推しの使い魔 作:=f:Remora
そして一部過激な描写があるので気を付けてください
「まったく、最近の貴族ときたら……」
魔法学院の中央の塔。その最上階に位置するこの学院の頂点位置する学院長オスマンはヴェストリの広場で発生した決闘騒ぎにげんなりした様子を見せた。そしてそれを止めようにも生徒に邪魔をされて近づく事さえできていない学院の教師たちにも呆れを感じてしまう。何故生徒に足止めをくらってしまうのか。それで教師が務まるのかなど色々とこみあげてくる愚痴を飲み込み、目の前に立つミスタ・コルベールに視線を向けた。
「それで? 決闘騒ぎの相手、ミス・ヴァリエールの使い魔の少女は本当にガンダールヴなのじゃな?」
「間違いありません。彼女の左腕にあるルーンと文献に残るルーンが一致しました」
「ふむ……」
文献に載るルーンと書き写したらしいルーンを見比べてオスマンは目を細めた。実際に見たわけではない彼から見ても二つのルーンは同じであり、ガンダールヴが現代に蘇ったと考えるのが自然なように思えていた。
しかし、それが意味するのはトリステイン魔法学院では扱いに困る強大な力をもってしまったという事だ。そもそも、ガンダールヴとは全てのメイジが信仰すると言っても過言ではない始祖ブリミルの使い魔の一人が宿していたルーンである。それはあらゆる武器を扱うことができ、さらに強大な身体能力を付与するというものだった。それでガンダールヴは1000の兵士を打つ破るまさに一騎当千の活躍を見せてブリミルを助けたとされていた。
「厄介な使い魔が現れたものじゃな」
「どうしますか? 王宮に報告しますか?」
「それだけはならん。戦争の道具に使われるぞ」
そんな強大な力があるとわかれば王宮の連中が他国に戦争を仕掛けかねないとオスマンは反対する。その場合、当然ながらオスマンやトリステイン魔法学院に多大な圧力をかけられることは間違いなく、最悪の場合自分たちの命を奪ってでも手に入れようと動き出す輩も出かねなかった。
「とにかくこの件は内密にする。決して誰にも口外しないように」
「はっ!」
「うむ。それでは……、その使い魔君の様子でも見てみるかのぅ」
オスマンはそういうと杖を振り、遠見の魔法を発動。壁にかけられていた鏡にヴェストリの広場の現在の様子が映し出された。
「諸君! 決闘だ!」
ヴェストリの広場、そこでは二人の人物を囲むように人だかりができていた。一人はギーシュ・ド・グラモン。この状況を作り出した張本人にして、二股をかけていたことがバレ、それをメイドのシエスタのせいにして憂さ晴らしをしようとしていたクソ野郎である。もう一人はそんなシエスタとは会ったことはないが明らかにギーシュにいじめられていると判断して勇敢にも貴族に立ち向かったルイズの使い魔である間取かけるであった。
とはいえ間取かけるの行動は周囲にはそのように思われているが当の本人としては本来であれば自分が起こすはずだった騒動をシエスタが代わりに起こしたために今からでもと身代わりになっただけである。そして、騒動を起こさなかった理由が
「さて、君は獣人のようだし貴族の決闘には疎いだろうからルールを教えてあげよう。ルールは簡単さ。まいったと言わせるか、相手から杖を奪う、壊すなどをすればいい。君の場合はまいったと言うか気絶するまで、という事にしよう」
それだけ言うとギーシュは手に持ったバラの装飾が施された杖を振る。するとバラの花びらが一枚地面に落ち、青銅で出来た鎧が現れる。
「当然ながらこれは貴族同士の間で行われる決闘だ。魔法を使うことは禁止されていない」
「ふーん。それで?」
「……降参するなら今のうちだよと言いたかったんだけどその態度を見る限り必要なさそうだね。やれ! ワルキューレ!」
不遜な態度を続けるかけるに苛立ちを覚えつつ、ギーシュは自身が生み出した青銅の鎧、ゴーレムのワルキューレに命令を下す。ワルキューレは地を掛け素手で殴りかかっていく。その速さは生徒たちから見てもかなりの早さであり、誰もがかけるの頬に拳が当たるのを想像した。
「なっ!?」
「へへーん! このくらい余裕だよ!」
しかし、その一撃はかけるの眼前に現れた歪み、空間の裂け目に吸い込まれてかけるにあたる事はなかった。かけるは右腕全てが入った状態で空間を閉じ、ワルキューレの右腕を粉砕した。
「っ! 杖もなしに魔法を!? 先住魔法か!」
「別にこれは魔法じゃないよ。僕だけが使える僕の能力さ」
