機動戦士ガンダム00~鎮魂の反天使~   作:神話語り

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02「はぐれマイスター」

「ミッションコンプリート。ガンダムアスタロト、着艦する」

『了解。相互着艦補善システム、起動します』

 

 トレミーに後付されたサブコンテナが開き、中から橋の様な形で光が照射される。それに導かれるようにアスタロトを移動させ、コンテナ内に移動する。

 

 トレミーことプトレマイオスは、本体にエンジンユニットを装備していない。大型のGNコンデンサーに溜めこまれたGN粒子を使って、ガンダムがいなくても航空することは可能だが、ガンダムがいるのといないのでは大違いとなる。

 

 現在、トレミーで活動する四体のガンダムと、四人のガンダムマイスターはミッションに出ていた。

 

 ガンダムエクシアとマイスターの刹那・F・セイエイは、AEUの新鋭機《AEUイナクト》を撃破し、ソレスタルビーイングの実力を世界に知らせしめると同時に、防衛のために出撃したMSが、軌道エレベーター保護条約の域を超えた物であることを露見させた。

 

 ガンダムデュナメスとそのマイスター、ロックオン・ストラトスは、そのエクシアのサポート。遠距離からの超々精密射撃で刹那を援護した。ロックオンの射撃技術にはフリックも舌を巻かざるを得ない。

 

 変形機構をもつガンダムキュリオスと、マイスターのアレルヤ・ハプティズムは、人革連の軌道エレベーター《天柱》で行われる、太陽光発電開始十周年記念式典を狙ったテロ対策に出撃した。ソレスタルビーイングがテロ対策の様な『人々を救う武力介入』にも乗り出すことを全世界に広めたのだ。

 

 唯一の重武装ガンダムであるガンダムヴァーチェと。そのマイスターであるティエリア・アーデは、キュリオス/アレルヤと共に記念式典テロ対策に出撃した。特攻してきたテロリストのモビルスーツを、主武装のGNバズーカで粉砕して、エレベーターを守ったと聞いている。

 

 そして四機のガンダムが無い中、トレミーを守る役目を与えられているのがフリックとガンダムアスタロトだ。汎用性の高い様々な武装を有するアスタロトだが、その反面『器用貧乏』な面が目立ち、武力介入にはあまり向いていない。加えて、マイスターであるフリックの精神の問題で、トレミーから離れて行動することはほとんどないだろうと言われている。

 

 事実その通りだ。フリックはトレミーから離れて、地上で武力介入行動をするつもりは全くない。フリックにとって重要なのは、ソレスタルビーイングが掲げる『武力による紛争の根絶』ではなく、トレミーの戦況オペレーターの片割れ、フェルト・グレイスを守ることだけ。トレミー守護も、そのついでにすぎない。

 

 そう――――フリックは、他のガンダムマイスターと一線を画す存在だ。紛争の根絶?知らないな。そんなことは他の奴らがやればいい。俺にとって重要なのは――――フェルトを守ることだけ。

 

 

 

 ***

 

 

 

『地球で生まれ育った全ての人類に報告させていただきます。私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です……』

 

 全世界に向けて、そのメッセージは発信された。

 

 古めかしい洋館の一室に、杖をもった禿頭の老人が座している姿が映されている。老人――――ソレスタルビーイングを設立し、当時から見て200年以上先の技術……現在から見ても数十年先の技術である……を結集してGNドライヴをつくり出した男。名を、《イオリア・シュヘンベルグ》は、驚愕さめやらぬ全世界の人類に向けて、淡々と言い放った。

 

『私たち、ソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります。私たちは自らの利益のために行動はしません。戦争根絶と言う大いなる目的のために、私たちは立ち上がったのです』

 

 くだらない――――トレミーのブリッジでそのビデオメッセージ……200年近く前に録画されたものだ。今日のためにイオリアが用意していたものである……を視聴していたフリックは、口には出さずとも心の中でそう呟いていた。どれだけ戦っても、世界から争い事は無くならないだろう。そもそも、武力根絶のために武力を使うという事自体がすでに矛盾している。

 

 だが、この場にいる全員がそれを悟っているだろう。全員が、ソレスタルビーイングの行動が世界にどのような影響を与えるのか知って、苦悩しているのだろう。

 

『ただ今を以て、全ての人類に向けて宣言します。領土・宗教・エネルギー……どのような理由があろうとも、私達は全ての戦争行為に対して武力による介入を開始します。戦争を幇助する国、組織、企業等も我々の武力介入の対象となります……くり返します。私たちはソレスタルビーイング。この世界から戦争を根絶させるために設立された、私設武装組織です…………』

