Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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序章②

「なんだかんだ、あっという間に二十年過ぎちまったな」

 

 敵対マフィアからのカチコミから無事に生還したカスラは、夜の街を歩きながらなんとなく今生の人生を振り返ってみた。

 管理者と名乗る謎の存在によってこの世界――アリアレーネ曰く、『HUNTER × HUNTER』という漫画に類似した世界らしい――に堕とされて、前世では中小企業のサラリーマンでしかなかった自分が今や立派な悪党、それも裏社会を牛耳る十老頭がそれぞれの組織から選抜した武闘派10人で構成される実行部隊『陰獣』の一人である。

 それもこれも管理者から下された【指令(オーダー)】の一つである「陰獣を倒せ」という無茶振りのせいなのだが、失敗すれば命は無かったためカスラは死に物狂いで格上殺し(ジャイアントキリング)を成し遂げた結果、十老頭の一人であるアリアレーネの父親からの推挙で新たな陰獣『六亀(りくがめ)』に任命されてしまったのだ。

 カスラにとって陰獣の就任など身に余る有り難迷惑でしかないが、推挙の裏には父親(組織のボス)を骨抜きにしている(アリアレーレ)の意向も絡んでいると推測している。

 

(お嬢は色々と知っていやがるからな)

 

 アリアレーネと出会ってから数年後、唐突に「わたくしたちの状況はサブカルチャーを模倣した状況下にあるの」と聞かされたときには耳を疑った。

 曰く、オーラや念能力は『HUNTER × HUNTER』という漫画の、聖杯戦争とクラスカードは『Fateシリーズ』なるゲームの用語であるらしい。

 どちらの作品も前世ではかなりの知名度を誇っていたらしいが生憎と前世のカスラは仕事に忙殺される毎日でサブカルチャーには疎く、自分たちが臨むことになる聖杯戦争の知識はもっぱらアリアレーネ頼みになってしまうのが歯痒かった。

 

「――……【召喚(コール)】」

  

 カスラの呼び掛けに応じて虚空からカード状の物体――【クラスカード】が出現する。

 それを手に取り、記載されている情報に改めて目を通した。

 

 □

 

配役:シールダー

系統:放出

練度:秀

筋力:C

耐久:C

敏捷:C

顕現:A

潜在:D

幸運:E

 

固有技能:

『毒耐性』

 

念能力 

『盾の指揮者』

『集う指輪』

 

受注【指令】「グリードアイランドに入島し、聖杯戦争を開始せよ」

 

 □

 

 最初に管理者から渡された際の裏面にモノクロの盾兵だけが描かれているだけだったカード。

 それが今は黄金色を基調にして盾兵の絵柄が彩られており、白紙だった表面にも様々な情報が記されるようになっていた。

 このクラスカードに色が付く現象が"覚醒"とやらなのだろう。

 カスラが己のカードの変化に気づいたのは六つ目の【指令(オーダー)】のせいで先代の陰獣との戦い、辛くも勝利を収めた後だった。

 それ以前の【指令(オーダー)】も、管理者の言っていた「逸話を積み上げる」という条件を満たすためのものだったのだろう。

 思い返してみれば、【指令(オーダー)】の内容はカスラの配役(クラス)『シールダー』に沿うような誰かを守り(・・・・・)戦いに身を置く(・・・・・・・)――といった方向性に偏っていた気がするのだ。

 

(けど、全部守れたわけじゃねぇ)

 

 一つ目の【指令(オーダー)】であった「旅行先で両親を守れ」を達成できなかった記憶が頭をよぎり、無意識に顔をしかめる。

 十二年前、家族旅行でヨルビアン大陸西海岸にあるヨークシンシティに立ち寄った際に犯罪組織が取り仕切る闇オークションのいざこざに巻き込まれてしまい、父親は妻子を逃がすために自ら囮となって拳銃で射殺され、母親は息子(カスラ)を守ろうと我が身を盾にして命を落とした。

