Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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月が落ちる

「クソッ、埒が明かねーな」

 

 爆発によって生じた煙が晴れた中、カスラは生存していた。

 全身から煤と硝煙の臭いを漂わせながらも肉体に傷を負った様子はなく、爆発によって吹き飛んだ大地の壁の中心で三角形の盾(・・・・・)を足場にしながら宙に座している。

 カスラの傍には足場にしている盾と同じ三角形の盾が二枚浮遊しており、周囲を警戒するようにゆっくりと旋回していた。

 その光景が想定外であったのか、陥没した大地の中心から見上げていたパンゲアは色白の顔に困惑した表情を浮かべていた

 

「はぁ、人体が木っ端微塵になるくらいの威力だったはずなんですが……」

「生憎だったな。馬鹿正直に受け止めるだけが盾の使い方じゃねーんだよ」

「しつこい男は嫌われますよ。あとお腹空きました」

「知るか。そこら辺の土でも食ってろ」

 

 カスラの『(ハツ)』である『盾の指揮者(センターガード)』で放出される盾の形状は『左手に嵌めた指輪の中石(キーストーン)の形状を模す』ことでオーラの形状変化に重要なイメージを補っている。

 これは『変化系』の練度不足を補うための小細工であると同時に、放出の起点に使用する指輪を変えることで盾の形状を変化させられる利点(メリット)となり得る。

 周囲を岩盤に取り囲まれた状態で再び爆発を受けたカスラはオーラの盾を割られた一度目の時とは異なり、三枚の盾を三角錐のように組み合わせることで爆発を受け流して凌いでみせてたのだ。

 

(さて、どーしたもんかね)

 

 強がっては見せたものの、カスラは内心で現状が手詰まりであると感じていた。

 白い眼鏡少女が行う大地操作は凄まじい練度であり、マフィアの戦闘員として過ごしてきた戦歴の中でも際立った強敵である。

 操作方法が手動操作(マニュアル)に切り替わってからは特に顕著であり、迂闊に大地に足をつけた途端、大幅に速さを増した操作速度によって瞬く間に大地の底まで引きずり込まれても不思議ではない。

 カスラのように宙に浮く手段を持つ者か、眼鏡少女の射程外から一方的に攻撃できる者、あるいは何かしらの方法で大地操作を無効化しないかぎり闘いの舞台に立つことすらままならないだろう。

 この強敵を相手に本気で勝ちを狙いにいこうとすれば己の切り札(・・・)を使う必要がでてくるだろう。

 しかし、ここで手札を晒しすぎるのは問題がある。

 

「何なんだこの鬱陶しい視線の数は……」

 

 視られている。

 背後の都市、街道の周辺、他にも至る所から感じる一人二人では済まない無数の視線。

 魔法都市の外に出るときに感じた違和感も含めて、この戦闘を観測している複数の存在が確実にいる。

 この視線の中に転生者が紛れているのか、あるいは全ての視線が転生者による情報収集なのかは分らない。

 故にカスラは切り札の使用を躊躇っていた。  

 

「――チッ、考える暇もやらねぇってか」

 

 攻略の糸口を見つけようと思考を巡らせる眼帯男に対して、眼鏡少女の操る大地が再び流動をはじめる。

 その有様は荒ぶる大海のようでありながら、周囲に響く音は潮騒ではなく地鳴りの如き擦過音。土が、砂礫が、岩石が、一人の少女を大地の支配として崇め仕えるように統率されて彼女の元に形を変えて集っていく。

 相手の切り札が開帳される気配を感じたカスラは牽制に盾の射出しようとしたが――

 

「――ッ! 誰だ!?」

 

 刹那、眼下の相手とは異なる別人の殺気(・・・・・)を感じ取り牽制を中断した。

 眼鏡少女の広大な『(エン)』によって辺り一帯に個人のオーラが充満しているせいで眼鏡少女以外の気配を酷く感じ辛い空間の中、それは一秒の百分の一にも満たない僅かな間隙、されど護衛者としての経験に裏打ちされた危機察知能力が感じ取った確かな害意。

 

(方角は魔法都市(マサドラ)側から、――不味い、お嬢ッ!)

