超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 掛け合いが長くなり過ぎたので分割でござる。
いやーそれにしても、青髪不思議枠は相方感があって安心しますねぇ。どんな形でもいいので説得できないと、本当にカズマさんは動こうとしませんから…。


二話 アリウス復興対策委員会 (②)

 

――ウトナピシュティムの本船 ブリッジ カズマ

 

 

 『――ど、どうですか、カズマ先生!』

 

 

 黒服からのメッセージを読み終わったアロナが、自信満々に、ふんすっ、ふんすっ、と鼻息荒くカズマに問いかけてきて。………しかしながら、カズマの経験上、青色の髪をした不思議な能力を持っている相方が、自信満々の表情を見せてくる感じの時は。すでに何かしら問題があるか、問題が発生した後だったりするもので。いやいや待て待てちょっと待て、と少し思いとどまって。

 

 

 「………うーーん、すごい、話が本当なら確かにすごいんだけどさ。

  それって、黒服がそこまで出来るんなら。

  アロナが俺の世界探してくれれば、もう全部解決なんじゃないのか…???」

 

 

 黒服からの”カズマ先生になら、それを可能に出来る”という部分だけ都合よく受け取ったカズマは、まるで世界の真実に気がついたような顔をして。実際のところ、どこまで出来るんだ? といった顔でアロナに問いかけるも。

 

 

 『――わ、私にそんなこと出来ませんよぉ…。』

 

 

 先程までの自信満々の意気込みはどこへとやらといった感じで、アロナはへにょへにょとした、自信のなさそうな表情を浮かべる。

 

 

 「……………それっておかしくないか?

  アロナお前、都市機能中枢部のサンクトゥムタワーを一瞬で掌握できるのに、

  なんでこれは出来ないんだよ…?」

 

 

 『………そう言われるとそんな気がしてきました…、なんで出来ないんでしょう…?』

 

 

 シッテムの箱の契約者と、そのシッテムの箱在住のサポートAIは、二人そろって首をかしげる。カズマはなんでお前が一番不思議がってるんだよといいたげに、アロナは何故それが出来ないのか、さっぱりわからないといった顔をして。

 

 

 「………………………」

 

 

 『………………………』

 

 

 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れて。今この場に、カズマとアロナ以外がいないことを考えると、これは結論が出ないやつだなとカズマはさっさと切り捨てて。アロナが先ほどまで読み上げていた、黒服からのメッセージが、その元々のデータが入っていたらしい、ブリッジに設置された特殊なコンソールに向かい。その画面に表示された、理解できそうもないファイル群の片隅に、それを見つける。

 

 

 【Sim Κιβωτός】

 

 

 ………気のせいかもしれないが、猛烈に嫌な予感が…、改めてパソコン上でこのタイトルを見た瞬間に、どうやっても後悔をする未来が見えるような気がして。なんだかどこかで見た覚えのある、そのタイトルロゴを見た瞬間に、何故かそう思えてしまう。具体的にいうと、火災、竜巻、大地震、怪獣出現、異星人の侵略攻撃、等の災害がランダムで発生しそうなシミュレーションゲームに見えるのだ。………うーん、普通に使いたくない。製作者は、というか黒服はもしかして嫌がらせの目的でこんなタイトルにしていったのだろうか?

 

 

 「………アロナさ、やっぱこれ使うのは止めにしないか?」

 

 

 『ぇえっ…?! ど、どうしてですか??

  これを使えば、今カズマ先生が抱えてる問題が全部解決するかもしれないんですよ?!

