俺には前世の記憶がある。かつてはただの日本人でアニメ好きの一般人だったのだが、何の因果か? 映画ブロリーを観に行った帰り道で事故に遭い死んでしまったのだ。
そして目が覚めたら、ラディッツに似たサイヤ人として再びこの世に生を受けた。今の俺の名前はリュウキ、この顔でラディッツじゃないというのは少々違和感があるが、劇場版でターレスが下級戦士は似た顔付きで生まれてくると言っていたし、こういうものだと赤子の頃はそう思っていた。
だが、事実は少々……いや、だいぶ違っていた。
まずここは惑星ベジータではなく、惑星サダラという星だった。
つまり、ここは第6宇宙のサイヤ人達が住む惑星だということだ。
しかも、最悪なことに俺が生まれたのはスラム街と呼ばれる貧民達が集まるエリアで、当然のことながら、俺の両親は金を持っておらず、日々を食つなぐだけで精一杯の日常を送っている極貧家族だった。
飽食の時代である日本生まれの俺からすれば、常に餓死と隣り合わせの毎日は苦痛でしかなく。
唯一の救いはスラム街の住人は皆が助け合いの精神で支え合っていることぐらいだろう。
だから、赤子である俺の面倒も両親に変わって他の住人達が見てくれたお陰で餓死による死亡は免れた。
だが、免れただけで飢えからは逃げられないでいた。
常に腹を空かしながら空腹と戦い続ける毎日に嫌気がさし、俺は赤子から幼子に成長して歩けるようになったと同時にスラム街から逃げるように飛び出していった。
そこで目指したのは身なりのいいサイヤ人達が集まる都会だった。
そこではスラム街では見たこともない食い物が売っており、道行く様々な奴らが悲壮感を一切漂わすことなく談笑して道を歩いていた。
だが俺はここで絶望を味わうことになる。
「テメェ! スラム街のガキか!?」
「何しに来やがった! また盗みを働きに来やがったんだろ!!」
「がはっ!?」
俺はただ興味本位でそこらの店を見て回っていたら、チンピラっぽい奴らに絡まれて袋叩きに会ってしまった。
俺は盗みを働くつもりは一切無かった。悪事を働くという考えがあの心優しい両親に育てられた俺には無かった。
だがこの仕打ちはあんまりだろう! ここまで痛めつけられることを俺は何かしたのか?
そう自問自答しながら家に帰った俺の姿を見て両親はどうしたのかと聞いてきた。
だから俺は素直に都会へ行って何があったのかを話した。
すると両親は複雑そうな顔と涙を浮かべて俺を抱きしめてきた。
それでようやく俺には理解出来た。弱者であれば例え子を傷つけられようが泣き寝入りするしかないのだということを……。
それからの俺はスラム街近くの森へ入り浸ることになった。生きる糧を探す
漫画で見た重りを付けての修業や、気を扱うことに集中した修業などを精力的に取り組んだ。
戦闘民族サイヤ人になったおかげか、辛い修業にへこたれるよりも、日々強くなっていく自分自身の成長が楽しくて毎日継続して出来ている。
最初は逃げるだけだった森の獣達も、今では俺が狩る側として日々を過ごしている。
こうして幼少期に肉を喰って修業いたお陰で今や俺の肉体は鋼もかくやという仕上がりの筋肉で出来ていた。
まだ少年期の時点だからチンチクリンな姿なのだが、それでも戦闘力で言えば1万は軽く超える程度の強さを有していると自負している。
まだまだ俺はそのひもじいながらも平和な日常が続くと思っていた。
だが、そんな甘い考えは現実の前に容易く打ち消された。
「親父、お袋……」
「すまんなリュウキ。こんな不甲斐ない父さんで……」
「リュウキ……。ふふ、こんなに手が大きくなるなんて。あんたはもっともっとデカくなれる。だから、私たちの分まで生きてね……」
病と飢餓に倒れた両親の手を握りしめながら、俺はボロボロと涙をこぼして2人の死を看取った。
握りしめた手がミイラみたいに細くカラカラに干上がっていた。
「俺は……自分の事ばかりで、2人の状態に気づかないだなんて本当に大馬鹿だ!」
いつも空腹で飯のことしか見えなかったから気が付かなかった。両親が自分達の食う分を減らしてまで俺の為に飯をよそっていただなんて。
「せめて墓くらい作ってやんねえとな……」
俺は溢れる涙を拭うことなく、死んだ両親の為に墓を作ってやることにした。
このスラム街のはずれには共同の墓地が存在しており、この街て死んだ人間はそこに埋葬する暗黙のルールがある。
俺は他の人の墓を荒らさないように丁寧に手で穴を掘り下げ、大人2人分くらい入るだけの穴をあけて埋葬した。
墓石なんてものは建てられないが、せめてそこら辺に生えている木をへし折って十字架を建てることにした。
「これで終わりか……。親父、お袋、俺は1人でもちゃんと生きていくからさ、あの世で俺の人生を見守っていてくれよな」
この世界にはちゃんとあの世が存在することを知っている俺はあの心優しい両親が天国行くこと確信して心穏やかに死後の冥福を祈ることが出来た。
こうして墓を作り終え、そうして帰路につき無事に我が家へと帰ってきた。
「ただいま~」
…………
当然、今まで家にいた家族は既に墓の中なので返事は帰ってこない。
がらんどうになった家の中心で俺は大の字で寝転がって天井を見上げる。
「……そうか、もう会えねぇんだよな」
悲しくないと言えば噓になるが、それでも両親との死別の時に涙は全て流した。
今この胸中にあるのは怒りだ!
両親をみすみす目の前で死なせてしまった自分の弱さに怒ればいいのか? それとも助けられる力を持ちながら俺達を無視し続ける都会の奴らに怒っているのか? はたまた、この理不尽な世を怨み怒ればいいのか?
分からない? 分からない!? 分からなぁい!!!
「があぁぁぁぁ!!!!? 」
こんな叫びなど意味はない。それでも、この腹の奥底から湧き上がる衝動が抑えきれず、俺は天にまで響きそうな程の怒りの叫びがスラム街に木霊した。
あれからしばらくの時が経った。俺の両親が死んだことはもう周りの連中は既に知っている。だから、俺の叫び声を聞いてやって来るような者は誰1人としていなかった。
優しいことだ。両親を亡くした子供をそっと1人にしてやろうという気遣いが感じられた。
本当にいいところだ。だが俺はもうこの街で生きていこうとは思わない。
弱さが全てを失うのならば、例えこの身を悪に堕としてでも強さを手に入れたい!
修業期間はもうお終いだ。これからの俺の人生は俺の為だけに歩む。
「例えその先が地獄に続く道だとしてもな……」