Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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序章①

「この程度の粛正程度で俺が出張る必要あったのか?」

 

 街が寝静まる深夜の時間、薄暗い屋内で黒髪の眼帯男は懐疑的な独り言を呟く。

 髪の隙間から見える相貌は右目を皮の眼帯で覆っていること以外は特徴に乏しい顔つきで、サラリーマンの様な黒のビジネススーツに身を包んでいることもあり本当に眼帯以外に特徴が無い。

 

 ――周囲に散らばる死体の山を創り出した張本人であることを無視すれば、だが。

 

 元は振興マフィアの本拠地であったその場所は見る影もなく破壊され、硝煙と血の匂いが漂う空間には発生源である銃火器と無惨な死体が転がり床に血溜まりを作っている。

 周りには壁や天井には無数の弾痕が刻まれており、この場所で荒事が起こったことは明白だった。

 その最たる異常は今まさに"見えない何か"に上下から挟まれ、宙に浮きながらゆっくりとプレス機に潰されるよう身体と拉げさせているマフィア男の存在である。

 敵対者を圧殺せしめんとする"見えない何か"――厳密には"常人には見えないもの"――は今も尚圧力を強め続けており、マフィア男の身体から垂れ流された鮮血が"見えない何か"を伝って床に円形の血溜まりを作っていた。

 

「――だ……助け゛ゲェっ」

「余所の縄張り(シマ)荒らしといて、んな言い訳通じるかよ」

 

 マフィア男が声も絶え絶えに命乞いをするも、眼帯男にその嘆願を聞いてやる義理はない。

 最後の言葉は言い切る前に左腕を前に翳し、五指に嵌められた指輪の一つに意識を向けて「潰せ」と念じる。

 次の瞬間、男を挟み込んでいた"見えない何か"――眼帯男の念能力である二枚の"オーラの盾"によって押し潰されて絶命した。

 

 ――念能力、それはこの世界に存在する超常の力。

 

 生物の身体から溢れ出す生命エネルギー『オーラ』を自在に使いこなす技術。

 常識では考えられない力を発揮するその技術は一般人には秘匿され、その一端でも習得できたものは天才や超人として世間から特別視されてしまう。

 管理者を名乗る存在によりこの世界で生まれ変わり、所謂転生をさせられて二十年。転生者である眼帯男にとって嘗ては未知の、今ではすっかり使い慣れてしまったものだった。

 戦闘の為に動き回ったせいか多少服が乱れていること以外は無傷であり、この程度は日常であるかのように平静で佇んでいるのが場違い感を醸し出している。

 前世では気配を探るなんてフィクションの中にしかなさそうな技術さえ、殺伐とした今生では職業病あるいは習性といえるほどに身体に染みついてしまった。

 眼帯男は発動していた自身の能力を解除してから念の四大行の応用技である『(エン)』――身体に纏うオーラの範囲を広げて周囲の気配を探り、屋内の敵を片付け終えたのを確認すると、ながら小さくため息を吐いた。

 

「たく、理由は聞いたが短期間に仕事詰め込みすぎたろ」

 

 先ほどまでの平静な様子と打って変わり、心底疲れた表情を浮かべながら眼帯男は愚痴を吐いた。

 今回の事件が調子に乗って余所の組のシマを荒らした振興マフィアへの見せしめ――所謂カチコミであり、その実行役として自分が派遣されたことが嫌でしかたなかった。

 これでも(ファミリー)の中では上位の立場にいるはずなのに、たった一人で「特攻してこい」と命じてきた(ファミリー)のボス――厳密にはその娘であり、ボスを傀儡にしてを裏から掌握している女からの命令なのだが――に対する不満は日々溜まる一方である。

 とりあえず仕事は自分の仕事は終わったと判断し、警察や犯罪(クライム)ハンターが現れる前に現場からずらかろうと考えたとき、スーツのポケットにしまっていた携帯電話が振動した。

 

「……」

 

 眼帯男は無言のまま手の中の携帯電話を見つめる。

 まるで見計らったようなタイミングの着信に、眼帯男は嫌な予感しかしなかった。

 このまま無視すれば電話先の相手が諦めたりしないかな、と内心無駄な抵抗と分りつつも一抹の希望を捨てられず10秒ほど放置してみるも、着信を知らせる振動は一向に収まらず「早く出ろ」と主張し続けている。

 これ以上の抵抗は事態が悪化するだけだと覚悟を決めて通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てた。

 

「はいもしも「遅わよカスラ」し――」

 

 耳に入ってきたのは音程の高い女性の声。

 それは眼帯男――カスラの予想通りの相手。

 現職の雇い主であり、多少の恩とそれを上回る厄介事を押しつけてくる存在、そしてこの世界で初めて出会った"魂の同郷"と呼べる自分以外の転生者からの連絡だった。 

 

「あー、お嬢? カチコミの最中に電話掛けられても出られるかわかんねぇから困るんだけど」

「貴方なら今回の仕事くらいとっくに終わっているはずよ。陰獣の一人になったせいで頭の中身まで獣並みに退化したのかしら?」

「んなわけあるか! 罵倒するために連絡してきたのかテメェは!?」

「あら、反抗的ね。まるで通話を無視しようとしたのを勢いで誤魔化そうとしてるみたい」

 