 

 そうして振出しに戻るイオリアの宣言。すでにメンバーの中にはそらんじて言える者もいるのではないだろうか。例えばティエリアとか。彼はソレスタルビーイングに、正確にはそれを統治するAI《ヴェーダ》に、崇拝にも近い信頼を寄せている。彼の狂信的な精神が無ければ、彼はあそこまで模範的にミッションをこなす存在としては確立しなかっただろう。

 

「……はじまった」

 

 隣でフェルトが呟く。

 

「……そうだな、始まったよ。今までの隠れて行う武力介入とは違う。大体的な武力介入が始まるんだ……」

 

 GN粒子によって、トレミーの位置はほとんど察知することができない。だが、それでも注意深く視認で調査を行って行けば、トレミーを見つける者は出てくるだろう。トレミーの外見は独創的だし、何よりもガンダムから散布される粒子……当然GN粒子だ……と同じ輝きを放っている。ガンダムとの関連性があるとみられるのは当然のことだ。

 

 その時に、トレミーを襲うであろう襲撃から、彼らを……主にフェルトを……守るのがフリックの役目。何度も言うが、フリックにとってはそれだけが重要なのだ。

 

「……何があっても、お前は守るから」

「……うん」

 

 小さくうなずくフェルトに、フリックは満足そうに微笑をうかべた。

 

 

 

 ***

 

 

 ソレスタルビーイングのファーストミッションから数日後、世界は様々な対応に追われていた。ソレスタルビーイングをいかなるものとして扱うのか、という事だった。

 

 我が国とは関係がない、と静観を決め込む者達。ソレスタルビーイングは悪である、と彼らをテロ組織と見なして対策を練る国。軍事力の低い我が国の、予算のかからない防衛手段として利用できないかと画策する国。なかには、愚かな人類に対する神の裁きだ、として、彼らを信奉の対象とする者達も現れ始めているという。

 

 結局――――どこのだれも、確固とした対策をとることはできないでいた。そして何よりも彼らは疑問に思っていたのだ。

 

 ――――ソレスタルビーイングは、本当に武力介入を行うのか?と。

 

 

 

「よう、フリック」

「イアンさん」

 

 ガンダムの格納庫に向かうフリックを出迎えたのは、技術師のイアン・ヴァスディだ。フリックにとってはイアンの親友である医師のJB・モレノと合わせて、親の様な存在でもある。

 

「どうしました?」

「ああ、アスタロトの武器の話しなんだがな」

 

 イアンが指さす先にはガンダムアスタロト。そしてその横に、一対の剣が用意されていた。黒と真紅のカラーリングを施されたその剣は、片方が長く、片方が短い。

 

「あれは?」

「GNプロトブレイドだ。エクシアにのせる武器の試作品なんだが……改良してアスタロトに積むことになった」

 

 アスタロトには、こういった展開で武器が追加されることが非常に多い。GNビームライフル(ロングバレル)はデュナメスの武装の試作品だし、主武装となるGNバスターカタールはGNソードの試作武器である、GNプロトソードから発展した武器だ。ほかにも小規模ではあるがGNフィールドを搭載しているし、姿勢制御技術のためのGNフェザーは最初のガンダムである0(オー)ガンダムから受け継いだものだ(GNフェザーはその存在にほぼ意味がないと言っても過言ではないので、アスタロト以外には搭載されていない。少しでも姿勢制御のための装備が必要なアスタロトにはこれが必要であったが)。

 

 今回もそれと同じだろう。

 

「分かりました」

 

 素直にうなずくフリック。イアンは苦い顔をして、

 

「もう少し反応を返してくれよ」

 

 と言った。しかしフリックは、あくまでも無表情に言う。

 

「俺にとって重要なのは、それがフェルトを守る力になりえるのか、という事……」

「……そうかい」

「周辺宙域の警備に出ます。アスタロトの出撃準備をお願いできますか?」

「はいよ」

 

 去っていくイアン。

 

 フリックとアスタロトは、こうして定期的に出撃し、トレミー周辺の警戒に出ていた。接近する敵影は前回の戦闘のようにブリッジで確認されるが、まれにレーダーでは判別できない敵……たとえば、デブリの裏やなかに隠れるなど……が出現することがある。その時のためだ。概してそう言う敵は、レーダーで確認してからでは対処ができない。事実、前回アレルヤ達が介入したテロでは、人革連は対処に失敗し、ソレスタルビーイングの介入がなければ多くの命を失っていただろう。

