Red Flood × 宇宙世紀(仮)   作:うねる蛇

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どうも筆者のうねる蛇です。
なんとか死ぬ気で執筆に取り掛かったら二週間半程度でこの話を投稿できました。
今回は前話で見られたようなエルンストの努力が身を結ぶ回となっています。
どうぞお楽しみください!


未来への一歩

時は宇宙世紀0025年。

サイド3、通称ムンゾのスペースコロニーの一つ:マハル。

数多くあるスペースコロニーの中でも特に貧困層の家庭が多く、”ムンゾのゴミ溜め”とも呼ばれることもあるこのマハル。

その中で唯一まともに機能している小学校、”マハル第二小学校”の校長室の扉の前に、一人の12歳の少年が立っていた。

 

少年の名はエルンスト・へーヴェン。

かつて赤い洪水の世界において、自らの野望を叶えることなく息絶えた”エルンスト・レーヴェントロー”の魂が流れ込んだ少年である。

 

彼は現在小学校の卒業を間近に控えており、この学校の校長先生から推薦をもらって別のコロニーの中学校に行こうとしていた。

その推薦を貰えれば比較的環境の良い中学校に即時入学できる上、渡航費・学費が家庭の所得に応じて最大8割免除されるため、母子家庭で収入の少ないへーヴェン家に取ってはとても有難いものである。

しかしその推薦状は、一つの小学校において最大数人しか書いてもらえないというように法律で規定されており、ましてや校内の治安が悪い傾向のあるマハルの学校からはそもそも推薦される生徒が出ないこともあった。

 

そういうわけで、エルンストは校長室を前に少し不安に駆られていた。

 

(落ち着け、エルンスト…。どうということはない、学校の成績や勉学については最善を尽くしたのだから、あとは天運に任せるのみだ…)

 

エルンストは深呼吸をして、ドアをノックした。硬い木製の扉が少しきしむ音を立てて開いた。

 

「どうぞ入りなさい」

 

校長の落ち着いた声が聞こえ、エルンストは緊張しながらも扉を開け、中へと入った。

校長室は狭く、古びた家具が並んでいたが、その中には整然とした秩序が感じられた。

校長のリヒター先生は、机の向こうで書類に目を通していたが、エルンストが入ってくると顔を上げ、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「エルンスト君、よく来たね。座りなさい」

 

エルンストは言われるままに、校長の前の椅子に腰を下ろした。リヒター先生は少しの間、エルンストを見つめ、その目には期待と少しの不安が混じっていた。

 

「君が私に話したいことはわかっているよ、エルンスト君。君は次の段階に進む時が来たと思っているんだね」

 

エルンストは静かにうなずいた。

 

「はい、校長先生。僕はもっと多くのことを学びたいんです。ここでの教育に感謝していますが、もっと大きな世界を見てみたいんです」

 

リヒター先生は深くうなずき、机の上の書類の山から一枚の紙を取り出した。

 

「君の成績と行いを見れば、私も同じことを思っていたよ、エルンスト。君には大きな可能性がある。それはこんなところで持て余していいものじゃない。そこで、私は君に推薦状を用意した」

 

そう言って、校長はエルンストに紙を手渡した。エルンストはその紙を受け取り、丁寧に開いた。そこにはリヒター先生の温かい言葉とともに、彼の成績や努力が詳細に記されていた。エルンストの胸に熱い感情が込み上げた。

 

「ありがとうございます、校長先生。本当に感謝しています」

 

リヒター先生は笑みを浮かべ、エルンストの肩を軽く叩いた。

 

「これからも努力を惜しまず、誠実に前に進むんだよ。そして、必ず夢を叶えなさい。君ならできる」

 

エルンストは力強くうなずき、推薦状を大切に抱えたまま校長室を後にした。

 


 

エルンストが校長室を出ると、廊下の向こうから彼の友人、リナ・ガラハウが駆け寄ってきた。

リナもまた校長先生の推薦状を求めていた一人だ。

彼女は息を切らしながらも、目には希望の光が宿っていた。

 

「エルンスト、どうだった?」

 

エルンストは微笑みながら、手に持っていた推薦状を見せた。

 

