立花響が男の子だった世界の393 作:勝機を零した、掴み取れん
おかげさまで続きを書くことが出来ました。
響が目を覚まして数日。私はお見舞いのために毎日学校帰りに響のいる病院に来ていた。
「あっ、未来。今日も来てくれたんだ」
「うん……こんな時くらいでしか響に会えないからね……リハビリの方は大丈夫?」
「まあ、なんとか……あっ!」
松葉杖をつきながら響はこっちに来てくれたけど、バランスを崩して床に倒れてしまった。
「響! 大丈夫!?」
「いてて……。へいき、へっちゃらだよ。ありがとう、未来」
私は響の手をとって起き上がる手助けをした。
「早くリハビリ終わらせないとね。お母さんや学校のみんな心配してると思うし」
「……そうだね」
そう言って笑っている響だけど、私はそれに笑顔で返す事は出来なかった。
ツヴァイウィングのライブでの事故はニュースやネットでも大きく取り上げられていた。
会場では10万人近くの人達がいて、そこで亡くなった、行方不明になった人は一万人以上を超えたという。
それだけでも社会の授業で習うような歴史的大災害に匹敵するものだったが、負の連鎖はそこで終わらなかった。
被害にあった人達の中でノイズによって亡くなった人は全体の三分の一程度だった。残りは逃走中の将棋倒しによる圧死。自分が逃げるために避難路の確保を争った末の暴力による傷害致死だった事が週刊誌やインターネットで掲載されて話題になっていた。
人の手によって多くの人達が亡くなった。
その情報によって今回の事故で生き残った人達に対するバッシングが行われ始めた。
また、この事故による被災者や遺族に国からの補償金が支払われた事もこのバッシングをさらに加速させるものになっていた。
そして生存者の響もまたこのバッシングの対象だった。
響のお見舞いをしに行った次の日。
いつも通りに学校に来て、自分の教室に向かっている途中だった。
「立花のやつ、生きてるみたいだってね」
「どうせ、他の人を蹴落として生き残ったんじゃないの? ネット記事でも話題になってたしね〜」
「サッカー部のキャプテンが亡くなって、なんであいつが生きてるんだろうね〜。普通逆でしょ」
「しかもちょっと怪我しただけでも国から補償金出るんでしょ?」
「ええ〜。それってパパ達の税金から出るんでしょ〜。本当に無駄って感じ」
本来なら響がいるクラスの廊下で三人の女子が彼を貶めるような会話をしているのが聞こえた。
それを聞いた瞬間。私は憤りともいえる感情が込み上げてきた。
なんで、そんな事が言えるの?
響は誰よりも優しい。自分が怪我をしてでも、犠牲にしてでも誰かを助けていた。
そんな響が誰かを犠牲にして生きるなんて事は絶対にしない。私は信じている。
だって……響の事は私が一番よく知っているか。
それにあの子達は、その響の優しさがあったから、彼に好意を寄せていたはずなのに……どうして、たったそれだけの出来事で好きだった人を蔑むことが出来るの?
