Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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歪な共闘、獣の切り札

 トーリカの援護が加わったことで、巨獣を相手取るザクロとオリヴァンの動きには変化が生じていた。

 両者が共闘など欠片も考えずバラバラに戦っている部分は先ほどまでと同じだが、後方からの牽制射撃の恩恵を受けて攻勢に回る頻度が明らかに増加しつつある。

 

「それ、それ、そ~れ! 斬って! 抉って! アッハハハハハ!!」

 

 虹色道化は戦い方を二刀流に変えたことで純粋に手数が倍になっており、トーリカの助言を受けたのか斬撃だけでなく刺突も交えて喜悦のままに踊り狂う。

 けたたましく笑いながら繰り出す双剣の乱舞は一刀状態であったときと同様に二流にも届かない練度であるものの、不格好にならず形になっているのは【クラスカード】に記載された固有技能『専科百般』の現れだろう。

 (ライセンス)ハンターとして世界を旅しながら無数の技能・資格を習得(ハント)してきたザクロはハッキリと言えば器用貧乏の類いである。

 しかし"できることの多さ"という点のおいてはこの場に集った転生者達の中では最も秀でており、手を替え品を替えて状況に対応できるのは特化型にはない強みだろう。

 

「死ね! 死ね! 砕け散って死に絶えろッ!」  

 

 褐色の偉丈夫は掘り返されてしまった大地から巨獣の身体へと足場を移し、敵手の手足を踏み砕く勢いで駆け上がって顔や胴体へ裂帛の気合いとともに剛拳を打ち込んでいく。

 全身の傷から血飛沫を振りまきながらも纏うオーラに陰りや揺らぎはありはしない。恵まれた天性の肉体と優れた潜在オーラによって継戦能力を維持したまま猛る戦意を轟と燃やして、身体の内から更なるオーラを振り絞りながら戦意と殺意を込めて豪腕を振るう。

 攻勢に転じた狂戦士の攻撃は一撃ごとに巨獣の身体を殴り、砕いて、穿っていく。二メートルを超える並外れた体格ゆえに握りこんだ拳は常人のそれよりも遙かに大きく、硬く、まるで黒金の鉄球であり、着弾のたびに破城槌で城門を叩き壊すような轟音を奏でながら無数の破壊痕を巨獣の体表に刻んでいる。

 

「■■■■■■■■―――!」

 

 そして巨獣とてただ一方的に攻撃を受けているわけではない。

 自身の洞角(ほらづの)による突き上げで大地が掘り返されたことで足場は巨大な轍か塹壕のように抉れてしまい、虹色道化と偉丈夫は陸上での移動に大きな支障を来たしている。

 実際に両名共に巨獣の身体を足場として戦っているのだから振り落としてしまえばいいのだ。

 爪を振るって木っ端のように払ってもよいし、自傷を無視して咆吼を浴びせて弾いてしまうのもよい。いっそのこと巨躯を旋回させて戦場まるごと薙ぎ払うのもありだろう。

 だができない(・・・・・・)

 巨獣がそれらを実行に移そうとした瞬間、狙い澄ましたように隠れ潜んだパンク男による弓矢の援護が行われて邪魔をする。

 ときには存在感を錯覚させるブラフによって追撃を躊躇わせてくる。普通にオーラを込めただけの矢ならば巨獣の身体にたいした損傷を負わせることはできないため無視して攻撃に専念すればよいのだが、頭部を一撃で吹き飛ばしてみせた実績が思考に待ったをかけてしまう。

 またあるときには巨獣にではなく虹色道化と偉丈夫に対して意図的に矢を着弾させることでその身体を弾き飛ばし不可避のタイミングで放たれた爪牙を回避させてしまうのだ。

 

「ぬ、ぐっ……――ォォォオオオオオオオッ!」

「がっひゅ――もうトーリカっ! 酷いよっ!」

 

 無論、無茶な回避(矢の直撃)の代償として虹色道化と偉丈夫にはダメージが蓄積されていく。

 体重が軽く耐久力にも乏しい虹色道化は矢を受けるたびに大きな負傷をして血反吐を吐きながら弾き飛ばされ、即座に復活するもののさながら交通事故の被害者めいた有様だ。

 対して偉丈夫の方は、人体として極まった耐久を『強化系』によって更に強化した身体ゆえにさしたるダメージは受けていない。されど事前の打ち合わせすらないパンク男の独断による完全な不意討ちなせいで肉体よりも精神(こころ)を削られている。

