鉄血のオルフェンズ 鮮血の海   作:聖成 家康

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4『深淵の蒼穹』

 

 鉄華団は火星から宇宙に飛び立った。ありったけの戦力を乗せ、夜明けの地平線団と真っ向からやり合うために。

 

 イサリビの宇宙がよく見渡せる通路に佇むシアは、遥か遠くに浮かぶ火星を眺め、感傷に浸っていた。

 

(意外と綺麗)

 

 地上は荒れ果てていたが、惑星を全貌から眺めると、真っ赤な硝子球みたいで綺麗だった。

 

「おーいミカ――ありゃ」

 

 紅いスーツを靡かせながら、オルガが彼女の元に近づいてくる。

 

「なんだ、シアか」

「団長……」

 

 オルガはそう呟いてから、火星を見る。

 

「俺達の故郷だ。鉄華団は元々、CGSっていう会社だったんだ。でもな、俺達はそこでクズ同然の扱いを受けて、それでも必死に生きていた」

 

 突然、オルガはそんな話を始めたが、鉄華団の成り立ちを知らないシアからすれば、興味深い話であったため、大人しく聞くことにした。

 

「CGSを乗っ取って、鉄華団を創った。そして、そこから鉄華団みんなのおかげで、ここまで成長できたんだ」

 

 オルガは拳を握りしめる。

 

「だから俺は、俺たちは進み続ける。ここじゃない何処かに辿り着くまではな」

 

 そしてシアの方を見やって、手を差し伸べてくる。

 

「お前も、俺たちの家族だ。シア」

 

 ――家族。喉に突っかかる言葉だったが、その意味は何となく分かり、微笑みながら彼の手を握り、握手を交わした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 火星からだいぶ離れた場所にて、敵の反応を、イサリビのレーダーが捉えた。

 

 その反応こそ、夜明けの地平線団の本部隊。総勢3000を超える大戦隊が、鉄華団を今か今かと待ち侘びていたのだ。

 

 フォルネウスのコックピットに乗り込み、出撃の時を待っていたシアの元に、大荷物を抱えたアトラがやってくる。

 

「どうぞ! シア」

 

 彼女が差し出してきたジュースを取り、アトラに礼を言う。

 

「ありがとうアトラ」

「頑張ってね! 私、待ってるから!」

 

 コックピットが閉まり、アトラのいる外からは完全に遮断され、暗闇が視界を支配した。

 

(……何だろう、この気持ち)

 

 胸が熱かった。冷たいジュースを流し込んでも、一向に冷める気配はない。病気も疑ったが、他に一切異変が無いから、医務室に行くのは馬鹿らしい。

 

「家族……」

 

 ふと、オルガが度々言っていた言葉が蘇ってきた。

 

『シアちゃん。出撃準備は整いました、いつでもどうぞ』

 

 メリビットさんの声が、出撃を促してくる。

 シアは大きく息を吸ってから、目を尖らせた。

 

 阿頼耶識システムが作動し視界が映し出されると、オープンされていく隔壁が見えた。

 

「シア・ジョーリン。ガンダム・フォルネウス、出ます!!」

 

 フォルネウスを乗せたカタパルトが火を吹き、黄金の伯爵を広大なる深淵へと放り出した。

 

 すかさずスラスターを噴射して、敵の待つ戦場へと一直線に駆けていく。

 

 

 シアに続き、次々と団員達が出撃していく。

 

 やがて、宇宙のど真ん中で待ち構えていたロディ・フレームの大部隊が見えてきて、鉄華団の部隊とぶつかり合う。

 

 フォルネウスは太刀を用いて、素早い身のこなしでロディを次々落としていく。ある時はコックピットを、ある時はリアクターを、ある時は真っ二つにして。

 

 しかし、仲間が無惨に殺されるのを目の当たりにしても、海賊共は恐れを知らないように突っ込んでくる。

 

「っ……早い?!」

『気をつけろシア!! 阿頼耶識だ!!』

 

 明宏の通信により、警戒を高める事をできたシアは、迫るガルム・ロディの攻撃を回避し、分断した片刃で大剣を抑え、もう片方でコックピットを串刺しにして撤退。

 

(阿頼耶識ってことは……)

 

 あのコックピットに乗っていたのは、自分と大差ない子供だ。それを、躊躇なく殺した。前までの自分なら、海賊どもに叱責されてようやくだっただろうに。

 

(何が私に……こんな力を)

 

 シアは不思議に思いながら、戦闘を続行する。

 