ああ……そうか。本当は響の事が好きじゃなかったんだね。
本当に好きなら、どんな時も響の味方でいるはずだもんね。
やっぱり、響の傍に居ていいのは私だけだったんだよ。
響の事が大好きな私だけ……。
「……ねぇ」
「……誰かと思えば小日向じゃん」
「本当だ。最近全然見かけなかったよね〜」
「そういえば、小日向の大好きな立花はあのライブで生き残ったらしいじゃん。良かったね〜。他の人を見捨ててでも立花が生きててくれて」
「ほんと、なんで私、あんなやつのこと好きだったん事が好きなんて変わってるよね〜」
「小日向も、あんな人殺しのことが好きだったなんて不思議だね〜。もしかして、まだ好きだったりするの? やめた方がいいよ〜あんなやつ」
この人達は、響が目の前にいてもこんな事が言えるのかな……。
優しい響は、こんな事を言われたらきっと傷付いてしまうだろうなぁ。
でも、大丈夫だよ、響。
「……すこし、おはなししようか?」
響の事は、私が守ってあげるから……。
それが、私ができる唯一の償い。
リハビリを無事終えた響が復学して二週間経った。
私が響の事を蔑んでいた生徒を全員おはなししたおかげか、彼自身がいじめられることはなかった。
しかし、あくまで攻撃させられる事がなかっただけで今の響は学校内では腫れ物に触るような状態ではあった。
けど、響は私に対しては優しい表情を見せてくれていた。
復学する少し前、響は今回の生存者に対する扱いに関しては知った。
その時、凄く悲しそうな顔をしていたのを覚えている。
そんな彼の手を私は優しく握った。
「……大丈夫。響は私が守ってあげる。今まではずっと響に守ってもらっていたから」
そう言うと、響は安心したのか優しく微笑んでくれた。
響の笑顔は私が守ってあげる。だからその笑顔は、私にだけ見せて欲しいな……。
今週に入ってから響の表情はどうも良くなかった。私が話しかけても暗い表情のまま軽く頷くくらいのことしかしなかった。
私が響を守っているから……いじめられているというのはないはず。だったら何が……。
放課後になった後、私は響と一緒に帰るために、彼のいる教室に来たのだがそこには響の姿は無かった。
「響……?」
響に嫌われてしまったのだろうか……そんな不安が私を襲う。
そんな事はない……そんな事は……!
不安になった私は勢いよくベランダを出て、グラウンドの方を見渡した。
もし、先に帰ってしまったのなら歩いている姿が見えるかもしれない。
その考えは正解だった。
校門に向かって歩く響の後ろ姿が見えたのだから。
ゆっくり、ぐったりとして歩く彼の姿は焦燥感を感じられた。
まるで、このまま放っておいたらどこかへ行ってしまいそう。取り返しのつかないことになりそう。
そんな女の勘を感じた私は、急いで彼を追いかけた。
私はこれでも元陸上部だ。走ることには自信がある。だから、歩いている響に追いつく事は難しくなかった。
響の後ろ姿が近づいている。
だけど……本当に響が私の事を嫌いになってしまったら?
そんな不安が過ぎった時、私の走る速度が少しづつ落ちていく。
(……いや、私は誓ったはず)
走るスピードを再び上げる。響との距離はもう目と鼻の先だった。
「響!」
そして、彼の左腕を掴んだ。
(もう二度と、この手は離さないって……!)
「……未来」
「急に追いかけて、掴んでごめん。けど、私……響が心配だったの。今の響、どこか変に感じたの。怖かった……響がどこかへ行ってしまいそうで」
「……」
響は俯いたまま何も言わなかった。
「私の事が嫌いでもいい。でも、私は響の力になりたいの! だから……響が大丈夫なら、理由を聞かせて欲しい。響の元気がないのも、今まで一緒に帰ってたのに……どうして急に一人で帰ろうとしたのか……」
「……わかった。じゃあ、あそこで話そう」
そう言って響は近くの公園のベンチを指をさした。
「……勝手に先に帰ったのは謝るよ。けど、俺は別に未来が嫌いだからそうしたかったわけじゃない。それは……わかってほしい」
公園のベンチに座って少しの沈黙が続いた後、響は話し始めた。
「……結局、未来にはすぐに気づかれちゃったからさ。だから、ちゃんと理由を話すよ」
響は遠くを見つめながら口を開く。
「……父さんが、家を出ていった」
「……えっ?」
あまりの衝撃に、私は言葉を出せなかった。
(自分の子供を見捨てたって……こと?)
そして響は事の経緯を少しずつ話してくれた。
お父さんの会社の取引先の社長の娘が今回の事故で亡くなっていた事。
響が生き残った事がその社長の耳に入り、契約が白紙になり、お父さんは会社内で響と同じように腫れ物に触るような扱いになってしまったこと。
この出来事がきっかけで、次第に様子がおかしくなっていったお父さんは家族に手を上げたりするようになっていたこと。
そしてつい先日、会社に行くと言ったお父さんはそのまま行方をくらませて、二度と家に戻ってくる事はなかった……と。
「……俺が悪いんだ」
「響……」
「俺が帰ってきてから……家には心無い言葉の落書きだらけで、石を投げられて窓ガラスが割られるのも毎日のようにあった」
私は……響を守っていたつもりだった。けど、私の知らない所で響は傷ついていたんだ……。
響はいつも私を守ってくれていた……。
なのに私は、響を守りきることができないの……?
