機動戦士ガンダム水星の魔女 異伝 地球の守り人   作:ナタタク

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地球における通貨について
宇宙が主な経済圏となっているA.S.では、国際通貨としてスペースダラーが普及している。
一方の地球においては経済の衰退と国家の弱体化に伴い、旧来の貨幣制度の信用が揺らぎ、現在では従来の数多くの通貨が通用しない。
ただし、弱体化しているとはいえ、国家がわずかながら機能している地域やアングラな取引でスペースダラーへの換金が可能となっている通貨はかろうじて機能しており、その一例がアースダラーとなっている。




第1話 謎の少女

かつての都市では当たり前のようにあった街頭のない道をライトと月明りを頼りに進み、やがて都市だったガレキから抜け出していく。

広々としているが、ろくな整備などされるはずのないひび割れた道路を進み、そこから少し外れた場所の大岩へと歩を進める。

そこの影に隠れるように巨大なトレーラーがあり、運転席側のドアを開ける。

「おかえり、ジャック。おかえり、ジャック」

助手席に転がっているハロのあいさつに対して、ジャックは手袋を外した後でそれを軽くなでる。

その後で後部座席へと向かい、その中にあるポッドとカップヌードル、そして水が入ったタンクを取り出す。

それらを外に置き、再び後部座席へ戻ってカセットコンロを持ち出す。

カセットコンロに火がつき、ポッドの湯を暖めながらジャックは今日手に入れたばかりのタバコにライダーで火をつけ、口に加える。

「もう、2年か…」

今では1人で湯を沸かしているジャックが天へと昇っていくタバコの煙に目を向ける。

2年前から一人になったジャックは最初のころは本当に生き抜けるか不安を感じていたが、それも今はすっかり慣れて、今では一人が当たり前になっている。

あの借金漬けになっていた男と同じように。

どんなに仲良くなろうと、憎み合ったとしても、結局最後は一人になる。

2年前までが恋しいとは思わない。

そろそろいい頃合いだと思ったジャックはポッドを手にし、カップ麺に湯を注いでいく。

こうして湯を入れて3分待つだけで、まともな味の食事をとることができるだけ、カップ麺は優秀だ。

すぐに3分経過し、フォークで麺をすすっていく。

こうして食べていればあっという間で、スープも飲み干すと空っぽになった容器を空きっぱなしの後部座席に投げ入れ、懐に入れた例の写真を手にする。

写真の裏には情報の受取先が記載されており、場所はここの南西に位置する発電施設が指定されている。

ひとまず明日はそこへ向かうことに決め、カセットコンロの火を消した。

カセットコンロと入れ替える形で後部座席から出したのは寝袋で、その中に入るとともにトレーラーの後方に目を向ける。

シートで覆われたそれとハロ、そしてトレーラー。

今のジャックの持ち物がそれで、一人の持ち物としてはかなりのもの。

持ち物と知識、そして暴力のおかげでどうにか一日一日を生き抜いている。

「今更…善人になるつもりなんて、ないけどさ…」

写真にあるのは薄い金色の髪ととび色の瞳の少女で、顔立ちからは自分と同じか少し上下するくらいの年齢に見えた。

 

「ここか…」

日の出とともに出発していたジャックはたどり着いた発電施設のさび付いたドアをこじ開けて中に入る。

さび付き、コケやカビの生えたこの施設はもはや使い物にならず、屋根らしい屋根ももうないことから住処に選ぶ人間もいない。

情報が入手できる場所とは聞いたが、受け取った写真には日時などの情報はない。

人影もなく、施設の中を歩き回るが誰も姿を見せない。

ふと、少し大きめの発電機に目が留まり、そこに取り付けられている大きなレバーに挟まるように放置されているSDカードを手にする。

「これが、情報…?」

何日も放置されていて、若干ひびの入っているそれがちゃんと機能するのか、というよりもそもそもこれはただのいたずらで、情報とは全く関係のないものか。

それを判断する方法はトレーラーに戻って、中身を見ることだけだった。

 