 付合いの長さ故にあっさりと着信無視の意図を看破されてしまった。

 カスラからお嬢と呼ばれた女――アリアレーネとの会話は気安いものだったが、これは本来なら有り得ないことである。

 同じマフィアに所属している二人の関係は変則的ながらも上司と部下であり、下の立場であるカスラは上の立場であるアリアレーネに対して舐めた態度を取った時点でケジメで済めば幸運、最悪は裏社会総出で抹殺されても可笑しくはないのだ。

 なにせアリアレーネの父親は十老頭(・・・)――この世界の裏社会を束ね、6大陸10地区を縄張りにしている大組織マフィアンコミュニティーの頭として君臨する10人の長達の1人なのだから。

 

「カスラ。そもそも貴方、わたくしが陰獣に推薦しなければ【指令(オーダー)】をクリア出来なかったでしょう?」

「ッ……」

 

 痛いところを突かれて眼帯男は思わず押し黙ってしまう。

 これまで転生者達には生まれ変わる直前に魂に突き立てられた物体――【クラスカード】を介して都合六回の【指令(オーダー)】が下されてきた。

 その指令は大半が理不尽、希に意味不明な内容で、【指令成功(オーダークリア)】させても報酬はないくせに【指令失敗(オーダーミス)】すれば容赦なくペナルティーを科されてしまう。

 かつて【指令失敗(オーダーミス)】の代償を身をもって体験し、"今生の両親"と"己の右目"を奪われた経験は眼帯男にとって忘れられない苦い記憶なのだ。 

 

「ぐうの音も出ないとは今の貴方の為にある言葉かしら」

「だぁーくそッ! すぐ通話に出なかったからってネチネチ言葉責めしてくるんじゃねえよ!」

「恩を忘れる駄亀にはこれくらいが丁度良いでしょう?」

「あーはいはい、俺がわるぅございましたっ!」

 

 不毛な口論を終わらせるための白旗宣言。

 カスラとアリアレーネはこの世界に転生を果たしてから十年来の付合いが続いているが、カスラ側が口で勝てたことは片手の指で数えられる程度の回数しかないのだ。

 さっさと本題に入るために強引にでも話の流れを変えることにした。

 

「それで、例のアレは手に入ったのか?」

「アレではなくグリードアイランドよ。発売日当日に手元に届くように手配したわ」

「……ふぅ。んじゃ、これで今回の【指令(オーダー)】は概ねクリアなのか?」

 

 色よい返事を聞けたことにカスラは安堵の表情を浮かべながら小さく息を吐いた。

 曰く、グリードアイランドのプレイには最低でも一週間の時間か掛るらしい。そのプレイ時間を確保するために今回の仕事も、その前の仕事も、その前の前……と途中から数えるのが面倒になるほど仕事を前倒しで済ませた甲斐が有ったというものだ。

 

「そう簡単にはいかないでしょうね。これまでの【指令(オーダー)】も大半が無理難題、今回のグリードアイランドだってそう」

「あー、確かプロハンター専用のゲームなんだったか?」

「正確には念能力者専用、が正しいわね。ハンターライセンスが必要ならわたくしも貴方もプレイ出来ないのだから」

「あん? お嬢、前にライセンス使ってなかったか?」

「買い取っただけよ」

「だけってお前……」

 

 ハンターライセンスとはハンター協会が試験の合格者に発行するプロハンターの証であり、各種交通機関・公共機関のほとんどを無料で利用できたり、一般人立ち入り禁止区域の8割以上に立ち入りを許されるようになる等、多大な付加価値によって売り払えば七代は遊んで暮らせる(・・・・・・・・・・・・・・・)とも言われる代物である。

 そんな値段の品をアリアレーネは日常の買い物程度の感覚で「買った」と言い放ち、カスラはあまりの金銭感覚の違いに目眩を感じてしまう。

 

「お嬢の固有技能、毎度思うが反則過ぎんだろ。特技が『黄金律(金持ち)』とか意味分んねえぞ」

「貴方の『毒耐性』だって大概じゃない。0.1mgでクジラが動けなくなる猛毒を食事に盛られてピンピンしているなんて、人としてどうかしているのではなくて?」

「毒盛られてるの知ってて食わせたテメェにだけは言われたくねぇよッ!?」

 

 転生者達が所持するクラスカードには所有者の磨き上げてきた"特記に値する"特技・体質が固有技能という形で記載されている。

 カスラの場合、幼少期の劣悪な食生活や敵対者が使用してきた毒攻撃、そしてアリアレーネの護衛者として毒味をした際に盛られた数々の毒物に悶え苦しみ、時には生死の境を彷徨いながらも生き残ってきた結果、『毒耐性』の固有技能を獲得するに至ったのだ。

 

「カスラのせいで話が脱線してしまったわね」

「俺のせいかよ」

「とにかく一度帰ってらっしゃい。聖杯戦争について打ち合わせをするわよ」

「へいへい」

 

 通話が途切れ、カスラは携帯電話を懐にしまう。

 本来ならマフィアの抗争現場などさっさと離れるべきなのだが、上司からの電話対応で随分と足止めをくらってしまった。

 帰還命令も受けたことだし、帰りが遅れてアリアレーネに機嫌を損ねられても面倒なのでさっさと現場を去ろうと動き出した。

 血溜まりを避けるために外への出入り口の前まで跳躍――それも常人では助走をつけても不可能な飛距離を一足飛びで移動し、突入のときに蹴破って破壊した扉を通って早足気味に歩き出した。

 

 

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