Red Flood × 宇宙世紀(仮)   作:うねる蛇

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どうも筆者のうねる蛇です。
なんとか死ぬ気で執筆に取り掛かったらきっかり二週間で投稿できました。
今回からしばらくゲッベルス・ラデックのコンビから離れて、別の転生者の視点となります。
時期としては宇宙世紀0010年代…前回から40年ほど前の時代が舞台となります。

それでは、引き続き本作『Red Flood × 宇宙世紀(仮)』をお楽しみください。
よろしければ高評価・感想・お気に入り登録などよろしくお願いします。


第一章:ムンゾに生まれ落ちた変革の風
ある敗北者の再起


1943年11月21日、自由ドイツ社会共和国にて。

国営老人ホームのベッド上で、孤独死するまでの微かな時間を過ごす一介の老人がいた。

このしわくちゃで身動きのできない老人が、かつてはこの国…ドイツの国家元首にすらなり得た男だといえば、ほとんどの人が驚愕することだろう。

 

『私は失敗した、祖国に奉仕し尽くすことができなかった』

 

『あの時私がDSRPの党内選挙で勝利さえしていれば』

 

『そうすれば私は、この社会民主主義という哲学的ユダヤ主義を終わらせられた』

 

『軟弱な評議会に代わって力強い指導者として、祖国とその人民を導けたものを』

 

あのような夢想家の若造(ヨーゼフ・ゲッベルス)に、我等が祖国…偉大なゲルマニアを、社会主義の栄光へ導けるものか』

 

後悔、怨念、様々な思いが、かつてゲッベルスに党内の選挙で敗北し、国家元首になる唯一の機会を逃したこの老人の脳内を駆け巡る。

 

そしてついに、この老人の心臓の鼓動が止まる。

 

エルンスト・レーヴェントロー。

かつてはDSRP(ドイツ社会共和党)の古参派のリーダーとして、国家元首の座を狙える立ち位置にすらいた彼は、こうして独り寂しく人生の幕を閉じた。

それとともに、彼の大いなる野望も共にこの”赤い洪水”の世界から消え去った。

 

…しかし、どういうわけか、彼の魂と野望は、遠く離れた別世界で、形を変えて復活することとなる。

 

それをこの世界の住人達が知ることは、永遠にないのであった。

 


 

(ここは…?)

 

彼が目を覚ましたのは、赤みがかった暗い空間の中だった。

彼はそのことに、当初驚きもしなかった。

 

(ああ、私は神々の失望を買い、地獄に落ちたのだろうな…当たり前だ、祖国と人民を率いる責務を果たすことがついにできなかったのだからな…)

 

…しかし、少し後、彼はあることに気づいた。

 

(…おかしい、てっきり地獄の業火で自分の魂は燃やされるのだろうと思っていたが、この空間は業火どころか快適な暖かさだぞ…一体どうなっている?)

(しかもそれだけではない、まるで何かの液体に頭まで浸かっているかのような感覚もする…)

 

そうして彼が自分のいる場所について疑問を抱き始めたその時だった。

突如として、一筋の光がその赤黒い空間に差し込んだのだ。

 

(な、なんだ!?光があるぞ…しかもゆっくりだが徐々にそちらに吸い寄せられているような気がする…何が起きているんだ!?)

 

そうして彼は光の元に辿り着き、ついに——

 


 

宇宙世紀0013年、月面都市グラナダに存在する、ある公立病院にて。

ここの病室の一つで、まさに今生まれたばかりの自らの赤子を抱える、新しく母親になった女性がベッドから半身を起き上がらせていた。

本来ならば喜ぶべき瞬間なのだろうが、その母親はどこか不安そうな表情で俯いていた。

 

「…私、この子を無事に育てられるのかしら…」

 

この若き女性…アンナ・へーヴェンが不安を感じるのも、無理はなかった。

彼女はここグラナダの労働者層出身の女性だったが、彼女に配偶者はいない。

ではどうやってこの赤子は生まれたのか。

それは至極単純に、月面の大企業アナハイム・エレクトロニクスのある重役が彼女を妾としており、そして彼女にこの子供を堕すための金を与えなかったためである。

 

「…ごめんね、こんなバカな私が母親で…」

 

そうしてアンナが涙を流しそうになった、その時だった。

それまで静かだった赤子が、初めて大きな泣き声をあげたのだ。

アンナにはその産声がまるで、自分の生まれたばかりの息子からの、勇気づけのエールの如く感じられた。

 

「…うふふ、そうね、生まれてきた貴方のためにも、頑張らなきゃだめね。」

 

アンナは溢れそうになった涙を片手で拭く。

そこでアンナはある事に気づいた。

 

