超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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次の話を書き始める度に思うんですが、オリジナル展開って難しいですね…、
みたいな感じを「悪役令嬢転生おじさん」のOPを聞きながら書きました。


三話 アリウス復興対策委員会 (③)

 

――ゲヘナ学園敷地内 カズマ

 

 

 腕時計の秒針を見る。

 

 アリウスの支配者として、アリウス分校第23期生徒会長になって。アリウス分校を元の姿には戻せなくても、どうにかしてアリウスという容れ物を新しく建て直すことを、何故なのか分からないまま方針を決めたカズマの行動は、異様に拙速だった。

 カズマは、その日その足ですぐさまゲヘナ学園へと足を運び。銃撃と怒声が、環境音のように聞こえてきたことを察知すると、顔を顰めながらすぐさま回れ右をする。”パンちゃんが巨大化してる!”という、なんだか聞き覚えのありすぎる悲痛な声に駆けつけるでもなく、声が聞こえる方とは反対側へと向かって、全力で退散することを躊躇いなく選択した。

 いつも通りのゲヘナの環境音だな…というかなんで俺は一人でゲヘナなんかに?、と考えつつ、その場から避難する人々の波に逆らわぬよう、焦らず急がず、そ知らぬふりで堂々と。さも私は関係ありませんよといった顔をしながら歩いていって。そして突然に力強く、ガシィッ!と肩を掴まれた。

 

 

 「カズマ先生じゃないか! 丁度いいところに――」

 

 

 「人違いです」

 

 

 「――えっ、それはすまなかっ…、いややっぱりカズマ先生じゃないか!」

 

 

 「人違いですー。世界には三人ほど容姿の似た人間がいるっていうだろ?

  どこに連邦捜査部シャーレとかいう職場で無理やり働かされてる、

  立派でイケメンでモテモテなハーレム野郎がいるって言うんだよ?

 

  いるって言うんなら、今俺が言った言葉をそのまま復唱してみろよ」

 

  

 「はっ、はぁ…?! そんな恥ずかしいこと言うわけないだろ?!」

 

 

 「なら人違いだな、フリーズ…(指先から耳へ」

 

 

 「――ひゃぁっ…?! あっ、このっ、待てっ…、待てカズマせんせ――」

 

 

 腕時計の秒針を見る。

 

 耳元に突如浴びせられた冷気に、可愛らしい声を上げて飛び上がるように反応した銀髪ツインテール少女からの拘束(片手)から抜け出したカズマは、その場から素早く逃げ出して。なんとか学園敷地外へと辿り着いて、繁華街に紛れ込み、見通しが良く人が来なさそうな、適当な建物の屋上の隅に潜むことに成功したあたりで、己の失敗に気が付く。

 

 

 「………判断能力が死んでるな、睡眠が足りてないのか?」

 

 

 腕時計の秒針を見る。

 

 なんだかよく分からないが、アロナと一緒に温泉開発部を引き込むと決めた時から、頭に妙な靄が掛かっているような気がして、うまく考えがまとまらない。そもそもなんで俺は、護衛も付けずに独りでゲヘナなんかに来たんだ?その時点でおかしいだろ。レジーナ神と同じく、なんらかの超常的な存在の支配下に置かれていると考えておいたほうがよさそうだ。思考が制御されている、あるいは制限されている。だからこんな行き会ったりばったりの、後先考えない行動に出ているのではないか、とカズマは考える。おそらくは今考えていることでさえ、次の瞬間には消えてなくなってしまう類なのかもしれない。その目的は…、行動を縛る、もしくは方向性を誘導したいといったところか?だが何のために?いやそれは今はいい。何とかしてこの状況から脱する方法を考えなければならない…、ならないのだが…。この手のやつから逃げ切るのは、ほぼほぼ不可能だと考えた方がいい。だが分かることもある。アリウスを立て直す行動に関しては、干渉してきてはいるが妨害はしてきていない…、つまり、このまま進めるしかないってことか?最悪だな。人の思考内容にまで平気で干渉してくるとか、こいつ絶対サイコパ――――