間取かけるとはただの獣人ではない。地球の神話にも登場するフェンリルであるが神話以上の能力を持っている。それは空間操作と呼ばれるもので、これまでのように空間と空間を繋げ、移動することも出来るがこのように二つの空間にまたがって存在する物を閉じることで切断することも出来る。
もともと、物理的な戦闘は未経験であり、まともな武術を有していないかけるにとってこれは現状で唯一と言える攻撃方法であった。少なくとも固いとわかっているワルキューレにテレフォンパンチを繰り出すよりは楽で、確実な攻撃方法だ。
「とりゃー!」
「っ! ワルキューレ!?」
かけるは驚き固まったギーシュのすきを突き、ワルキューレの腹回りに裂け目を展開。上半身を別空間に移動させるとその状態で空間を閉じてワルキューレを上下に分断して破壊した。
「どう? まだやる?」
「っ! 僕があれだけしか出せないって思っているのかい? 僕はまだまだ余裕があるよ!」
ギーシュは一気に7体のワルキューレを生成する。今度は武器を持ち数を生かすように半円形に展開した。明らかに不利な状況だがかけるの表情に焦りは見えなかった。
「いけ! ワルキューレ!」
そんなかけるの様子に胸の中でもやもやを感じつつ準備を整えたギーシュは一斉に攻撃指示を出した。剣を、槍を、槌を持ったワルキューレが一斉にとびかかりそれぞれの武器を振り下ろす。
「かける!!??」
「きゃあぁぁぁぁっ!!!」
そして、そんな様子を見たルイズは思わず声をかけ、シエスタは悲鳴を上げた。二人には、かけるの体を武器が貫く姿が見えてしまったが、それは次の瞬間にはただの幻視へと変貌する。
「だから、このくらいじゃ僕には傷なんてつけられないよ!」
かけるの体を貫くと思われた武器は複数現れた空間に吸い込まれ、その武器の持ち主の背中に現れた空間を通して持ち主に突き刺さった。空間を操作するキャラクターがよく使うカウンターであり、かけるはフェンリルとしての身体能力と視力、演算能力を生かして見事に成功させたのだ。
このカウンターはワルキューレをしっかりと射抜き、7体のワルキューレは崩れ落ちていった。自身が作れる最大数ですらかけるの前に敗北したことでギーシュは再び茫然としてしまう。そして、そんな最大の隙をかけるは再び突く。
「(んー、でもどうやって降伏させよう……)」
しかし、ここでかけるはどうすればギーシュを降参させられるのだろうかと悩む。殴ってもいいのだがただ殴ったぐらいでこの時期のギーシュを止められるとは思っていない。命よりも名誉を優先していたこの時のギーシュならかけるに負けるよりも死ぬことを選ぶだろう。もちろん途中で降参する可能性は原作からもわかっているがそれでもめんどくさいことに変わりはない。何とかして原作のように素早く降参させたいと考えた。
「(……そうだ!)」
そして、かけるはある方法を思いつく。相手が
フェンリルとしての脚力を生かし、一瞬ともいえる速さでギーシュの前に現れると右足を思いっきり振り上げた。足の先には茫然としていて無防備な状態の股間。そして、直撃と同時に起こる何かがつぶれる音。
「――――――――――――っ!!!!!!!」
「……あれ?」
「ひぃっ!?」
「あ、あの女なんてことを……!」
「や、やべぇ……」
かけるが行った所業に男子生徒たちは顔を真っ青にして悲鳴を上げる。中には内股になり股間を抑えて悶絶する者もいたがほぼ全ての男子がかけるを悪魔を見るような目で見ていた。
そして、そんな一撃を食らったギーシュは顔を青どころか白にさせ、泡を吹いて後ろに倒れこんだ。体を痙攣させていることからもかけるの一撃がどれほど強力なものであったのかが分かる。
つまり、明らかにオーバーキルな一撃を急所に叩き込んでしまったのである。相手の気絶というかけるも想定していなかった結果に戸惑ってしまう。
「……えっと、これって僕の勝ちでいいんだよね?」
おずおずと、そう確認するかけるだが誰もが、特に男子生徒は頷く。決闘の流れは終始かけるが有利であり、ギーシュも気絶しているからどう見てもかけるの勝利であった事。ここで反対して自分もあんな目にあいたくないという二つの要素からであったが男子生徒がどちらの思いで頷いたのかは言わなくてもわかるだろう。
こうして、原作通りにサイトの代わりとなったかけるが勝利した。しかし、その結果としてかけるは明らかに原作の才人とは違う視線を男子生徒から向けられていくことになるのだった。