推しの使い魔 作:=f:Remora
「……」
「……」
「……勝ちましたな」
「……そうじゃの」
学院長の部屋でオスマンとコルベールは遠見の魔法で移された決闘の様子を黙って見届けた。とはいえ二人の顔が真っ青であったことからもその理由は明白だろう。流石の二人もかけるの一撃には恐怖を感じえなかったようだ。
「じゃが残念というべきかガンダールヴとしての力は使っていなかったようじゃの」
「ええ、彼女はどうやら不思議な力を有しているようです。オールド・オスマン、あれは先住魔法なのでしょうか……?」
「違うじゃろう。先住魔法とは言えあのような事をするのは不可能じゃ。それに見た限り先住魔法とは別の、それこそ
「つまり使い慣れていると?」
「もしくはそうなるだけの
獣人としても見たことがないかけるの力に二人は考察するが現状では情報が少なすぎて判断する事ができない。しかし、それでも益々ガンダールヴという事を知られるわけにはいかないとオスマンは考えていた。
「(あれは恐らく空間と空間を繋げる能力じゃろう。そして見る限り第三者を通すことも出来る。距離の限界がどの低下は分からないがもし、国の端から端まで繋げられるのなら戦争をする上では有能すぎる。むしろガンダールヴではなくそちらを狙われる可能性もあるのぅ。全く、今年は気を抜けない年になりそうじゃのぅ)コルベール君。くれぐれもこの件は内密に処理するのじゃぞ?」
「もちろんです、オールド・オスマン」
オスマンとコルベールは互いに知った情報を秘匿し、王宮からの追及を逃れる方向で話をまとめるとそれ以上話す必要はないと言わんばかりに決闘騒ぎの後処理について話を始めるのだった。
「あの娘、勝っちゃったわね……」
「……」
ヴェストリの広場でギーシュとかけるの決闘を近くで見ていたキュルケとその親友であるタバサはほぼ完勝と言える形で勝利したことに驚いていた。とはいえかけるの姿から獣人であることは明白で、ギーシュが負けるとしても接戦程度にはなると考えていた。そして悲しいことに二人ともギーシュが勝つことは万に一つもないと思っていた。それだけ獣人などの亜人は人間にとって脅威なのだ。
しかし、ふたを開けてみれば先住魔法のごとき能力を用いてカウンターを決めたうえで高い身体能力を生かして一撃でギーシュを沈めて見せたのだ。更に彼女の一撃を見たもの、特に男子は今後かけるやルイズにちょっかいを出すことはないだろう。誰だってギーシュと同じ運命をたどりたくはないだろうから。
そんなギーシュは少し慌てた様子のモンモランシーによって保健室に運ばれていった。なんだかんだギーシュに対して特別な思いを抱いているのだろう。
「……」
「あら? あの娘がそんなに気になるの?」
ふと、キュルケが親友の方を見ればじっとかけるの方を向いていた。普段彼女が呼んでいる本は決闘が始まる時から同じページのままであり、それだけ決闘の方に集中していたことを表している。そしてそれはキュルケにとって意外な光景だった。もともと、他人に対する興味が薄いタバサがここまで他人に興味を持つ姿をキュルケはこれまで見たことがなかった。それだけかけるの姿に惹かれるものでもあったのだろうかと疑問に思った。
キュルケから見てもかけるの容姿は優れていると言えた。童顔ともとれる造形だがどこか凛々しさすら感じさせる雰囲気を出しており、男装させれば人気が出そうな容姿をしている。その一方でパーカーのせいでわかりづらい物の、キュルケ並みの胸を持っていると察していた。女性と男性両方を虜に出来るまさしくわがままボディの持ち主と言えた。
とはいえキュルケは別に可愛いやかっこいいとは感じても恋に落ちるようなことは不思議となかった。それは決闘騒ぎの前にルイズに会い、自分の使い魔に関しての愚痴をさんざんに聞かされたせいだろう。
『まったく! なんで主人との約束を平気で忘れるのよ! しかも二回! 二回よ!? まだ一夜が明けただけなのに二回も約束を破られているのよ! この調子じゃ魔法学院を卒業するまでに何百回も同じことを繰り返すわ!』
『そ、そう』
『確かに見た目はいいし同性だからやりやすいし、食事の心配もいらないとはいえこれじゃ意味ないじゃない! むしろ食費がたくさんかかってもいいくらいよ! これだけ怒りを感じるくらいなら!』
『……』
そんな話を聞かされた後ではあの容姿を見ても惹かれるものも惹かれない。キュルケはかけるのおっちょこちょいでポンコツな部分を自然と感じ取っていたのだ。結果、キュルケは微熱の二つ名通りの惚れやすさを発揮することはなかった。
しかし、そんなキュルケとは違いタバサは趣味は読書。他人との付き合いはなく、無表情不愛想がそろった女性だ。おまけに実力は魔法学院でも屈指と言えるほどの腕前である。結果的にタバサに近づく者はいなくなり、タバサも他人に近寄るようなことはしなかった。
それがどうだろうか? タバサはじっとかけるを見ている。キュルケにはタバサが何を考えて視線を向けているのかはわからないがその視線に恋や愛のような明るく、それでいて単純なものではない何かが浮かんでいるのだけは感じ取ることができた。
「そんなにあの娘が気になるのかしら?」
「……」
キュルケの質問にタバサは答えずに踵を返した。どうやらこれ以上見る気は、必要はなくなったらしい。キュルケはそんな親友の初めて見る行動に驚きつつもそのあとを追っていくのだった。
「あの能力……。うまく使えばこれまで以上に稼げるわね……」
そして、この決闘騒ぎはオスマンが予想したかけるの悪用という危惧が的中する事となる。ヴェストリの広場を学院の中から見ていたその人物はかけるの能力を見てにやりと笑みを浮かべた。
「そのためにもいろいろと準備をしないとね。今のままじゃとてもじゃないが捕まえることも利用することも出来やしない」
そういうとその人物はその場を離れる。その人物の立場上いつまでも決闘の様子を見ているわけにはいかなかった。第一、
「失礼します、学院長。次の書類の確認をお願い致します」
「おお、すまないねロングビル君。ここに置いてくれ給え」
その女性、オスマンの秘書であるロングビルは先ほどまで浮かべていた狡猾な笑みを消し去り、秘書らしい堅物な表情で部屋へと入った。すべては魔法学院で管理されているお宝を手に入れる為に……。