 

 

 ――――腕時計の秒針を見ろ。

 

 

 「――あーくそっ…」

 

 

 あらかじめ見ていた時計の秒針を、再度、注意深く見る。気が付かない間に、時計の針が間違いなく40秒近く進んでいたことを確認して。カズマは無言でシッテムの箱の電源を落とした。途端に頭に掛かっていた靄のようなものが消え失せて…、同時に、最悪の気分になった。

 

 

 「なるほどね…、俺は失敗したわけだ」

 

 

 温泉開発部を引き込むように動こうとしていたこと。誰のアポも取らずにゲヘナに単身で来ていたこと。それになによりも、この手の場所に来るときには必ず同行させていた霞沢ミユが、カズマの護衛としてついていない事。その状態で行動することを、カズマが許容しているという状況そのもの。なにもかもがおかしい。そして、カズマにとっては嬉しくないことに、この手の抗えない異能の類には覚えがあった。

 

 おそらくはゲヘナ学園に来るまでの間も、本来のカズマの思考ルーチンではそれを止めようとする動きがあったはずだが、それら全てが阻害されていたと考えた方がいい…。雲の動きや人の流れに、映像のコマ送りのような違和感があったことに気付いてから、嫌な予感がして腕時計の秒針ばかり見ていたのだが、どうやら勘は当たったらしい…。そして、これで確定と考えていいだろう。

 

 シッテムの箱と、カズマの神秘を重ね合わせた、アロナの暴走のように見える一連の出来事は。その全てが、なんらかの意図を持つ第三者からの攻撃だったということを。……その受け止めたくない事実を噛み締めて、カズマはガックリと肩を落とす。この有様じゃ、色々と危なすぎてシッテムの箱に、アロナに頼るわけにもいかないから、緊急時のバリア展開なんか出来やしないだろうし、その辺のチンピラに一発でも撃たれたら、文字通り終わりだ。

 そしてこの状態だと不味いことが幾つもある。アロナに制限してもらっている神秘に関する様々なことが、時間経過とともに解放されてしまうことだ。アロナに頼らないと不味い事態になるが、アロナに頼ると別の不具合がカズマに発生する…、という二律背反の状態になってしまっている。あちらを立てればこちらが立たず、だ。

 

 打開策は…、打開策自体はすぐに思いつく。思いついたのだが、何事に対しても現代日本基準で考えてしまうカズマにとって、キヴォトスの規格外神秘の代表ともいえるアロナがどこまで出来るのか、そのアロナに干渉を仕掛けてくるような相手がどこまで対応してくるのか、というのが未知数過ぎて判断が難しいのだ。デカグラマトンなんかいい例だ。電源を落としても動き続けるような無機物情報媒体相手に、どんな常識が通用するというのか…。

 

 いいやそんなことを考えている場合じゃない。時間が惜しい。自身の命の掛かった時間との勝負をしてる時に、悩めば悩むだけ死に近づくことを忘れてはならない。拙速でも何でもいいから、今考え得る限りのことを為さねばならない。取り合えず手持ちのメモ帳に、カズマに起きている不可解な変事について、思いついたことを片っ端から書いていき、シッテムの箱の中に見えるように次々と貼り付けていく。これで駄目なら、もう本当に駄目だ。

 

 起動する。

 

 

 『――カズマ先生! いきなり電源を落とすなんて――…遮断!!!

