推しの使い魔 作:=f:Remora
「ここか……!」
かけるは目の前に広がる屋敷を睨みつける。ここはモット伯の屋敷で、かけるが呼び出された場所だった。
「なんでアニメと違う展開になってきているのかわからないけど待っててねシエスタ! 必ず連れて帰るから!」
かけるはそう意気込むと敷地内に入ろうと脚を一歩前に踏み出そうとしたその時だった。ポン、と肩に手を置かれ後ろを見てみれば険しい顔をした衛兵が立っていた。
「……」
「……」
「……ここはモット伯の屋敷だ。獣人が何の用だ?」
衛兵の鋭い、というよりもこちらを見下すような態度にかけるは苛立ちを感じつつも強い口調で言った。
「僕はモット伯に呼ばれた間取かけるだよ。通ってもいいでしょ?」
「マトリ・カケル? ……っ! あ、あなたがそうでしたか! どうぞどうぞ、中へお入りください!」
事前に、それも脅すような勢いでモット伯から通達されていたのだろう。衛兵は先ほどまでの不遜な態度を崩して露骨に低姿勢になってかけるを中に促す。かけるはその衛兵の案内のもと屋敷の中に入っていく。
屋敷の中は流石貴族のだけあり豪華な内装となっていた。アニメで見ていたとは言え実際に目にすると圧倒されてしまう。
「待っていたぞ。獣人の少女よ」
ロビーで待っていると、モット伯がやってきた。その視線はかけるの胸に集中しており、どういう目的で呼ばれたのかをはっきりと示していた。
「……僕が狙いなの?」
「その通りさ。どうだね? ヴァリエール家の令嬢の使い魔などやめて私のもとに来ないか? こう見えてもトリステイン王国で屈指の貴族だ。不自由を掛けることは何もないぞ」
「僕はそういうの、興味ないから」
たとえモット伯の手を取ったとしてもそのあとに待っているのは地獄でしかない。何しろトリステイン王国は今後様々な事件に巻き込まれる事となる。戦争に襲撃に災害。トリステイン王国、ひいてはハルケギニアがこの一年で様々な事に見舞われるのだ。当然モット伯程度の庇護下に入ったからと言って安泰ではない。むしろ破滅の直通ルートでしかないのだ。
「僕はあなたの妾になるつもりはないし来たからシエスタも返してもらう」
「……随分と強欲ではないか。では、私もおぬしの強欲を見習うとするか!」
「っ!」
モット伯は杖を振ると近くの花瓶が倒れた。そして、その中にある水を使ってかけるに攻撃を仕掛けてくる。かけるはそれを空間を開くことで回避するがそれを見たモット伯はにやりと笑みを浮かべた。
「フハハハハハ! やはり聞いた通り素晴らしい能力を持っているな! 益々ほしくなったぞ!」
「っ! 僕の能力は僕だけのものだよ!」
「それだけの強大な力を持っていて何を言っている! お主がその能力を持っていると知られればどうなると思う?」
「……どうって」
かけるにはいまいちモット伯の言いたいことが分からなかった。かけるにとってこれは移動に便利な能力程度なのだ。それ以上のことなど考えたこともなかった。しかし、それはかけるが考えた事がないだけであってほかの人にとっては最強にして最恐の能力なのだ。
「では教えてあげよう。お主の能力は要は移動を簡略化できるものだ。つまり、兵の移動が楽になる。それどころか敵の後ろに移動すれば奇襲すら可能だ!」
「っ! 僕の能力を戦争に使おうって事?」
「誰だってそう考えると思うがな。それほどの力だ。1万の敵を滅ぼす力より1万の兵を好きな場所に移動できる力の方が価値は高い物だ」
かけるとしてはただの能力と感じていた自分の力がそんなことに利用できるという事に少なからず衝撃を受けた。自分の力が戦争に使われる、それを想像しただけで胃袋から何かがこみあげてくる。慌ててそれを抑えつつもモット伯の方を睨みつける。
「そして断言しよう。お主が魔法学院で使い魔をしている限り貴様の能力を目当てに様々な勢力に狙われる事になる。だが、私のもとにいれば別だ。今なら知っている人は少なく、ごまかすことも可能だ。私の出来る範囲で好きなこともさせてあげられるぞ」
「だ! から! 僕は君の妾になんて……!」
そう否定をしようとしたとき、紫の水の槍が飛んでくる。それを再び空間を開いて防ごうとするがその槍は空間に仕込まれる事なくよけるとかけるの方に向かっていく。慌ててそれを回避するがよけきれずに腕に怪我をおってしまう。
「っ!」
「確かに能力は高く厄介だがそれをよけてしまえばいいだけの話だ。そうすれば今のように簡単によけて攻撃を充てる事ができる」
「でもこのくらいで……!?」
かけるは視界がぐにゃりと歪み、その場に崩れ落ちてしまう。力を入れようにも全くと言っていいほど力が入らない。視界もあまり見えず、辛うじてモット伯の声が遥か遠くから聞こえてくる。
「今の攻撃は毒水を用いた攻撃だ。死には至らないが数時間は体が痺れ指一本動かすことができなくなる」
「な、ん……」
「これでしばらくは私の好きに出来るわけだ。ああ、安心しろ。お前をその間に手籠めにする気はない。そういうのは両者合意のもとでやるものだからな」
「……」
「だが逃げられないように拘束させてもらおう。言っておくが逃げたり抵抗すればシエスタがどのような目に合うかはわからないぞ? ここまで一人で来たお主の事だ。今更そのようなことはするまい?」
「……」
「では起きた時にまた話し合おうではないか! 楽しみにしているぞ! フハハハハハ!!」
モット伯のそのような高笑いをあげるのを聞きながらかけるの意識は闇へと落ちていく。どれだけ体に力を入れても入れた傍から力が抜けていく。
「(そんな……。ごめん、シエスタ。ごめん……、ルイズたん)」
かけるは取り戻せなかったシエスタとルイズのもとに戻れないことに対して謝罪を品あら意識を完全に手放すのだった。