  リオさんと、ヒマリさんを同時に説得した時も、そうしてたじゃないですか…!!』

 

 

 「……………うーーーん。

  いや、まぁそうなんだが。今までの、俺の経験則的に――」

 

 

 いいか、アロナ。とカズマは途方に暮れたような顔をして。

 

 

 「この手の道具とか、神秘に頼った結果…。

  いまのいままで、碌でもない目にあった記憶しか、ないわけなんだが…」

 

 

 例えば。カズマがアクセルの街の貧乏店主の店で試したことのある、『願いが叶うチョーカー』とやらは、三日以内に自力で願いを叶えなければ首が物理的に締まって死んじゃうので、これを買った人は皆必死で願いを叶えるために頑張ります!とかいう商品だったから、色々あって普通に死んだり。『異世界に行くことの出来る転移の魔道具』なんかは、使った後には記憶が残らない、という使用前提があるせいで本当に効果があったのかどうかさえ判断できない上に、その使用後に気が付いたら有り金が全部無くなっていたなんて被害にあったりもしていて。そして、キヴォトスに来てからも、その手の失敗談には事欠かないという有様なのだ。

 

 もはや因縁めいたものさえ感じる『未来視』、そして『ウトナピシュティムの本船』。未だ推測の域を出ないことだが、アロナが暴走していた時に、これらが関わっていたことを考えると、話が更に面倒になる予感しかしないのである。然もあらん。今日この日までの間で、碌でもない未来ばかり、見せつけられ続けてきた経験以外がないカズマとしては、必要以上に慎重にならざるを得ない。

 ………最悪の場合を考えると。未来視の神秘を持つセイアが、あそこまで頑なな、厭世的な人格形成を経てきたであろう人生の経験値を、そっくりそのまま味合わされそうな…。キヴォトス路地裏大祭の時に、セイアの能力について思いを馳せた時の想像通り、もしくはそれ以上のものが視えてしまうかもしれないという懸念があって。

 

 ――未来が視えてしまえば、抗いようのない絶望が襲い掛かってくると分かっていながら、未来に祈る事すら許されない。というのとは、これがあくまでもシミュレーションである以上、そこまで気にするほどのことでも、ないのかもしれないのだが…。

 

 

 『それは…、まぁ、そうかもしれませんが…。

  でもそのお陰で。

  ――備えることができたからこそ、今日のカズマ先生があるんじゃないですか?』

 

 

 「………結果的にそうだったってだけだろ?

  とはいえ、だ――」

 

 

 ここに来て、天童アリス/百合園セイアを巡る騒乱と関わり始めてから、今後の基準としてきた未来視という規格外性能/能力が、足枷となり二人の思考を止めてしまい。そしてそんな二人の目の前には、まるで使ってくださいと言わんばかりに、あくまでも精緻なシミュレート能力を発揮するだけの機構が存在していて。

 

 ………ここまでくると、誰かが意図的にこうなるように仕組んだ流れのように思えてくる。あまりにも出来過ぎている。元の世界に帰れないという結果も、お誂え向きに道具だけがしっかり用意されているという状況も。……そもそも、アロナの謎の暴走に関しては未だに全容を解明できていないのだ。このシミュレーションを黒服が作ったのは、話の前後からして、アロナのその暴走が起こる前だから、この件の背後に黒服がいるとは考えにくい。

 では。その誰かとは誰なのか。この古代のオーパーツに触れた人間はごくごく少人数に限られる。カズマ、黒服、アロナ、イズナ。たったそれだけだ。見事なまでに身内しかいない。つまり疑わしい者が誰一人としていない…。敢えて容疑者を上げるとするのならば、暴走したアロナ当人になるのだろうが。普段からぽやぽやとした空気を振りまいている、このゆるキャラ系AIに、そんなことが出来るとはカズマには思えず。

 

 

 「………全然わからん」

 

 

 キヴォトスに来てからというものの、こういった分野に関しては、カズマよりも頭の回る、頼れる仲間に相談してきた回数のほうが多く、いったん持ち帰って話を聞いてみる以上の解決策はなさそうだなと、いったん全部棚上げにして。いま一番大事な点を絞る。要するに、これを使うか、使わないかという点について。

 

 

 「とりあえず、原因不明なことをいつまでも放置してても仕方ないし…。

  ここでウダウダと足踏みしてても仕方ないからな…」

 

 

 『………使ってみますか?』

 

 

 「アロナの不思議暴走の原因が分かる切っ掛けになるかもしれないし…。

  ……問題なさそうだったら、今後のことも考えると。

  本船に接続する度に、毎回アロナの暴走の危険性を考えるのはきつい。

 