  不正な接続を検知しました…!! ちょ、ちょっと待ってください…?!!』

 

 

 なにやらドタバタとアロナが動き回っているような気配がして。

 

 

 『あわっ、あわわわわわ…。』

 

 

 『ぅ、ぅう~っ……!』

 

 

 『で、でもでもっ…。言わないわけにもいかないし…』

 

 

 「………………」

 

 

 なにやら可愛らしく悩んでいるような声が正常に聞こえてくるのを、カズマは祈るような気持ちで待って。

 

 

 『きっ、決めましたっ!』』

 

 

 『――カッ、カズマせんせーい、紙を剥がしてくださーい…』

 

 

 「………………」

 

 

 カズマは、ペリペリとシッテムの箱の画面に貼り付けた紙を剥がして。余計なものがなくなって、綺麗になった画面を見ると。そこには眉をハの字にして、困り顔のアロナがきまりが悪そうに、落ち込んでいる様子が見えてきて。

 

 

 『………ごめんなさい、カズマ先生。

  私への攻撃ではなく、

  私を通してのカズマ先生への干渉だったので、見逃してしまいました…。

  致命的な攻撃を防ぐバリアや、神秘関係を制御する干渉系に紛れ込んでいたみたいで…。

 

  その……、本当に、ごめんなさいっ、カズマ先生…!』

 

 

 「………………」

 

 

 腕時計の秒針を見る。視界の裡に、秒針が動き続けている様子を注意深く見逃さないようにしながら、カズマはアロナとの会話を続ける。

 

 

 「………あー。気にするなって。

  察するに、アロナ以上の性能のスパコンにハッキングされた、みたいな感じか…?

  その認識でいいんだよな?」

 

 

 『――分かりません…、分かりませんが。

  カズマ先生に指摘されるまで、気づきもしなかったことを考えると。

  私と同じか、それ以上のなにか、だということ以外は…』

 

 

 「――なるほど」

 

 

 なんにも分からん…、と。カズマは、どうにもならない事だということだけ理解の範疇に収めて、次のことを考え始める。新しい問題が出てきた…、アロナが言っていた言葉だ。『制御する干渉系に紛れ込んでいた』、これだ。

 つまり今まで、きょうのこんにちまで。アロナがカズマに対して、様々なサポートを行う際、その干渉系とやらを介して、どうにかしてきたわけで。それらは全て、基本的にはカズマの生命の保全の為に行われてきたと言っていい。その部分に介入されたということは…。非常に嫌な予感がする。アロナよりも相手の方が性能が高いことを考えると…。いや、その程度ならすぐ解決できるはずだ。現代日本レベルの話が、キヴォトスでも通用するならというのが前提になるが…。パソコンを遠隔で操作してくるような手合いから、身を守るにはどうすればよかったか。

 

 

 「――何が使えなくなった? 違うか、俺は何が出来なくなったんだ?

  アロナがいなきゃ制御できないあれこれは、どうなったんだ?」

 

 

 『ううっ…、その。

  キヴォトス外の神秘との接続は、一時的にでも無理やり切断するしかありませんでした…。

  同時に、未来視関連のスキルツリーも制御不能なことを考えると。

  未来観測機関「讖(しん)MkXIII-2号機」を含めて、強引に封鎖するしかなくて…。

 

  ――最低でも三日おきに、カズマ先生の体内に溢れる神秘を自己消費しないと。

  無理に止めたそれらが呼び起されてしまって、その制御に私がかまけているうちに。

  干渉系を通して、カズマ先生に同じことが起きると考えられます…』

 

 

 「………うーん」

 

 

 想像してたよりだいぶマシだな、とカズマは考えて、いや待てと、思考にストップをかける。違う、最悪の可能性は常に想像上の自己都合を超えてくる。俺は何をされたら困る? 何が出来なくなったら終わるかを真剣に考えるべきだ。つまり、アロナが何もかもをできなくされた上で、第三者から干渉されると考えて…。もしやこれは…と、確認の意味を込めて、再度アロナに問いかける。

 

 

 「大人のカードの使用は?」

 

 

 『………使えません』

 

 

 「――シッテムの箱を通して行える、戦術指揮も無理か?」

 

 

