Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

8 / 19
乱入者達の奮闘

「■■■■■■■■■――!」

「ォォォォオオオオオッ!!」

 

 唸りを上げる半裸偉丈夫の豪腕から繰り出される拳が、巨獣の足爪と激突して弾き合う。

 両者の間には圧倒的な質量差がありながらも互いの攻撃が拮抗している。それは偉丈夫の極まった筋力と耐久を加味しても異常事態なのだろうが、事実として巨獣の攻撃を何十何百と真っ向勝負(・・・・・)で迎え撃ち続けているのだ。

 それを成しているのは(ひとえ)に偉丈夫の立ち回りの巧みさだろう。

 体系だった武術を学んだことはないのであろう。我流の色が多分に見て取れる雑味の多い荒々しい動きではあるものの、その体捌きは力強く、雄々しく、勇壮だった。

 

「■■■■■、■■■■■■、■■―――!!」

「疾く死ね! 死に絶えろッ!! 聖杯に注ぐ贄となれェエエ!!」

 

 巨獣の二十メートル近い前足を振るって行われる災害の如き暴威に対して、足捌きによって絶妙に間合いをずらし攻撃の芯を外すことで威力を減じさせている。その上で激突する瞬間に己の拳へと卓越した『(リュウ)』――オーラの量を振り分ける応用技を用いて大質量を打ち払う。

 拳に集めるオーラが少なすぎれば威力で負けて耐久の極まった鋼の肉体であろうと藁のように引き裂かれ、逆に多すぎれば他の肉体部位、特に荒れに荒れた足場で踏ん張るための脚力が足りなくなって弾き飛ばされてしまう。

 命の掛った瀬戸際で寸分の狂いも許されないオーラ運用を熟しながら、常識外れの巨獣を相手に立ち向かうその姿はまるでおとぎ話の英雄のようだった。

 

 だが足りない(・・・・・・)

 

 偉丈夫が大砲の如き拳打を打ち込もうともそれは守りの行動(・・・・・)に過ぎず、辛うじて相殺に持ち込めてはいても射程(リーチ)の差は埋めがたい。

 初撃の不意討ちで巨獣の片足を吹き飛ばしてみせた一撃を再び繰り出す様子を見せないのは、オーラを練り上げる時間が足りないのか、あるいは何らかの誓約により今は使用できないのか――どちらにしろ、偉丈夫一人では巨獣の爪牙を凌ぐので手一杯であり、パンク男(トーリカ)を追い詰めた暴威の進撃が再開するのは時間の問題だった。

 ゆえに、巨獣の足を止めさせているのはもう一人の異分子(・・・・・・・)の存在。

 

「アッハハハハハハ――! いい、いい、いいよ! ダーウィンもオリヴァンも! もっとも~と楽しもうッ! これこそ聖杯戦争だッ!! ハハハハハ――!!」

 

 道化師が虹色のお下げ髪を振り乱しながら狂ったように哄笑し、少女のような中性的な相貌を歓喜で歪めながら戦場を掻き乱す。

 巨獣と偉丈夫の激突に巻き込まれて幾度も致命傷を負いながら、されど瞬きの間に復活して、木々と荒れた土砂の山を足場にしながら一気呵成に狂喜に塗れた自殺紛いの突撃と繰り返す。

 この場に集った四者の中では最も劣る能力値(ステータス)である筈なのに巨獣に痛打を与えることが出来ているのは、乱入時から振り回している奇妙な両刃剣(・・・・・・)の恩恵なのだろう。

 剣技の技量は二流の域にすら届かず、剣に施した『(シュウ)』――自身の肉体以外の物質にオーラを纏わせる応用技さえ及第点。その『(シュウ)』のオーラ量さえ凡庸で、ダメ押しに道化本人のオーラ系統が『具現化系』――物の力や働きを強める『強化系』を苦手としている系統であることを加味すれば、道化師が行っている攻撃では単純に火力不足が過ぎる。

 その程度で巨獣にダメージを通すことなど本来は不可能なのだ。

 だというのに――

 

「■■■、■■■■■■■――!?」

「そ~れ、ドンドン行くよ――!!」

 