「父さんだけじゃない……母さんや婆ちゃんもずっと辛い顔をしていた。それでさ、思ったんだよ。本当に俺は生きてて良かったのかって」
そんなこと……言わないで。
「みんなに会いたくて……頑張ってリハビリしたのに、誰も笑顔になってはくれなかった。待っていたのは生存者の俺に対するバッシング」
ダメ……響。そんな事……。
「もしかしたら……あのまま死んでしまっていた方がみんな、幸せだったのかなって……」
「そんな事言わないでっ!!」
私は大きな叫び声を上げて響を抱きしめる。
「……未来?」
「そんな事……言わないでよ……! 私は……響が死ぬほうがずっと辛いよ……!」
「……」
「私……響の事が好き、大好きなの。確かに傷つくのは辛いよ? だけどね、それよりも自分の大好きな人が目の前からいなくなる方が何倍も辛いんだよ……!」
私は涙を浮かべ、彼を抱きしめる力が強くなる。
「あの時、響が生きてくれていて本当に嬉しかった。私の大好きな人にまた会える事が出来た……。きっと、響のお母さんやお婆ちゃんも同じ気持ちだよ。だから……死んだ方が良かったなんてもう絶対に言わないで……!」
「未来……!」
「例えみんなが響を嫌いになっていたとしても、私だけはずっと、どんな時も響の味方だから……。だからその時は、響は私ためだけに生きて欲しい」
「……未来、ありがとう」
そう言って響は私を抱き締めてくれた。優しい温もりが伝わってくる。
「……あの時、未来は言ってくれたよね。生きててくれてありがとうって。前から未来は俺の事を支えてくれていたのに……ここ最近余裕がなくて、そう言ってくれていたのを忘れていた。ごめんね……」
「大丈夫だよ……響」
しばらくの間、お互い抱き締めあっていた。すごく、幸せを感じられた。
私達は手を繋ぎながら、帰り道を歩いていた。
「……もう不安は解消された?」
「うん、未来のおかげでね。誰かに必要とされているなら、生きていないといけないなって」
「なら、良かった」
「……生きるのを諦めるな」
「……?」
響が小さく呟いた言葉に私は首を傾げた。
「……あの時のライブで、俺を助けてくれた人が伝えてくれた言葉なんだ。前までの俺は……生きるのを諦めていたのかもしれない。けど、それを気づかせてくれたのは未来だったんだ。だから……改めて、ありがとう……!」
そう言って響は微笑んでくれた。
それを見た私は顔が熱くなっていくのを感じた。
「どういたしまして。やっぱり響は笑顔が一番似合うよ」
「えへへ……。そういえばあの時俺を抱きしめてくれた時の未来、まるで告白みたいな感じの言葉言ってくれたよね」
「ええっ!? あ、あれは……その、勢いで……」
自分があの時言ったことを理解した私は茹でダコのように顔が真っ赤になっていただろう。
ずっと怖くて言えなかった響への感情が、あの時はなんの躊躇いもなく言葉に出ていた。
多分、あの時は言わないと響が遠くに行ってしまう……そんな感じがしたから。
「……俺、嬉しかったんだ。未来がこんなにも俺の事を思ってくれてたんだって」
「響……」
「今すぐ未来の気持ちに応えるっていうのは出来ないけど。それでも、俺は未来と一緒にいると嬉しいんだ。だから……その、これからも一緒にいて欲しいなって……」
響も顔を真っ赤にして慌てる素振りを見せる。
まるで響の言ってる事も告白みたいだ。
その姿を見てたら、嬉しさも含めて、少し笑ってしまった。
「うん……私も響とずっと、一緒にいたい」
ああ……なんて今日は幸せな日なんだろうか。
響の手を握っていた手に力が入る。
大丈夫。私はずっと、響の傍にいるよ。
だから……。
私の全部、受け止めてね。
やりきった感ハンパない。
これで次回からは393暴走していくと思うので頑張って続き書けるように頑張ります。
感想、評価お待ちしてます。