夜明けの地平線団との戦いを終えた鉄華団。避けられた筈のこの争いは、火星の活動家団体 テラ・リベリオニスの代表 アリウム・ギョウジャンによって仕向けられたということが発覚した。
オルガを率いた鉄華団の者達は、その落とし前をつけさせるために、アリウムを襲撃。
どうなったかまでは、シアには分からなかったが、彼らは何時だって“本気”ということを彼女は知っていた。
火星の基地に戻ってきたシアは、バルバトスと一緒に並べられたフォルネウスを見上げ、感嘆の息を漏らす。
「君って、こんな姿だったんだね」
金色の甲冑に阻まれ、長らくその全貌を隠し続けていた、何の汚れも無い海のような蒼。バルバトスが霞むくらいに、その姿は美しく、気高かった。
こんなフォルネウスの姿を見るのは、これが初めてである。
「こいつはすげぇ機体だな。お嬢さん」
雪之丞がやってきて、誇らしげに聳える蒼穹の騎士を見据えて、そう呟いた。
「あの金ピカの装甲は、この貧弱なボディを守るための盾だったというわけだ。確かに、何重にも重ねられた強固な装甲だった」
「……もう、フォルネウスはあの姿にはなれないんでしょうか」
「そんな事は無い。この貧弱ボディを守ってきたからこそ、この機体は今までやってこれた。何度でも換装すればいいさ」
そう言われ、シアはどこか安心したように息を漏らした。
身寄りの無い自分にとっては、フォルネウスだけが身近な存在。いわば、家族のような立ち位置だった。そんな機体が見慣れない姿では、少し心が落ち着かない。
「それよりどうだぁ、鉄華団には慣れたか」
「……まだ慣れません……でも、海賊の所にいた時より、ずっと楽しいです」
「良かった。お前さんには、ちと合わないんじゃないかと心配してたんだ」
「……え?」
雪之丞が彼女に背を向けながら言う。
予想外の言葉に、シアは目を丸くする。
「後先考えず、進むことしか考えてねぇ餓鬼の集まりだ。お嬢さんのような子には、合わないんじゃねぇか、って思っただけだよ」
その言葉に、何か返事をしようとしたが、内容を考えているうちに、雪之丞は何処かへ姿を消していた。
「進む……か」
自身の手を握ったり、広げたりしながら、シアはその言葉を噛み締めた。
◇
標的を取り逃がしたアリアンロッド艦隊は、ギャラルホルンの名誉挽回の為に、次なる策を練っていた。
そんな最中、ジュリエッタは先の戦いを思い出す。
「……っ……私はもっと戦えた……! なぜ、なぜ私は……!」
ぶつぶつ、と独り言を垂れ流しながら、自身のレギンレイズを前にして、あちこちへ歩くのを繰り返していた。
「何をぶつぶつと」
その様子を偶々見ていたノクティスが、冷ややかな目で彼女を見据える。
苛々が最大限に達していたジュリエッタは、彼に対し理不尽に当たる。
「うるさいですね、私の問題ですからあなたは介入してこないでください!」
「……ほう」
ノクティスはそう言われようと、引き下がる事をしようとはしなかった。
「あの戦いは忘れる事だな」
「同情のつもりですか。必要ありません」
「そんな事をしたつもりは無い。お前は、次の戦いだけを考えていればいいんだ」
そう言うと彼は人差し指を突っ立てて、彼女の鼻先に当てる。
折る勢いでそれへ掴みかかると、寸前のところで手を引かれ、惜しくも狙いを外す。
「先の事を考えろ。過去は過去だ。変えられない」
「何を当たり前のことを……」
「お前は力を求めているんだろう」
図星を突かれたジュリエッタは、次なる言葉を、僅かに言い淀む。こちらを見据える深淵のような瞳に押され、とうとう黙り込んでしまった。
「力を欲した者の末路は悲惨だぞ」
「だが私は! ラスタル様へ示さなければならないのです! アリアンロッドの一員としての力を!」
「……好きにするといい」
呆れ返ったように、ノクティスは彼女の前から姿を消した。
屈辱を覚え、ジュリエッタは力強く振り返って、レギンレイズの隣に聳え立つ
真紅の装甲が、照明に照らされ、四方八方へ狂気的なまでの輝きを放っていた。
◇
二日後、彼女はようやく三日月と再会した。
「マクギリス……?」
会って早々、彼が口にしたのはその名前だった。
「うん。その人が……なんか、鉄華団と手を組みたいんだってさ」
「それってギャラルホルンの人でしょ? 何でそんな人が?」
「俺はよくわかんないよ。オルガに自分で聞いてみて」
