Red Flood × 宇宙世紀(仮)   作:うねる蛇

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どうも、初めての方は初めまして、本作の著者のうねる蛇です。
大変お待たせしました、ボグダーノフ編の第一話がようやく公開です!
今回からしばらく彼視点の話が何話か続いていく予定ですので、他の転生者の話が読みたかった人々はどうかご了承ください。
このボグダーノフの物語は宇宙世紀世界の西暦末期〜宇宙世紀初期が舞台となりますので、その点もどうかご了承ください。


第二章:赤き星の血潮、火星に満ちる
ある夢想家の第二章


1956年4月4日。

この日、ロシア——正式な国名は”労働連合集産国”と言うのだが——の人々は興奮に包まれていた。

国家事業によって建てられた数多くの集合住宅のあらゆる部屋で、住人の目がテレビに釘付けになっていた。

そのテレビの映像——無論生放送である——では、今まさに人類初の偉業がなされようとしていた。

 

テレビ画面には、荒涼とした月面の風景が映し出されていた。

無重力の中、ゆっくりと動く宇宙飛行士たちが画面を横切る。

彼らの手には、赤い旗が握られていた。

その旗には、中心に黄色い縁取りの星、そしてその周囲を囲む歯車が、赤い生地に描かれている。

これは全ての労働者の象徴、新たな時代を切り開く革命のシンボルだった。

 

月面に立つ宇宙飛行士たちは、慎重に旗を立てる準備を進めている。

息を飲むような静けさの中で、旗がゆっくりと広がり、無風の月面に堂々と打ち立てられる瞬間が訪れる。

 

「人類初の旗が、今まさに、月に立ったのだ…」

 

その瞬間、ロシア国内だけでなく、世界中でこの光景がテレビを通じて映し出された。

歓声があがり、拍手が沸き起こる。

モスクワの街角では、人々が集まり、抱き合い、泣きながら祝福しあっていた。

これはフペリョート主義革命の勝利であり、科学と技術が生んだ人類の未来の象徴でもあった。

 

だが、その騒ぎから遠く離れたモスクワ郊外の一つの屋敷。

そこに、一人の老人がいた。

名前はアレクサンドル・ボグダーノフ。

かつての労働連合集産国の初代国家主席であり、今やその革命を陰で支えた一人として静かに引退生活を送っている男だ。

 

ボグダーノフは、重厚な椅子に深く腰掛け、窓越しに外の様子を眺めていた。

国民の歓喜の声が遠くから聞こえてくる。

屋敷の中には、かすかにテレビの音声も響いていたが、彼はその映像を直接見ることはしなかった。

ただ、静かに目を閉じ、耳でその瞬間を感じていた。

 

「ついに、ここまで来たか…」

 

彼の口元には、かすかな微笑みが浮かんでいた。

長い間、彼は理想のために尽力し、社会主義革命を導き、人類の可能性を信じ続けた。

そしてその結果が今結実しようとしていた。

 

まだ帝政がロシアにおいて打倒されていなかった頃、彼は社会主義の理想に燃える革命家であった。

しかし、ボグダーノフの職業を表すならば革命家である、という言葉だけでは不十分であったろう。

彼は革命家であると同時に、科学者でもあった。

そしてこれが、彼と他の当時の数多くの革命家を分けた点であった。

 

従来の社会主義は、世界中から貧困を撲滅し、社会における階層の差を無くし、万人が物質的に豊かな生活を送れる理想郷を打ち立てようとする思想であった。

しかし、若きボグダーノフの目には、それはあまりにも時代遅れ・・・・の考えに映った。

 

”だってそうだろう、今はもはやマルクスの生きていた時代ではない!こんなにも人類の科学技術の進歩が著しく、20世紀の始まりも近い今において、その程度の構想しか抱けないなど、既存の社会主義の思想家たちはなんと了見が狭いんだ!”

 

”これからの——すなわち20世紀以降においての——社会主義は、そんな単に物質的に人類が豊かになるのを目指すだけじゃいけない。そんなものはブルジョワ社会でも、科学技術の進展によって達成できてしまう。だからこそ、社会主義者はそんなものを遥かに超える目標を制定するべきだ!”