トレーラーに戻ったジャックは運転席に座り、そこでボロボロなSDカードを差し込むとともに、ハロを助手席側に設けられている特等席に取り付ける。

SDカードのデータのスキャンが行われ、やがて終了を告げるベル音が鳴る。

「ウイルスなし、破損なし、内容確認可能」

「お疲れ、ハロ」

車内のディスプレイに表示されたのは地図、そして座標情報だ。

写真の少女に関する情報がない、いたってシンプルなものだ。

「場所は東…ボストン、フェンウェイ球場跡地…そこにいるというのか?」

ここからフェンウェイまで行くとしたら、このトレーラーで1日はかかる。

この仕事そのものを他に受けている人間がいるかどうかは知らないが、それがわかったらすぐにでも動いた方がいい。

トレーラーのエンジンをかけ、車輪代わりに搭載されているホバーによって浮いた車体が移動を開始する。

情報では跡地と表現されているフェンウェイ球場だが、実態は大きく異なり、そこ自体が一つの都市のような状態になっている。

誰が始めたのかは知らないが、そこに住み始めた人々によって町がつくられていき、自警団が結成される。

また、申し訳程度とはいえモビルスーツが数機そこにはあり、それがフェンウェイ球場を襲おうとする犯罪組織やマフィアに対しての抑止力になりえる。

といっても、見捨てられた地球にベネリットグループ製の最新鋭のモビルスーツが見られるのはまれな話で、あるのは旧型といっても過言ではないものではあるが。

荒れ果てた道路を進むトレーラーの中で、ジャックはオートパイロットに切り替えるとまだ食べていない朝食のカップ麺の準備をする。

湯だけは出発前に用意はしているため、あとはカップ麺に注いで、こぼれないように抑えて3分待つだけだ。

荒野をただ進む中で見えてくるのは白骨化した人間や動物、そして車両などの機械の残骸。

金がない時はそこからジャンクパーツをかき集めるが、今はそれをしている場合ではない。

一刻も早くフェンウェイ球場跡地へ向かい、そこにいるであろう少女を確保するか、少なくとも情報を得なければただ働きになってしまう。

それを考えている中で、トレーラーの通信機が鳴る。

「ゴウトから電話、ゴウトから電話」

「ゴウトからだと…?」

あの仲介人、ゴウトとは仕事の完了報告を行えるように連絡先を交換しているものの、あくまでもそれはこちらから連絡するためだけのもので、ゴウトから連絡をされるのは今回初めてのことだ。

今回引き受けた少女の件が脳裏に浮かぶが、電話を無視する理由はない。

「繋いでくれ、ハロ」

「了解、了解」

「よぉ、ジャック。もう、動いていたんだな。トレーラーが見えなかったから、まさかとは思ったが…」

「ああ、情報は手に入れた。あとはターゲットを確保するだけだ。要件は?」

「そうだな、お前さんは将来性がある。だから、忠告だけしておくぞ。この仕事…簡単にはいかんらしい」

「だろうな…妙な内容すぎる。おまけに、報酬もな」

どこかのご令嬢を誘拐して身代金を要求するというならともかく、往復で多く見積もって3日もトレーラーで移動することになったとしても、ジャックの取り分で十分すぎるほどおつりが出るほどの報酬がこの少女にはかかっている。

その金額はたとえ容姿のいい少女が一生体を売っても稼ぐことができない。

秘密があるのは明白だが、その秘密を知る義理はジャックにもゴウトにもない。

簡単にいかない仕事かもしれない分、入ってくる金は大きい。

「ひとまず、指定された座標に向かっている。確保したら、また連絡する」

「そうか…で、場所は?」

「あんたに話すことか?」

「はっ、違いねえ。ま、せいぜい生きて帰ることだ。じゃあな」

通信が切れるとともに、ちょっとだけ時間が過ぎたカップ麺の蓋を開けて中の麺を口に含む。

(あのじいさんが簡単にはいかないと言ったとなると…相当まずい仕事、ということになるな)

