなのか、これまでどうしてきたのか、その為に取った手段はなんだったのか、という今までの足跡が、流れるように思い出されていって。

 

 

 『………………あ』

 

 

 何かに気がついた、アロナの顔から、血の気が引いていき。

 

 

 「………………」

 

 

 『あれ…? もしかして、そういうことなんですか…?』

 

 

 なぜ、カズマが穏便に事を済まそうとしていたのか。なぜ、元の世界に帰る段取りを付けようとしていたのか。その思惑が上手くいかなくなって、なぜ。あれほど弱気になっていたのかを理解したアロナは、言葉少なにカズマに問いかけて。

 

 

 「――そういうことだよ」

 

 

 ブリッジに備え付けられた机に頬杖をついて、ぶすっとした表情になったカズマは、どうすりゃいいんだよと呟きながら、途方に暮れたように天を仰ぐ。

 ………アリウス自治区は、アリウスという土地は。目を覆いたくなるような廃墟と成り果てた。聖園ミカの神秘、流星群によって。これをどうすればいいのか、という部分がまず問題なのだ…。衣食住を整えるところから始めるとしても、だ…。

 

 路地裏を占領していった時は良かった。いくらでも人手が沸いてきた。商売に無理矢理つなげられるように暗躍することも可能だった。社会的な繋がりが、土地の繋がりがあった。復興も、開発も、いくらでも融通が利いたのだ。

 ところがアリウスはどうだ。過去に取ることが出来た、あらゆる手段を取ることが出来ない…、とは言わないが、非常に難しい。その為の人員を要求すると言うことは、カズマが乗り込まねばらない、トリニティ総合学園とゲヘナ学園へ正面から喧嘩を売るような盤面へ、否応なく巻き込んでいくことを意味する。

 ……だってそうだろう? 武器、人員、練度…、言い出せばきりがないが、なにひとつとして勝っていないアリウスに、勝機があるとするのならば、それは、未だに”知られていない”ことにある。その知られていない状態を保つには、秘匿性を保つには。アリウスに関わらせるとカズマが決めた相手が、秘密を守ってくれる程度には、一定の信頼がおける人物でなければならず、その上で。カズマの今後の事情を勘案した上で、協力して貰わなければならないという高すぎるハードルが存在していて…。

 

 いやいやいや。キヴォトスのどこを探せば、”三大マンモス校の二つに。戦争を仕掛けるための準備に付き合ってくれ、ボコボコに負けた上で矯正局送りになるかもしれないけど”と聞かされて、のこのこ付いてきてくれるバカがいると言うのだ…。よしんば付いてきてくれたとしても…。いやよそう、なんか虚しくなってきた。心当たりはある。誠心誠意頼み込めば、付いてきてくれそうな人物というか。仲間には、それなりに心当たりがカズマにはある。あるけどさぁ…。

 

 

 「――で、巻き込んでいいと思うか…?」

 

 

 『でも、アリウス単体だとどうにもならなくて…』

 

 

 「そうだな、このままだと勝ち目はゼロだ。

  俺がなりふり構わずに、戦力と戦場を整えても、5分に届くかどうかも怪しいって感じだ。」

 

 

 『5分に見えるところまで持ってはいけるんですね…』

 

 

 「――最初だけはな。

  まー、ヒナかツルギが本気出し始めたあたりから、負けるんじゃないか…?」     

 

 

 どうにかするとしたら、だ。孤立させて、神秘を剥がして、攻撃が通るような手段を確立させるということになるんだろうが。聖園ミカと戦ってみたカズマからしてみると、その手順を、お行儀良く通せるとは思えない。なにかもっと短縮された、ブレイクスルーが必要だ。

 それこそ銃弾の一発一発が、対象の神秘を無視し、防御性能を貫通するような、規格外の代物を作れるような知り合いでもいない限り不可能だ。カズマにそんな知り合いは…、いますね…、残念なことに。そういえば、カズマがアリウスの支配者になれば。全力でバックアップするとか言ってた奴が、そういうのを造るのが一番得意じゃなかったっけと。いろいろと貰ってきた品々を思い出し、カズマの中での勝算がどんどん5分に近づいていく。おっと、もう考えるも嫌になってきましたよ…。

 

 

 「やっぱ、もう何もかも放り出して逃げるか…?」

 

 

 アロナによって、文字通りの意味で命綱を握られているはずのカズマが、遠い目をしながら。負ければ呪いでやられるし、勝てたとしてもその後どうしたらいいんだよとボヤきつつ、全力で逃げ出す算段を立て始めた様子を見て。アロナは大いに慌て。

 

 

 『――ちょちょちょちょ…、ちょっと待って下さいカズマ先生!

  え、ええっとですね、この前、アリウスに行く前の!

  なんだかよく分からないうちに未来視が発生してしまったときのことを覚えてますか…?

  一度目のほうではなく、二度目の。

  ただ眠ってしまっただけで視えたという、百合園セイアさんに極めて近しい未来視のことを』

 

 

 「――……シッテムの箱の電源切ってたから、制御できないようになった時のことだろ・・・?

