Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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停戦と友好

「……ぺっぺっ、くそ、口の中に土入っちまった」

「あらカスラ、全身が土埃だらけじゃない。わたくしの従者なのだから身だしなみには気を遣いなさい」

「誰のせいだと思ってんだ!? つーか躊躇無く味方を攻撃に巻き込んでんじゃねぇよ!!」

「貴方、あんな見かけ倒しで死ぬような鍛え方はしてないでしょう?」

「そういう問題じゃねぇよ!」

「そんなことより、パンゲアはそろそろ出てくるかしら?」

「あ~くそ、もう無茶苦茶じゃねーか……」

 

 アリアレーネの放った巨大念弾の落下によって窪地と化した戦場に抗議の声が響き渡る。

 抗議主である眼帯男は事前に防御姿勢を整えていたことで身体に大きなダメージを負うことはなかったが、巻き添えによって眼鏡少女もろとも攻撃されたことが腹に据えかねているらしく、乱雑に頭を掻いて髪に着いた土埃を落としながら険しい表情で怒りを露わにしている。

 一方、従者からの抗議を受けたマフィア育ちの御令嬢はたいした問題ではないと切り捨て、真紅の瞳で周囲を見渡しながら戦場で戦っていたもう一人の人物であるパンゲアを探していた。

 

オーラの込められていない土埃(・・・・・・・・・・・・・・)が舞っているということは、あの子は『(ハツ)』を解除している。ならもうそろろそ出てきてもいい頃合いのはずよね)

 

 アリアレーネは友人が念能力によって大地を支配したままであれば土埃であろうと僅かなオーラが込められているはずなので、防御よりも回避を優先したのだと判断していた。

 事実、己の攻撃が着弾するより前にパンゲアが切り札の発動を中断して地中に潜っていたのは目視で確認している。

 不発に終わったことで切り札に回していたオーラ量は無駄になり、魔法都市までの移動に使った大地の津波と先ほどまでのカスラとの戦闘で消費したオーラ量は眼鏡少女の類い希な潜在オーラをもってしても馬鹿にならない消耗だろう。

 それこそアリアレーネ自身が行っているような反則まがいな方法(・・・・・・・・)でも使わない限りは。

 ゆえに今こそ停戦を提案する好気。もともと眼鏡少女が戦闘に消極的な点も含めて交渉の席に着かせることはできるだろうと考えていた。

 そして――

 

「――ぷはぁ! はぁ、はぁ……」

「あら、ようやく出てきたわねパンゲア」

「……しぶてぇヤツな。てかどんなオーラ量してやがんだ」

 

 巨大念弾の落下した地点から二十メートルほど離れた場所の地面が隆起し、白髪白目の眼鏡少女が飛び出してきた。

 地中に潜った地点から離れた位置に出現してくるあたり、どうやら攻撃から待避しつつも追撃を逃れるために地中を移動していたのだろう。

 防ぐのに手一杯で土に埋まってしまった眼帯男とは異なり眼鏡少女の着込んだサスペンダー付きの作業服には土汚れはついておらず、せいぜい汗ばんで湿っている程度だ。

 さすがに地中に潜り続けるのは流石に息が苦しかったのか、眼鏡少女は遠泳を終えた水泳選手のように酸素を求めて深呼吸を繰り返していた。

 大技と断言できるほどの念能力の大規模行使を連発していたにも関わらず身に纏うオーラは未だ枯渇しておらず、並みの念能力者を凌駕する圧を放っている。

 その事実に潜在オーラの乏しさを自覚しているカスラは隻眼に呆れと羨望が混ざった色を浮かべつつ、息を荒げている様から体力面では己が勝ると判断し、再び能力を行使される前に潰しにかかろうと突撃の姿勢を取るも――

 

伏せ(ステイ)

「痛ってぇ!?」

 

 隣にいたアリアレーネの足払いをかけられてすっ転んだ。

 膨大なオーラを纏った合金入りの厚底ブーツはカスラの足を粉砕しかねない威力で繰り出され、『(ギョウ)』による防御が間に合っていなければ本当に骨折に至っていただろう。

 

「おいお嬢! さっきから何なんだよッ!?」

「カスラ、わたくしが何のために動いたと思っているのかしら。少しは闘い以外にも思考を巡らせて頂戴」

 