   俺が未来視の神秘やら、レジーナ神の加護を持っている以上…、

  アロナに制御状態を保ってもらわないと困るんだよな。

  ――要するに」

 

 

 本当はこんな博打前提のことなんかしたくはないんだが、とカズマは前置きして。

 

 

 「アロナ、お前に俺のスキルや加護を、制御不能なまま使われても困るから、

  これで練習しろ練習を」

 

 

 『………カズマ先生、言ってることが余りにも雑すぎません…??』

 

 

 アロナは呆れたような視線でカズマ先生を見やるも。カズマはひどく疲れたような顔をして。

 

 

 「一応、問題なく使えるだろうな、という根拠はある」

 

 

 『………聞きましょう』

 

 

 ゲマトリアとのことは覚えてるよな?、とカズマは思い出すのも嫌そうな顔をしつつ、ゴルコンダ&デカルコマニーと会話した時のことを思い出しながら。

 

 

 「俺はゲマトリアから、最大限の協力とやらを得るために。

  ……要求通り、アリウスの支配者になったわけだ…。

  で、あの2人がアリウスで話しかけてきた時、こうも言ってただろ?

 

  ”かねてよりの取り決めにより、”ゲマトリア”の決定を、お伝えしなければなりません。”

 

  ってな…。

  つまりだ、黒服の作っていったこれは、サトウカズマ個人への最大限の協力の為に。

  あらかじめ、そうなることを見越して置いていったもの――」

 

 

 『――そうなんですね…!』

 

 

 「かもしれない」

 

 

 『納得しかけたのに、一気に不安になりました…』

 

 

 カズマの一応は筋が通っていそうな推論に、アロナは納得しかけるも、直後にはしごを外してくるカズマ先生に向けて、アロナは頬を膨らませて不服そうな視線を向ける。

 

 

 「………いやでも実際、考えにくいだろ?

  今更、時限爆弾みたいなものを残していく意味なんかないし…。

 

  以前から”ゲマトリア”とは、協力関係にあるわけで…、

  今まであいつらが作ったものは。全部、なにかしらの嫌がらせ要素もないような、

  いわゆる”お役立ちアイテム”ばかりだったからな…」

 

 

 『………………分かりました。そういうことなら、やってみてもいいかもしれませんね。

  あっ、でも。あらかじめカズマ先生に言っておきますけれど…。

  結果が良いか悪いかなんていうのは、どうなるか分かりませんし…、

 

   このシミュレーションは、

  カズマ先生の心情が自動で反映されたものになるって、注意書きに書かれていますから――』

 

 

 「分かってた分かったって…

  どうせシミュレーションだしな、いいから物は試しだ、やってみてくれよ」

 

 

 『………じゃ、じゃあ、いきますよ?』

 

 

 「――おう」

 

 

 『システムリンク――、未来観測機関「讖(しん)MkXIII-2号機」

  カズマ先生が持つ神秘ツリー、未来予知と接続します…完了…!!

  キヴォトス外の神秘、”■■■■神”との接続制限を実行します…完了…!!

 

  ウトナピシュティムの本船の機関部、制限最大出力解除…、機関最大…!

  シミュレーション演算部、最大励起を確認…。

 

  ――――最速最短で、いけますっ…!!』

 

 

 暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――??? 

 

 

 「いつもいつも…。

  ”俺がやる気が出るなにがしかを用意しとけよ…?”って言ってましたよね、カズマ先生…。

  あの時の私には分かりませんでしたが、今なら理解できます」

 

 

 「――貴方が公言してはばからない、無責任さと権利の主張。

  それなのに、貴方の傍には、貴方の選択を待つ、たくさんの生徒が集まっていました。」

 

 

 「それが意味する、貴方の足跡を――」

 

 

 「みんな、知っていましたから。

  貴方は…、貴方が。必要以上に関わってしまったのなら、きっと…、だから。先生…?」

 

 

 「――――信じています、貴方を」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――え?」

 

 