 両親を守るどころか逆に両親から守られるだけで何も成すことができす、前世を自覚しているせいで歳不相応な態度で周囲から不気味がられていた自分に真っ当な愛情を注いでくれた父母の死を思考が受け入れられず心が壊れた様に錯乱することしか出来なかった。

 そのうえ偶然か、或いは【指令失敗(オーダーミス)】のペナルティーだったのか、銃撃戦に紛れ込んでいた念能力者の放った念弾――オーラの弾を飛ばす放出系の初歩的な技がカスラを庇い抱きしめる様に守って居た母親の亡骸を貫通してカスラの右目に直撃したのだ。

 

(あの時は二重の意味で死にかけたな……)

 

 オーラを自覚できていない非能力者に対して念能力者がオーラを用いた攻撃を行った場合、希に精孔――オーラを体外へ溢れ出させる穴を無理やり開いてしまうことがある。

 本来、非能力者の精孔は閉じていて微弱なオーラを垂れ流しにしている状態であり、オーラが拡散しないようを留める為には念の四大行の一つである『(テン)』を習得しなければならない。

 オーラの源は生命エネルギーであるため、開かれた精孔からオーラを体外に出し尽くしてしまえば良くて気絶、最悪は衰弱死も有り得る。

 念能力について何の事前知識もなかったカスラが気絶で済んだのはただの偶然でしかなかった。

 過去の失敗を思い出したことで思考がネガティブな方向へ進んでいることを自覚し、意識を切り替えるために自販機で飲み物でも買って一服しようと考えた――その瞬間、

 

 ――カスラの背後からオーラが込められた拳が振り抜かれた。

 

「――ッ!!」

 

 何の前触れもなく仕掛けられた攻撃にカスラは反射的に対応する。

 間合いが近すぎて『盾』の展開が間に合わないと経験則から判断し、身を捩って回避を選択。

 そのまま避けた勢いで身体を回転させて、襲撃者を粉砕せんと身体に纏っていたオーラを右拳に集中――四大行の応用技である『(ギョウ)』を用いて、常人ならば反応すらできない早さの裏拳をお見舞いする。

 顕現オーラに優れたカスラの一撃は、並みの念能力者なら防御の上からでもダメージを負う威力を秘めている。

 繰り出された反撃は吸い込まれるように襲撃者の側頭部に直撃し、頭蓋を粉砕た手応えが拳に伝わってくる。

 

「潰れろ――ッ!」

 

 それでもカスラは手を緩めない。

 右手に集めていたオーラを今度は左手に集中。オーラの攻防力移動に淀みは無く、陰獣として培ってきた経験が如実に表れている。

 オーラの集まった左拳を襲撃者の胴体に向ける。さながら砲門の如く照準を合わせ、己が念能力『盾の指揮者(センターガード)』を発動した。

 左の五指に嵌められた指輪の一つから円い盾状に圧縮・形状変化されたオーラが放出され、路面を抉りながら直進して襲撃者に叩き込まれた。

 爆発に等しい激突音が響く。

 大型トラックの衝突事故を遙かに超える域の衝撃、常人ならば撥ね飛ばさるどころか身体が四散しかねない盾撃(シールドバッシュ)を叩き込まれ、襲撃者は土煙を上げながら幾度も路面をバウンドし、向かいの民家の壁に激突することでようやく沈黙した。

 誰がどう見ても明らかな過剰攻撃(オーバーキル)であり、頭部粉砕の時点で致命傷、オーラの盾による殴打はもはや轢殺と言える惨状だった。

 ――しかし、

 

「アハ、アハハ、ハハハハハッ!」

 

 砂煙の中から楽しげな声が聞こえてくる。

 夜風によって煙が晴れると、そこには無傷の襲撃者が立っていた(・・・・・・・・・・・・)

 粉砕された筈の中性的な相貌にも、男性としては小柄な体躯にも負傷の後が見受けられない。

 しいて言えば、ピエロのような奇抜な服装と虹色にグラデーションしたお下げ髪が土埃で汚れているくらいだろうか。

 

