Fate×HUNTER 欲望島の聖杯戦争   作:八尾四季

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狂戦士の独白、弓兵の考察

 褐色半裸の偉丈夫――ザクロとトリーカからオリヴァンと呼ばれた男は、色の抜けた金髪を振り乱しながら、単身で死の舞踏を続けていた。

 眼前の巨獣から繰り出される爪は区画ごと裁断するような一撃であり、顎を開けば鼓膜を破壊しかねない大音量の咆吼と共に吐き出される砲弾の嵐、そして僅かな隙を見せれば踏みしめる大地ごと腹へ収めてやるとばかりに乱杭歯の敷き詰められた口へと呑まれて殺されかねないというこの状況。

 端的に言って窮地である。

 

「■■■、■■■■■■■■■■■―――!!」

「ぐぅ、ぉ……ッ! ――ォォォオオオッ!!」

 

 それでも英雄の如き偉丈夫の目に恐れはなく、決意と殺意を瞳に灯して巨獣の暴威を捌き続ける。

 無論、無傷で済む筈もなく、どれだけ巧みにオーラを配分し、二メートルを超える恵体からは想像できないほどの機敏な体捌きを駆使しようとも、彼我の圧倒的な質量差は覆しようがない。

 巨腕と拳が激突する度に全身が軋み、骨まで響く衝撃が身体を襲う。虹色道化が戦線から離れたことで巨獣の攻撃がさらに激化しており、古傷だらけだった色黒の身体に更なる生傷が刻まれていき、その数は刻々と増え続けている。

 偉丈夫が大砲の如き豪腕を振りかざす度に傷口から流れる出血が血飛沫となって舞い散り、腰に巻かれた麻布は元の色の方が少ないほどに流血を吸って真っ赤に染まっている有様だ。

 本来ならば撤退して然るべき戦況だろう。相手がそれを許すかどうかはともかく、巨獣を相手取るのに偉丈夫一人では手に余ることはこれまでの攻防で明白である。

 一体何がここまで偉丈夫(オリヴァン)を駆り立てるのだろうか。

 

 聖杯が欲しいから?

 偉丈夫は否定はしないだろう。管理者に儀式の参加を強要されたとはいえ、聖杯に縋ってでも叶えたい願いがある。取り戻したい者達がいるのだ。

 

 犠牲を肯定するのか?

 偉丈夫は否定はしないだろう。殺して、殺して、数多を殺して、鉄臭さが取れなくなるほど血で汚れきった己の両手。言い訳などで許される範疇などとうの昔にを逸脱している自覚がある。ゆえにいずれ報いを受ける日が来ると覚悟の上だ。

 

 エゴの押しつけ?

 偉丈夫はその通りだと認めるだろう。今現在も彼を呪いのように縛り続ける三つの【指令(オーダー)】で在り方を歪められていようと、根底にあるのは偉丈夫自身のエゴイズムに他ならない。その勇士に他者を惹き付けるカリスマは有れど、導く指導力が欠如している善意は何処まで行っても独善に終わる。

 

 だが、しかし――ああだから?

 

「私は、彼らを取り戻すのだ! ォォォォオオオッ!!」

 

 知ったことかと偉丈夫は吠え立てる。

 もとより理由を並べ立てただけで止まるなら、とうの昔に自死を選んで終わっている。終われていないからグリードアイランドまでやって来たのだ。

 下された【指令(オーダー)】より狂戦士(バーサーカー)として生きることを強要されていようとも、前世より続く魂の底に根付いた善性が眼前の巨獣を逃がしてはならない存在だと強く強く訴えかけている。

 たとえそれが巨獣に対する無自覚な同族嫌悪(・・・・)だったとしても。

 

「■■■■■■、■■■■■■―――!」

「がッ――!?」

 

 そして転機が訪れる。

 咆吼によって再び放たれた樹木砲弾を偉丈夫の剛拳がまるで発泡スチロールでも粉砕するかのように砕き散らした僅かな一瞬。続く弾幕と砕けた破片によって視界が塞がれた僅かな隙を巨獣は逃さず、側頭部から生えた牛の洞角(ほらづの)を大地へ深く深く突き刺して、偉丈夫を足場ごと掘り返して跳ね上げた。

 天地が逆転するような衝撃と共に偉丈夫は宙へと放り上げられ、致命的な隙を晒す。

 偉丈夫がどれだけ優れた立ち回りをしようとも、それは足場有ってこそのもの。『強化系』のみをひたすら鍛えた能力は天性の肉体と合わさり白兵肉弾の闘いでは無双を誇るものの、特化型であるがゆえに持ち味を活かせない状況下に置かれれば途端に弱点が露呈する。

 それは応用性の無さ、一切の遠距離攻撃を持ち得ないこと。

 投擲物の一つでもあればまだやりようはあっただろうが、砲弾と砕けた破片、そして巻き上げられた土砂で視界が塞がれ、上下左右の把握すらままならない状況では打つ手がなかった。

 

 巨獣が四肢で大地を掴む。

 ちまちまと斬撃を行っていた虹色道化は戦場から弾かれ、爪牙を受け止めていた褐色の偉丈夫も中空で身動きが取れないならば、もはや足を止める必要などありはしない。

 全身全霊の大疾走で眼前の全てを押し潰さんと暴力的な加速の一歩を踏み出そうとした。

 その瞬間――

 

「■、―――!?」

 

 唐突に莫大なオーラを発する矢の嵐(・・・・・・・・・・・・・)が巨獣へ向かって飛来した。

 その全ての矢には先ほど仕留め損ねたパンク男が巨獣の頭部を吹き飛ばした銃弾の一撃に匹敵する存在感を発しており、着弾を許せば全長二百メートル近い巨体であろうと大打撃は免れない。