 『………私の力の殆どを割り当てて、

  干渉してくる相手回線と思しきものを片っ端から封鎖しています。

  今も、どうにかしてこじ開けようとしてくる相手の攻撃が継続されています…。

 

  ごめんなさい、カズマ先生…。その後に残った私の力では。

  カズマ先生に収束する神秘に、少し蓋をする程度のことしかできません…』

 

 

 「………………」

 

 

 事実報告を重ねる度に、沈んでいくアロナの顔を見ていられなくなったカズマは、それ以上のことを聞くのを止め、起動したままで置いてきたウトナピシュティムの本船のことを、そこでアロナとやりあったことも同時に思い出して。やっぱりそうだよなと、侵入経路にあたりを付けて。今の状態のアロナがこれを通せるなら、ある程度の解決はできるだろうと結論付けた。

 

 

 「なんだっけ、踏み台攻撃っていうのか、これ?

  ………アロナ、今すぐ遠隔で、ウトナピシュティムの本船の電源を落とせ」

 

 

 『………はい?』

 

 

 「無理だったら強制終了でいい。多分、アロナなら出来るんじゃないか?

  ――いいからやってみてくれ」

 

 

 カズマは祈るような気持ちでアロナを見つめて。通るか? 通ってくれ…。

 

 

 『――はい。 あれ? 普通に落とせない…? 強制終了します…。

  ………………シッテムの箱の機能、全復旧可能になりました…』

 

 

 通った。

 

 なんで通ったのかはさっぱり分からないが、とにかく通った…。事態のあっけない幕引きに、神妙な顔をしたカズマとアロナは顔を見合わせ、カズマはやっぱりそうかと納得しつつ顔を顰め、アロナは、なんでこんな初歩的なことに気が付かなかったんだろうという羞恥から、顔から首までを真っ赤っかに染めて。

 

 

 『……………あ、穴があったら入りたいです…、私は、えーあい失格ですぅ…』

 

 

 先程までとは違う意味で、アロナは沈んだ表情をしながら、カズマに合わせる顔を持ち合わせていないと言わんばかりに。羞恥に染まったその顔を両手で覆い隠してしまう。カズマは、シッテムの箱の画面に見えるアロナの頭の部分をよしよしと指で撫でてやりながら考える。これではっきりした。

 ウトナピシュティムの本船を起動した日から、カズマを見ている誰かがいるということ…。そして、その行動を誘導、あるいは抑制したい誰かが、ウトナピシュティムの本船を通して、シッテムの箱に干渉し、カズマに干渉してきている、ということが。

 

 ……ウトナピシュティムの本船も、シッテムの箱も。どちらもキヴォトスの古代技術を起源とする、代替の利かないオーパーツだ。そんな規格外の存在を通して。その誰かは、目標とする対象に、カズマに、出来る限り悟られないようにしながらハッキング…、干渉を仕掛けられるような能力、あるいはアロナより性能の高いオーパーツを保有しているということになる。

 それはもはや、かつての世界でカズマも知るような、水を司る女神、幸運の象徴たる女神様、転生を司る権能を持った神々の存在と同等、もしくはそれ以上のなにか、と考えざるを得ない。

 

 今、画面越しであるのにも関わらず、アロナの頭を撫でる指に。グリグリと頭を擦り付け始めたアロナに関して。超常的な電子的手段においては、キヴォトスにおいては誰であろうと、敵になるような存在はいないと考えていた。

 こんな薄っぺらい情報端末内に収まるとは思えない人間的な情緒、朝食にコーヒーを忘れたような気軽さで行われる政府機能中枢の掌握、くしゃみ一つで古代技術の産物の一つであるデカグラマトンのハッキングを吹き飛ばす意味不明さ。

 何事にも絶対はないことを知っているカズマではあるが、それは例えるなら。駄女神の支援魔法や神聖魔法、爆裂狂の爆裂魔法、ドM騎士の防御力のように、彼女たちがその生の中で積み上げてきたものが、困難な事態を解決する鍵になる、頼りにできると、その程度にはアロナの性能と、アロナ自身のことを頼っていたカズマにとっては衝撃的なことであり、早急に対策を練る必要のある危急事項でもあった。

