推しの使い魔 作:=f:Remora
「もうしわけございません!」
トリステイン魔法学院に雇われているメイド、シエスタは必死に謝罪しながら頭を下げる。その様子からは命の危険を感じていないとできないような必死さがあるが本人にとっては実際に命がかかっていると言っても過言ではなかった。
きっかけは単純なものだ。使い魔との交流会の給仕として働いていたシエスタは一年生の女子生徒にギーシュ・ド・グラモンという二年生の場所を尋ねられた。丁度ケーキを配ってきたばかりのシエスタは快く場所を教えてあげたわけだがそれがいけなかった。
ギーシュはその一年生と恋仲にあったのだが実はそれとは別にモンモランシーという同級生とも付き合っていた。そして、ちょうどそのモンモランシーとともにいたために一気に二股がばれてしまい、両者から降られる結果となったのだ。
その様子を茫然と見ていたシエスタだがギーシュは矛先を彼女に向け、責め立てたのだ。少しは雰囲気を察して遠ざけることもできなかったのかと。悪いのは二股したギーシュだが彼は貴族であり、シエスタは平民だ。お互いの立場には圧倒的すぎる差が存在したためにシエスタはただただ謝罪することしかできなかった。
「まったく、これだから平民は困ってしまうよ」
「申し訳、ございません……!」
やれやれと肩をすくめるギーシュにシエスタを処罰する気持ちはない。そもそも八つ当たり気味に言っているに等しく、これ以上攻める意味がないのだ。しかし、シエスタはそんなことは分からない。自分にどんな罰が下されるのか? 考えれば考えるほどに悪い方向へと思考が向かっていく。シエスタが死すら考え始めた時、その声は響いた。
「ちょっと待ったぁぁっ!!!!」
「え?」
「ん?」
声を張り上げて二人の間に躍り出た乱入者。シエスタとギーシュは思わずといった様子でその人物を見た。
白いパーカーを着て、頭部から犬の耳をはやした獣人の女性、ルイズが召喚した間取かけるはやや慌てた様子でギーシュに対峙した。
「女の子をいじめるなんてサイテー!」
「なっ!?」
そして放たれた言葉にギーシュは固まる。
「き、君は確かルイズが召喚した使い魔だったね? そんな君が一体何のようだい?」
「二股クソヤローからメイドちゃんを守ろうと思っただけだよ!」
「ふっ!?」
そして再び放たれた言葉にギーシュは再度の驚きとともに怒りを感じた。何故自分が使い魔、それも獣人ごときにそんな事を言われないといけないのか? そしてその主人がルイズというゼロの二つ名を持つ劣等生であることも拍車をかけていた。
メイジならだれもが持つ二つ名。その本人を表す名をルイズも当然ながら持っていた。しかし、彼女の場合、二つ名は蔑称に等しいものだった。ゼロ、それは魔法の成功率ゼロを意味しており、彼女がメイジにも関わらず魔法を使えないことを揶揄してのものだったのだ。
そんなメイジの使い魔に自分が馬鹿にされている。ギーシュは大きな怒りを覚えてしまった。
「……どうやら君は獣人という事もあって礼儀を知らないみたいだね。いいだろう。特別に君に貴族への礼儀ってものを教えてあげよう。決闘だ!」
「決闘?」
「そうさ。君のその礼儀知らずな態度を治してあげようというわけさ。僕はヴェストリの広場で待っているよ」
そういうとギーシュはその場を離れていった。かけるは原作通りの展開になってきたなー、と感じつつ後ろのシエスタに声をかけた。
「大丈夫?」
「え? あ、はい。ありがとうございました……」
「いいよいいよ。本当なら僕の役割だったしね」
「……?」
ぼそりとつぶやいたかけるの言葉にシエスタは首をかしげるがそれよりも自分の身代わりになってしまったかけるを心配する。
「あ、あの……。私のせいで申し訳ございませんでした」
「気にしなくていいよ。だって……」
「ちょっと!」
かけるが話をしていると、騒ぎに気付いたらしいルイズが近寄ってくる。その表情には今までどこにいたのかというものと騒ぎを起こした事への怒りが浮かんでいた。
「何勝手な事をしているのよ!」
「み、ミス・ヴァリエール。彼女が私の代わりになって……」
「それは見ていたから知っているわ。問題はなんでこいつがしゃしゃり出たのかよ。それに今までいったい何をしていたやら……」
約束したのに結局現れず、一人でいる事になったことで隣の部屋で家同士も因縁が深いキュルケに逃げられたとからかわれたりしたのだ。ルイズはそれだけでも怒りでいっぱいだったのに現れたと思ったらギーシュの二股騒動に乱入していたのだ。もはや怒りを通り越して呆れすら感じていた。
「とにかく謝りに行くわよ。今ならギーシュも許してくれるわ」
「えー。嫌だよ」
「……あのね、いくらあなたが獣人だからと言ってメイジに勝てるわけがないわ。それにあんたはしゃしゃり出ただけだし謝れば許してくれるわよ」
「い・や・だ!」
誤りに行こうと手をつかんできたルイズの手を振り払い、抵抗の意思を見せるかけるにルイズは眉をひそめた。
「あんた何考えてんの? あんたには何も関係ないじゃない。さっさと謝っちゃいなさいよ!」
「……それって僕の事心配してくれてるの?」
「な!? つ、使い魔を心配するのは主人として当然のことで……!」
突然の返しにルイズは慌てて否定するがかけるは薄く笑みを浮かべて言った。
「ありがとう。心配してくれて」
「ふぇっ!?」
「僕の事は大丈夫。必ず勝つし、生きて帰ってくるから」
唐突のイケボで話すかけるにルイズは赤面する。隣で聞いていたシエスタも同じように顔を赤くする。まるでホストのごときイケボに耐性がない二人には効果てきめんだったようだ。
「……ねぇ、ヴェストリの広場ってどこ?」
「ん? ああ、それならあっちだよ」
「ありがとう」
様子を見守っていた生徒の一人に場所を尋ねたかけるは礼を言うと教えてもらった方へと歩いていくのだった。そして、そのあとをルイズとシエスタが慌てて追いかけていく。更に決闘と聞いて野次馬今生丸出しのほかの生徒も続く事となり、ギーシュとの決闘騒ぎは徐々に大きくなっていくのだった。