 なんだ、なにが見えた? 今のは誰だ。何もかもが消えて、誰かの姿が見えて、あれ? 俺は何をしていたんだっけ…? ええっと、そうだ、アロナとウトナピシュティムの本船でシミュレーションを…。と、そこまで考えて。ようやくカズマの目の焦点が、目の前にあるコンソールに定まっていき、それを視る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【▶【Sim Κιβωτός】 - START -】

 

 【キヴォトスの結末を演算しています、しばらくお待ちください…。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

                    

――アリウス自治区 ■■■■の都 ■■■■■■■■

 

 

 「――始める前に、教えてください。ミカさん…、いえ。いいえ。カズマ先生」

 

 

 そこには、悲壮な決意を固めざるを得なかった、一人の少女が立っていた。背後に、白翼と黒翼の軍団を従えて。総指揮官である少女の号令とともに、それらはいつでも動ける状態にあって。

 

 

 「どうして」

 

 「どうして、なにもかもから追われるような道を、お選びになったのですか?」

 

 「そんなに嫌われるようなことを、私たちはしたでしょうか?」

 

 

 ひどく疲れた顔をしていた、何もかもを失った顔をしていた。さきほどまでの、奪われた何もかもの報復のためにと、怒りに満ちていた感情は、消え失せて。何もかもから裏切られ、いままで自分が死ぬ想いで、必死にやってきたことのすべてを否定されて。それでも先頭に立って進まねばならないという、絶望の底にある悲哀に満ちていて。

 

 

 「それとも」

 

 「そんなに好かれるような絆を、彼女たちと築いたからでしょうか?」

 

 「………先生のお噂はかねがね伺っております。

  実際に関わりを持ったことで思ったこともあります。

  いつも面倒くさそうなお顔で、でも困っている誰かから求められれば、

  なんとかしてしまう方であると、何度も何度も耳にしましたし、見させていただきました」

 

 「私も、助けていただいたこともありました。ですが――」

 

 「――先生がお選びになった、アリウスという道が。

  何をもたらすか分かっていると、おっしゃっておりましたよね…

  敗けることなんてのは、最初から分かっていると、それがここだと」

 

 

 もはや言葉に意味がないことが分かっていても。もはや取り返しのつかない場所に来てしまったのだとしても。言わざるを得なかった。いいや。もうここで、この瞬間にしか、この言葉を。弱音を吐く機会は、永遠に訪れないだろうと理解していたからかもしれない。対等な相手に、話を聞いてもらえる最期の機会になるかもしれないのだ。だから、それは遺言に似ていた。

 

 

 「ミカさんも、セイアさんも、無事なのは分かりました。周知されました。

  でも。なら止めましょうと、もういいではありませんかと、唱える私の声は。

  通りませんでした。だからこうなってしまいました」

 

 「こうなってしまうことが…」  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それが――、それが分かっていながら。――どうして!!!

  どうして、こうなるまで放っておいたのかを!!

  納得できるだけの理由を、事情を、教えて頂きたいのです…!!!!」

 

 

 「………………」

 

 

 少女に相対する者の背後には、AとQを簡易的に組み合わせた象徴(シンボル)が刻まれた巨大な旗が、幾つも幾つもたなびき、その御旗の元に、青と白、金を基調とした聖装の信徒たちが、一様にガスマスクを装着して、臨戦態勢を取って。加えて、どこからともなく顕現する、ユスティナ聖徒会が、次々と、自発的にその象徴(シンボル)が刻まれた巨大な旗を掲げて、掲げて、掲げて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――BADEND #02 「怠惰なる終幕」

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………」

 

 

 カズマは目が死んでいた。

 

 

 『……………』

 

 

 そのサポートAIたる、はるかなるこだいのぎじゅつ!の塊である筈のアロナも目が死んでいた。控えめに言って、腐った鯛の目だった。

 

 

 「――――………スーーーーーッ、あのさ。アロナ」

 

 

 『はい』

 

 

 「俺のこと虐めて楽しい…?」

 

 

 『ちっ、ちがっ…!!

  そ、そもそも!! カズマ先生が言いだしたことじゃないですか?!!