「あら、どうしましょう、この子に名前をつけてなかったわね。なんて名前にしましょ…」

 

そこで彼女は少し考え込み、こう結論づけた。

 

「貴方の名前は今日からエルンスト…エルンスト・へーヴェンよ。どう?とても勇敢そうな名前でしょう?」

 

その言葉をかけるや否や赤子は一瞬泣き止んだが、今度はニコニコと微笑み始めた。

アンナにはそれがまるで、エルンストが一瞬驚きのあまり泣くのをやめたように思えた。

 

「ふふ、エルンスト、貴方が私を勇気づけてくれたのよ。このくらいのお返しは当然のことでしょう?」

 

アンナはそう言って微笑む。

このとき、彼女は人生で初めて大きな幸せを噛み締めることができたのだった。

 

彼女は生涯にわたって知ることはなかったが、この時彼女が感じた、自らの息子からのエール等は気のせいではなかった。

エルンスト・へーヴェン…赤い洪水の世界の”エルンスト・レーヴェントロー”の魂の入り込んだその赤子は、すでに高度な自我を確立していたのだから。

 


 

それから数日後。

アナハイム・エレクトロニクス本社の、ある重役の部屋。

今そこにおいて、この部屋の主にその部下が、あることを問い合わせていた。

 

「何?俺の子だと?」

「はい、…どうします?」

 

そのぶくぶくと肥え太った、この企業の重役たる男は、対照的に一般的な体型をしている自らの部下の報告に”信じられない”と言わんばかりの顔で相対していた。

 

「きっと何かの間違いだろう…私はその…”アンナ・へーヴェン”という女性とは面識がないし、そもそも妾など持ったことがないぞ…適当に”対応”しておくように」

「…了解です」

 

その言葉を最後に、肥え太った男は後ろのスクリーンに向き、部下はその部屋を去る。

その部屋から部下が去ってから幾分かした後、その肥え太った男はため息をつく。

 

「全く…あのバカ女にはほとほと手を焼かされる、あの工場で働くしか能のない貧民どもの中からわざわざ一夜を過ごす相手として選んでやったのは、この私だと言うのに…」

 

彼はスクリーンの電源をつける。

そこには会社のビルの入り口で言い争う、先ほどの部下と、赤子を抱えたアンナの姿があった。

しばらく言い争っていた二人だが、部下の方が論戦において勝ったのか、アンナは俯きながら本社ビルから出て行った。

 

「ふん、恩知らずめが。」

 

この後も、この重役は何事も無かったかのように、仕事を続けた。

 

…もしこの男が、この時見捨てた自らの息子が成長した後どういった存在になるかを知ることになったならば、驚きのあまり椅子から転げ落ちていたことだろう。

しかしそんなこともなく、彼は宇宙世紀20年代前半に心臓発作でこの世を去ったのであった。

 


 

宇宙世紀0019年、月面都市グラナダの宇宙港。

長い列をなす乗客たちの中に、アンナと小さなエルンストの姿があった。

精一杯見窄らしくない格好をしてきた彼らは、格安の宇宙移民船に乗り込むために待っていた。

アンナの顔には不安の色が残るものの、彼女の目は決意に満ちていた。

 

「かあさん、ぼくたちは、どこにいくの?」

「サイド3。…最近できたばかりのスペースコロニーよ。」

 

幼子らしいおぼつかない英語で尋ねるエルンストに対し、アンナは精一杯の笑みを返す。

 

「エルンスト、私たちの新しい生活が始まるのよ。」

 

アンナは息子に微笑みかけ、エルンストは何も言わず、ただ頷いた。

…かつて前世でエルンスト・レーヴェントローだった、エルンスト・へーヴェンは、本当は知っていた。

今世の母であるアンナが、自分を産んで以来というもの、『働き手になる男を結婚して連れてくることなく、育児に手間のかかる子供だけ産んできた』として自らの家族から白眼視されていたこと。

そしてついにその家族一同から絶縁されて、このグラナダから離れざるを得なかったこと。

夜寝る前にリビングから聞こえてきていたアンナと家族の口論を通じて、全て知っていた。

 

(だが、それでも、この人は、…今世の母さんは、私の面倒を見てくれた。どれほどそのことで家族から白眼視されようとも…そして、家族全員から絶縁されようとも、こうして私のために移住までしようとしている…)

 

エルンストはドイツ語で心の奥底から感謝しながら、母親と共に列に並び続けた。

 

やがて二人は船に乗り込み、指定された座席に座る。

そしてしばらくした後、船は静かに発進し、月の重力を抜け出していった。

窓の外を向けば、宇宙空間に煌めく星々の数々。

しかしそれらを見て目を輝かせているアンナとは裏腹に、エルンストは遠ざかっていくグラナダを、忌々しげに見つめていた。

 