ゴウトなりの気遣いなのだろうが、そうした仕事を受けた結果死にかけてことが何度もあり、一番新しいのは最近起こったデモ行進の現場に侵入して写真を撮ることだ。

だが、その写真というのがデモ中に先制攻撃を行おうとする人物のものであり、デモ隊への火器使用を正当化させるためのマッチポンプの証拠をつかむことが本当の目的だった。

無事に写真を撮り、それをゴウトに渡すことはできたが、その様子を見られたことで正規軍のモビルスーツと生身で追いかけっこをする羽目になってしまった。

おまけにその追いかけっこの栄えある鬼となったのはベネリットグループ御三家の1つ、ジェターク・ヘビー・マシーナリー虎の子の実戦用モビルスーツであるディランザ・ソルだった。

どうにか臭いマンホールの中に隠れたことでやり過ごすことができたが、あの時は一歩間違えると本当に死ぬところだった。

そのリスクを冒した分の報酬はしっかりあったが。

引き返す選択肢が頭をよぎるが、そうなると燃料代の無駄になる。

(せめて、怪我ぐらいで済んでくれたらな…)

 

フェンウェイ球場跡地、かつて地球に多くの人々が暮らしていた時はスポーツによって人々を熱狂させた場所。

街となった今、熱狂から遠ざかり、平和に近づいたこの町だが、あくまでも近づいているだけ。

宇宙と比べるとはるかに治安が悪く、まだ壁の外よりもマシというだけだ。

「騒ぐな、野次馬ども!見世物じゃない、下がってろ!」

「うええ、ひでえな、こいつは…」

アメリカンフットボール用のヘルメットと防具姿をした警備兵たちが銃やバットを手に黄色いテープの向こう側に興味を抱く民衆を威嚇し、テープの向こう側では嫌な顔をあらわにした警備兵が死体を調べている。

「この2か月で5件…。まったく、厄介なことが最近起こりすぎてるぞ」

「くそったれ、市民まで巻き込みやがって…」

転がっている死体はこの周辺地域で活動している山賊とマフィアで、いずれも銃で撃たれるか、刃物で切り裂かれている。

彼らだけなら悪党どもの共食いということで片付くが、いずれも事件でも市民が巻き込まれ、死傷者が出ている。

「なんでここにこいつらが入り込んでやがるんだ。さっさと町の中にあるアジト見つけて、たたき出してやる!!」

「はああ、ほっつきまわるだけで給料もらえるなんて、甘い話はねえよな、これ」

「ぼやいてないで、さっさと調べろ!野次馬がこれ以上増えたらたまらん、で、死体についてだが…」

 

「はあ、はあ、はあ…う、うう…」

フェンウェイシティのどこかの酒場の中、血の付いたハンドガンを手にした少女が震えてカウンターの隅に隠れていた。

ジャックの写真に写っている少女そのもので、違いがあるとしたら、服や髪、肌が血でぬれていることだ。

そして、この部屋の中にはバーテンダーや客の遺体が転がり、誰もが銃で体を撃ちぬかれた状態だった。

「なんで…なんで、どうして、こんな…こんな…」




機体名:ホバーワーカー

ジャックが使用しているトレーラー。
後部座席が存在する大型車両で、移動手段であるとともに生活拠点となっている。
助手席にはハロを設置するスペースがあり、そこに置くことで場合によってはハロに運転を代行させることも可能。
後部座席で寝ることもできるが、ジャックについては基本的に外で寝袋を使うことが多い。
なお、上部のキャリア部分にはモビルスーツを運搬するスペースもあり、整備を行うことも可能。
タイヤはなく、ホバーを使って移動することから水上での移動も可能となっている。
ホバーワーカーそのものは数十年前から地球における武力鎮圧の際のモビルスーツ輸送の手段として運用されていたものの、サブフライトシステムの登場に伴って役割を失っている。
そんな時代遅れの存在とはいえ、一介の傭兵がそれを所有することはまれだ。
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