  ”お前に俺のスキルや加護を、制御不能なまま使われても困るから、

   これで練習しろ練習を”って!!』

 

 

 「――俺は練習しろとは言ったけど、

  最悪になった場合の未来を演算して見ろとは一言も言ってねーよ!!」

  

 

 『あっ…! 反則!反則です!

  わたし、試す前に言質取りましたよね…?!

  ”結果が良いか悪いかなんていうのは、どうなるか分かりませんし…、

   このシミュレーションは、

   カズマ先生の心情が自動で反映されたものになるって、

   注意書きに書かれていますから”って!!

  

  そしたらカズマ先生、”いいから物は試しだ”って言ったじゃないですか嘘つき!!』

 

 

 シッテムの箱の契約者と、そのシッテムの箱在住のサポートAIは、口汚く、相手に何とかして責任を擦り付けようと罵りあって。

 

 

 「ほら見ろ! 物は試しだ練習しろしか言ってませーんー!

  だーかーら、お前は詰めが甘いんだよアロナぁ…!

  

  ――というわけで、アロナは俺のことを精神的に追い詰めることが大好きな、

  極悪AIだと言うことが分かったなぁ…!

  この高性能ドSが…!!

  お前の人格の元になった、人間の顔を拝んでみたいもんだぜ!!」

 

 

 『あっ…! 言ってはいけないことを、言ってはいけないことを言いましたね!!

  わたしの多少、す、少し粗相する能力や、愛らしい容姿はともかく!

  ――その基幹部分に口を出しましたね!! もう許しません!!!』

 

 

 「はっはー…!! 許さないからなんだ?

  四角い画面の中から出てこれないポンコツAI風情に何が出来るってんだ…?!

  アロナ、お前がいくら規格外だからってなぁ………あれ?」

 

 

 場末の酒場で交わされるような、責任の押し付け合戦の形をとった罵り合いが、本題から外れて人格攻撃が始まった辺りで。カズマは気が付くと、壁がぶち抜かれ、椅子や机が乱雑に散らばる教室のような場所に、建物の中にいることに気が付き。目の前に、『私はとても怒っています!!』ということを示すように、ヘイローの形をイガイガに変形させた、満面の笑みをしたアロナが立っていて。

 

 

 「……………(ダラダラダラダラ」

 

 

 「……………(ニコニコニコニコ」

 

 

 人は。口で勝てないとなると次はどうするのだろうか。古代からそれは。大河のようにうねる、連綿と続いてきた、大いなる歴史がそれを証明してきた。一人以上の人間がその場にいて、言葉だけではどうにもならないような、譲れないものが発生した時、どうなるのか。

 それは、冷や汗が止まらなくなったカズマと、満面の笑みの筈なのに、笑っているようにはまったく見えないアロナの姿が、すべてを示していて。二人は、しばしの間、無言で向き合い。

 

 

 「…………と、ところでアロナ。ア、アロナさん?

  俺たちって、さ。

  こんな下らない言い争いをしているよりも、今後の建設的な話をしたほうが、いいよな?」

 

 

 「………(ニコニコ」

 

 

 「よ、よせ…、な?

  その片手に握り締めてる傘でどうするつもりだ…? ま、待て。落ち着け。

  アロナはサポートAIだろ? ロボット三原則を思い出せ、いや関係ないのか?

 

  待て待て待て! ジリジリ間合いを詰めるんじゃない!!

  おっ、俺たちには分かりあうために言葉がある…そうだろ?」

 

 

 そして、今更そんな上っ面だけの言葉が、アロナの心に届くはずもなく。

 

 

 「……………(ジリッ」

 

 

 「……………(ダッ!」

 

 

 「逃がしませんっ――!」

 

 

 シッテムの箱の契約者と、そのシッテムの箱在住のサポートAIは、しばらくの間、不思議な校舎の中をどたばたと駆け巡り、しばらくして地の利を知り尽くしたアロナによって、カズマは普通に追い詰められた。

 

 

 「―――ハァ、ハァ…!!

  こ、これが、シッテムの箱のえーあいのちからですっ…!!!(ジリジリジリッ」

 

 

 「ちくしょう…、チクショウ!

