鉄血のオルフェンズ 鮮血の海   作:聖成 家康

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ガンダムの二次創作って難しそ……と思って安易に手を出さないようにしていたのですが、我慢できなくなりました。


1『海と三日月』

 

 鉄華団。

 それは足掻き続ける者達。

 

 アーブラウ代表指名選挙で蒔苗・東護ノ助が選ばれ、その援助をした鉄華団は、組織として巨大化し、世界に名を知れ渡らせた。

 

 何も持たなかった子供たちが、会社ごっこをしていた子供たちが、ここまでの成果を勝ち取り、生き延びた。

 

 それでも彼らは止まらない。生きて、“ここじゃない何処かへ”辿り着くまでは。止まることができない。

 

 

 ――分からなかった。

 きっと鉄華団は、自分たちを虐げてきた世界を変えようと奮闘しているのだろう。けれど、世界というものは彼らが想像している以上に大きい。宇宙のような物理的な大きさではないが、世界は果てしなく()()()。なのに何故、彼らは――。

 

 

 

 鉄の音が鳴り響く。機内が瞬く間に、血の匂いで埋め尽くされる。

 眼の前にいるMS(モビルスーツ)――否、ガンダムフレームは、こちらの性能を明らかに上回っていた。

 

(違う……)

 

 そうじゃない。

 この敵は、単純に()()

 

 

 振り下ろされる、超大型メイス。それを受け止めるは、一機のガンダムだった。

 

 シルエットは、高貴な印象を持たせる伯爵を彷彿とさせ、金色のナノラミネートアーマーで構成されている。弧を描く対を成した二本の角。獲物を睨みつけ、ぼんやりと光る蒼色の複眼。

 持つ武器は、細々とした刀のみ。傍から見ても、操縦者から見ても不利である。

 

「ぐぅっあっ!!」

 

 機体が大きく吹っ飛び、パイロットは唸る。

 

 そのガンダムを繰るのは、一人の少女。薄っぺらい黒のタンクトップを身に着け、曇天の空に似た色の長い髪を靡かせている。執拗に尖り、獲物を追う瞳は真っ赤だった。

 

「何で、何でだぁぁ!!」

 

 ガンダム――フォルネウスは、悪魔かのような敵機に対し、我武者羅な斬撃を複数回に分けて繰り出す。何度か命中するも大したダメージにはならず、逆に相手から手痛い一撃を御見舞される。

 

 また、コックピットが大きく揺れる。口の中が鉄の味でいっぱいになり、とうとう鼻からも垂れてくる。

 

(私……私は……)

 

 血が出てようやく、正気に戻った。

 自分は今戦場にいる。

 

 そして、殺されそうになっている。

 

「うあぁぁぁぁっ!!」

 

 血を垂れ流しながら、少女は叫ぶ。

 

 フォルネウスは泳ぐかのような素早い身のこなしで、次なる攻撃を回避。悪魔の右側から捨て身のパンチを繰り出す。奴が反応しきれぬうちにもう一度、鉄と鉄をぶつけ合わせた。

 

「死にたくない……! まだ、死にたくない……!」

 

 超大型メイスが振り下ろされ、フォルネウスの肩をひしゃげさせる。みるみるうちに、刀身は黄金の装甲を潰していき、コックピットの寸前まで至る。

 

「嫌だ……」

 

 彼女がそう呟いた瞬間、何故か敵の攻撃は止まった。

 

 ――そういえば。

 

 我武者羅になり過ぎて気づいていなかったが、本部からの通信が途切れていた。

 

 

『ねぇ』

 

 

 突然、目の前のMS(モビルスーツ)から通信が入ってくる。

 

「え……」

『あんたってさ、俺を殺す気、あんの?』

 

 何処か冷徹な少年の声。

 少女は、何も答えることができないままでいた。

 

『どうなの』

「……無いです」

 

 彼女は震えた声で答える。

 

『ふーん。というかあんた――』

 

 

『なんで泣いてんの』

 

 

 フォルネウスのコックピット。そこは、真っ赤な雫と、紅い瞳から零れ落ちる透明な雫が入り混じった、異様な空間と成り果てていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 鉄華団が撃破したのは、ちんけな海賊だった。ガンダムフレームを持っていたとは言え、ただそれだけの、小さな海賊だった。

 

「押収できたモンは?」

 

 団長のオルガは、部屋に戻ってきた副団長のユージンに声を掛ける。

 

「ガンダムフレーム一機と、それ用の武装」

「……おかしいとは思ったが、まさか本当にガンダムフレーム一機だけなんてな」

「あぁ。気味わりぃ」

「しかも、船員はたったの数人。自惚れちゃいねぇが、俺たちに喧嘩売るにはあまりに情けねぇ戦力だ」

 