丸投げな三日月は、火星ヤシを頬張りながら食堂へと向かう。
何が何だか分からないシアも、うるさい腹を沈めるために、彼についていった。
一足遅れて食堂に着けば、三日月が先に食事を初めていた。
すると、珍しい事に彼へ話しかける人物の姿が見える。
「お願いです三日月さん! 俺も
「……オルガがどう言うか分からないよ」
「じゃあ、三日月さんから団長に言ってくれませんか? お願いです!」
三日月より背の高い、白髪の青年が彼に頭を下げて懇願していた。
ハッシュ、と呼ばれているのを、聞いたことがある程度だった。
「どうしたの、あれ」
「あぁ……どうしても
怪訝そうに眺める昭弘に尋ねて、だいたいの事情を把握した。
「……阿頼耶識の手術はしない、ってオルガが直々に伝えた筈なんだがな」
「よっぽど戦いたくて仕方ねぇんだよ。なぁシアちゃん? あいつらはまだひよっこだから、戦ってもろくな戦果は得られねぇよな?」
口を挟んだシノを、昭弘と揃って睨みつけた。
「悪い」と大して悪びれる態度も見せず、二人の視線を気にしながら食事を続けた。
「あ……それより昭弘、この前はありがとね」
「ん?」
「ほら、私に敵のこと教えてくれたでしょ?」
「あぁ……まぁ、当然のことだ」
照れているのか、いつもより幾分も小さな声で返事をした。
肩を組まさせたシノに耳元で
「おいおい、昭弘もモテるなぁ」
と弄られて、ついつい手が出そうになった。
食事を持ってきたシアは、三日月の隣で食べることに。まだハッシュは、彼に交渉を続けていた。
「わかったよ……俺がオルガに言っとく。けど、阿頼耶識の手術はもう出来ないよ」
「……! ありがとうございます!」
ハッシュは頭を下げ、胸を張ったまま食堂を出ていった。
「三日月。大丈夫なの」
「何が?」
「いや……団長さんの許可もなしにさ」
「オルガが駄目って言うなら、あいつは
三日月は団長の事をオルガ、オルガと異様な執着心というか、特別な感情を抱いているように感じる。鉄華団の一部は、長い付き合い同士だと聞いているが、彼の執着にはどこか異常性まで覚える。
「団長さんと三日月って、どういう関係なの」
「え。うーん……オルガは、俺たちを連れて行ってくれるんだ。辿り着く場所に。だから俺は、オルガの言う通りにする。そこに辿り着くために」
辿り着く場所。その言葉に彼女は疑問を覚えた。鉄華団という、最高の居場所が彼にはある。アトラのような素敵な女の子もいれば、明弘やシノのように頼れる仲間もいる。そんな環境に置かれた彼が、これ以上何を求めるのか。
口に出しそうになったが、我慢して飲み込む。言及してはいけない気がする。
彼女は、以前までの――アーヴラウの一軒以降の鉄華団を知らない。何が彼をこうしたのか、シアはまだまだ知らない。
半端な詮索は不幸を呼ぶ。
「食べないの」
「えっ? あ、ううん! 食べるよ」
三日月が自分の皿にスプーンを伸ばした所で、彼女はようやく食事に手を付けた。
ここの食事は美味しい。鉄華団は彼女にとっては最高の居場所だった。
――何があっても手放したくないほどに。
◇
オルガと三日月は、セブンスターズのマクギリス・ファリドに呼び出され、ギャラルホルン火星支部を訪れた。
火星が足元に見えるその部屋で、マクギリスは彼らを待ち侘びていた。
「もう一度呼び出して、何の用だ」
「オルガ・イツカ。君に聞きたい事がある」
マクギリスに尋ねられ、彼は眉を潜めた。オルガはまだ彼を、完全に信用してはいない――何度も助けられてはいるが。やはりギャラルホルンの者という認識は、簡単には拭えなかった。
「鉄華団の採掘場で、何か不思議な物が見つかったと聞いたが?」
「……それがどうかしたか」
「具体的に、どんな物が?」
緊迫した空気の中でも、三日月は火星ヤシを頬張る。
オルガは暫くしてからその問いに応える。
「ガンダム・フレームらしき
「ほう……」
マクギリスは急に立ち上がり、下に広がる火星へと目をやった。
「厄祭戦は、宇宙の各地で行われた。それは金星、木星、火星でさえも。どこもその戦禍に巻き込まれた」
「厄祭戦……? それと何の関係がある?」
オルガの方に目をやり、マクギリスは応じた。
「その機械は恐らく、“モビルアーマー”。厄祭戦で七十二機のガンダム・フレームと激闘を繰り広げた、恐怖の殺戮兵器だよ」