 

 しかしそうは言っても、そんなのを相手取って出来ることはそう多くない。いつか絶対に分からせてやるが、この誰かとカズマでは、立っているステージが違いすぎる。リアルデバッグモード搭載のなんでもあり(チート野郎)のような存在に、勝てるような算段も能力もカズマにはないのだ。つまり――

 

 

 「――テレポート」

 

 

 遠隔で操作できる状態全てを、物理的に封鎖する以外に方法はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――ウトナピシュティムの本船 カズマ

 

 

 残念なことに。この手の古代技術の遺産と目されるような精密機械に関して、役に立つような知識を、カズマが持っているわけもなく。せいぜいが学校やメディアで知識として拾った、現代日本の生活に密着した精密機械の使用方法程度が関の山だ。

 だからこれを詳細に調査するのならば。セミナーの調月リオか、特異現象捜査部の明星ヒマリに和泉元エイミ、もしくはゲマトリアに頼らなければならないのだが…。そんな知識人を悠長に呼び出しているような時間はなく、いつも通り。どうにかしないと死ぬので、どうにかするしかないのだ。

 

 ――というわけでカズマは何も分からぬまま。いいや、それは表現として少し正しくないかもしれない。つまり、殆ど分からぬまま、機械の表面に印字された、「局操」↔︎「遠操」と表示されている、手動でなんとかなりそうな部分を見つけては片っ端から切り替えていく…。こんなことを機械の仕組みを全く理解してない素人がやったらどうなるのかということに関しては、火を見るよりも明らかだが、どうしようもないのだ。

 

 

 『………カ、カズマ先生ぇ…。

  何にもわからないのにそんなことしたら、壊れちゃいますよぉ…』

 

 

 「ま、そうだろうな」

 

 

 エンジン部と思しき場所にたどり着き、これまた片っ端からブレーカーと思しきものを落としていこうとして…。念の為ゴム手袋とゴムシートを引いて、放電もするんだっけか?と電気設備に関する注意事項について思い出しながら。分からなくなってきたのでアロナに何とかしてもらうことも勘案に入れつつ。

 

 

 「今からエンジン部のブレーカー全部落とすから。

  念の為に守ってくれ、アロナ」

 

 

 『守ります…、守りますけどぉ。

  絶対壊れちゃいますってばぁ…』

 

 

 「そうか…? 

  俺は、千年経っても平気な顔して動き続けられるようなのが古代技術だと思ってるんだが…。

  今やってるこれも、そのうち全部無駄に終わると思ってやってるぞ。

  よくて一時凌ぎ…。

  いまはその一時が大事だから、こんな滅茶苦茶をしてるわけなんだが…」

 

 

 いいかアロナ、と。カズマはブレーカーを落とす手を止めることなく、今抱えている懸念事項を頭の中で整理していく。

 

 

 「相手の戦力が測れない状態での一時凌ぎなんてのは、基本的にジリ貧なんだよ。

  だから、俺は焦らないといけなくなった。急がないといけなくなった。

  思考制御?みたいなのをされて、手遅れになる前にな」

 

 

 『………ぅうっ、ごめんなさい、カズマ先生。

  私が、気が付かなかったから…』

 

 

 「………それはもういいんだよ。今考えると、俺も迂闊だった。

  いいか…、俺はこんなことを2度と言わないから、ちゃんと聞けよ。

  正直、俺はこのギヴォトスで。アロナに敵うような電子的手段は、存在しないと思ってた。

  それが破られた。

 

   つまりだ、最初に被害に遭ったのは俺のように見えて俺じゃない。お前だ、アロナ。

  標的は俺だったから、アロナが被害を被っていないように見えるが、そうじゃなかったろ?