 

 殺気の出所が守るべき護衛対象(アリアレーネ)のいる方角であったことで、カスラは相対する少女から目を離してしまう。

 明らかな愚行。戦闘を生業とする者として失格の烙印を押されても文句の言えない軽挙妄動。これでもはや相手の切り札を止める機会を逸してしまった。

 だがしかし、カスラにとってそんなものは知ったことではない(・・・・・・・・・)

 優先するべきは主の護衛。守護者として今生を歩んできた眼帯男が隙を晒してでもアリアレーネの守護へ向かおうと敵対者(パンゲア)に背を向けた瞬間――有り得た欲しくない光景を目の当たりにした。

 

「げッ! おい待て、お嬢ッ!?」

 

 アリアレーネは眼鏡少女が広げる『(エン)』の内側――敵対者の間合い(・・・・・・・)に自ら足を踏み入れていた。

 いくら戦闘経験が浅いとはいえ、相手の念能力の性質を見抜けないほど知恵の回らない少女ではない。

 むしろ知略の面ではカスラを大きく突き放し、念能力者としても天才と呼べる素養を持つ御令嬢は眼鏡少女の念能力が『『(エン)』の内側にある大地しか操れない』ことを理解したうえで行動している。

 次の瞬間には足下が底なしの蟻地獄か地雷原にでも変貌しかねない大地の上をまるで実家の庭園を散策するような気軽さで歩いていた。

 しかし、カスラが慌てているのはアリアレーネがやる気(・・・)を出していることに対してであった。

 

「おい! ホントに待て、止めろお嬢!?」

「いやよ。わたくしに指図しないで頂戴」

 

 冷や汗をかく従者からの懇願を主たる御令嬢はにべもなく拒否する。

 ゴシックドレスで着飾った小さな体躯に漲る顕現オーラは莫大な量であり、人間の範疇で最高峰(ランクA)の出力を誇る眼帯男(カスラ)眼鏡少女(パンゲア)の顕現オーラを足し合わせても尚届かない異常出力。

 支配領域に出現した桁違いのオーラに驚いたのか、切り札を発動しようとしていたパンゲアまでもが焦りの気配を滲ませる。

 

「わざわざ手加減までしてあげるのだから、生き残ってみせてなさい」

 

 アリアレーネは何の構えも取らず優雅に佇んだまま、日傘の先端から規格外のオーラを圧縮して念弾として空へと放つ。

 盾に乗って浮いていたカスラよりも高い位置へと達した段階で念弾に掛けられていた圧縮が解除され、瞬く間にその大きさを増していく。

 戦場となった魔法都市の南口の空を覆い尽くして尚余りある巨大念弾は見上げる者全員に絶望を与える凶星のように輝き、闘争の空気を畏怖と恐怖に塗り替えてしまった。

 それは前世の創作物に登場する技の模倣。

 管理者の手で主催された聖杯戦争という儀式が登場する"運命の物語"と根底の世界観を同じくする"別の世界線"に描かれた『月の王』とその『後継者』が行使する力の劣化再現。

 本家本元には遠く及ばず、己の『(ハツ)』で見た目を似せただけの贋作とも呼べない矮小な代物。

 それでも前世からのサブカルチャー好きであるアリアレーネ――『月の癌細胞(ムーンキャンサー)』の『配役(クラス)』を割り振られた転生者にとってお気に入りの技であった。

 

「――『偽・月落とし(ブルート・ディ・シュヴェスタァ)』」

 

 月を模した巨大念弾が地上へ向けて落ちてくる。

 顔を青くした眼帯男は余力の全てを盾へと注いで守りを固め、眼鏡少女は切り札の発動を中断して地中へと潜り大地を地下シェルターのように圧縮・硬質化させて全身全霊の防御姿勢を取った。