  思い出したくもないけど、しっかり覚えてるよ。

  今その話をするってことは、なにか分かったことでもあるのか、アロナ?」

 

 

 『えっと、まだ検証が出来ていないので確実な話ではないんですけど…。

  未来視の、本来の神秘の持ち主ではないカズマ先生が。

  人物描写の精度の高さと、

  情報の密度の多さを兼ね備えた莫大な計算を、どうしてお一人で出来たのか。

 

  そして、なぜそんなにも未来視が、カズマ先生に馴染んでしまったのか。

  もしかしたら、そうなんじゃないかって話なんですけれど…』

 

 

 「――また厄ネタじゃないだろうな…」

 

 

 『厄ネタ…になる可能性もありますけれど。

  うまくいけば、カズマ先生の、道を切り開けるかもしれない話です。

  聞いて貰えますか…?』

 

 

 「………とりあえず、説明してみてくれよ」

 

 

 そしてアロナは語った。カズマがシッテムの箱の電源を切ってしまったがために言いそびれていた、ウトナピシュティムの本船を使って、カズマの元居た世界を探してくれていた黒服による、解析結果が書かれたそのメモの内容を。………そもそもの話として。この世界から、キヴォトスからどうやって、カズマ先生の世界を探し出す事が出来たのかという試行錯誤からの話を。      

 まず始めに行われたのが、キヴォトスという世界を、そこに住まう住人たちを、生徒たちを、世相を、情勢を、成り立ちを、経済状況を、ひしめく大企業を、裏路地を、学園全てを、その基幹人物たちを…、あらゆる情報を入力するところから始まったのだという。

 

 その上で、多次元解釈に従い。過去から未来へ向けて細かい分岐を繰り返して、適合しなければ遡り、遡り、遡って。分岐の系統図上に存在が無いことを確認できるまで確認して。世界の次元を増やしていく。少しずつ、少しずつ。

 3次元、4次元、5次元、………、11次元、15次元。いくつもいくつも同時並行で進めていって、ようやくその可能性に至ったときに、次元の向こうへの通路形成と内部調査が始まって。条件に完全合致する可能性が著しく高い世界群を発見したところで、演算上の限界を迎えたのだという。………これは、ウトナピシュティムの本船が示し続けてきた性能を考えると明確な異常事態であり、その程度で終わってしまうような演算的限界は無いはずなのだが、なぜかそこでピタリと止まってしまって。

 

 ――原因不明のそれを除けば、これが何を意味するのかと言えば、カズマの世界を探索する傍らで、余りにも莫大で、天文学的な回数の繰り返しを。未来と過去に向けたキヴォトスという世界の演算を行っていたと言うことに繋がり。それは即ち、ウトナピシュティムの本船という存在そのものが、キヴォトスの世界を、未来を、高精度で占うことが出来る演算機と化していたことを意味するものであり。

 

 

 『”――あくまでも、これは副次的な成果であって、

   私が求めるものには到達し得ませんでした、残念なことに。

   おそらくは、私に、その資格がないということなのでしょう。

   しかし、私の推測が正しければ、その時が来たとき、貴方だけがこれを十全に扱える。

   貴方には資格がある。それは貴方だけが持つ、その箱が鍵です。”』

 

 

 ふぅ、と。そこそこ長めのメッセージを、なんとかアロナは読み終えて。

 

 

 「………………」

 

 

 『………………』

 

 

 二人の間に沈黙が走る。カズマは口に手を当て、右目を瞑り、与えられた情報を整理するのに忙しく。アロナはそんなカズマの様子を見ながら、これでなんとか説得できないでしょうかと、ハラハラした面持ちで見守っていて。ふと気が付く。………あ、と黒服のメモの終わりに少し注釈が書いてあるのを見つけて反射的に。

 

 

 『”おそらくですが、カズマ先生なら、どんな曖昧な情報でも。

   一定の入力で、どういった未来に繋がるのかという回答を得ることが出来るはずです。

   遥かなる古代の超兵器ゆえに、安定した動作をするのかは未知数ですが…、

   この船の所有者となったカズマ先生になら、それを可能に出来るでしょう…。

 

  ――拙作で申し訳ありませんが、その為の道具を使いやすくしておきました。

  その名を――”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『――【Sim Κιβωτός】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマは、どこか聞き覚えのあるその響きを、懐かしく感じながら、再び。破滅の未来に抗うために、働き続けないといけない予感に震え、ちょっと泣きそうになっていた…。

 




 エデン条約編を始めるにあたって、物語の要素として重要なのは何でしょうか。そう、俯瞰面して高みから、文字通りお高く留まって見物面しながら絶望の同意を求めてくる、百合園セイアさんです。とはいえ、本作の苦悩から一定の解放をされてはっちゃけた彼女では、鬱々とした未来への絶望と切望が込められた、ねっとりした感情表現ができません。


Q.じゃあ、誰がその可哀そうな配役を務めるんですか?
A.そうだね…、可哀そうにすればするほど面白くなる人だね…、仕方ないね…。
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