推しの使い魔 作:=f:Remora
「フェーン……」
決闘騒ぎの翌日。間取かけるの姿は魔法学院の広場にある井戸のそばにあった。彼女は肌寒い中パーカーをまくり桶に入った服や下着を洗濯板で洗っていた。一体どれだけそうしていたのか、彼女のそばには主人であるルイズの服だけではなくタオル類がいくつも置かれていた。
こうなった原因としては完全にかけるの自業自得であった。というのも彼女は主人であるルイズとの約束を二度もすっぽかしている。一度目は重要な行事もなく、すっぽかしても許せたが二度目がいけなかった。何しろ使い魔との交流会をほぼ不参加にしたうえで他人の二股騒動に乱入し、果てはそのメイジと決闘を起こしたのだから。結果的にかけるが勝利したとは言え許される行為ではなく、かけるは決闘後にルイズがから厳しい折檻を受ける事となった。そして罰として彼女のこれまでに溜まった服の洗濯とシエスタから譲ってもらったタオルの洗濯をやらされることとなっていた。
『あ、一応言っておくけどあんたの能力を使って終わらせるのはダメよ。きちんと手で洗いなさい』
『ええぇぇぇぇっ!!??』
そして、かけるがずるしないようにと言わんばかりにルイズからのダメ押しの命令を食らい、結果としてかけるは冷たい思いをしながら洗濯物をひたすら洗い続けていたのだ。日が昇ると同時に行い、ようやく終わりが見えてきたところまできていたがすでにかけるは疲労困憊であった。
「これで、最後ぉ!」
かけるは最後に残ったルイズのパンツを洗い終える。最初の方は興奮していたルイズのパンツだが何枚も洗っている事と水の冷たさ、精神的、肉体的疲労が重なった結果、興奮する余地がない状態に陥っていた。単純に満足しただけかもしれないが。
「ちょっと! いつまで洗濯に時間をかけているのよ! もうすぐ授業が始まるんだからさっさと干しなさいよ! 洗濯物を干したらすぐに教室にくること! いいわね!」
「はぁい」
褒められるどころかデレもないただただツンツン、トゲトゲしたルイズの言葉にかけるは若干涙でか細く返事をした。そんな二人の横を生徒たちが通り過ぎていくがその中でタバサがやはりかけるの方を見ており、その隣にいたキュルケが疑問符を浮かべていたが使い魔と主人はそれに気づくことはなかったのだった。
「火、水、土、風の魔法は組み合わせることでさらに強力な魔法となり、様々な効果を生み出します。そして私たちメイジはいくつ組み合わせる事ができるかでレベルが決まります。そして……」
洗濯物を速攻で干し、ギリギリ授業に間に合ったかけるはルイズの隣の席に座る。本来使い魔に席は用意されないが獣人であることから特例で許された形となっていた。
「(やっぱりゼロの使い魔らしく魔法があるんだな~。ここもアニメで何度も聞いたな~)」
かける自身聞いていても使えない以上聞く意味はないがアニメで見ていた景色とセリフを見聞きしてご満悦な様子で耳を傾けていた。
「(あ、才人にルイズの二つ名が知られるシーンだ)」
そこで、かけるはキュルケの言葉で全員の視線がルイズに注がれたところでアニメの展開にあったなぁと思いだす。そしてこの後に本来なら才人がルイズを揶揄ってご飯抜きにされ、キュルケの使い魔のフレイムに部屋に連れていかれることになるがかけるはそのイベントは発生しないと思っていた。理由は単純。キュルケとは同性であるためだ。理由それだけな時点でかけるの宋千絵は大分甘いが実際はかけるのポンコツぶりから恋心を抱く事がなかったという残念な理由であったが。
「(そうなると次のイベントがデルフリンガーを購入することになる王都へのおでかけかぁ。僕が本当にガンダールヴなのか実際にはわからないし彼を持てば判明するかな?)」
