「夜明けの地平線団だと?!」
焦ったオルガが飛び込んできて、ユージンとダンテは彼に状況を説明する。
「エイハブウェーブの反応は、すぐそこで止まっている。かなりの大所帯だぞ」
「向こうのボスが通信を入れてきた。どうする? オルガ」
「繋げ」
通信機器の並べられた部屋の一画。小さいコンピューターのモニタに、髭を生やした大男の姿が映し出された。
『俺は夜明けの地平線団団長、サンドバル・ロイターだ』
「……鉄華団団長、オルガ・イツカだ」
椅子に座った大男は、随分と余裕そうにふんぞり返っており、団長としての権限を優雅に堪能しているように思えた。
「何が目的だ? 海賊如きが」
『俺たちの目的は、お前自身がよく知ってるんじゃないのか? えぇ?』
「……なんだと?」
『渡せよ、早く』
大男とオルガの間には、決して噛み合わない歯車が置かれているようであった。渡せと言われても、何を渡せばいいのか、そもそも鉄華団に海賊の望む物があるのいうのか。
「クーデリアお嬢様はうちにはいないぞ」
『革命の乙女なんざに興味はない。早く渡せ』
「だから何をだ!!」
『しらばっくれるなら、力づくだな』
通信は切れる。オルガは、訳の分からぬ状況に苛立っていた。
「何を渡せってんだ……!! 早く迎え撃つぞ!! ありったけの戦力で出迎えてやれ!!」
◇
鉄華団本拠地の格納庫は、一気に騒々しくなり、敵を迎え撃つ準備が着々と進められていた。
「お前らきっぱりやれよ!! 海賊相手だからといって油断するなと、団長からの命令だ!」
おやっさん、の愛称で親しまれる整備係の雪之丞が、
「おお、三日月。バルバトスはいつでも出れるぞ――なんだ、お前か」
三日月と間違えられたシアは、雪之丞の前に佇むバルバトスを見上げ、目を細めた。
「フォルネウス……だったか? あれも整備は済んだ。出られるなら、いつでも行けるぞ」
雪之丞はそう言い残し、他の
「シア。出ないの?」
「……いや、出るよ。敵が来たんでしょ?」
「そうだけどさ、何か元気無さそうじゃん」
遅れてやってきた三日月に、シアは心配されてしまった。
「う、ううん。平気。大丈夫だから」
そう言って、シアは綺麗に整備されたフォルネウスに乗り込んだ。
「シア。お前、この武装の使い方は分かるのか?」
「はい。何度か使った事があるので、大体は」
「そうか。俺たちはこの機体の事はあんまり分かんねぇから、出来ることはすくねぇかもしれん」
「ありがとうございます」
雪之丞に見送られながら、コックピットが外部と遮断され、暗闇に包まれる。阿頼耶識システムが作動し、フォルネウスの見ている景色が彼女とリンクされ、コックピットは一気に明るくなった。
『シアちゃん。敵は多いから、気をつけてね』
メリビットの通信を聞き入れ、シアは息を呑んだ。
目を見開き、シアは出撃する。スラスターから放たれる爆炎は、フォルネウスに莫大な推進力を与え、格納庫から火星の荒野まで、ものの数秒で駆り出させた。
地上に足を着けば、慣れない衝撃がシアを襲った。
「そういえば……地上で戦うの初めてだ」
阿頼耶識があるから何とかなるが、地上での戦闘は、初めてのパイロットにとっては慣れない物であった。
フォルネウスがエイハブウェーブの反応を捉えた。接近する敵
「四……か。大丈夫かな」
少し不安になるも、フォルネウスは腰に配備された蒼い刃の太刀を引き抜いて、さらにそれを分断し、二刀流にして構えた。
接近する敵
スラスターで敵の死角へ瞬時に回り込み、回転斬りで一撃、二撃と素早く叩き込んで、早くも一機を撃破。
降りかかる敵の攻撃を片方の剣で受け止め、もう片方で攻撃し振り払う。
二度振り下ろされる大剣の攻撃を避け、コックピットへ二対の刃を突き刺し、二機目を撃破。
敵の機銃掃射は、黄金の装甲を前にしては豆鉄砲に過ぎず、あっという間に距離を詰められて、機体を大きく切り裂かれてしまう。
残るは一機。相手の武装は、自分と同じような太刀だった。
二対の剣を合体させ、一本の長い太刀へ変形させ、相手のぶつかり合う。
火星に響き渡る鉄の音。大地を飛び交う火花。すべてが混ざり合って、戦場の殺伐とした空気を作り出していた。
敵の攻撃が入り、フォルネウスは大きく後退。大量の砂埃が、黄金の機体を包み込んだ。
「ふーっ……ふーっ……」
そんな激しい戦闘を繰り広げても尚、自然と、呼吸は平常を保てている。
(どうして……私、こんなに冷静なんだろ)
海賊の元で戦っていた時は、毎回毎回、死にものぐるいだった。負けたら、自分には何も残らない気がして、勝ってもただ“生きる”しかできない気がして。なのに、死にたくはなくて。
