Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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哀れな先達

 中天に上る太陽から降り注ぐ日差しに照らされた広々とした草原。

 柔らかなそよ風が吹く長閑な景色の中にぽつんと佇む風変わりな建物が一軒。

 一階部分が柱のみとなっている所謂"ピロティ方式"と呼ばれる建物の支柱に、一人の眼帯男が寄りかかって気の抜けた表情で眼前の風景を眺めながら佇んでいた。

 いつも通りの黒いビジネススーツを身に付けた姿は牧歌的とも表せるような風景には場違い甚だしく、端的に言って浮いていた。

 

 「ここがゲームの中ねぇ……作った奴ら暇人か?」

 

 眼帯男ことカスラは失礼なことを口走りながら、その内心ではゲームの制作者に対する複雑な感情を抱いていた。

 よくもまぁ、こんな手の込んだ箱庭を作り上げたものだと賞賛しつつも、その熱意をもっと生きるために必要な事柄に向けられなかったのかという呆れ、そして自分たちがこれから行うことのでゲームが台無しになってしまうのだろうという一欠片の罪悪感。

 非道な裏社会――それも巨大マフィアの組員だろと、堅気の住人に配慮する程度の仁義は持ち合わせている。

 もっとも、ゲームオーバーが現実の死とイコールであるグリードアイランド(頭のイカレたゲーム)のプレイヤー達を堅気扱いするべきかは意見の分かれる所だろうが。

 

「にしても、こいつはちょいと拍子抜けだな」

 

 グリードアイランドの発売からは三日――七十四時間もの時間が経っている。

 今回下された【指令(オーダー)】も毎度の如く期限が不明なため、いつ唐突な期限切れを言い渡されて【指令失敗(オーダーミス)】になってしまうか分ったものではない。

 ゆえに突発的な【指令失敗(オーダーミス)】を避けるためにも大半の転生者達は早期の入島を済ませているものだと予想していたのだ。

 聖杯戦争が殺し合いを前提とした儀式である以上、出遅れたカスラ達は先にゲームプレイを開始している転生者から罠なり奇襲なり狙撃なり、何かしらを仕掛けられる可能性を想定していたのだが――何も来ない。

 既に戦地である故に完全に油断しているわけではないが、建物の中でゲームの説明を聞いているアリアレーネが外に出てくるまでカスラは暇を持て余していた。

 

「暇そうね、カスラ」

「あん? ようやく来やがったか」

 

 頭上から話しかけてきた声にカスラが目線を向けると、支柱に備えられた螺旋階段をアリアレーネが優雅な足取りで降りてくる。

 

「鈍間な駄亀でも、"待て"の命令くらいは熟せるようね」

「何でお嬢はそう上から目線なんだよ……」

「何故って、わたくしは貴方の飼い主(上司)なのだから当然でしょう」

「――おい。なんか今、含みのある言い方しなかったか?」

 

 (ファミリー)内の序列を持ち出されてしまえばカスラに反論の余地はないのだが、セリフの中に不穏な気配が隠れているようで素直に納得できない。

 隻眼に猜疑心を込めて睨んでみるも、アリアレーネは小さく微笑むだけで答えを返すことは無く、そのままゆったりと螺旋階段を降り続けてカスラの横に並ぶ位置で立ち止まった。

 アリアレーネの履く厚底ブーツによって多少はましになっているものの、カスラの顎先にようやく頭が届くかどうかという身長差は大人と子供に見えてしまうことだろう。

 ゴシックドレスを着こなし、草原を抜けるそよ風に絹のような純白のツインテールを靡かせるその姿は小柄で可憐な容姿も相まって、さながら観光名所の景色を楽しむお嬢様そのものである。

 一人で待っていた時は景観から浮いていたモブ顔の眼帯男(カスラ)も、見目麗しい美少女(アリアレーネ)が隣に立つだけで"貴人のボディーガード"に見えてくるのだから、世の中は不公平である。

  

「そんなことより。貴方、随分と外に出るのが早かったわね。ちゃんとナビゲーターの説明は聞いたのかしら?」

「いや、まったく」

「……呆れた。愚か者とは貴方のためにある言葉ね」

 