 それでも二人が未だに戦闘から脱落していないのは、全体の動きを俯瞰しながら弓矢という貫通力が重視される武器で意図的に"人体を弾く"という曲芸染みたことを行っているパンク男の功績と言えるだろう。

 パンク男は『放出系』に属する念能力者であり、オーラを身体から切り離して運用しても攻撃の威力に低下は起こり得ない。加えて『放出系』は『操作系』とも相性が良いため、例え『操作系』の練度が低くとも己の放つ矢に対して「衝突した対象を弾け」という簡易的な命令を込めておく程度の操作は可能なのだ。

 

 徐々に、されど確実に削られ続ける巨獣は追い詰められている。

 パンク男の銃弾による頭部の爆散、偉丈夫の剛拳による片前足の粉砕、どちらも取り込んでいた物質にダメージを肩代わりさせることで継戦に支障は無いしたものの、相応に体内にストックされた物質の残量を減らされてしまった。

 虹色道化の『真実の剣』を用いた斬撃は巨獣の体躯に対して破壊規模が小さすぎるため巨大な砂山を爪楊枝で削っているような微々たる損傷なのだが、「塵も積もれば山となる」という諺の通り微量であろうと着実にダメージを与えている。なにより、ほかの二人と違って巨獣の耐久を無視して当てるだけでダメージを通せる特攻性能は鬱陶しいことこの上ない。

 そして度重なる咆吼で吐き出した大量の樹木砲弾として用いた物量も加味すれば、あと数発も大規模破壊(対城宝具)クラスの攻撃を受けることになれば巨獣の耐久限界に達して変身能力が解けてしまう可能性が生まれていた。

 

 ゆえに、巨獣(ダーウィン)は勝負を決めることにした。

 

 

 □

 

 

 パンク男(トーリカ)は途中で幾度も狙撃地点を移動しながら弓による速射や曲射、果ては風の流れを利用した揺れ動く奇怪な軌道の射撃を行うことで全戦で戦う二人の支援を行っていた。

 ときおり矢の軌道からトーリカの位置を予想した巨獣が幾度かの咆吼を放ってきたが、本領である遠距離戦闘に徹していることで弾幕の回避は近距離戦を強いられていた先ほどよりも遙かに容易い。

 移動の際には『狩猟の宣言(ハンティングサイン)』によるマーキングを戦場の各所に施すことで立体的な距離の把握を行いつつ、必要に応じて気配偽装の応用技も織り交ぜることで完全に巨獣を翻弄することに成功していた。

 そして『狩猟の宣言(ハンティングサイン)』の気配感知能力はトーリカの射る矢玉にも適応されトーリカのオーラを纏った物体の数が戦場に増えれば増えるほど、戦場は狩人の狩猟場と化していくのだ。

 

「さて、そろそろ焦れる頃合いやな」

 

 戦場からやや離れた木の上から獲物が最後の攻勢に移るタイミングを計る。

 自分たちが三人がかりで削った物量(血肉)と、巨獣自身が吐き出した物量(砲弾)、それらを合計した質量を目測で大雑把に計算し、あと数発の決定打を叩き込めれば巨獣の総体を支える物質を削りきれると狩人として、そして念能力者としての経験則から予測した。

 背負ったギターケースの中に収めた切り札を意識しながら、パンク男は糸目の奥に寒気を感じさせるほどの冷徹な意思を宿して時を窺う。

 そして――

 

「――来よった」

 

 パンク男が睨み付ける最中、ついに巨獣が勝負を決めに動く。

 己に向けられる全ての攻撃を無視して大地に這うように四肢を撓ませた次の瞬間、真上に向けて大跳躍を行った。

 大地にこれまでと移動とは比較にならない陥没が生み出され、発生した衝撃が地面を揺るがし局所的な地震に等しい破壊を起こす。

 これまで陸戦に拘っていた巨獣の唐突な行動にその身体を足場としていた虹色道化と褐色偉丈夫の二人は不意を突かれて対応が遅れてしまい、そのまま大地に振り落とされた。

 森の木々の倍異常の高さまで飛び上がった巨体はまるで天蓋のように太陽を遮って地上に巨大な陰を落とし、頂点に達した瞬間に宙返りをして真下に向けて顎を開く。

 次の瞬間――

 

 

 

 

 

 森が堕ちてきた(・・・・・・・)

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