 その海賊は、あろうことかガンダム一機で勝負を仕掛けてきた。他のMS(モビルスーツ)など一切なしに。鉄華団も舐められた物だ、とオルガは内心苛立っていた。

 

「で、どうなんだ。あのガンダムフレームのパイロットは」

「めっっちゃカワイイ!!」

「はっ倒すぞ色男」

「えぇ!?」

 

 ユージンはオルガに頭を掴まれ、情けない声を上げる。

 

「容態の事を聞いてんだ」

「……身体に問題はねぇ。けど、三日月の野郎かがやりすぎたせいで、ちょっと……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「シアちゃん? どう?」

 

 少女は鉄華団に匿われ、“いさりび”と呼ばれる戦艦の一室で身体を休めるよう指示された。

 アトラが部屋に入るや否や、シアと呼ばれた少女は「ひっ」と声を漏らし全裸の身体をシーツで隠す。

 

「ご、ごめんね……びっくりさせちゃった? 服持ってきたから、よかったら使って?」

 

 ベッドの隅に置かれたのは、丁寧に畳まれた質素な服。

 

「あぅあ、ありがとう……」

 

 シアは前屈みになりながら礼を言う。その白く綺麗な背中は異形であり、三本の突起が歪に伸びていた。

 

「名前、シア・ジョーリンで良いんだよね?」

「へぅっ……あ……うん」

 

 服を着ながら、シアは返事をする。

 毎回発声する度に、初めの言葉が詰まってしまうためか、アトラは少し話しづらかった。

 

「ね……あの、アトラ……さん」

「ん?」

 

 黒いタンクトップと半袖のズボン、そして鉄華団のジャケットを纏い終えたシアは、アトラに自発的に話しかけた。

 

「あの……さ。ガンダム動かしてた人って、誰……?」

「……あぁ。三日月っていう男の子だよ! 話してみる?」

「いや、ええっと……」

 

 アトラは食い気味に答えた。

 

「三日月とっても優しいんだから! シアちゃんもぜっったい好きになると思うよ!」

「あの……話すのは……」

「行こうよ! 話しに!」

「あぅ……はい……」

 

 急に積極的になったアトラに押し負けて、シアは部屋を出ることに。

 

 何人か団員とすれ違い、ジロジロと見られたが、アトラの尽力もあってか何事もなく、二人は目的地へと辿り着く。

 

 そこは、彼女が対峙したガンダム・フレームが収納されている、広々とした空間。その前にちょこんと座り込み、遠くを見つめる少年こそが、アトラの言っていた三日月・オーガス――ガンダム・バルバトスのパイロットだった。

 

「あぁ、アトラ。どうしたの」

 

 黒いスーツに身を包んだ彼の背中からは、一本の管が伸びていて、ガンダム・フレームと繋がっている。

 

 シアはアトラの背後から前に出て、三日月を見下ろす形にはなるが、面と向かい合った。

 

「……あんた、金ピカのガンダムに乗ってた人?」

「ぁうが……そう……です……シア、って言います」

「なんか喋り方変じゃない?」

「三日月!」

 

 アトラに制され、三日月は指摘を即座にやめる。

 

「シア。俺に何か用?」

「あぅ……その……えぇっと……」

 

 用も何も、アトラに無理矢理連れて来られただけだから答えようが無かった。

 けれど、彼があそこで攻撃をやめていなかったら、きっと今頃――。そう思うと、自然と言葉が思い浮かんできた。

 

「た、助けてくれてありがとう……ございます。私……もう……どうしたらいいか分からなくて……」

 

 三日月は彼女を見上げたまま、じっと黙り込んでいた。

 

「いいよそんなの。オルガに殺せなんて言われてないし」

「オルガ……?」

「鉄華団の団長だよ。あんた知らないの」

「……その……あんま分かんなくて、鉄華団のこと……」

 

 ふーん、と三日月は軽く受け流す。

 

「とりあえずさ、休めば」

「ふぇっ……?」

「何か疲れてるみたいだし」

 

 もごもご口を動かすシアは、もう限界のようだった。

 

「あ、あの……アトラさん……」

「えぇ?! 気持ち悪いの!?」

 

 口を押さえながら振り向いたシアに、アトラは驚愕し、彼女を連れて早急に飛び出ていった。

 

 取り残された三日月。掌に入れていたデーツを口に放り込み、上の空を見つめながら淡々と咀嚼した。

 

 

 

 

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