 カスラがゲーム説明をすっ飛ばしたことを告げると、アリアレーネは真紅の瞳をジト目にしながら冷たい視線で批難した。

 グリードアイランドをプレイした直後、二人は見知らぬ屋内に転移させられていた。

 事前に知識のあったアリアレーネにはそこがゲーム開始直後の待合室であり、隣の部屋でナビゲーターの少女からゲームに関する説明があること、説明は一人ずつしか受けることが出来ないことを知っており、カスラを先に行かせて外の警戒に当たらせていたのだ。

 しかしカスラが隣室に入って直ぐにアリアレーネの番が回ってきたため、もしやと思い確認をすれば案の定である。

 カスラからすれば、自分たちは聖杯戦争をしにきたのに何故ゲームの説明を一々聞かねばならない理由の方が分らないのだが。

 

「カスラ、よく聞きなさい。グリードアイランドにはわたくしたちにも危け――あら」

「ん? て、何だありゃ?」

 

 アリアレーネがグリードアイランドにおける最低限の危険事項を伝えようとしたそのとき、マフィアの二人は何かが迫ってくる気配(・・・・・・・・・・)を感じた。

 気配のもとに視線を向けると、遠方の上空からオーラの輝きに包まれた謎の飛行物体が飛来してくるのが見える。

 

「移動系の能力者か?」

「いいえ、あれは呪文(スペル)カードね――"ブック"」

「なんだか知らんが、とりあえずお嬢は下がっとけ」

 

 謎の飛行物体はカスラ達から二十メートル程離れた地点に落下、いや着地(・・)した。

 アリアレーネが呪文(スペル)カードと言っていたがカスラはそのことを一旦思考の隅に追いやり、意識を戦闘へと切り替える。

 現れたのはヘッドホンを被りオレンジ色のタンクトップを身につけた男。

 ヘッドホン男の傍には開かれた状態の分厚い本が浮遊しており、何かしらの念能力なのだろうか? 

 かなりの勢いで地面に当たったように見えたが、激突音がしないどころか着地地点には何の跡も存在しない。

 そのことからカスラは相手を飛行型移動系能力と仮定し、アリアレーネのカバーに入れるポジションを意識しながら左手の指輪をヘッドホン男へ翳した。

 

「……テメェ、何者だ」

「キシシシ、さぁて、何者だろうね~ルーキーくぅん」

 

 ヘッドホン男は軽薄な笑みを浮かべながらカスラを初心者(ルーキー)と断定し、神経を逆撫でするような口調で話しかけてくる。

 次いで浮遊する本に向けて何かをセットし、携帯電話を弄るように指を動かすと――

 

「あれ? 小さくて見えなかったけど後ろにも――ッ!!?」

「馬鹿かテメェ」

 

 ヘッドホン男の言葉は最後まで続かなかった。

 本に意識を向けた直後、最短距離を一直線に駆け抜けたカスラによって二十メートルの間合いを瞬く間に潰され、鉄槌の如き拳により痛烈な肝臓打ち(レバーブロー)を突き刺され、悶絶しながら蹲った。

 

「ご、ぉ……ァ」

「おら立てよ。情報源が自分から飛んできたんだ、色々ゲロってもらうぞ」

 

 ヘッドホン男の敗因は二つ。

 一つはグリードアイランドの定石、『相手が"(バインダー)"を出したら自分も直ぐに"(バインダー)"を出す』という行為に慣れすぎていたこと。

 "(バインダー)"とはグリードアイランドのプレイヤーなら誰でも使えるゲーム内の基本の魔法の一つであり、ゲームに慣れてきた者にとって"(バインダー)"に"(バインダー)"で対抗するのは常套手段である。

 序盤で躓く者の多い中、呪文(スペル)カードを購入できる魔法都市マサドラまでゲーム開始三日目で辿り着けたヘッドホン男はそこそこの実力者なのだ。

 もう一つは、彼我の意識の違い。

 ヘッドホン男がゲームをプレイしに来ている(・・・・・・・・・・・・・)のに対し、カスラは聖杯戦争をしにきている(・・・・・・・・・・・)のである。

 端的に言って、相手が悪かった。

 

 

 

 こうしてマフィア二人によるグリードアイランドの最序盤は、聖杯戦争に関係のない哀れな先達プレイヤーに対する尋問から始まったのだった。

 

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