今度はドイツ社会主義レーテ共和国からのご登場です。
前回の短編とのつながりはないです。
別世界線だと思ってもらって構いません。
始まり
その日、ある男が老衰でこの世を去った。
彼の死を、彼の祖国の人々は大変悲しんだ。
彼は若い頃、自らの祖国:ドイツの首相を務めていた。
そして彼が国を率いていた時期は、数々の国難が国を飲み込まんと待ち受けていた。
我々の知る正史と違い、その世界においては日露戦争においてロシアが日本にかろうじて勝利したことをきっかけに、歴史が大幅に違っていた。
当時、祖国ドイツは第一次世界大戦後に発生した革命によって、世界で初めて社会主義化に成功していたが、まさにその性質上、敵は絶えなかった。
芸術を愛好する狂人達に乗っ取られ、加速主義という地獄のような思想を受け入れた隣国:フランスや、アドルフ・ペルツル総統の下自らが正当なドイツ共和国だと言って憚らないオーストリアなどが主要な敵であった。
革命の後、
しかし、ある男がそれを成し遂げた。
彼は自らの党、DSRPから『1848年のあの共和主義革命を、再度欧州に』『真の自由・平等・友愛をドイツに』というロマン主義的なスローガンを掲げて選挙戦に挑み、見事に社会主義ドイツの首相に就任した。
首相に就任した彼は、
もはやそこにあったのは、かつての混沌と積弊に満ちたドイツ社会主義レーテ共和国ではなかった。
『自由ドイツ社会共和国』…それこそがこの生まれ変わった、民主化され、そして自由な社会主義国家たるドイツの名前だった。
その後ドイツ率いる社会主義の赤色戦線・フランスとイタリア率いる加速主義の太陽連盟・オーストリアなどさまざまな勢力がぶつかり合った第二次世界大戦において、首相となったその男はお得意の演説で兵士や市民らを鼓舞し続けた。
時には彼自身が前線に訪れ、兵士たちを即興の演説で鼓舞し続けたこともあった。
そうして、何年も続いた2度目の大戦の末、ドイツは勝利した。
加速を唱えたフランスの狂人は怒りに叫ぶ人々の前で、かつての国王のごとく処刑された。
自由・平等・友愛の三色旗はドイツ軍とフランス人の反体制派パルチザンの協力により、再びエッフェル塔に翻った。
イタリアの指導者は、度重なる敗北によって民衆の支持を失い、怒れる社会主義者パルチザンによって射殺された後、逆さ吊りにされた。
イタリアは後にドイツが指名したサンディカリスト:レイオ・バッソによって、イタリア社会主義共和国として再建された。
オーストリアの総統は赤色の軍勢がウィーンの市街地まで迫る中、自らの命を銃弾をもって絶った。
ドイツ首相の唱えた大ドイツ主義に則り、オーストリアはドイツに併合され国家として消滅した。
こうして、2度目の大戦は終結し、狂気にまみれた血の赤い洪水は少なくとも欧州においては乾いて消え去り、欧州再建の時代が幕を開けた。
こうした中で、任期満了で首相を辞したその男は、時たまドイツ各地に顔を出して再建に勤しむ人々を激励しながらも、概ね静かに余生を過ごしたのだった。
時は流れ、彼にもついに死神が訪れた。
彼は自身の家で倒れ、病院に搬送されるも2度と意識を取り戻すことなく逝った。
彼の葬式には数多くの人々が集い、嘆き悲しんだ。
彼が首相だった頃に、旧来の社会主義者がよく歌っていたインターナショナルに代わって制定されたドイツ国歌も、1番から3番まで絶やされることなく流された。
彼の遺言に基づいて作られた質素な墓の碑文にはこうあった。
『1848年の父祖らの無念を晴らすことに身を捧げた男、愛国者、そして人民の一人』
『パウル・ヨーゼフ・ゲッベルス、ここに眠る』
…だがしかし、これはこの世界の誰も知らないことであったが、彼の魂はすぐさま死後の世界に行きはしなかった。
神の手違いか、あるいは何者かの意思か。
遠い遠い別宇宙において、彼は誰も予想だにしなかった形で目を覚ますことになる。
これより綴られるのは、彼を始めとした、『赤い洪水』の世界からの異物が多数紛れ込んだ宇宙世紀の歴史である。
(ここは…?)