 シノや三日月達と合流すると、バルバトスは随分と丸っこい三機のMS(モビルスーツ)と激闘を繰り広げていた。

 数では圧倒的に向こうが有利なのに、一機、二機と落としていき、残るは一際目立つ武装が施されたMS(モビルスーツ)のみとなった。

 

『お前ら!! やべぇぞ!!』

「団長……? どうかしましたか」

 

 焦ったオルガの声が、通信機を通して伝わってくる。

 

『“ギャラルホルン”だ!!』

 

 その言葉を聞いた瞬間、背筋がゾクゾクと震え、心胆から一気に温もりが抜けていく。

 

 海賊時代、最も警戒していた軍事組織。

 

 それが今、この戦場に。

 

 フォルネウスで状況を確認する。

 

 地平線団艦隊の後方から、それを容に超える大艦隊が接近していた。

 

「アリアンロッド……」

 

 自然と零れ落ちる言葉。

 シアは歯を食い縛り、撤退しようとした。

 

 されど後ろから来た新たな敵に妨害され、退路を断たれてしまった。

 

(ギャラルホルンだけは……相手にしちゃいけないっていうのに……!)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アリアンロッド艦隊は、夜明けの地平線団を標的とし、かなりの戦力を持って戦場に赴いていた。

 

「地球での汚名返上に丁度良い」

 

 ラスタルはニヤリと笑って、遠くに映る鉄華団のMS(モビルスーツ)の小さな影を見やる。

 

「それは我々の獲物だ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 三日月が相手のボスと一騎打ちしていた所を、アリアンロッドから解き放たれたエメラルド色のMS(モビルスーツ)――レギンレイズが妨害する。

 

『それは私に譲ってもらいますよ』

『邪魔だよ。あんた』

 

 バルバトスは、そのレギンレイズを何とか凌ぎながら、オレンジ色のユーゴーを追う。

 その戦いは、目で追うのがやっとなものあった。

 

「すごい……」

 

 その戦いに圧巻されていると、フォルネウスのレーダーが、急激に接近してくるエイハブウェーブの反応を捉えた。

 

「っ!!」

 

 すかさず防御体制を取ると、太刀に凄まじい衝撃が降り掛かってくる。

 

 目を凝らしてみれば、攻撃してきたのは真紅のMS (モビルスーツ)。反り立つ一本角、甲冑を身に纏ったかのような重厚感がありながらも、スリムなボディ。

 

「ガンダム・フレーム……!!」

 

 ギラリと輝く複眼を見て、すぐに分かった。奴もフォルネウスと同じ、厄祭戦を生き延びたガンダム・フレームだ。

 

『お前は俺と同じか?』

「!!」

 

 無線越しに聞こえてくる、敵パイロットの声。機械のように冷酷で、生気を感じられない声色だった。

 

「同じって……どういう事……」

 

 オープンチャンネルのせいで、余計な声を拾ってしまった。

 

『同じだな、その気配』

 

 紅いガンダムは、大型メイスでフォルネウスを吹き飛ばす。そのメイスの縁には、細かな刃が無数に走っており、悍ましい音を立てていた。

 

「これが……ガンダム……」

 

 同じガンダムと戦うのは、三日月のバルバトス以来。それも、バルバトスは見逃してくれたが、この機体は恐らくギャラルホルンの物――今回は見逃してはくれない。

 

 

「ゼパル。俺の身体はお前にくれてやる。だから、お前は俺に従えばいい」

 

 ガンダム・ゼパルのコックピット内で、エメラルド色のノーマルスーツを着たノクティスが独り言を言う。その背中は、ゼパルと接続されていた。

 

 

 フォルネウスはスラスターを噴射し、紅いガンダム――ゼパルに一太刀入れる。されど、回転する刃に弾き飛ばされ、胸部に斬撃を入れられてしまう。

 

「ぐぅぁぁっ!?」

 

 回転刃による衝撃は凄まじく、視界が目まぐるしく周り、彼女の脊髄に膨大な情報が入ってくる。

 鼻から血を滴らせるノア。掌についた血を見て、息を呑んだ。

 

「死ぬ……死ぬの……? 私……」

 

 呑んだ息は、次第に荒くなる。血と鉄の混ざったコックピットの匂いが、彼女の焦燥を更に加速させた。

 

「嫌だ……死にたくない……死にたくないよ」

 

 コックピットの中で蹲り、一人、命乞いをしていた。しかし、それは敵機には聞こえないし、聞こえたとしても通じない。

 

(……なんで、死にたくないんだ……?)

 

 死んだら何もかも無駄になるからだ。

 

(何が無駄になるの……?)

