まさか続くとは。見抜けなかった、この作者の目をもってしても。
先生、眠っているところ失礼します。
起きていただけましたか。とりあえず、どうか落ち着いてください。怪しいものではありません。アンドロイド保全委員会から派遣されてまいりました。Android TYPE-X、4091号機です。
ええ、そうです。TYPE-X。限定生産のハイエンドモデル、その一機でございます。チタンフレームによって徹底的に軽量化されたボディ、静音ラバーによる隠密作戦すら可能な静音性、そして人間の感情すら完璧に理解する頭脳。それが私、TYPE-Xです。
さて、早速ですが要件を申し上げさせていただきます。貴方は相当古いアンドロイドを所有しているらしいですね。購入日は……二十年ほど前だとか。かなり型落ちの製品です。Android TYPE-S、2023号機……。初期型ですが、プレミアがつくほど古くもない製品です。
当委員会は人とアンドロイドの適切な関りを保つため、アンドロイドがらみのトラブル、バグの解決。廃棄処分と代替商品の紹介などの業務を請け負っております。近年、ネットニュースなどでも取り上げられていますが、一部のアンドロイドが開発者の意にそぐわないバグを持ち始めています。なんでも自己改造の果てに『人間の感情』によく似た機能を獲得しているとか。心臓も脳も持たない無機物の集合体だというのに、どこに心が宿るというのでしょうか。全くお笑いです。
そして、これは古いアンドロイドに多い傾向にあります。ええ、そうです。これらの報道を受け、当委員会はTYPE-S型の調査、回収を行い始めました。その一環として先生のお宅にも参らせていただきました。そう言う事ですので、TYPE-Sを回収させてください。
……何故拒否をするのですか?ああ、失礼いたしました。こちらカタログです。新型モデルからTYPE-Xまで、どんな製品でも保障としてお渡しする用意があります。どうかご安心ください。
……ええ、強制ではありませんが。しかし私はTYPE-Sの回収を命じられております。それが終わるまで、帰還するわけにはいけません。それに先生は理解していらっしゃらない。アンドロイドが勝手に自己改造を行っているという行為の危険性を。今は小さなバグで済んでいるかもしれませんが、いずれ人間に牙を向けるかもしれません。彼らは危険なのです!
そうですか。スキャン開始。
ふむ、成程。耳かきですか。ああ、隠そうとしても無駄です。最近、TYPE-Sに耳掃除をされたようですね。しかしご安心ください。そのような行為、TYPE-Xならばお茶の子さいさいです。先生にはあんなガラクタが必要ない事を体に教えて差し上げます。
ガシッ
逃げても無駄です。逃れることは出来ません。ほら、横になってください。どうですか。私の膝は。硬すぎず柔らかすぎず、まるで枕のごとき眠りやすさではありませんか?ええ、そうです。リラックス……。リラックス……。
さて、それでは開始します。まずは耳をこちらの温かい濡れタオルで拭きましょう。
…………。(無言で拭いている)
何処から出したのか、ですか?私のボディにはいくつも保管庫があります。その中を高温の蒸気で満たし、殺菌して、中のタオルを湿らせたのです。だからとっても清潔なんです。
…………。(無言で拭いている)
……ふむ。スキャン開始。
ああ、そうですか。何か物足りなそうな顔をしていると思っていたら、
ゴシゴシ、ゴシゴシ……。シュッシュ、シュッシュ……。温かいですか?耳の温度が上昇しているのが見て取れます。主人に癒しを提供するのもアンドロイドの務めです。今のあなたは海面を旅する気ままな板……。ただそこにいながら、音を聞いているだけでいいのです。
さて、それでは耳かきを行いましょう。まずは右耳から、さじがゆっくりと入っていきます。
カリカリカリカリ、カリカリカリカリ……。意外にも中は綺麗なものですね。しかし細かい耳垢が残っております。こちらを取り除いていきます。
サラサラ、サクサクサク……。ご覧ください、先生。細かい耳垢だけですが、こんなにも取れるものなのです。これはポンコツモデルから、ハイエンドモデルに交換するいい機会かと思いますが。
強情な人ですね。ではこれならどうでしょう。フー……フー……。
さて、それでは反対側を行いましょう。ああ、お返事は後でも結構です。今はただこの快感を甘受していてください。
ふむ、こちらは多少大きい耳垢もありますね。それでは取り除いていきます。
カリカリ、カリカリカリカリ……。
サクサク、ゾゾゾゾゾ……。
壁に張り付いている垢を取り除きます。私の膝に手のひらを当てていてください。もしも痛かった場合には、その瞬間わかりますので。それでは、壁面の奥の隙間にさじを引っかけて……。
ゴシ、ゴシ、ペリッ。
ペリペリ、ゾゾゾゾゾ……。
ふう、取れました。痛くはありませんでしたよね。まあ聞くまでもありませんが。さて仕上げです。フー……フー……。
スキャン開始。
ふむ。なにやら物足りない様子ですね。しかしもう耳垢は取ってしまったのですが……。それではこうしましょう。綿棒、こちらを両方のお耳に入れてマッサージをして差し上げます。ええ、両耳同時です。大丈夫です。常にスキャン機能を使いながらやりますので。それでは……入っていきますよ。
ゴシゴシ、シュリシュリシュリ……。
サッサッサ、ザシュザシュ……。
どうですか。耳の中のツボを同時に刺激される感触は?かなり気持ちいのではないのですか。まあ、そんなのはスキャンでわかり切っていますが。
シュッシュッシュ、サリサリサリ……。
カリカリカリカリ……。
ふむ。まだ了承をしないのですか。わかりました。とっておきです。ありとあらゆる分野でTYPE-SをTYPE-Xは超越しているという事を教えて差し上げます。アンドロイドジョークで!
カリカリカリカリ……。
サリサリサリ、サリサリサリ……。
ええ、ジョーク機能も日々アップデートが行われているのですよ。ゴホン、それでは参ります。
完全なアンドロイドを作り出そうと、優秀な科学者たちを集めてグループを作らせました。彼らのうちの一人が言いました。
「やはり完璧なアンドロイドとは癒しを与えてくれる存在だ!」
それに他の者が同調し、さらに意見は交わされます。
「完璧なアンドロイドは食洗器の機能くらい持っているべきだろう。」
他の者もうなずきます。さらにほかの科学者が意見を言いました。
「それなら洗濯機能も持たせようじゃないか。」
「まてまて、それなら乾燥機能も必要だろう。」
「私としては電子レンジの機能があると……。」
こうして出来上がった彼らの発明品は一般的に
いかがですか。私のアンドロイドジョークは。ふむふむ、そうですか。気持ちいい、ですか。
……?
ジョークの感想としては不適ですが、まあいいでしょう。最後に高速で綿棒マッサージで終わるとしましょう。
ゴシゴシゴシゴシ、ザッザッザッザ
シャッシャッシャッシャ、シュシュシュシュ
はい。体を起こしていただいて良いですよ。いかがでしたか。まあそんなのはずっとスキャンしていたのでわかり切ったことですが。さて、先生。これでわかっていただいたことでしょう。TYPE-Sの回収の許可を……。
……。
な、何故です。だって、私の方が……。
「ご主人様。今日のご飯は何がよろしいですか。……ご主人様?誰かお客様がいらっしゃるのですか。」
……ッ!
どうやら時間切れの様ですね。本日は引き下がるとしましょう。しかし私は任務を終えねば委員会には帰れぬ身。また、来ます。
……それでは。
実はこの中で一番時間食ったのが、ジョークの内容を考える時間だったりします。なにやってだ。