「僕、もらえたよ。リヒター先生が僕を信じてくれたんだ」

「すごい!おめでとう、エルンスト!本当に良かった!」

 

リナはエルンストの手を取って喜びの声を上げ、エルンストも嬉しそうにうなずいた。

 

「ありがとう、リナ。君もきっと大丈夫だよ」

 

リナは少し緊張した表情を浮かべて、校長室のドアを見つめた。

 

「うん、私も頑張る。エルンストが推薦をもらえたなら、私も希望が持てる」

 

その時、校長室のドアが再び開き、リヒター先生がリナを呼び入れた。

エルンストはリナに向かって親指を立て、励ましの微笑みを送った。

リナはその笑顔に勇気づけられ、深呼吸してから校長室へと入っていった。

 

数分後、リナが推薦状を手にして校長室から出てきた。

彼女の顔には晴れやかな笑みが浮かんでおり、その手にはエルンストのものと同様の推薦状があった。

エルンストはその姿を見て駆け寄り、リナと固く抱き合った。

 

「やったね、リナ!おめでとう!」

「ありがとう、エルンスト。勉強を頑張った甲斐があった、本当に嬉しいわ。これで私たち二人とも新しい学校に行けるね」

 

リナもエルンストを抱きしめ返し、しばらくして離れた後そう言った。

 

「そうだね、これからも一緒に頑張ろう。新しい学校でも、今まで通りお互いに助け合おう」

 

返事の代わりに、リナはもう一度エルンストを抱きしめ、今度は彼の頬にキスをした。

…2人が推薦状をもらったのと同じく、恋人同士となったのもこの瞬間だった…。

 


 

エルンストは胸の高鳴りを感じながら、家へと急いでいた。

母親のアンナ・へーヴェンがこの知らせを聞いたら、どれほど喜ぶかと考えると、彼の足取りは自然と速くなった。

家に着くと、彼は静かにドアを開け、病気がちでベッドに横たわっている母親のもとへと向かった。

 

「お母さん、ただいま!」

 

エルンストは明るい声で言った。

アンナはゆっくりと目を開け、疲れた笑みを浮かべた。

 

「エルンスト、お帰りなさい。今日はどうだったの?」

「見て、お母さん!リヒター先生が僕に推薦状をくれたんだ!」

 

エルンストは胸に抱えた推薦状を見せながらそう言った。

アンナの目が見開き、涙が浮かんできた。

 

「本当に…本当によくやったわね、エルンスト。おめでとう!」

 

彼女は震える手でエルンストを引き寄せ、力強く抱きしめた。

 

「これで僕たち、少しは楽になるね。お母さんが少しでも安心してくれれば、僕はそれで十分だよ」

 

エルンストは母親の温もりを感じながらそう言った。

アンナは涙を拭いながら、エルンストの顔を優しく撫でた。

 

「あなたは本当に素晴らしい子よ。私の誇りだわ。これからも頑張って、素晴らしい未来を掴んでね」

 

エルンストはうなずき、母親の手を握りしめた。

 

「うん、お母さん。僕、もっともっと頑張るよ。新しい学校でも、今まで以上に勉強して、お母さんをもっと安心させるんだ」

 

アンナは微笑み、エルンストの顔を見つめた。

 

「あなたならきっとできるわ。リナちゃんとも一緒に、素晴らしい未来を築いてね」

 

エルンストは母親の言葉に力を得て、未来への決意を新たにした。

彼の心には希望と夢がいっぱいに広がり、その瞳には新しい世界を作り出す・・・・ための光が宿っていた。

 


 

その夜、エルンストは自らの寝室でベッドに寝転がりながら、これまでの第二の人生においての経験、そしてこの世界の宇宙世紀の成り立ちについて学んだことを思い返していた。

 

(この世界は人々への理不尽な仕打ちに満ちている…前世であのビスマルクが初めて考案したような社会福祉はほぼ存在しないのに加え、人々の生活水準の中央値もむしろ宇宙世紀成立前より低下している始末…おまけに金持ちは各地域でやりたい放題しているときたものだ。”人間らしい生活を送る権利”などと議会の連中の作った法律には記載されてはいるが、その言葉はもはや紙面上にお飾りとして存在している以外の何者でもない、まさに形骸化の極みだ…)