 地面に転がされた眼帯男の怒声に冷ややかな一瞥を向けた後、アリアレーネは荒れ果てた戦場を優雅に歩き出す。

 向かう先にいる旧知の相手はようやく息が整ったのか平静を取り戻しており、マフィア主従のじゃれ合い――もとい、内輪もめをぼんやりと眺めていた。

 その立ち姿にはやる気が感じられず、展開している『(エン)』も範囲こそ狭まっているものの敵意は込められていない。

 そしてアリアレーネが『(エン)』の内側に足を踏み入れた。

 

「お久しぶりねパンゲア。乗り物酔いはもう収まったかしら」

「お久しぶりですアリア。あと嘔吐は慣れているのでもう大丈夫です」

「それは大丈夫と言えるのかしら?」

 

 未だ警戒を解かない隻眼の従者に見守られながら二人のアルビノは再会の言葉を交わす。

 御令嬢は真紅の瞳で相手を見据えながらも口元に小さく笑みを浮かべ、眼鏡少女も純白の瞳で見つめ返しながら相槌を打つ。

 両者とも成人女性には見えないほど小柄な部類であり、顔立ちこそ異なるもののアルビノ特有の肌の白さや極端に色素の薄い髪色が似通っているため、事情を知らない者が遠目からこの様子を眺めていれば年頃の姉妹が対話しているように勘違いするだろう。

 

「申し訳ないわね。(ファミリー)の者が先走ってしまって」

「いえ、特に気にしてません。私は降りかかる危険に対処しようとしただけなので」

「そう言ってもらえると助かるわ」

「むしろ貴方の攻撃の方が危なかったのですが……」

「友人との再会に少しはしゃいでしまったのよ」

 

 和やかに話す女達の後ろでは上司が素直に謝罪を口にした挙げ句、アリアレーネの父親でありオレスト(ファミリー)の現首領(ボス)以外に呼ばせたことのないアリアという愛称を許していることに驚愕して従者(カスラ)が隻眼を見開いて口をあんぐりと開ける阿呆面を晒しているが、二人は無視して会話を続ける。

 

「貴方が魔法都市にやってきたのは【指令(オーダー)】が関わっているのかしら」

「そうです。本当ならもっと土の観察をしていたかったのですが、ペナルティーを受けるのも面倒なので」

「……あれだけ酷い乗り物酔い(ペナルティー)を課せられているのに面倒の一言で済ませてしまうのね貴方は」

「私は前世でも今世でも、知りたいことを知るために生きていますから」

 

 知識欲を何よりも優先するパンゲアの矜持は転生前から何も変わっていない。

 知りたいから調べる、そのための労力は惜しまない。

 それは"馬鹿は死ななきゃ直らない"という言葉を真っ向から否定する在り方だが、どこまでも強固に己を貫く強い意志はアリアレーネにとって面白いと思える生き方である。

 友人の変わらぬ有様に高慢なマフィア令嬢は真紅の瞳を楽しげに細めて上品に微笑んだ。

 

「――まぁいいわ。ここは土埃が酷いことだし、場所を変えて話を詰めましょう」

「あ、それなら何か奢って下さい。出来れば食べ歩きができる物が良いです」

 

 直後、パンゲアの女児の如き体躯から腹の虫が鳴きだした。

 胃の中身が空になったことで身体が栄養を求め、早く何か食わせろと大きな音を立てて騒ぎ立てている。

 

「そうね。ならカスラに何か買いに行かせましょう」

「は? 何で俺が――」

「ついでに都市の様子を見てきて頂戴。何か感じた(・・・・・)のでしょう?」

「――……わーたよ」

 

 話には入れず、闘いの決着も有耶無耶になったことで手持ち無沙汰になっていた眼帯男は唐突に上司から買い出しを命じられ異を唱える。

 しかし続いたアリアレーネの言葉で前言を翻した。

 戦闘中に感じた無数の視線。その中に混じっていた明確な殺意の正体を探ってこいという命令。

 種類の異なる視線は十中八九、魔法都市に複数の転生者が潜んでいる可能性の証である。その詳細を調べるためにカスラは単身、魔法都市マサドラへと乗り込むことになるのだった。

 

「鬼が出るか蛇が出るか――或いは暗殺者(アサシン)か」

 

 冷静になったカスラの頭によぎるのは覚えのある(・・・・・)殺意を放った者の正体。

 陰獣を就任するより依然、仕事(カチコミ)先で遭遇し、同じ標的を巡って戦闘にもつれ込んだ火傷顔の凶手の姿。

 

「あのときのリベンジをさせてもらうぜ、火傷野郎」

 

 かつて敗北を喫した暗殺者への思いを馳せて、カスラは戦意を滾らせた。

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