  キヴォトスの連中のフィジカルの強さは分かってたけど、

  見た目幼女のアロナからさえ逃げきれないとかどうなってんだ…!!

 

  この世界には、か弱い女なんかひとっこ一人いないじゃねーか!」

  

 

 「ふっふーん、それがカズマ先生の負け惜しみってことでいいですか…?

  今なら、ごめんなさいしたら許してあげてもいいですよ…?」

 

 

 「ちょっと前から思ってたが、妙な口上を覚えやがって…。

  誰だ、俺のチョロ可愛いアロナをこんなにしたやつは…!」

 

 

 「カズマ先生それ本気で言ってます…?

  ――というか、私はチョロくないですってば…!

  そ、それに、俺の、とか、可愛いだなんてもう…。

  本当の事をいっても…、ゆ、許して上げませ――」

 

 

 「――隙アリッ…!! スティール…!!」

 

 

 「あっ…!」

 

 

 「――あばよっ…!」

 

 

 「ダ、ダメダメダメ! ここでそれを使うのは本当にダメですぅ…!!」

 

 

 カズマは【逃走】スキルを使い、アロナを巻くことになんとか成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ここまで来れば、あとは物陰にでも隠れて、【隠蔽】使っとけば何とかなりそうだな…。

  ……っと、その前に、アロナから奪ったモノの確認でもしとくか…」

 

 

 そういえば俺は何を手に入れたんだ?と、物陰に隠れてしゃがみ込み、掌に固い感触を返してくるなにかを、目の辺りまで持ち上げる。それは、水色の結晶、とでも呼ぶべきもので。なんだこれ?と思いながら、それを四方八方から覗き込んでみるも、結晶に差し込む光の確度が変わるたびに、煌めきを放つだけで。綺麗な石だな、くらいの感想しか湧いてこず、カズマにその手の鑑定眼があるわけでもないので、さっぱり見当もつかなくて。

 

 

 「………いつもならだいたいパンツなんだが、なんで水色の結晶?みたいなやつなんだ?

  アロナの奴まさか…、いやいやそんな。駄女神じゃあるまいし」

 

 

 駄女神にスティールを掛けた時には、パンツではなく、水の女神の象徴を示す、神器たる羽衣を奪い取れたので、こいつ履いてないのか、とか普通にドン引きしたカズマであったのだが。……流石にあんな無邪気な笑顔を見せる幼女なサポートAIが、そこまで進んだ倫理観を持ってるとは思わず、すぐさま否定する。

 まぁそれにしたって、よく分からないものを奪ってしまったなと、その結晶体をなんとなしに指先でつんつんと、つついていると。

 

 

  『――――が、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生に贈ったもの。

   友愛は親愛へ、親愛が辿り着いた果てに、彼女は決断した』

 

 

 何かを解説するようなメッセージウィンドウが立ち上がって。なんだこれ、データ上に付けられた付箋紙かなにかか?と結晶をよく見ようと再度のぞき込むと『黄色い折り紙に”いつもありがとう、先生”と書いて、青い折鶴を折っていく様子を見せる』華奢で端麗な、誰かの指先の動きが見えていて。何の映像なのかカズマにはさっぱり理解できず、うん?と思って立ち上がり。キョロキョロと、周囲を一通り警戒してアロナが追いかけてこないことを確認して。再び物陰に隠れてから。

 

 

 「………………なんだこれ?」

 

 

 繰り返し、繰り返される、おそらくは女生徒の腕から先の動きを見ても、何のことだかさっぱりわからず。いや分かるには分かる。この折り紙に関連する人物の映像なんだろうなということくらいは、流石に。加えて、キヴォトスにおける工学分野はカズマが思い出せる限りの現在社会よりも、遥かに発展しているので、こういった録画装置のようなものがあるんじゃないかということについても、一定の納得はいく。分からないのは、なんでそんなものをアロナが持っているのかということで。

 

 ………カズマが、かつてアクセルの街で親切な先輩から、一番最初に取得したスキル「窃盗(スティール)」は、スキル使用者の幸運値による補正が重要なものであり。幸運値にさえ自信があれば、相手の一番大事な宝物を、高い確率で奪い取れる壊れスキルとなっている…。レベル差が大きいとそもそも発動しなかったりするのだが、魔王城突入のために、レベルはカンストさせていたので、その辺は考えなくていい。