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 

「――……少しはしゃぎ過ぎたかしら」

 

 戦場跡に一人で佇み、アリアレーネは色白の頬に指を当てながら思案していた。

 騎兵と盾兵の激突によって原型を留めないほとに破壊されていた魔法都市の南口は、アリアレーネの放った対軍規模の広域破壊によって戦闘の痕跡ごと消し飛ばされ、まるで水を抜かれたダムの如き窪地と化していた。

 これほどの大破壊を行っておきながら可憐に整った美貌には全く悪びれた表情はなく、「淑女としてはしたなかったかも知れない」という的外れなことを考えている有様である。

 仮に都市の中で同じ攻撃を放っていた場合、魔法都市マサドラがグリードアイランドの地図から消えて無くなっていたかも知れない所業なのだが、自他共に認める自己中である御令嬢は欠片も気にしていなかった。

 むしろこれ以上手加減をした場合、己の従者(カスラ)友人(パンゲア)を動じに止めることは難しかっただろうと判断している。

 事実として、カスラは窪地の中で全身が地面に埋もれしまっているがキッチリと生存しているし、パンゲアの気配(オーラ)も地面の下から感じ取れる。友人は昔から『(ゼツ)』系統の技能を苦手としているため油断を誘う偽装(フェイク)という線も薄いだろう。

 負傷の程度は知れないが、どちらも生存しているため「二人を止める」という目的は果たせたので良しとしようと結論づけた。

 次の瞬間、アリアレーネの身体から【クラスカード】が出現する。

 毎度ながらこちらの都合を完全に無視した唐突な出現に驚いて真紅の瞳を瞬かせるが、内容を確認しないわけにはいかないため直ぐに手に取って記載された事項に目を通した。 

 

  

 

 □

 

 

配役:ムーンキャンサー

系統:特質

練度:天賦

筋力:E

耐久:E 

敏捷:D

顕現:C

潜在:B

幸運:A

 

固有技能:

『色素欠乏』

『黄金律』

 

念能力 

『月の血戒』

『C.C.C』

 

受注【指令】「グリードアイランドに入島し、聖杯戦争を開始せよ」【成功】

  【指令】「マサドラに行き、他の聖杯戦争参加者を敗退させよ」

 

 

 □

 

 

「――ああ、そういうことなのね」

 

 七つ目の【指令(オーダー)】が達成扱いになったことで、アリアレーネは今回の達成条件が何であったのかを即座に把握した。

 試しに地面から這い出そうとしている従者に真紅の瞳を向けてみれば、あちらも身体から【クラスカード】が出現しているため【指令(オーダー)】の達成が記載されているのだろう。

 

「戦場の指定に敗退者が確実に出る内容、……意地の悪い【指令(オーダー)】ね。やはりパンゲアをこちら側に引き入れた方が得策ね」

 

 アリアレーネは高慢であれど、慢心しているわけではない。

 己と従者が他の参加者より出遅れていることはしっかりと認めているため、先に七つ目の【指令(オーダー)】を達成した転生者達が魔法都市に潜んでいる可能性が高いと認識していた。

 恐らくパンゲアが魔法都市マサドラにやって来たのも八つ目の【指令(オーダー)】が関わっているのだろう。

 都市に蔓延っていた異質なプレイヤー達(・・・・・・・・・)のことも含めて、索敵も熟せるパンゲアは是非とも自陣に引き入れておきたい人材である。

 

「カスラが戦闘中に妙な反応をしていたのも気になるし、直ぐに交渉を始めましょうか」

 

 己の部下ごと友人に向けて大技を叩き込んだ御令嬢は、すまし顔で交渉の段取りを頭の中で組み立て始める。

 もしも第三者がこの場にいれば「どの口が言ってるんだ」と呆れてしまうだろうが、ここにいるのは巨大マフィアの御令嬢であり次期首領。

 どれだけ戦闘力を持っていようと、暴力を背景にした脅迫(交渉)こそが本領なのだ。

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