Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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追われる弓兵、追う獣

「ザクロの阿呆ーーっ!! なんちゅうもん押しつけてくれたんやっ!?」

 

 賭博都市ドリアスの南部に広がる森林跡地。

 つい先日まで鬱蒼と茂る森だった(・・・)エリアを金髪長身の男が一人、絶叫気味に叫びながらひたすらに疾走していた。

 普段は糸目に細められている目元はあまりの窮地ゆえか開き気味になっており、額には疲労か、焦りか、或いは恐怖心からなのか、大量の汗が流れており、バンドマン染みたパンクファッションも汗でぐしょ濡れとなり身体に張り付いてしまっている。

 

("交信(コンタクト)"で呼びつけてきたかと思えば、なんやねんあの化け物(・・・)はッ!?)

 

 しかしパンク男がそんなことは気にする余裕は欠片もなく、人の身で発揮できる限界域の速力をもって背後から迫る敵対者(・・・・・・・・・)を振り切ろうとまだ木々が残る方へ向けて全霊を振り絞って走り続けている。

 森の中には不釣り合いなギターケースを担いだ格好でありながら疾走する姿に淀みはなく、密林に住まう猛獣のように、あるいは森の木々の間を吹き抜ける風のように障害物をすり抜け奥へ奥へと逃げ込んでいく。

 その速度は圧巻の一言であり、仮にこの光景を見ている第三者がいたのなら、常人ではパンク男の姿を一瞬で見失い、超人的な動体視力を持っていたとしてもパンク男の額から滴る汗が地に落ちる頃には豆粒以下の大きさにしか見えない距離まで離脱されていることだろう。

 

 ――では、それほどの速力を持ってしても振り切れない相手とは何なのだろうか?

 

 それは狼ではなく、牛でもなく、河馬(カバ)でもない、されどそれらが混ざり合い、ひらすら巨大化を果たしたような出鱈目な外見をした巨獣だった。

 全長二百メートル近い体躯(・・・・・・・・・・・・)を超常の速度で駆動させ、パンク男を森諸共押し潰してやるとばかりに進撃していた。 

 

「■■■、■■■■■■■■―――!」

「くっそ、もう追いついッ――!?」

 

 背後からの人語とは程遠い巨獣の咆吼。

 パンク男は強烈な悪寒を感じ、体制を崩してでも無理矢理に横へと飛び退く。無茶な機動の代償として足に無視できない負担を強いたが、背に腹は代えられない。

 直後、先ほどまで居た場所に五百発の砲弾――否、樹木そのもの(・・・・・・)が撃ち込まれた。

 怪物の顎から放たれた樹木の砲弾は機関砲の連射力と質量ゆえの破壊力を兼ね備え、オーラは込められていないものの一発一発がバスターバンカーの如く大地を抉り、粉砕しながら破壊を振りまいていく。

 災害に等しい暴力の具現を前に、逃れる場所など存在しない。

 仮に初弾を回避できたとしても怪物の駆動は未だに終わっていないのだ。足を止めれば待っているのは轢殺の未来。

 ゆえに、パンク男の命運はここで潰えたかと思われたが、見開いた糸目に諦めの色はない。

 背負っていたギターケースの中から慣れた動作で弓を取りだし、刹那の早業で矢を番える。

 

「死ん、で、たまるかァァッ!!」

 

 電光石火、強弓掃射――超高速で放たれるオーラを込めた矢の連射が、五百発の飽和攻撃を撃ち落としていく。

 狩人として鍛え抜かれた観察眼で直撃する樹木のみを見抜き、的確に撃墜することで後続の砲弾の射線を塞いで見事に死線の中に生存の隙間を確保してみせた。

 されど撃墜比(キルレシオ)は怪物側に軍配が上がり、パンク男は飛来する樹木を一本を撃墜するのにおよそ三~五本の矢を消費する羽目になってしまい、僅かな猶予と引き換えに矢玉の大半を使い果たしてしまう。

 これは両者の攻撃の質の違いで有り、大質量の面攻撃(樹木砲弾)に対して対人武器である点攻撃(弓矢)で対抗したのだから当然の帰結といえるだろう。

 

(けど、十分やッ!!)