 両刃剣で巨獣の身体をいとも容易く斬り刻んでいく。

 まるで熱したナイフをバターに当てるように、さしたる抵抗もなく巨体の血肉を削ぎ落としている様は虹色道化と巨獣の能力値(ステータス)差を完全に無視していた。

 攻撃の規模が巨体に対して小さすぎる(対人宝具)レベルであるため致命打には程遠いものの、脚部に斬撃を集中させることで相手の機動力を削ぎ続ける。

 巨獣の疾走を再開させれば勝ち目は無いと理解しているのだろう。

 この行動がなければ偉丈夫も、虹色道化も、パンク男も、巨獣に轢殺されてとっくに全滅していたはずだ。

 それでも巨獣の優勢は変わらない。

 何故なら、偉丈夫と道化師は同一の敵を相手取りながら、一切共闘などしていない(・・・・・・・・・・・)のだから。

 

 

 □

 

 

(え? いや、なんやこれ? てかザクロはまだしも、あの褐色半裸は誰やねんッ!?)

 

 巨獣と偉丈夫と道化師――三者の奏でる破壊音の三重奏に叩き起こされるようにして、パンク男(トーリカ)の停止していた思考がようやく復活した。

 眼前で繰り広げられる常軌を逸した闘争劇は激しさを増すばかりで、トーリカが命を拾ったのは思考停止状態でも狩人として鍛えてきた本能が身体を動かしたからにすぎない。

 仮にその場で固まったまま動けずにいた場合、耐久力に劣る(耐久Dの)トーリカでは身体を粉微塵に砕かれて絶命していただろう。

 防御の面では戦場を跳ね回っている虹色道化も大差が無いのだが、アレの不死身具合はトーリカ自身もよく知るところなので今さらである。

 現に虹色道化は焦れた巨獣の咆吼(樹木の弾幕)に飲まれて木っ端のように吹き飛ばされ、挽肉(ミンチ)のようになりながら偉丈夫の方向へと飛んでいく。

 すると今度は 弾幕諸共、偉丈夫に殴り飛ばされ(・・・・・・・・・・・・・・・)てトーリカのいる方向へ――

 

「って、うおぉぉい!?」

 

 不意討ち気味に飛来してきた流れ弾(樹木片)と 挽肉(ザクロだった物)をステップを踏むように回避する。

 先ほどまでとは違いトーリカが直接狙われたわけではなく、偉丈夫が弾き飛ばしたことで威力が減衰、距離も開いていたため隙間を見切って避けることができたが、ここまでの逃走劇で体力(スタミナ)もオーラも大幅に消耗削していたこともあり、トーリカの極まった敏捷性を持ってしても楽な作業とは口が裂けても言えなかった。

 流れ弾が止んだ後には、無作為に大地に突き刺さった樹木の残骸、そして血と土砂で汚れながらもやはり無傷で復活している(・・・・・・・・・・・)の虹色道化が転がっていた。

 

 

「いや~失敗しちゃったな~」

「おいこらザクロ」

「って、あ~~!! 『真実の剣』折れちゃった~!?」

「話聞けや! このド阿呆!!」

「あ痛っ!? も~トーリカなにするのさ~」

 

 トーリカは話を聞かないザクロの頭を軽くひっぱたいて無理矢理意識を向けさせた。叩かれたザクロは不服そうな表情を浮かべながら刀身が半ばからへし折れた剣を振り回しながら抗議しており、まるで親の折衝に不満を訴える幼子のようである。

 

「元はと言えばおまえがわいを呼びつけたんやろうが!」

「うん! ダーウィンにリベンジしようと思ってさ~」

「まずそのダーウィンって誰やねん!?」

 

 知らない名前が出てきたことでトーリカは出したままにしていた"(バインダー)"からの呪文(スペル)カード"磁力(マグネティックフォース) "を取り出し、最終ページの空きポケットにセットした。

 これはグリードアイランド攻略に用いられる小技の一つである。

 "(バインダー)"の最終ページにはディスプレイと十字キーが取り付けられており、空きポケットに呪文(スペル)カード"をセットすることで口頭で呪文を唱えず、対象に出来るプレイヤー名をディスプレイで確認できるのだ。

 

「ダーウィン……みっけた。ほんならあそこで戦っとるやつがオリヴァンか?」

「そうだよ?」 

 

 ディスプレイに表示されるプレイヤー名は"出会った順"に並べられているため、下へ下へとスクロールしていくと、下から三番目の欄にダーウィンのプレイヤー名があり、一番下にはオリヴァンのプレイヤー名が表示されている。

 間に一人見知らぬプレイヤー名が挟まっているが、巨獣から逃げ回っている途中で半径二十メートル以内(出会った判定)にいた人物がいたのかもしれない。生憎と逃走に必死すぎてトーリカの記憶にはなかったが。