 

そういった彼の考えは、やがて数多くの若き社会主義革命家たちの共感を得た。

人類の生活領域の宇宙への拡大、人類の手による地球の自然の完全制御・支配、そして全人類の不老不死の実現。

そういったSF的内容とも取れる彼の理想の数々は、既存の社会主義の理想以上のものを夢見る、人類の可能性を信じる者達を魅了した。

 

無論、彼のこの思想潮流——人呼んでフペリョート主義Vperedism、またの名を前進主義——が社会主義の一大潮流となるまでには、相当の苦労が生じた。

まずはレーニン率いる守旧派をボリシェヴィキ内部から追い出す必要があり、その分裂後の組織修復には苦労した。

そのレーニン含む旧来の社会主義者の集まる第二インターからある種の報復として追放されたことも、未だ記憶の中に生々しく残っていた。

さらに言えばカデットやメンシェヴィキ、社会革命党などと手を組んで起こした革命は一度は失敗し、遥か遠いゼルトロシア満州の地まで革命勢力は撤退を余儀なくされた。

 

しかし、それでもボグダーノフは屈さなかった。

ゼルトロシアにおいて他の共和派から政権を奪取し、レーニン主義者の残党によるクーデター未遂を乗り越え、フペリョート主義国家の樹立に成功した。

様々な軍閥蠢くシベリアの凍土において、革命軍の兵士たちは西へ西へと進軍し続けた。

そうしてやが反動分子の温床たるロシア帝国の本土にたどり着き、最後の戦いが始まった。

コーカサス方面で生き延びていた革命軍の同志たち”カフカース協会”との戦場における再会、そして彼らからの援護射撃もあり、ついに帝国は打倒され、革命は成就した。

 

そして今や時は経ち、労働連合集産国の旗が月に打ち立てられ、人類の未来が彼の夢見た革命の象徴と共に前進している。

 

彼は、深く息をつき、胸に広がる満足感を感じた。

これが自分の人生の終着点だということを、ボグダーノフは理解していた。

 

「我々は勝った。人類の未来は、人類自身の手の中にある…」

(そしてあの赤い星に、いずれ人類は辿り着くであろうな…かつて私が書いた、あの絵物語のように…)

 

その最後の言葉・思念と共に、彼の瞳はゆっくりと閉じられた。

外では、さらに大きな歓声が湧き上がり、人々は狂喜乱舞していた。

革命の英雄としてのアレクサンドル・ボグダーノフは、静かに、穏やかに息を引き取った。

 

窓の外、革命の旗が掲げられた月の映像は、永遠にその記念すべき瞬間を映し続けていた。

 

 

 

…しかし、アレクサンドル・ボグダーノフの物語はここで終わりではなかった。

 

この赤い洪水の世界Red Floodの誰も知ることはない、遠く離れた並行世界にて。

 

その宇宙に流れ着いた彼の魂は、ある胎児に乗り移った。

 

これより綴られるのは、ある壮大な夢を抱き続けた男の、別宇宙における第二の人生の物語。

 

または、本来その宇宙に存在するはずのないある異物、それがこの宇宙に与えた影響の詳細なる記録。

 

その夢がこの世界においても叶うかどうかは、まだ誰にもわからない。

 


 

(…ここは…?)

 

彼が目を覚ましたのは、赤黒い空間の中。

 

(…なるほど、自分は死んだのか。)

 

自身の穏やかとも言える最期を思い出し、その結論に行き着いた彼は、周囲の環境を観察し始める。

 

(人間の死後の世界とは、こうなっているのか…やけに肉肉しい、赤黒い色の場所だが、何かの温かい液体に浸かってるかの感覚がして、非常に心地よい。しかし…)

 

彼は自身の体を動かそうとするも、ほとんど動かなかった。

 

(身体は殆ど動かないか…この空間の中を自由に動いて探索してみたかったのだがな…)

 

そう動けないのを残念がっていた、その時だった。

突如として、赤黒い空間に、光が差し込んだ。

 

(な、なんだ?いきなり光が…しかも徐々にそちらに吸い寄せられているような…)

 

そして光はやがて彼に近づいていく、そして——

 


 

西暦2156年。

月面都市「フォン・ブラウン・ヴィレッジ」の医療施設には、低重力環境に最適化された先進的な医療機器が並んでいた。

その中で、無菌室の一角に配置されたインキュベーターが、静かに生命の息吹を守っていた。

ここは歴史上初めて、月面で赤ん坊——いわゆる”第二世代入植者”——が誕生した場所であり、今ここにいる生まれたばかりの赤子も、またその一員であった。

 

「彼の名前は、どうする?」

 