 

 互いの攻撃によって起きた砲撃と射撃の変則的な銃弾撃ちの玉突き事故(ビリヤード)を数瞬の内に突き破り、怪物の突撃がパンク男へと迫る。

 処刑器具を彷彿とさせる乱杭歯の生えた顎が開かれ、得物を飲み込もうとした瞬間――

 

「――『人狼殺しの呪弾(ウルブスベイン)』」

 

 パンク男が静かに呟き、己が切り札を開帳した。

 弓を手放し、腰元の拳銃嚢(ホルスター)からリボルバー式拳銃を抜き取り発砲。

 迫る死の暴威に晒されたことで平時よりも研ぎ澄まされた集中力、それによって成された驚異の早撃ち(クイックドロウ)が後手から先手を追い抜く不条理を実現させる。

 パンク男の使用した『(ハツ)』――『人狼殺しの呪弾(ウルブスベイン)』の効果である『自分が触れたものにオーラを付与し蓄積する能力』によって弾丸に蓄積されたオーラはおよそ一年分。

 一度に込められるオーラ量は念能力者としては中堅止まりであったとしても、費やした年月は裏切らない。まして能力の対象としたのが思い入れのある品――滅びた故郷の遺産(・・・・・・・・)を使い捨てる覚悟が伴うとなれば尚更である。

 念能力とは思い念ずることで行使する力、それがどのような方向性であれ思いは『念』の強さに直結するのだから。

 

 そして、結末は劇的であった。

 

 その弾丸が乱杭歯の一本に着弾した瞬間、先ほどまでの矢玉とは比較にならない桁違いのオーラが炸裂して怪物の頭部を吹き飛ばす。

 小さな銃弾によってもたらされた破壊は射撃の域を超越し、炸裂という方向性が与えられていたこともあってミサイルによる爆発(対城宝具)に等しい規模で顕現した。

 牙に角、目玉に頭蓋、そして脳漿。口内で引き起こされた大破壊により巨獣の頭部を構成していた部品(パーツ)が吹き飛び散らばっていく。

 パンク男自身も、あまりにも近距離で『人狼殺しの呪弾(ウルブスベイン)』を使ってしまったため、

瞬間的なオーラの大規模放出によって大気の鳴動が伴う爆風に吹き飛ばされてしまい巨獣の咆吼により荒らされた地面を転げ回ることとなった。

 それでも直前まで玉突き事故(ビリヤード)の流れ弾から的を小さくして身を守るべく屈んだ姿勢で弓を射っていたこと、何より己の能力で起きるであろう事態を予想していたためキッチリ受け身を取った上に手放した弓まで回収してのける強かさは狩人としての面目躍如だろう。

 

「――……痛ぅ~、めっちゃ痛いんやけど」

 

 地面を転がる勢いが弱まった瞬間にパンク男は回転受け身の要領で立ち上がり、己が戦果を確認するべく周囲を見渡した。

 『人狼殺しの呪弾(ウルブスベイン)』の余波で巻き上げられた土煙で視界は悪いが、確実に頭部を破壊した手応えはある。

 だと言うのに、狩人として培われた感覚が警戒を解いてはならない(・・・・・・・・・・・)と警鐘を鳴らしているのだ。

 死の危機を凌いだことで僅かに緩んだ意識を引き締め直し、どんな些細な変化も見逃すまいと目に『(ギョウ)』を行いながら薄れてきた土煙を注意深く観察する。

 そして――

 

「嘘……やろ……」

 

 巨獣は生存していた。

 受け入れがたい現実にパンク男の口から無意識の呟きが漏れる。

 切り札たる『人狼殺しの呪弾(ウルブスベイン)』の弾丸を直撃させて粉々に吹き飛ばしたはずの頭部は健在であり、先ほどまで自身が居た場所を大口の顎で地面ごと食い抉る姿はまるで質の悪い白昼夢のようで、夢なら早く覚めてくれと願わずにはいられない。

 

「■■、■■■■■■■■―――」

「――まさか、再生したんか? あの短時間で? 冗談やないぞ……」

 

 巨獣がゆっくりとパンク男に向き直る。その動作は緩慢に見えて、巨体ゆえにただ旋回するだけでも身体の末端が風切り音を鳴らす速度となって周囲の物体を薙ぎ倒してしまう。

 速度では振り切れず、弓矢では相手が巨体すぎて焼け石に水。そして切り札でも仕留めきれないとなれば、選べる手段は呪文(スペル)カードを使用した戦線離脱のみ。

 パンク男は"ブック"と唱えて"(バインダー)"を呼び出すのと、巨獣が小さな獲物を見下ろす視線が交錯するのは同時だった。

 

(あかん!! 間に合わん――!?)

 

 轢殺狙いの疾走か、圧殺狙いの咆吼か、どちらにしろパンク男が呪文(スペル)カードを使うより早く、巨獣の暴威は再開されるだろう。

 あまりの絶望にパンク男は表情が引きつり、死の間際に長い走馬灯を見るような時間感覚が引き延ばされるのを自覚する。

 巨獣が動く、その瞬間――

 

「あ、トリーカ~、そこにいると危ないよ~!」

「死ね、死ね死ね死ねェ!」

 

 横合いから繰り出された拳の一撃で巨獣の片前足が吹き飛んだ(・・・・・・・・・・・・)

 

「――……は?」

 

 突如現れた虹色道化と半裸の偉丈夫の乱入に、パンク男――トリーカ=ブートは本日何度目かも忘れてしまった驚愕に思考が止まり、引きつった顔のまま思考停止した。

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