 

 格納庫に進む為、歩み始めたフリックは、向こうから歩いてくる人影に気付いた。

 

「アレルヤ」

「フリック……」

 

 ちょうど今、その業績のことを考えていたアレルヤ・ハプティズムだった。

 

「順警かい?」

「ああ」

 

 フリックの活動は、トレミーのメンバー全員に知られている。同時に、彼が武力介入に参加する気がないことも。ティエリアなどは当初、そのことに対して強く反発していたが、スメラギの「トレミーの警護をフリックに任せる」との言葉で引き下がった。今でもティエリアは「お前をガンダムマイスターと認めるわけにはいかない」と、たびたびフリックに行ってくる。

 

 それでもかまわない、と思っている。フリックにとって、ガンダムはただの武器だ。フェルトを守るための武器だ。

 

 フリックはそのやや特殊な立ち位置から、正規のマイスターたちとはあまりかかわらない。アレルヤと顔を合わせたのもかなり久しぶりな気がしている。彼は、だれにでもフレンドリーなロックオンを除けば、マイスターの中で唯一フリックに友好的、と言って良い。刹那はわれ関せず、ティエリアは確実に敵対視しているからだ。

 

「アレルヤは次のミッションか」

「うん。こうも連続出撃が続くとね……トレミーを頼むよ」

「……保証はしない。大切なのはフェルトだ」

 

 

 去っていくフリックを見て、アレルヤは「相変わらずだな」と苦笑する。

 

 彼はトレミーのメンバーの中でも最古参のCBメンバーだという。アレルヤが他のガンダムマイスターたちと初めて会った時、各々が、『紛争根絶』に対する自らの決意を述べる中……たしかあの時刹那は「俺がガンダムだ」と言って、みんなを絶句させたっけか……、フリックだけが全く違うことを言ったのだ。

 

『俺はフェルト・グレイスを守る。それだけだ』

 

 

 刹那のときに勝る沈黙が降りた。ティエリアは激高してフリックに殴りかかるほどだった。「それがガンダムマイスターとしてふさわしい決意だと思っているのか!」と。

 

 だが、殴り飛ばされてもなお、フリックは言ったのだ。

 

『ガンダムマイスター?知らないな。ガンダムは道具。フェルトを守るための道具。それだけだ』

 

 アレルヤ達は、『武力による紛争の根絶』のために、強い意志を持っている。だが、フリックにはそれがない。代わりにあるのは、誰かを守るという狂信的な想い。

 

 ――――それも、戦うための原動力としては機能しえるのか……。

 

 だが事実、機能し得ているのだろう。だからこそフリックは、ああして小さな戦いを続けているのだ。正規メンバーたちのように大規模な武力介入はしないし、恐らくはアスタロトの存在は、地球の介入を受ける国家たちからはほとんど知られないだろう。

 

 けどきっと、いや、当然のように、フリックはそんな事気にもしないのだろう。彼にとって重要なのは、そんな事ではないのだから。

 

 ――――刹那以上に危ういよ……どう思う、ハレルヤ。

 

 アレルヤは自らの体を共有する相棒に語りかける。

 

 通路に設けられた小さな窓から、起動する漆黒のガンダムが映し出される。姿勢制御のためのGNフェザーが、まるで悪魔の羽根の如く広がり――――直後、ガンダムアスタロトがサブコンテナから射出された。その腰部ユニットには、以前は見なかった武器が装備されている。イアンが用意していた新装備だろうか。

 

 これから先、トレミーに近づく者達は、あの黒い反天使によって駆逐されるのだろう。そこに一切のためらいは無い。フリックにとって、トレミーへの……ひいてはフェルトへの攻撃者は全て排除すべき下郎でしかないのだから。

 

 ――――それでも動くんだろうよ、ぶっ壊れるその時まで、な。

 

 脳内に、相棒の回答がこだました。




 ガンダムアスタロトの姿勢制御能力はかなり深刻なレベルで壊滅的です。

 今回はアレルヤとの接触回でした。ちなみにフリックは他人と会話しているように見えても大体フェルトのことしか考えてないのでオート応答的なことになっていることが多いです。そのため、外から見るときちんと会話しているように見えるのに、内面ではフェルトのことしか考えてないから話を全く聞いていないという奇妙な状況が誕生するという。
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