推しの使い魔 作:=f:Remora
「フェンリル? Vシンガー? 何よそれ」
ルイズは目の前の少女、間取かけるが言った言葉を理解できなかった。それはある意味当然であろう。フェンリルはハルケギニアにも存在するがそれは四足歩行のモンスターであり、人の姿をしているわけではないのだ。そして彼女の言ったVシンガーとはヴァーチャル、つまり現実には存在しない仮想の存在という事である。間取かける自身は実在し、きちんとした肉体を持っているが
「んー、僕の職業かな?」
「よくわからないけど歌い手ってことでいいのね?」
歌い手と言っても娼婦のような存在から王宮にも呼ばれる者もいる。目の前の少女の様子からその中間が妥当だろうとルイズは想像した。
「でもまさかここに呼ばれるなんて思いもしなかったな~」
「あら? トリステイン魔法学院を知っているの?」
「え? う、うん。僕の周りでは結構有名だったよ」
「……そう」
獣人の間で有名? ルイズは獣人に関して詳しくないが何故自分の母校が? と疑問符を感じたが目の前の少女が目をキラキラさせながら自分を見ている事から嘘ではなさそうだととりあえず考えを完結させることにした。
「……まぁいいわ。それよりもさっさと寮に戻るわよ。今日はたくさん魔法を使ったからくたくたよ」
「え? うん……」
話は部屋に戻ってからとかけるの手を取って寮に戻っていく。一方のかけるは初恋の相手と手を握っているという状況に顔を赤くしてあわあわと震えながら歓喜していたが前を歩くルイズに知られる事はなかったのだった。
「へぇ、日本っていう国で活動していた、ねぇ……」
部屋に戻ったルイズはかけるとの親睦の意味も兼ねて彼女の故郷に関して聞いてみることにした。ルイズとしてもあまり知らない獣人の生活の様子を聞けるチャンスと思っていたのだがかけるの話はその想像を裏切る物ばかりだった。
「日本っていう国で歌手として活動してたんだよー。あ、でも出身はアガルタっていう別次元の世界でとある事務所にスカウトされたんだー」
「……よくわからないけどつまりあなたはこの世界の住人じゃないって事?」
「そうだよー。ほら、これが僕の能力」
そう言ってかけるは何もない空間に手をかざすとそこから彼女の支配する空間に通じるゲートが誕生した。その亜人が使用する先住魔法とも、自分たちが用いる魔法ともちがう強大な力にルイズは驚きつつも心の中で喜んでいた。
何しろ見た目はともかく強力な力を持つ使い魔を手に入れたのだ。魔法が使えないと馬鹿にされてきたルイズにとって自分を肯定してくれるかのような存在のかけるに好意を持ち始めていた。
「……って、もうこんな時間じゃない!?」
ふと、ルイズが外を見れば日が沈みかけている。随分と長い間話し合っていたと慌てて夕食を食べるべく部屋を出ていこうとして気づく。
「って、あなたの分はどうしよう……」
「あなたじゃなくてかけるって呼んでいいよ~。僕のごはんは心配しなくていいよ。自前で何とかするから」
「そ、そう? なら悪いけど少し食事をしてくるからおとなしく待っててね」
ルイズは空間を自在に移動できる彼女なら食糧の調達も容易なのだろうと考え食費が浮くと思いそれ以上は何も言わずに部屋を後にした。
ルイズが部屋を出て行ったあと、かけるは一度自身の空間に戻る。というのも日本とハルケギニアの時間の進みがどうなっているのか気になっていたからだ。
「……うん、意外と時間の進みは変わってないのかな?」
かけるはパソコンに表示された時間がハルケギニアで過ごした時間とほぼ同じことに安堵する。加えて空間の移動も同じく可能だと判明したために召喚・使い魔契約による障害はないと判断した。
とはいえ使い魔を続ける以上これまでのような配信頻度は難しいだろう。かけるはすぐに事務所に暫くの間忙しくなるから配信頻度を落とすという事、その趣旨をファンに伝えるためにSNSにも同様の事をつぶやく。呟きは即座にファンたちによって拡散されていき「体調不良?」「家庭の事情かな?」などの考察と一緒に了承の返信が返ってくる。いいファンばかりだとかけるはほろりと涙を流しそうになりながら夕食の準備をするのだった。
「か、かける。いる?」
夕食を終えたルイズは使い魔となった少女の名前を呼びながら部屋に入る。若干呼びなれない為にどもりかけたが当の本人がいないことに気づきはぁ、とため息をついてベッドに腰掛ける。
「……本当に、召喚したんだ」
ルイズは改めて自分がフェンリルを名乗る獣人間取かけるという少女を使い魔に出来たことに実感が追い付いてきた。初めてとも言える魔法の行使の成功。その結果として呼び出された少女が強大な存在だったという事。ルイズは内から湧き上がる興奮に身をゆだねるようにベッドに横になった。
「成功、したんだ……!」
自分は魔法の発動が0の“ゼロ”ではない。魔法を使えるメイジだったんだと、貴族にふさわしい力を持っているんだと叫びそうになる。
「アハ、ハハ……」
それはやがて涙へと変わっていく。母や姉に叱られ、教師に呆れられ、同級生に揶揄われる。そんな生活ともこれでおさらばできるんだと。
「……でも、これからよルイズ・フランソワーズ」
そう、まだ魔法が使えただけなのだ。今後も同じように使えるとは限らない。今までと同じように、いや今まで以上に努力を重ねないといけない。そう考えた彼女はベッドから起き上がるといつもの就寝時間までに予習を行おうと机に向かっていくのだった。
推しの口調を真似られない……。自分の執筆能力の低さが悔しい……!