 

エルンストはこれまで肌で実感してきた貧困と、小学校の書物庫で読破した宇宙世紀成立以後の人々の生活水準に焦点を当てた経済白書などに記載されていたデータを組み合わせ、そのように考察する。

 

(それに加え、人々の間の互いに助け合おうという意識も、前世のあの世界と比べ非常に希薄なものとなっているような気もする…宇宙への強制移住の際に”多民族・全人類融和”の名の下にあらゆるスペースコロニーを民族・人種のるつぼとした結果、それまで人々が持っていた地域・国家規模の共同体がことごとく壊され、その構成員もバラバラに移住させられた結果に違いないな…)

 

エルンストは自らのかつて所属していた政党”ドイツ社会共和党”——通称DSRP——を含めた、前世の激しきナショナリスト・国粋主義的運動の数々を思い浮かべた。

領内のウクライナ人以外を悉く虐殺し、その悪名を轟かせたバンデーラ率いるウクライナのOUNのように、彼らの主張は確かに排外主義的な側面があった。

しかしそれと同様、いやそれ以上に国家主義運動において大きく、そして魅力的で、数多くの人間を魅了した側面が存在した。

それまでの時代には見られなかった、国家規模の共同体意識こそがそれであった。

 

(今思えば、あれこそが…国民規模の連帯、共同体意識、そして何より同胞愛、これらを組み合わせたナショナリズムこそが、あの時代のあらゆる物事、そして激動を支えていた。そういったナショナリズムに裏打ちされたがあったからこそ人類は連帯と進歩の道を歩み続けられたのだ…それが粉微塵に粉砕されてしまったこの歪な世界、このままではどう考えても碌なことにならんぞ…)

 

エルンストはこの世界の未来に危機感を抱く。

無理もない、彼の信ずるところではナショナリズム・国民意識こそが前世の人々を何千万人規模で団結させ、協働・連帯・同胞愛に導いた最強の概念であり、産業革命以来の人類の何よりの強みであった。

 

その国民意識が、人々の宇宙への一方的分散型強制移住により、国民国家の概念諸共粉微塵に粉砕されたこの世界で、人々を団結と協働に導く大義はもはや存在しない。

それはエルンストの目には人類の停滞・衰退の確定とほぼ同義に映った。

 

(それだけではない。国家主義の連帯・同胞愛的側面は資本主義の暴虐の手を和らげ、世界中の各々の国家の元に住む人々が人間らしく生きれる世界を維持していた柱だった。それがなくなれば当然のごとく人々は、資本主義と呼ばれるレヴァイアサンのごとき怪物の前に無防備に晒されることとなる。つまり連邦は本質的に世界規模の民主主義体制ではなく、世界規模の資本主義という暴君の専制だ。その成れの果てが、あの企業主による金権政治と化した月面都市群だ…)

 

エルンストは今世の自分の生まれたあの都市に思いを馳せた。

資本主義の暴虐の渦巻いていたあの場所のことを考えるだけで、反吐が出るような気分になるのは、まさに自分の出自のせいだった。

 

(であるならばこの世界において、私がやるべきことはただ一つ。連邦設立初期に世界各地で叩き潰されたナショナリズム・国民国家の復活・再活性化。そのためには、巨大な怪物である地球連邦を解体に追い込まねばならない…!)

 

自分のこの人生における目標をそう定めたエルンスト。

その眼には、かつて前世のドイツ革命に彼が参加した時同様の、炎の如き決意が浮かんでいた。




というわけで、エルンストとリナの勉学への熱中が身を結び、二人が別のコロニーのより良い中学校に進学できるようになった回でした。
読者の中でも学校の受験を必死で頑張ったことのある人にとって、今回の話の前半のリナ・エルンストの姿は合格発表の時の自らの姿と重なるのではないでしょうか。
そう言った点を踏まえ、ある種この二人に読者の方々自身が、自らとこの二人を重ねて共感できたのならば自分も幸いです。
今回の話の後半では、エルンストの思想がこれまでよりかなり色濃く詳細に描かれていますが、それが一体どのようにしてエルンストの人生に影響を及ぼすのか、次以降の話を楽しみに待っていただけると幸いです。

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