彼が目を覚ましたのは、赤みがかった暗い空間の中だった。
彼はそのことに驚いて動こうとしたが、全く身動きが取れない。
しばらくして落ち着いた彼は、一旦落ち着いて、それまでの記憶を反芻してみた。
(私は確か家で倒れて、病院に運ばれ…そ、それから…)
(待て、そうか、私は、死んだのか…)
彼が最初に思いを馳せたのは、自分の家族のことであった。
(私の子供たちは元気にやっているだろうか…死ぬ前に家族と祖国の人々宛の遺書を残せたのがせめてもの救いか…)
そうして彼は次に、自分の状況について考えを巡らせた。
空間全体が赤みががっているのは、この狭い空間の外壁がそういった色をしているからだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
(てっきり聖書に書いてあるように事が運ぶのかと思っていたが…この場所を見るに、そういうわけでもなさそうだな)
そうしてどうしたものかと考えていると、突如として異変が起きた。
突如としてそれまで暗かったその空間に、光が差したのだ。
しかもどうやら、それはゆっくりと、しかし確実に近づいて来ていたように彼には見えた。
そしてついに彼の元に光は辿り着き、そして───
「あら、もう眠っちゃったみたいね」
あるスペースコロニーの病院の病室の一つにて、ベッドから半身を起こした状態の女性が、両手で自分が産んで間もない赤子を抱えながら微笑んだ。
その赤子は生まれた当時はとても大きな声で泣いていたのが、疲れたのか眠りについてしまっていた。
「ごめんよ、カタリナ、出産の時に立ち会えなくて…」
「良いのよフリッツ、仕事を急いで切り上げて向かって来てくれたのはわかっているから」
その女性─カタリナに謝る夫のフリッツ・グリゴーは、なんとか仕事を切り上げてやって来たものの、病院にこれたのは出産より数時間遅れであった。
「そういえばこの子の名前は何にしようかしら?」
「そうだね、ヨーゼフなんてのはどうだい?」
「古風な名前ね…でもレトロな物が好きなあなたらしいわ」
「「じゃあこの子の名前はヨーゼフ・グリゴーで決まりね」だ」
こうしてこの世にまた一人、新たな命が生まれ落ち、名前がつけられた。
しかしこのヨーゼフ・グリゴーという赤子について誰も知らないことがあった。
それは、遠い別宇宙の人間の魂─ヨーゼフ・ゲッベルスの魂─が、その赤子には宿っていたことである。
それが果たしてこの宇宙世紀の歴史にどう変化をもたらしていくのか。
それはまだ、誰にも分からないことであった…
人物解説:
ヨーゼフ・ゲッベルス(宇宙世紀での名前:ヨーゼフ・グリゴー):
我々の世界ではナチス政権の宣伝省大臣としておなじみだが、RF世界ではナチズムに出会わず反ユダヤ主義にも染まらなかった。
その代わりそれ以前抱いていた愛国的な左翼思想を保持し続けたため、帝政が倒れ社会主義化したRFドイツでは非マルクス主義の社会主義政党DSRP(ドイツ社会共和党)を率いるまでになった。
このゲッベルスは首相になった後、共和国の再編を成し遂げ、第二次世界大戦においてオーストリアと仏伊の太陽連盟双方に勝利した世界のゲッベルスである。
その後任期満了で首相を辞職、以後普通に人生を過ごしたが、死んだ瞬間に出産直前の赤子として宇宙世紀に転生した。
本文中の赤黒い空間とは母親のお腹の中である。
フリッツ・グリゴーとカタリナ・グリゴー:
適当に思いついたスペースノイドの夫婦。
宇宙世紀0030年代後半に双方若くして子供を授かったが、その子供に別世界の人の魂が入っていることは知らない。
フリッツ・グリゴーは一般的なサラリーマンで、カタリナは専業主婦である。
続きは投稿…できるかなぁ…?