  だから、この作業が終わったらシッテムの箱を機内モードにして。

  俺の神秘関係の制御は最小限にして、アロナ自身の保全に全力を傾けろ。いいな?」

 

 

 『で、でもそれだと。

  いざという時にカズマ先生を守れません…』

 

 

 「――――ハッ、自分自身の身も守れねーような。

  ポンコツAIの力なんざ、危なっかしくて使ってられないって言ってるんだよ。

  言う通りにしないんなら、今日からずっとポンコツAIって呼んでやる…」

 

 

 『――そっ、それは嫌です!』

 

 

 そんなやりとりをしている間に、とうとうカズマは、ウトナピシュティムの本船に対しての、今の自分自身の知識の限界までを、使い切ってしまったと悟る。つまり、これ以上できることがない。というか分からない。より詳細な調査をしたければ、さきほど思い浮かべていた専門家を呼んでくるしかないだろう…。カズマは専門家ではないのだ。

 

 

 「だったら、とっととなんとかして…。

  またいつもみたいに、俺を助けてくれよ、アロナ」

 

 

 『――むっ。し、仕方ないですねぇ…。

  カズマ先生から、こーーんなにも頼りにされていたことが分かりましたし?

  一日も早く、カズマ先生を助けられるよう、全力を尽くしますっ…!」

 

 

 先ほどまでの気の落ちようはどこへやらといった具合に、青空を思わせる両眼を煌めかせながら。ふんすっ、ふんすっ、と。やる気十分といった気勢を見せるアロナを見て。これならもう大丈夫そうだなと判断したカズマは、じゃあ次だな、とパッと切り替える。

 

 

 「よし。んじゃ、機内モードにするぞー。

  携帯充電器に電源ケーブル繋ぎっぱにしとくから、電源がなくなってきたら呼んでくれ」

 

 

 『――待って。先生待ってください』

 

 

 「………なんだよ?

  全力を尽くすんだろ? 早くしろよ」

 

 

 『つ、冷たっ…、急に冷たくないですか…?

  なんですかなんですか…、その、用は済んだからポイみたいな…。

  早くはしますけど! 全力も尽くしますけど!

  なんか、こう………、違くないですか?!!

  いまなんか、いい感じの雰囲気でしたよね?!

  もっとなんていうか、別れを惜しみながら。

  ――夕日の刺す部屋で一人じっと動けずにしばらく過ごした、みたいな。

  そう言ういい感じの情緒的なシーンが挟まるところじゃなかったですか?!!』

 

 

 「おい、アロナ。

  さっさとしないとお前に強請られてダウンロード購入してた少女漫画、全部取り上げるぞ」

 

 

 『――――……カズマ先生の、バカバカバカーー…!!(><」

 

 

 可愛らしい顔がシッテムの箱の画面にズームするように大きく映り、大音量で捨て台詞を吐くのを最後にして。シッテムの箱に映る画面が、いつもの廃校舎のような場所から、業務用パソコンにデフォルト設定されているような背景に切り替わる。はぁ、と。カズマはようやく一息つけた心地を覚えて。

 アロナはこれでいい。なんだかんだ言って、あんなんでも現段階で、技術体系の最高峰には違いないのだから、なんとかするだろう。多分…。そして、カズマにとっては非常に残念なことに、エデン条約に向けて。なりふり構っている暇がなくなった。余裕は消え失せた。一刻も早く可能な限り早急に、戦場と戦力を整えなければならない。

 

 

 「…………いいように踊らされている感があるが、どうしようもない、か…」

 

 

 まずカズマは、ゲヘナ学園の風紀委員会に手綱を握られた状態にある、温泉開発部の鬼怒川カスミに連絡を取った。

 

 

 「もしもし」

 

 

 『……ん、先生か?! どうしたんだ?  ――いや待て!当てて見せよう!