 

 ――まぁ、なんていうかカズマの経験上、これを女性ばっかりに使ってきて奪い取れたのは大体、その時に履いてる女性用パンツばかりであり…、そうでなかった場合は、そもそもそいつがパンツを履いていないか、そんなこととは比べ物にならないくらい、大事なものを持っていた場合に限られるわけで。

 

 だからこそ分からない、これはいったいなんなんだ?と、いい加減同じ映像が続くのに飽きてきたカズマが、結晶をつんつんとつつきだすと、映像が切り替わるように場所が変わって。そこは、連邦捜査部シャーレの、カズマの執務室に当たる場所で――

 

 

 「………………なんで?」

 

 

 「――――フンッ…!!!」

 

 

 暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――??? 

 

 

 「………………………(顔を赤く染めて睨んでいる」

 

 

 「――デリカシー…、デリカシーがないです、カズマ先生は…」

 

 

 「……私は怒りました。

  そういえば、カズマ先生はこうも言ってましたよね…。

  ”――全力で勝ちに行くとき。

   相手に実力で劣るなら、それ以外のところで有利に事を進めればいい”って」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――…っ! ――せいっ…!」

 

 

 なんだ? 俺はまだ眠いんだよ。

 

 

 「――先生っ…! ――マ先生っ…」

 

 

 ずいぶんと長い目覚ましだな。

 

 

 「――カズマ先生っ…!!!」

 

 

 ん?なんか呼ばれてる?と思ったのと同時、まるで釣り竿によって海上に引き上げられるような浮遊感を感じ、覚醒する。

 

 

 『――カズマ先生、お願いですから起きてくださぁい…!

  ぁあ、どうしようどうしよう、ちょっと強く振り下ろしすぎちゃったかも…』

 

 

 ウトナピシュティムの本船。アリウスから逃げ込んだ先。……そういや俺は、アロナと今後のことに関して話し合いをしていて、いろいろうまくいかなくて、あれ?それからどうしたんだっけ…?

 

 

 「――なぁ、アロナ」

 

 

 『わっ…、わわわわわわ…!

  え、えーっとぉ…、なんでしょうか、カズマ先生ぇ…!!』

 

 

 アロナはなにやら慌てた様子で、片手に持っていた水色の傘を背中に隠そうとしていて。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、焦りのあまりか、思いっきり背中からはみ出ていた。カズマはそれを見ても、なにやってんだ…?としか思わず、そんなことよりもあれからどうなったんだっけと考え、そのまま口に出す。

 

 

 「なんか…、ウトナピシュティムの本船使って、

  俺のやる気が反映された、起こるかもしれない感じの? 未来をシミュレートしてたよな…?

  ちょっと引くくらい不味そうな感じになってたところまでは覚えてるんだが…、

  それからどうしたんだっけ?」

 

 

 『(………カ、カズマ先生。

   つ、強く叩きすぎて記憶が飛んじゃって…、ぇ、ぇぇっと。

   むしろよし! こ、好都合です…! 何とか話を逸らせばこのまま――)』

 

 

 「………アロナ?」

 

 

 『――…え、ええっとですね!

  カズマ先生は…、その……っ!』

 

 

 苦しい、あまりにも苦しすぎる。私にそんなアドリブ力はありませんよぉ!とアロナは若干涙目になりながら必死に考えて、なにかないか、なにかないかと、カズマ先生がシッテムの箱に保存場所を変えた裏帳簿や思い付きを走り書きしたようなメモ帳を高速で掻き回して。その中に、特筆して目を引くものが飛び込んでくる。それは――。

 

 

 

  ――――アリウス温泉都市計画。

 

 

 

 

 そのように題された、その土地丸ごとを、温泉として再開発するなんていう、もはや思い付きの面白半分で書かれたような計画書が出てきて。……しかしながら、てんぱりすぎて正常な判断が出来なくなってしまったアロナは、もうこれしかない!と嘘八百な文言を次々と頭の中に並べ立てては、矢継ぎ早に。目をぐるぐるとまわしながら。

 

 

 『――さっきまで一緒に、アリウス温泉都市計画について話し合ってて!