かけるはその後も順調に進んでいく授業を聞き流しながら今後の予定について考えていくのだった。
ルイズは自身の二つ名であるゼロを聞いても何も言わない自分の使い魔、間取かけるに対して不安な気持ちを感じていた。彼女を召喚した当初は感じていなかったが最近では召喚し、使い魔にしたことに対して罪悪感のようなものを感じ始めており、しかもその主人が魔法を使えないメイジとしればどんな反応をするのかわからなかったのだ。
しかし、かけるは特に反応することもなく昼を食べに空間を割いてどこかに行ってしまうなどまるで気にしていないように見えた。それが余計にルイズの心にもやもやを生み出すこととなっており、一刻も早く魔法を使えるようになりたいと感じるようになっていた。
「(いつまでも今の状況に甘んじていてはだめよ……。かけるはああ見えてすごい力を持っているわ。それもその辺のメイジでは手も足も出ないくらいすごい力を。だけどその主人である私は? かけるの主人と胸を張れる実力なんてない)」
ルイズの中の不安は焦りに代わっていく。かけるを使い魔にするだけの力が欲しい。それが無理でもゼロと言われない程度には魔法が使えるようになりたい。ルイズは頭の中で何度もその考えが巡り、食事もまともに取れなくなっていた。
「……」
「あら、どうしたのよルイズ。全然食べてないじゃない」
そんなルイズに声をかけてきたのは家同士の因縁もあり、あまりいい関係を築けているとはいいがたいキュルケだった。ルイズは隣に座ったキュルケに対して「……別に」とだけ答えて再び思考の渦に飲み込まれていく。
「……何があったのかは知らないけどあまり考えすぎても駄目よ。明日は虚無の曜日だし一緒に買い物にでもいかない?」
「……そうね。いいかもしれないわね」
「……大分重症ね」
キュルケは自身の誘いを素直に応じるルイズに本格的にやばいのではないかと心配になる。いつもなら「はぁ!? なんであんたなんかと一緒に買い物しなくちゃいけないのよ!」って食って掛かるはずだが今回はそれがない。まるで自分の力に自信を無くした獣のようだと感じて何となくだが理由を察した。
「……確かにあなたが魔法を使えないのは事実だけどそんなのは今に始まったことじゃないじゃない。悩んでいたってしょうがないわよ」
「っ! じゃぁ! どうすればいいのよ!」
「あたしがそれをこたえられるわけないじゃない。そういうのは使い魔ちゃんと一緒に考えなさい。そもそも一人で考えているのがいけないのよ。こういうのは当事者と話すのが手っ取り早いわよ」
「……でも、もし拒絶されたら」
「そう考えて一人で抱え込んだ結果どうしようもない状況になって破滅するなんてよく聞く話よ?」
「う。……そ、それもそうね」
キュルケはなんでルイズなんかにアドバイスしているのかしらと思いつつも口が止まることはなかった。
「いい? しっかりと話しなさい。そしてどうしていきたいのかを考えなさい。どうせ今日明日に改善するわけじゃないんだからしっかりと使い魔ちゃんと今後を話すのよ。使い魔ちゃんとは生涯にわたって付き合っていくことになるんだから長い目で見ないとね」
「……わかったわ。ありがとう、キュルケ」
「どういたしまして。あ、でも感謝しているのなら明日買い物に付き合ってあたしに服を奢りなさい」
「はぁっ!? あんたの服なんて買ったら私のお金が無くなっちゃうじゃない!」
「あら? ヴァリエール家のご令嬢ともあろうルイズはその程度も払えないのかしら?」
「ぐぬぬ! いいわよ! そこまで言うのなら買ってあげるわ! 何着でも持ってきなさい!」
キュルケの挑発にあっけなく乗るルイズの様子に少しはアドバイスをして成果があったかしらと思いつつ、小さな級友を揶揄いその反応を楽しむのだった。