「カスラ、久しぶりだね! 元気にしてた~?」

「やっぱ死なねぇのかよ、ゾンビ野郎」

「あ、ゾンビなんて酷~い。ちゃんとザクロって呼んでよ~」

「ウザぇ……」

「も~、相変わらずカスラは口が悪いよね。転生者同士仲良くしようよ~」

 

 虹色髪のピエロ――ザクロは、直前までのやり取りを忘れ去ったかのように陽気な口調でカスラに話しかけながらゆっくりと歩き出した。

 邪険に扱われていることなど気にも止めず、遊び相手を見つけた幼子の様に、或いは飼い主に構ってもらえてた小型犬のように、虹色のお下げ髪を尻尾の如く揺らしながら、純粋な笑みを浮かべて距離を詰めていく。

 ザクロの喜色満面の表情からはまるで戦意を感じ取れないが、決して気を抜くわけにはいかない。

 雇い主(アリアレーネ)の次に付合いの長いこの転生者(ザクロ)には出会うたびに似たような襲撃を仕掛けてられてきたのだから。

 カスラは『盾の指揮者(センターガード)』で放出した盾を解除せず、直ぐにでも追加の『盾』を展開できるよう左手の指輪を翳しながら隻眼で相手を睨み付ける。

 

「俺はテメェに構ってる暇なんかねぇんだよ」

「うん、知ってるよ。もうすぐ聖杯戦争が始まるもんね!」

「……テメェにも【指令(オーダー)】が下ってんのか」

「そうだよ! て言うか~、今回のは参加者全員に同じ内容なんじゃないかな?」

 

 ザクロは唐突に【召喚(コール)】と唱え、【クラスカード】を出現させた。

 その裏面に描かれているのはトランプのジョーカーを思わせるピエロの絵柄――まるでザクロの服装そのままである。

 手に取った【クラスカード】をくるりと指先で反転させて、他者に見せるべきではない(・・・・・・・・・・・・)表面を見せつけてきた。 

 

 □

 

配役:アルターエゴ

系統:具現化

練度:優

筋力:D

耐久:D

敏捷:D

顕現:D

潜在:A

幸運:C

 

固有技能:

『専科百般』

 

念能力 

名称:???

 

受注【指令】「グリードアイランドに入島し、聖杯戦争を開始せよ」

 

 □

 

「テメェ、一体何を考えてやがる」

「ふぇ? 何が?」

「とぼけんじゃねぇ」

 

 開示された情報にはカスラに下された【指令(オーダー)】と同一のものが記載されていた。

 元々管理者から儀式の開始は二十年後と明言されていたのだから、参加者に儀式の日付と開催場所が通達されるのは納得がいく。

 実際、カスラとアリアレーネにも同日に同じ【指令(オーダー)】を下されたことを確認し合っている。

 故に問題はそこではない。

 転生者は【クラスカード】の記載を偽れない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 おそらく無敵型の念能力に近い性質なのだろう。特定の条件を満たしてしまえば、それが物理的な手段でだろうが念能力を使った手段だろうが一切の攻撃を受け付けなくなってしまう。

 【クラスカード】には転生者からの偽証と破壊を受け付けず、非転生者には触れることも視認することも出来ない性質が備わっているのだ。

 だからこそ、いずれ殺し合うことが分っている相手に自身のステータスが記載されている表面を見せるのは自らを不利に追い込む所業に他ならない。

 

「ん~ザクロはカスラ達と仲良くしたいだけだよ?」

「じゃあさっきの攻撃は何だよ」

「……じゃれ合い?」

「馬鹿かテメェ」

「あ~、カスラが馬鹿って言ったー!?」

 