  でもそれを実行するってなったら、間違いなく問題が発生するから、

  ………ちょっと一休みしてから考えたいって、

  カズマ先生が頭が痛いって疲れた様子で言っていたので、

 

  ――私は目覚まし役をお願いされてたんですぅっ…!!!』

 

 

 めちゃくちゃ早口だった。もうなんかかつてないほど高速で事情を突っ込もうとしていた。嘘八百の中に、さりげなく”頭が痛い”要素を取り入れて、カズマの頭に、アロナがやってやった過去をひそかに消し去ろうとしていた。妙なところで小賢しい、カズマの舌の回し具合が完全に移っていた。しかしながら、そのアロナの苦しい言い訳は、カズマの頭の中を特に違和感なく通過し、確かに俺なら、最初にそいつらを引き込むことを考えてもおかしくはないよなと、不思議なことに、納得させることに成功してしまう。

 

 

 「悪くない…、いや。むしろそれしかないか…?

  アリウスの状態を迅速に復旧、あるいは全く違う形にするなら…、

  どんな結果でもいいから目に見える成果が必要だ。

  ――あいつらの、温泉に対する土木作業と、建築作業に対する速度だけは。

  キヴォトスどころか、どこの世界を探しても比肩し得る団体なんかいないだろうからな…」

 

 

 ………ただでさえ、アリウス自治区がアクシズ教みたいな感じになってきているところに、そんなところに温泉開発部を突っ込んでしまったら。どんな化学反応が起きてしまうのか、カズマに予想がつかない筈がなく。

 アクシズ教に温泉だって? しかも都市規模で? そんなの完全に…、いやよそう。まだそうなるときまったわけじゃない。確かに過去に、そんな愚にも付かないようなことを考えたことはある、あるが。そして、今とれる最適な手段がそれしかないのもなんとなく分かる。分かるんだが…、だとしても。余程、切羽詰まっていない限り、そんなことをカズマ自身が議題に挙げないはずだ。相当に躊躇するはずだ…。いや、切羽詰まってはいるか…、うーん確かに、頭の痛くなる話ではある。なんだかやけに、じんじんと刺すような痛みが、あるような気もするし。

 

 

 「――まぁでも。とりあえずやってみるしかない、か…?」

 

 

 『(………えっ…! ご、誤魔化せた…???)』

 

 

 「………ん? なんか言ったか、アロナ?」

 

 

 『――な、なーんにも言ってないですよ…?

  えっと、じゃあカズマ先生、これからは――』

 

 

 「――ん、あぁ…。そうだな。

  向こうも予定があるだろうし…、うーん…。まぁ、すぐ食いついてくるだろ」

 

 

 カズマは後に、この時の決断を深く後悔することになるのだが…、それは今言っても詮無い話であり…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――温泉開発部の総員に、直接招集をかけに行く。

  一つの都市を、丸ごと塗り替えるような話だからな…。

 

  ――ゲヘナで、大人しくしてくれてればいいんだが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまぎれもなくアリウス復興への道の、その第一歩目の始まりであり、そして…、破滅へと全速力で突っ込んでいく、誰にも止められない高出力エンジンを詰み込むと、決めてしまった瞬間でもあった…。

 




 ――そういうわけで。どんな形でもいいから説得できればいいんだよ、みたいな話でした。説得できれば全力で働きだすの悲しいね…。

 えー本作を、最初から読んでいただいている方、ここまで読んでいただいている方にはもうだいたい分かっているとは思うのですが、一応書いておきますね。今回の、無理ゲー第四部のラスボスは、だいたい言及したそんな感じで、どないすんねんって感じの方々ですのよ。方々、ですのよ。

 と、ところでぇ…、感想、評価☆10、感想、評価☆10、感想、評価☆10、感想、評価☆10を。がないとエタる可能性がですね…。いやもともとエタる前提で始めてるから…(弱気
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