  温泉で何か困ったことでも起きたんだろう…?!』

 

 

 「………ぁー、まぁ、そうだな。

  温泉開発の専門家たるお前らにしか、相談できないようなことが起きてな」

 

 

 『――やはりそうか!

  しかし悪いが、今から風紀委員会の要請で、温泉工事の現地調査をしに行く予定がある。

  依頼者(クライアント)にも優先順位があるからな、その後になるが、構わないか?』

 

 

 「――お前ら温泉開発部が大人しくしてくれてる分には大歓迎だから、

  その現地調査とやらをゆっくりやり終わってからでいいよ…。

  ちょっと頼みたいことが大規模すぎて、面と向かって話をしたくてな…」

 

 

 『――ふぅん…?

  分かったとも先生。じゃあ、いつもの部屋を開けておいてくれ!

  こっちの用事が終わったら、いつものように使わせてもらうとしようじゃないか!!』

 

 

 「んじゃそれで頼むわ…。

  ――飯時に来るんなら、適当に出前くらい頼むけどなんか希望とかあるか?」

 

 

 『随分な歓迎ぶりだな…。なら、寿司の特上でも頼んでもらおうか!』

 

 

 「寿司好きなの?」

 

 

 『――いや特別には?

  言ったらなんでも出してくれそうだったから、高そうなのを要求してみただけさ。

  安い話じゃないんだろう…?』

 

 

 「まぁ、面倒くさい話ではあるかな…」

 

 

 『はっはっはっは…、ハーッハッハッハッハ!

  先生が持ってくる話はいつも面白いからな、期待してるぞ?』

 

 

 「へいへい…」

 

 

 通話が切れる。とりあえず温泉開発部はこれで良しとして。早々に風紀委員会の空埼ヒナに話をつけなければならない…。通話先一覧からヒナを探し、電話をかけるが、つながらず。

 

 

 『お客様の掛けた番号は、ただいま――』

 

 

 「まぁ、そういうこともあるか…」

 

 

 『発信音の後に、メッセージを――』

 

 

ピーーーーッ!と、聞き慣れた電子音が響いて。

 

 

 「――もしもしカズマです。

  温泉開発部を借りたいっていう許可をとりたかったんだが…、

  この後アコに電話してみるから、そっちから話が行くかもしれん」

 

 

 ピッ、と電話を切って。あんまり気は進まないが、風紀委員会の話を通しておいた方が良さそうなもう1人に電話をかける。

 

 

 『――なんですか?! この忙しい時に!!!!!』

 

 

 「うぉぉおおっ…?!」

 

 

 電話口から、呼び出し音がワンコール鳴るかどうかという手前で、カズマの耳に大音量が響いて、思わず体をのけ反らせた。

 

 

 「………あー、俺だよ、俺俺」

 

 

 『――そんなのは連絡先表示を見ればわかります! ごしゅ…何の用かと聞いているのです!

  ――…あぁ、もう!!!

  最近まで騒がしかった不良共が、ようやく大人しくなったと思ったら…。

  妙な修道服を着た武装勢力が、あちこちで急に暴れ出して…。

  人手が全く足りていないのに、ご…先生の相手までしてられません!』

 

 

 なんだろう、ちょっと聞き逃してはいけない危険な言葉(ワード)が何度か飛び出しかけた気がするが、突っ込んだ方がいいのだろうか、とカズマはそこそこ前から定期的に続いていることを思い出す…。

 

 以前、ゲヘナでアコの多忙すぎる業務を手伝ってやった時に。売り言葉に買い言葉な言い争いをして。じゃんけん勝負を10回やって、そのうちの1回でもアコが勝てれば、言うことを何でも聞いてやるよと言ったら、”墓穴を掘りましたね先生!私が勝利するのは確定しましたが仕方がないので…、カズマ先生が可哀そうですので、もしも私が負けた時のことを考えて差し上げます…まぁそんなことはあり得ないですが。……そうですね。この犬のリードでも付けてお散歩されてご主人様とでも呼んで差し上げましょうか?!ふふふふふっ…!”とか言ってたので、その通りにしてやったのが不味かったのかもしれない…。

 

 いや違う違う待て待てそんなことよりも。

 

 

 「………あっ、あー…?