左腕部に取り付けられた滑腔砲を展開し、150ミリの砲弾を敵機にお見舞いする。装甲を穿つ弾丸と共にスラスター噴射で滑走。ボロボロになったナノラミネートアーマーへ、追い打ちの斬撃を叩き込み、回転しながら停止した。
フォルネウスの背後を爆炎が覆い尽くし、金色の装甲に微かな赤みを加え、消えてゆく。
「私は……なんで」
頭が空っぽになったシアは、フォルネウスを繰り、さらなる敵を求めて荒野を駆ける。
暫く荒野を駆けていると、遠くの方に、戦闘中の鉄華団機を見つけ、スラスター噴射を強めた。
『うわぁぁぁぁっ!!』
新入りの乗った機体が地面に倒れ、トドメを刺される寸前にまで至る。
大剣を振り翳すロディ・フレームに、フォルネウスの太刀が突き刺さり、新入りは命拾いをする。
『あ、ありがとう! お姉ちゃん!』
「……」
少年の礼に返事を返す事なく、混戦状態の戦場へと足を踏み入れていく。
『ん? シア。いたんだ。ここはいいから他に――』
交戦中のバルバトスを襲おうとしていたロディに、滑腔砲をお見舞いし、間一髪のところで撃破した。
『いいって言ってるじゃん。他のところも戦ってるから、そこに行ってあげて』
「……あ。ご、ごめんなさい」
長らく口を閉ざしていた為か、口内がカラカラでうまく声が出せなかった。
フォルネウスの方向を急転換し、再び火星の荒野を駆ける。
すると、真っピンクに染まった紫電が複数のロディ・フレームに囲まれているのが見えてきた。
「確かあれって――」
スラスター噴射を一気に強め、獅電と組み合っているロディに強烈な一太刀を叩き込んでやった。
『うぉっ!? あ――あぁ!! シアちゃん!! た、助けてくれたのか!?』
「シノさん……でしたっけ」
『“さん”なんていらねぇよ、軽々しく呼んでくれて構わねぇ!』
「じゃあ……シノ。まだ戦える?」
『当たり前よ!!』
興奮気味のシノと背中合わせになり、取り囲まれたロディ・フレームと今一度向かい合う。
スラスターを噴射し、二対の機関銃の軌道が飛び交う間をすり抜けて、分断した剣で二機のロディ・フレームを斬りつける。
そのうちの一機に、頭上から襲いかかり、コックピットに剣を突き立てて沈める。剣を合体し、機関銃を太刀で防ぎながら、もう一機に長い刃を突き立てれば、リアクターの熱で機体は暖かに包容される。
シノの紫電はシールドを用いて、メイスによる素早くも力強い攻撃で敵を圧倒していた。先程までの劣勢が、まるで嘘のようだった。
『うぉぉらぁぁ!! 海賊如きに鉄華団が負けるかよぉ!!』
二人は取り囲んでいた敵機を全て撃破し、荒野に立ち尽くした。
『助かったぜシアちゃん! ありがとよ!』
礼を言われたシアは、不思議な感覚を覚えた。
「あ……うん。大丈夫だよ」
海賊の所に居た時には、味わった事のない感覚だ。胸が熱くなるような、そんな感覚。
「なんか……ありがとう。シノ」
礼を言う筋合いは無いが、彼女の口から自然と、そんな言葉が零れ落ちたのだった。
「うぉぉぉぉ……! めっちゃ可愛いぃぃ……!」
シノは通信を一時切り、コックピットの中で一人、何かを噛み締めるように顔を歪めていた。
◇
新人が多かった為か、多少の犠牲者を出してしまった鉄華団だったが、何とか敵を退ける事に成功した。
オルガに呼ばれたシアは、大柄な男だらけの会議室に一人、三日月の隣で肩を竦めていた。
「夜明けの地平線団……火星と地球の間を活動域にしている大海賊。うちに攻めてきたのは、そのほんの一部らしい」
「まじか!? 結構な数いたぞ!?」
オルガの言葉に、ダンテのみならず皆が驚愕する。
「俺たちを襲った理由は?」
「分からねぇ。とにかく
オルガがそう答えるも、当然、質問した明弘の疑問は解消されないままであった。
「オルガ、どうするの」
座っていただけだった三日月が口を開き、オルガを見上げる。
「……仲間がやられた。数人だが、それでも、あいつらは鉄華団の仲間を――家族を殺した」
「やられっぱなしじゃいられねぇ。本格的に潰しに行く」
オルガはそう言って拳を握り締めてから、シアの方に目を向けた。
「シア。お前がいなかったら、犠牲者がもっと増えていたかもしれない。感謝する」
「……いいんです……寧ろ、感謝しないといけないのは私の方ですよ」
「次も頼む。ミカを支えてやってくれ」
「俺は一人でいいよ」
三日月はそう言っていたが、オルガは譲る気は無さそうだった。
「……うん。分かった」
シアはそれより、オルガの言った“家族”という言葉が、どうにも引っかかっていた。
(家族……って……なんだろう)