 ゆえに巨獣は咄嗟に駆け出そうとしていた足を止め、とどめを刺す寸前であった偉丈夫を後回しにしてでも矢の嵐の迎撃を優先せざる得ない。

 巨体を急旋回させ、その挙動だけで周囲に残った木々を薙ぎ倒して破壊しながら矢の嵐へと向き直り咆吼を放った。

 一度直撃を受けたからこそ、巨獣はパンク男の切り札の性質をある程度見抜いていた。――あれは着弾点を起点に大出力の破壊を起こす能力であり、直撃する前に撃ち落としてしまえば問題はない、と。

 樹木の砲弾と狩人の弓矢が正面から激突する。

 それはパンク男を追い詰めたときの再現のようであり、されど先の攻防とは込められたオーラの量が違う。よって矢の嵐は巨獣の咆吼を相殺する、かに思えたが――

 

「■■、―――?」

 

 矢の嵐は巨獣の放った砲弾を破壊するどころか、樹木砲弾の一本すら止めることができず一方的に蹴散らされていく。

 いやそもそも、互いの弾幕が激突するより前に放っていた危険な存在感が霧散しており、オーラすら纏っていない(・・・・・・・・・・・)

 

「あはっ! ダーウィンってば騙されちゃったね!」

「■■■■―――!?」

 

 不可解な現象に戸惑った一瞬、狙い澄ましたタイミングで虹色道化が戦線に復帰した。

 まるで悪戯に成功した童のような笑顔を浮かべて巨獣の顔面へと飛びかかり、片手で振るわれた粗雑な太刀筋で巨獣の洞角の一本を切り落とす。

 手にしている『真実の剣』は真新しい物へと変わっており、"(バインダー)"にストックしていた分を新たにアイテム化させたのだろう。

 そしてもう片方の手には折れた方の『真実の剣』が握りしめられており、刀身が中頃から折れていることなどお構いなしに、飛びかかった勢いのままその刃を眼球へ深々と突き刺した。

 

 

 

 

「ザクロのやつは上手くやったようやな」

 

 戦場から離れた場所、弓による連続狙撃を行った木の上から別の狙撃ポイントへ移動しつつパンク男(トリーカ)は己の策が上手く嵌まったことを観察していた。

 トリーカが矢の嵐に用いたの二つ目の『発』――『狩猟の宣言(ハンティングサイン)』の効果は『自分が触れたものにオーラを付与し感知する能力』というものだ。

 これはかつて【指令(オーダー)】のせいで途方もない逃走能力を持つ大鷹の魔獣を狩る羽目になったことで編み出した追跡能力なのだが、『込めたオーラを全消費することで一時的に存在感を高める』という応用技を駆使することで巨獣を止めるためのブラフを行ったのだ。

 その結果は覿面だった。

 とどめを刺される寸前であった偉丈夫(オリヴァン)の窮地を救い、巨獣に対して特攻効果のある『真実の剣』を装備し直した虹色道化(ザクロ)が戦線復帰する時間を見事に稼いでみせた。

 

「んで、やーっぱりあのデカブツの身体は張りぼて(・・・・)やったか」

 

 ザクロに切り落とされた洞角が地に落ちる前に土塊に変わった光景を見たことでトーリカは巨獣の念能力について確信を抱く。

 『具現化系』や『特質系』の中には自身や物体を別の存在に変える――所謂『変身能力』を編み出す者がいる。そういった能力は能力を行使する対象を元にして別の姿を具現化するパターンが多いのだ。

 巨獣(ダーウィン)の場合、当人の身体だけではなく周辺の物体(・・・・・)を取り込んだ上で変身を行っているのだろう。巨大な物体、それも全長二百メートル近い大質量を具現化するのは途方もないオーラを消費することになるが、実在の物質を取り込むことで質量を賄っているのなら後は(見た目)を取り繕うだけで済む。

 加えてザクロの装備している『真実の剣』はグリードアイランド内で入手できる指定ポケットカードであり『偽りのものを一刀両断にする。真実を切ると刃が砕け散る』という効果をもっている。

 巨獣の身体は容易く切れるのに吐き出された砲弾(樹木)には通じていないことからも巨獣の外見は"偽り"であり、吐き出された砲弾は取り込んだ物質を流用している可能性が高い。 

 さらには受けたダメージを取り込んだ物質に肩代わりさせることで、驚異的な耐久力を実現させているのだろう。 

 損傷を負う度に飛び散る巨獣の血肉が土塊に変わることや、吐き出す樹木が周囲の木々と同種の物であることがその証拠だ。

 恐らくダメージを与え続けて取り込んだ物質――今回の場合は戦場である森林エリアの一角を体外に排出しきれば巨獣の変身は解除されるとトーリカは予想していた。

 

「それでもあのパワーは色々おかしいんやけど……」

 

 次の狙撃に適した位置を確保したトーリカは新たな矢を番えながら疑問を口にする。

 遊び人気質であるとはいえ、一端のプロハンターであるトーリカは念能力者として相応の場数を踏んでいる。これまで見てきた他の念能力者や自身の経験から踏まえて、巨獣の能力はそうとう重い誓約を設けねば成立しない類いだろう。

 あるいは、人間の限界を超えた潜在オーラ(ランクEX)を秘めているのか――

 

「ま、今は考えんとこ」

 

 トーリカは思考を切り替え、糸目の奥に狩人としての冷徹さを秘めながら獲物を見据える。

 仕込みは上々。ザクロに秘策を授け、偉丈夫も体制を立て直して既に巨獣へ向き直っている。

 

「仕返しや。狩人に追われる獲物の気持ち……タップリと味わってけや」

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