 心外とばかりにザクロは指を突きつけながらショックを受けた表情を浮かべる。

 喜怒哀楽の激しさは道化の服装に似つかわしいのだろうが、リアクションが一々大仰過ぎて非常に胡散臭い。

 カスラの隻眼から警戒と呆れの視線を向けられながら、なおも手足を振り回して虹色道化は抗議を続けるも、遠くから聞こえてきたパトカーのサイレンを耳にしてピタリと動きを止めた。

 

「ざ~んねん。今日はここまでだね」

 

 サイレンの聞こえてきた方角に一瞬だけ目を向けた後、残念という言葉通りに哀しげな顔を浮かべ、やれやれと頭を振る。

 二人の転生者の小競り合い――ザクロ曰く、じゃれ合いはカスラがカチコミを行った現場からさほど距離が離れていない。

 現地の警察機構が包囲網を引いている近場で騒ぎを起こせば直ぐに察知されてしまうのは必然だった。

 

「ザクロはさ、カスラのこと心配してたんだよ? 【クラスカード】の【覚醒】もすっごく遅くて、聖杯戦争に間に合わないんじゃないかなって」

「余計なお世話だ」

 

 実際の所、カスラ自身も"覚醒"に至ったのはタイムリミットである二十才間近であったため、聖杯戦争のスタート地点にすら立てずに敗退するのではないかと当時はかなり焦っていたのだ。

 身近に居たもう一人の転生者(アリアレーネ)はカスラよりも五年も早く【クラスカード】の"覚醒"を果たしていたことも焦りを助長する要因になっていた。

 

「そもそも、何でテメェがそんなことを知っていやがる」

「でも良いんだ。こうして最後の配役(クラス)が埋まって、みんな揃って聖杯戦争が始められるんだから!」

「無視か」

 

 会話になっていない応酬を続けながら、虹色道化はお遊戯を披露する幼子の様にクルクルと回りながら笑みを深めて、待ち望んだ瞬間が近づいていくことに喜悦を漏らす。

 

「ずっと、ずっと、ず~と待ってた! みんなで楽しむ最後のお祭り! 十五人の同胞達が共演する夢の舞台! 脱落するのは誰なのか? 聖杯を手にするのは誰なのか? その結末は悲劇か喜劇か、今から楽しみでしかないよ!」

 

 クルクルと、クルクルと、虹色道化の一人芝居は調子を上げながら狂ったように唄い上げる。

 

「……」

「だからカスラも、そんな仏頂面してな「黙れ」ブベ――」

 

 なおも一人芝居を続けようとしていたザクロに対し、カスラは盾撃(シールドバッシュ)による強制中断させた。

 心底どうでも良い口上を無視しながら新たに展開した盾を『(イン)』――オーラを見えにくくする応用技を用いてひっそりと相手の背後に移動させて退路を塞ぎ、会話の最中も維持し続けていた盾を再度射出して前後からの挟撃を実行する。

 背後に吹きとんだ先ほどとは異なり、衝撃の逃げ場の無い圧殺攻撃は虹色道化の身体をグシャリと拉げさせ、プレス機に挟まれた人体のように無惨で悪趣味な血肉の押し花と化した。

 

「聞こえてるかは知らねぇが、どうせ復活するんだろうか言っとくぞ。俺は負けてやる気なんかねぇし、管理者の思い通りにもさせねぇ」

 

 能力を解除し、圧殺の拘束から解かれ、路面に倒れ伏した血と骨と臓物が飛び出たザクロの身体を見下ろしながら無表情に、されど深い怒りを隻眼に宿しながら宣言する。

 十二年前、【指令失敗(オーダーミス)】のペナルティーという形で今生の両親を奪った管理者へ憎悪は今なおカスラの心に消えることのない暗い炎を灯しており、その復讐者(アヴェンジャー)配役(クラス)と見まがう程の熱量を原動力として、聖杯戦争へ挑むつもりなのだ。

 

「――……ふぅ。余計な時間取らせやがって」

 

 カスラは膨れ上がった怒りを静めるように息を吐き、本格的に近づいてきた警察から逃れるために夜の街に消えていった。

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