 図らずも巻き込んでしまったらしい未知のプレイヤーに内心で「すまん」と謝罪しながら、未だ終わる様子を見せない死闘へ視線を戻す。

 

「ていうか、オリヴァンってば酷いんだよ! トーリカとパンゲアを巻き込んでダーウィンにリベンジしようとしたのに、いきなり襲いかかってきてさ~!?」

「いや、おまえら敵対しとったんかい!?」 

「ほんとはカスラとアリアレーネも呼びたかったんだけど、まだゲーム内で会ってないから連絡取れなくて」

「ええい、知らん名前をぽんぽん出すなや! あとしれっと巻き込んでって言い切りよったな!?」

「あ痛っ!」

 

 まるで幼子のように言葉が拙いザクロの説明に、トーリカは子守をする保育士のような心境になっていた。

 そして自分を呼び出した目的が怪物退治の戦力目当て出会ったことをさらっと告げられ、ツッコミの感覚で虹色の髪で目立ちすぎる道化の頭をひっぱたく。

 

「でもトーリカはザクロに借りがあるでしょ? 金欠でグリードアイランド買えないって泣きついてきたからパンゲアの所に連れて行ってあげたのはザクロだよ?」

「――……あ~」

 

 借りの話を持ち出されると言い返せなくなり、トーリカは緊張感を保っていた表情を普段の胡散臭い糸目に戻して気まずげに目をそらした。

 確かに酒と美女で散財して財布が軽くなっていた所に【指令(オーダー)】が重なり、同期のプロハンターであるザクロに頼ったはトーリカ自身である。

 そして解決策としてこれまた同期のプロハンターかつ転生者であるパンゲアの居所を教えられ、必死に拝み倒した末にグリードアイランドに入島をしているのだ。 

 

「ていうか、トーリカはなんでパンゲア連れてきてくれなかったの?」

「パンちゃんは無理や。移動系の呪文(スペル)相性が悪すぎる(・・・・・・・)。てか、今はあのデカブツをどうするかが問題やろ」

 

 二人が雑談をしている間にも、戦いは続いているのだ。 

 巨獣の疾走を封じていたザクロの一時的な戦線離脱によって、偉丈夫は劣勢に立たされ、二対一によってギリギリのところで釣り合っていた勝敗の天秤が巨獣側へと徐々に傾いていく。

 

「ザクロ、さっきの折れた剣、スペアとかあるんか?」

「ゲームのアイテムだから呪文(スペル)カードで増やしたのがあるよ? "ブック"」

 

 トーリカが尋ねるとザクロはおもむろに"(バインダー)"を呼び出し、一枚のカードを取り出した。

 そのカードには先ほどまでザクロが「折れちゃった」と嘆いていた両刃剣とそっくりのイラストが描かれており、カード名には『真実の剣』と記載されていた。

 

「何か見覚えあると思っとったが、やっぱそうやったか」

「あれ? トーリカはこの世界のことそこそこ知ってるって昔言ってなかった?」

「二十年も経てば記憶も薄れるっちゅーの」

 

 まあええ、とトーリカはザクロの疑問を切り上げ、自身の"(バインダー)"から数枚のカードを取り出し、"ゲイン"と唱えて即座にアイテム化させる。するとカード達は矢筒に収まった複数の矢に変化した。

 

「腹立つ部分もあるが、あの化け物倒すの手伝ったる」

「え! いいの! やった~!!」

「流石にアレは野放しにはできんしな……――それに、離れて観察したおかげでタフさのカラクリも読めた(・・・・・・・・・・・・)

 

 周囲に不自然に溜まっている巨獣の頭部に等しい質量の土砂(・・・・・・・・・・・・・・)、咆吼と共に吐き出していた周囲の木々と同種の樹木(・・・・・・・・・・・)、そしてザクロが斬りつけるたびに削ぎ落とされていた血肉が土塊へと変わる瞬間(・・・・・・・・・・・・)――否、戻る瞬間を目撃したことでトーリカは確信を得る。

 矢玉の補充を済ませ、汗で額に張り付いた金髪を掻き上げながら、胡散臭い糸目のままにやりと笑い獲物を狩る狩人として宣誓する。

 

「――さあ、獣狩りの時間や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「汗だくで言っても格好つかないね」

「……――それは言わんお約束やろ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。