  そ………、そうなんだよそれそれ!

  ちちち、ちょうどその連中に用事があってな!

  暴れてるそいつら全員に用事があるから、特に問題なければ引き取ってもいいか?!」

 

 

 『はぁーーーーー?!!

  そんなことが本当にできるのなら、今すぐにでもやってみればいいじゃないですか?!

  完全に暴徒と化してるあれらを引き取ることができるっていうのでしたら、

  次は犬のリードなんか目じゃないくらいの格好をして、ごっ…先生の仕事を手伝って差し上げます!!』

 

 

 この時、カズマとアコ双方にとって不幸なことに。いやもしかしたら幸福なことに。予想外…、想定外の事態がどちらも知らぬままに進行しており。余裕が全くなくなっていた二人は、自分自身が何を口にしているのかを理解していなかった。

 

 

 「え? まじかよ録音したわ」

 

 

 『録音が何だっていうんですか!!

  出来もしないことをヘラヘラと言ってるだけなら承知しませんからね!!』

 

 

 バンッ――!となにかに叩きつける音がした後、通話が切られて。同時に間違いなくそうだという最悪の予想が、脳内に暗雲のように立ち込めていって…。妙な修道服を着た武装勢力…、妙な修道服を着た武装勢力…?!それはもう、間違いなく新興のアクシズ教徒のことであり、事の起こりとカズマへの繋がりが露見すれば、ただでさえ余裕がないというのに、ここに来て更に、色々と都合の悪いことになってくることは間違いない。だが、だがどうする…。

 

 

 「………………」

 

 

 表社会に出ているアクシズ教徒に、アズサから聞いた通りのようなことが、ゲヘナどころかキヴォトス中で起きているであろうことを。カズマは少し考えて…、即座に諦める。無理無理、いくらなんでも無理。アロナが万全ならともかく、流れ弾一発で即死する可能性のある戦場に、躊躇いなく飛び込む勇気はカズマにはない。

 

 

 「………仕方ないか」

 

 

 カズマは、こういう時の為に、保険を掛けておいた相手へ電話を掛ける。アリウス最後の日に頼れた生徒が、久田イズナ以外いなかったことを考えると、いまカズマが置かれている状況でこの手のことを頼れる相手は限られている。あの日に、温情温情とあんまりにも言われたものだから、じゃあそれっぽくするかと、地獄の脱獄訓練に付き合わされてきた成果が出ていれば、即時出動は叶うはずだ。

 

 

 「もしもし」

 

 

 『………この世で一番聞きたくない方からの電話がかかってきましたね。

  何か御用ですか、私は今日も忙しいのです。

  連邦捜査部シャーレの、サトウカズマ先生…』

 

 

 「――そのお前のために、散々骨を折ってやったろ?

  連邦生徒会防衛室直属、矯正局局長 不知火カヤさんよ」

 

 

 『――――チィッ…!!!!』

 

 

 かつての、キヴォトス二大騒乱が巻き起こった時。誰よりも先にサトウカズマの暗殺と、連邦生徒会の乗っ取りという王手に手をかけていた。キヴォトス全体の治安維持の責任者であった、元・防衛室防衛室長の盛大な舌打ちは、恥辱に濡れていた…。

 

 




Q.何で更新できなかったんですか?
A.なんていうかその…、感想の数と評価の数を全体の平均値と比較した場合の相対的に見ての加速度となるえねるぎぃと申しますかぁ…えぇっとぉ…精神の立て直しに時間がかかるっていうかぁ…しょ、承認欲求モンスターが育たなかった、からですかね…?(感想と評価、感想と評価を…、感想と評価、感想と評価を…、ですね…)
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