医師が静かに尋ねると、両親は顔を見合わせ、次いで生まれたばかりの赤ん坊をじっと見つめた。

この夫婦は共に月面に入植した科学者であり、共に入植作業をこなすうちに互いに惹かれ合い、月面での結婚にまで至った夫婦であった。

インキュベーターの中から取り出され、母親の腕に抱かれた赤子は、小さな体を柔らかい包布に包まれて、初めて味わう世界の空気にゆっくりと馴染もうとしていた。

外では、月の荒涼とした大地が広がり、地球が遠く青く輝いていた。

 

「アレクサンドル…アレクサンドル・コルヤノフにしよう。」

 

父親がそう呟いた。

 

「アレクサンドル…いい名前ね。」

 

母親が優しく微笑む。

その微笑みの中には、月面で生きるという過酷な現実の中にあっても、新しい世代が夢を引き継ぐことへの希望が込められていた。

赤子の小さな手が、彼女の指をかすかに握り返した。

 

「アレクサンドル。君はこの月面に生まれた以上、数々の困難を経験するだろう。時には諦めたくなるかもしれない。」

「ただ、覚えていてくれ。君の世代は全人類の希望の灯…この暗闇に満ちた宇宙空間の中で、人類の道、宇宙への拡大の道を照らす松明の持ち主たる世代の一人なんだ。私たちは君ならできると、信じているよ」

 

父親はそう言って、優しく赤ん坊の頭を撫でた。

その瞬間、インキュベーターの周りにいた医療スタッフたちは静かに見守り、誰もがこの瞬間を胸に刻んだ。

新たに名付けられたアレクサンドル・コルヤノフ、その小さな命は、月という過酷な環境の中でも未来への希望を宿していた。

 

外の窓から差し込む太陽光が、月の大地を淡く照らしていた。

そしてその光は、アレクサンドルの未来を象徴するかのように、彼の小さな寝顔を温かく包み込んでいた。

 

しかし、このアレクサンドル・コルヤノフという赤子について、まだ誰も知らないことがあった。

それは、この赤子の中に別宇宙の革命家——”アレクサンドル・ボグダーノフ”——の魂が入り込んでいたことである。

それが果たしてこの世界に、どのような影響を与えていくのか。

それはまだ、誰にもわからないことであった…。

 




後書き人物解説:

アレクサンドル・ボグダーノフ(転生後の名前:アレクサンドル・コルヤノフ):

史実での経歴:
1873年にロシア帝国で生まれた革命家兼科学者であり、史実のボリシェヴィキ(後のソ連共産党)では一時期レーニンに次ぐNo.2でもあった。
その後レーニンとの対立で党内の地位は失墜、ボリシェヴィキをはじめとした革命運動と手を切るまでに至るも、十月革命後は一時期プロレトクリトというソ連内の文化運動の主要人物となったりした。1924年以降は輸血による若返り実験に夢中になり、それで自身の視界を回復させたりなどある程度の成果を得るも、最終的には1928年に輸血実験の結果当時まだ未解明の血液型の不一致で死亡した。

RF世界での経歴:
この世界では逆にレーニンの地位を失墜させて彼を追放、自分がボリシェヴィキのリーダーになった。
ニコライ二世がストルイピンに当たるはずだった銃撃を代わりに喰らって死亡したりしたこの世界においても、ボリシェヴィキ主導(ただし他の反帝政政党との同盟を組んだ状態)でロシア革命を起こしたが史実と違い敗北、他の反帝政派政党と共に極東に逃れた。
やがて極東の革命国家の中で政権を掌握したボグダーノフは、国内の産業を完全に復活させ政権の基盤を盤石なものとした上で、西方のロシア帝国打倒を掲げて西へと革命軍を進め、最終的にマヤコフスキー率いるカフカース協会と共にロシア帝国の打倒に成功。
マヤコフスキーの革命政権を平和的吸収した後にボグダーノフは最高指導者を辞任して国家運営を後継者に託して自身はモスクワの家で隠居、1956年に自国の宇宙飛行士の月面着陸を見届けてこの世を去った。

しかしどういうわけかその魂は宇宙の垣根を超え、UC世界の宇宙世紀導入前の月面入植者の科学者夫婦の息子として再び復活した。

余談だが、彼は史実においてもRF世界においても彼独自の社会主義の構想に基づく、火星を舞台としているユートピア小説”赤い星”を執筆している。
彼が今作でのRF世界における最後の思念で”夢物語”と形容してるのはその小説のこと。
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