 

 自分が今まで生きてきたすべてが。

 

(何もない私は、死んでも無駄になるものなんて……ないんじゃないの?)

 

 迫りくる紅い騎士の背後。

 バルバトスや獅電が、激闘を繰り広げていた。

 あそこだけじゃない。イサリビにいるオルガ、ユージン、アトラ、雪之丞。誰もが皆、それぞれ()()()()()

 

 

 ――お前も、俺たちの家族だ。

 

 

「そうだよ……私には鉄華団がある」

 

 

 操縦レバーを固く握り、フォルネウスを自分の思うがままに操る。

 

 

 ノクティスは、急に動いた敵機を警戒していた。

 

「何だ……戦うのをやめて、すぐに再開した……」

 

 顔を顰めたノクティス。

 ゼパルの手に握られた、チェインメイスが唸りを上げる。

 

「過去にしがみつくだけの亡霊に、何がある……?」

 

 

 フォルネウスの複眼が輝いて、ゼパルの攻撃を受け止め、軽々と押し返す。

 

「私は……守るものができたんだ」

 

 自分の事を気にかけてくれた、オルガやアトラ、三日月の姿が脳裏を過る。

 操縦桿を握る拳を、更に固く握りしめ、目を閉じてフォルネウスに語りかけた。

 

「フォルネウス、君も分かるよね。だったら――私に力を貸して」

 

 脳に伝わる、重く、鈍い感覚。それはやがて痛覚となって彼女の全身に行き渡り、靭やかな身体をびくんびくんと強張らせる。

 

 目や鼻から、どばとばと鼻血が漏れてくる。

 フォルネウスに、何かが起こっていた。

 

 カタカタと震える装甲。力を溜め込むように身体を丸め、痙攣していた。

 コックピットは、大量の警告表示で埋め尽くされたが、シアは動じることはなかった。

 

 

「なんだ……?」

 

 危機を感じ、ゼパルは奴に急接近してすかさずメイスを振り翳した。

 

 しかし、その行動は既に遅く、何かに阻まれて、刃はあらぬ場所を斬りつけてしまった。

 

「……?」

 

 それを阻んだ何かは、金色の装甲だった。

 

 フォルネウスの方を見やれば、そこに金色の伯爵はもう立っていない。

 金色の装甲をパージし、現れたのは蒼き甲冑に包まれたガンダム。蒼いナノラミネートアーマーを基調とし、各所が銀色の装甲で構成されている、パージ前に比べ幾分もスリムなボディだった。

 

「なるほど……それが真の姿か」

 

 チェインメイスを構え、スラスター噴射で斬りかかるゼパル。ぶん、と剣を振り下ろすも、そこに手応えは全くと言っていいほど無かった。

 探す暇も与えられず、ゼパルは背後から現れたフォルネウスの攻撃を諸に喰らい、体勢を大きく崩した。

 

「ガンダム・フレーム、侮れん」

 

 

 右頬から熱い物が滴っていく。瞳から溢れ出た血が、だらーん、と垂れていたのだ。阿頼耶識の代償。ガンダムの力を、高出力まで解放した際は、こうなる事が多い。

 

 でも、止まれない。

 

「私には、戦う理由がある!」

 

 フォルネウスはスラスターを噴射し、ゼパルに向けて滑腔砲を発射。それを避け、隙ができた真紅のボディに、大刀による一撃を叩き込み、鉄の音を宇宙に轟かせた。

 

 再び滑腔砲が無重力空間を裂き、ゼパルの装甲で弾ける。

 真紅の機体は怯むことなく、チェインメイスを振り回し攻撃。

 スラスター噴射で、目にも止まらぬ動きを繰り広げながら、その攻撃を避ける。

 

 そして近づいて、太刀で渾身の一撃を叩き込む。

 

『お前は何なんだ……? 俺と同じようで、何かが違う』

「そんな事どうでもいい。私は今、守りたいものの為に戦ってるんだ」

『……理解不能だ』

 

 遠くで、一際大きな、MS(モビルスーツ)のエイハブ・リアクターが爆発する音が聞こえた。

 ゼパルはフォルネウスの懐から離脱し、アリアンロッドの艦隊へと戻っていった。

 

「終わっ……た」

 

 コックピットで一人、シアは悶えた。

 フォルネウスが怒っている。

 ――あいつを殺らせろ。彼女にはそう言っているように聞こえた。

 

「ぅぐ……あぁぁぁっ……!!」

 

 頭が割れるような痛みに苛まれながら、シアの意識はぷつり、と途切れた。

 

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