(この世界について私が理解していることは確かに少ない…そもそもこの世界と、前世のあの世界との間にどのような関係があるのかも定かではない。)

(だが一つだけ、明らかに通じている点がこの二つの世界には存在する。それは腐り切った資本家共の暴虐だ。現に今世の父親は、私が生まれてから一度も直に母親と対面することなく、それどころか彼女を塵芥の如く捨てたではないか…)

 

エルンストは思い返した。

当時赤子だった自分を抱えたまま、あの”アナハイム・エレクトロニクス”とやらのビルに直談判しに行った母親に対し、冷酷に事実をもみ消し、彼女を追い払った連中の目を。

そして、その時に見せた母の悔しそうな、今にも泣き出しそうな表情を。

 

(…こんなに非力な今の自分でもできることがあるならば、それはこの世界についてできる限り多くの事柄を調べることだろう。『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』…東洋の諺にそんなものがあったが、まさにその通りだ。この世界においても金持ちは肥え太り、その反動で貧しい者たちは苦難を強いられる。その理不尽資本主義を打ち砕くために、私は喜んで勉学に励もう)

 

そう決意したエルンストの心には、確かに一度鎮火されたはずの、赤い灯火が燃え盛っていた。

 

(これこそこの世界に生まれ変わった私の使命だ…”この世界に蔓延っている資本主義の暴虐をなんとしても打ち砕け”との、かつての祖国の神々からの命令、そして私に与えられた再起のチャンスに違いない!)

 

これこそ彼の魂だけでなく、かつて抱いていた野望も復活した瞬間であった。

この野望は、のちに世界に大いなる影響を及ぼすことになるのだが、それはまだ誰も知らなかった。




というわけで、前回の最後に出てきたサイド3の政治家エルンスト・へーヴェン…すなわち転生レーヴェントローの生い立ちの話でした。

後書きキャラ解説:

エルンスト・へーヴェン(RF世界での名前:エルンスト・レーヴェントロー):

史実ではナチ党の友党であるドイツ民族自由党の創設者の一人であり、またそれ以前から極右的な新聞を独自出版していた。
またヴァイマル共和政期の間に盛んだった、ゲルマン異教の復興運動にも一役買っている。本文で『神々』とかに言及するのはその影響である。
またその新聞の記事の中でドイツ共産党のナショナリスト的方針に敬意を示し、それが共産党の機関紙に載せられるなど左翼的な一面も示しており、このことからドイツのナツボル(国家ボルシェヴィズム支持者)の一人と目されている。
その後ドイツ民族自由党の他の面々と共にナチ党に移籍した。
ナチ党内部での権力こそなかったものの、上述の共産党との繋がりもあってか、ナチ党の幹部たちの中で労働者から演説中に唯一ブーイングを受けなかったと言われている。

RF世界での彼は国家指導者候補の一人。
ゲッベルスが党首を務めるDSRP内部の守旧派の指導者であり、DSRPの党内選挙で彼が勝利した場合、彼が国家指導者となれる。
国家指導者としての彼は国家ボルシェヴィズムを徹底しており、また上述のゲルマン異教のこともあってかそれを用いたプロパガンダも頻繁に用い、おまけにゲッベルスやラデックも粛清するRFドイツでダントツにやばい指導者。
と言っても今作の彼は、上述の党内選挙でゲッベルスに敗北しているので、国家指導者になった経験はない。
そこから落ち込んで失意のうちに寿命で死亡したが、どういうわけか宇宙世紀に転生した。
それもゲッベルスやラデックと同時期ではなく、彼らの転生する20年以上前のグラナダに…。

アンナ・へーヴェン:
宇宙世紀に転生したレーヴェントローの、今世の母親。オリキャラ。
グラナダの労働者層の家庭に生まれ、成人してからは懸命に工場で働いていた。
しかしある日その工場に視察で訪れたアナハイムの重役の目に留まり、半ば無理やり一夜を共にされた。
その時に妊娠してしまいエルンストを出産、以後家族からも工場の同僚からも冷遇され、ついに息子をこんな環境では育てられないと感じ、家族一同に絶縁された際に、息子に教育を受けさせるためサイド3に移住を決意。

アナハイムの重役:
アンナを妊娠させるだけさせて、その責任を一切取らなかった典型的クズ。オリキャラ。
妻はいるが、彼の態度の悪さと頻繁な不倫のせいで事実上別居状態。
宇宙世紀0020年代に心臓発作で死亡。
その時は生前に嫌われすぎて親族の誰も遺骨を受け取らなかった。
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