Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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プロローグ

「いや、何処だよここ」

 

 暗闇が広がる空間の中で一人の男が疑問を口にする。

 声が反響していることから自身が今居る場所が“閉鎖された何処か”であることは認識できるが、視界には見渡す限り黒一色で染め上げられており自分が立っているのか座っているのかさえ曖昧だった。

 全くもって意味不明である。

 

「――ああ、ようやく揃ったか」

「あん?」

 

 暗闇の中に男以外の声が響く。

 それは高いような、低いような、若者のような、老人のような、老若男女の判別が付かない、聞く者によって印象がバラバラになる不可思議な声色をしていた。

 その異様な声に不気味さを感じながらも、聴覚以外がろくに機能していない暗闇の中でようやく新たな情報が得られそうな予感に男は謎の声に向けて問いかける。

 

「アンタが俺をここに連れ込んだのか?」

「私は管理者。お前達(・・・)をこの場に呼び堕とした者だよ」

「……達?」

 

 返された答えは複数形。

 どうやらこの暗闇には自分と謎の声以外の存在がいるらしい。真贋を確かめるために男は改めて周りを見渡すが、やはり見えるのは暗闇だけで何の成果も得られそうにない。

 耳を澄ませてみるも聞こえるのは自分の心臓の鼓動くらいで、返答してきた謎の声以外の存在は認識できなかった。

 他の者と声が届かぬよう遮音されているのか、あるいは物理的に距離が離れすぎていて聞こえないだけなのか。男にはフィクションのように気配を察するなんて真似もできない以上、新たな疑問が増えただけで終わってしまった。

 

「つーか、いま堕とした(・・・・)とか不穏なワードが出てきた気がすんだが――」

「お前達には私の駒として生まれ変わってもらう」

「いや無視かよ」

 

 どうやら謎の声は男の疑問に答えるつもりはないらしい。最初の質問すら、答えを返した訳ではなく一方的な宣言をしただけであったようだ。

 男は無視された上に駒呼びされたことに小さな苛立ちを感じつつも、新たな情報に思考を巡らせる。

 

(生まれ変わり、ねぇ)

 

 荒唐無稽なことをさらりと告げられるが、暗闇しかない謎空間に連れ込まれている時点で相手は真っ当な存在ではないのだろう。

 現に男は“自分が死んでいるはずだ”と自覚している。

 こうして意識があるのに死の自覚というのも奇妙なものだが、男は信号無視をした自動車に撥ね飛ばされて致命傷を負った記憶があるのだ。ノンブレーキで突っ込んできた車体と激突し、無数の骨が砕け内臓に突き刺さる感触と僅かな滞空時間、そして地面に叩き付けられたことをハッキリと覚えている。

 医学のいの字も知らない素人でも致命傷だと判別できる重体。

 助かる見込みなど皆無だと言うのに――

 

(今は無傷ときたもんだ)

 

 光源が存在しない暗闇の中だが、自分の身体がここにあることくらいは分る。

 先ほど耳を澄ませたときに聞こえた自分の心臓の鼓動、本来ならその伸縮運動による微弱な振動だけでも激痛が走るほどの重体はすっかり直ってしまっているらしい。

 

「お前達には生まれ変わった先の世界で二十年後に始まる聖杯降臨の儀式――聖杯戦争へ備え、参加券となる【クラスカード】を【覚醒】させる逸話を積み上げてもらう」

 

 男が身体の状態を確かめている間にも謎の声は話を進め、【クラスカード】という新たな情報が告げられると同時に男の目の前へ唐突に"何か”が出現する。

 暗闇しかない空間で物体が視認できていることにかすかな疑問を感じるが、いい加減出鱈目な事態の連続で感覚が麻痺してきた男は何気なしにそれを手に取ってみる。

 それは長方形で厚紙程度の薄さをしており、実物は知らないが何となく「タロットカードみてぇだな」という印象を抱かせた。

 表面は真っ白で何も描かれておらず、何気なしにひっくり返して裏面を見ると”盾を構えた騎士”のイラストがモノクロで描かれていた。

 

「一つ。二十年の間に七つの【指令(オーダー)】を下す。

 二つ。【指令失敗(オーダーミス)】を犯した参加者には罰を与える。

 三つ。聖杯戦争に余人を招き入れた参加者には罰を与える。

 四つ。約束の日までに【覚醒】に至らなかった者は強制敗退に処する」

 

 男が【クラスカード】を眺めている間にも謎の声の語りは進む。

 おそらくルール説明のつもりなのだろうが、下す、罰、処する――不穏な言葉が散りばめられた内容は聞かされる側からすれば不安を煽っているように思えてくる。

 事実、ルールを聞かされた男は上から目線の物言いに苛立ちを募らせ、思わず手の中にある【クラスカード】を握り潰しそうになっていた。

 しかし――

 

(……潰せない、だと?)

 

 【クラスカード】は潰れるどころか皺が寄る様子すら見せず、健在だった。

 今度は両手で掴んで引きちぎってやろうと意図的かつ全力で力を込めてみるものの、びくともしない。

 その手応えは物理的に頑丈なのではなく(・・・・・・・・・・・・)そもそも力が伝わっていない(・・・・・・・・・・・・・)と感じる奇妙なもので、男はこの空間に連れ込まれてから麻痺したままだった危機感がようやく再稼働しだして、手の中の物体に得体の知れない不気味さを覚える。

  

「十五名によるバトルロワイヤルであり、要な犠牲は六名。その命をもって聖杯は世界に降臨する。もっとも、結末は分りきっているが……お前達は駒らしく、演者らしく、せいぜい足掻いて私を愉しませておくれ」

 

 男の徒労を嘲笑うかのように、謎の声はこれまでの説明の中でも最も不穏な殺し合い(バトルロワイヤル)という言葉を投げ落としてきたのだった。

 

 

 □

 

 

 必要なことは告げ終えたのか、謎の声は聞こえなくなり再び静寂が訪れる。

 一方的に告げられた情報は男に取って意味不明な固有名詞が大半で大まかにしか理解出来なかったが、分る範疇でも物騒極まりない内容だ。

 

(要約すりゃ、転生させてやるから二十年後に殺し合えってか?)

 

 なんだそれは。人の命をなんだと思っていやがる。巫山戯んな。

 謎の声に対する罵詈雑言を激情のままに吐き出そうとするが、男の意思に反して口がまるで動かない。

 いや、口だけではなく全身の自由が利かなくなっている。

 まるでお前達に自由など無いとばかりに、身体の制御を奪われているのだと気づいた。

 次第に意識も薄れ始め、自分の最も根幹的な部分――魂がこの暗闇の閉鎖空間の外へと放流されようとしていることを本能で悟る。

 朦朧とする意識を必死でつなぎ止め何とか抗おうとするも全て無意味に終わり、いつの間にか手に持っていた筈の盾騎士が描かれたカードが独りでに眼前に浮かび上がって男の胸――否、魂に突き刺さる感触を最後に意識を失った。

 

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