機動戦士ガンダム水星の魔女 異伝 地球の守り人   作:ナタタク

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第3話 燃え上がる街

耳をつんざくような発射音が響くとともに、フェンウェイシティの市民の盾となり続けてきた壁が砕け、壁の近くにいた人々が砕けた壁の破片に巻き込まれるか、衝撃によって吹き飛ばされる。

町全体に響くほどの発射音は人々をパニックに陥らせるには十分すぎた。

「はあ、はあ、はあ…」

特に少女はもう頭の整理が追いついていない様子だ。

酒場での惨劇から間髪を入れることなくこのような事態となっているのだから仕方のないことだろう。

街の警備隊も動き出し、装甲車や格納されているモビルスーツが出撃する。

長年マフィアや盗賊などから町を守り続けてきただけのことはあり、警備隊のデミトレーナーの出撃数は外にいるカーキ色のデミトレーナーの数を上回っていた。

(まさかとは思うが、外の奴の狙いは彼女か…)

 

「クソッ!ならず者どもめ!!」

突然街を攻撃してきたカーキ色のデミトレーナーを前に装甲車の銃座にいる警備兵が悪態をつく。

モビルスーツを保有しているとはいえ、地球の経済においてはその絶対数も性能もスペーシアンのものに劣る。

そのため、誰彼問わずにモビルスーツのパイロットにするわけにはいかず、選抜もスペーシアンや宇宙議会連合以上に厳しい。

その選抜に漏れた警備兵がモビルスーツと戦うとなると、旧型の装甲車に乗るか単純な歩兵として戦うかという選択肢しかない。

モビルスーツがいて、その支援に動くことに徹するだけならまだいい。

過激な抗議運動を行う団体の多くは歩兵や装甲車のみで駐留軍のモビルスーツと戦うことになった場合、無意味な全滅で終わることが多いのだから。

「カーキ色のデミトレーナー、2時方向で次弾を装てんしている!まだ撃つ気だぞ!!」

「させるかぁ!!」

装甲車からの知らせに警備兵のデミトレーナーが次の攻撃をしようとするデミトレーナーに接近しつつ、マシンガンの照準を合わせようとする。

だが、別方向から発生する爆発とその直後に管制室から入ってくる通信がパイロットに今回の事態の異常さを教えていた。

「なんだよ…ただの、犯罪者どもじゃないのか!?」

モニターに次々と表示されるモビルスーツの反応。

その数はこの町で保有しているモビルスーツの数を上回り、中にはデミトレーナーやプロドロスといった地球においてアングラで流通しているモビルスーツにはないものも存在した。

 

「モビルスーツが9機だと!?馬鹿な!?山賊どもが手を組んだとでもいうのか?!」

管制室の外付けモニターに表示される、町の中と外で行われている戦闘の映像。

外では警備隊のデミトレーナーと装甲車がカーキ色のデミトレーナーやプロドロスだけでなく、ベネリットグループにおける最新鋭機といえるディランザやクリバーリの姿もある。

2機のクリバーリは四輪ではなく戦車のようなキャタピラー型となっており、プロドロスの守りを受けながらフェンウェイシティに突っ込んでいた。

「まずい…あのモビルスーツを近づけるな!!最優先に攻撃を…」

「間に合いません!!」

破られた壁に突っ込んだクリバーリの両肩のビームキャノンの銃口が管制室へ向けられ、なにもためらいなく発射されたビームの奔流は管制室を焼き尽くしていく。

「指揮系統はつぶした。内通者の情報通りだ」

「あとは確保に動け、ゴー!!」

キャタピラー式の下半身部分に搭載されている小型のコンテナが開くとともに武装した兵士たちが突入していく。

敵の侵入に備えていたであろう兵士に対しては搭載されている対人機銃で攻撃して突入する兵士の援護を行っていた。

 

「ここはまずいか…行くぞ」

「行くって…どこへ!?」

自らの手を握り、表情一つ変えずに走るジャックに困惑する少女にはどう逃げるかなどわからなかった。

クリバーリから出てくる兵士たちは街中へと侵入していき、警備兵も住民もお構いなしに発砲する。

親が撃たれ、泣きながら体を揺らす子供に対しても例外ではなかった。

血と炎の地獄と化していく街だが、あのクリバーリ以外にモビルスーツが突入する様子はない。

走りながらジャックは携帯を手にする。

「ハロ、今から指定したポイントまでホバーワーカーを動かせ。合流後、ここを脱出する」

一方的にそれを伝えた後ですぐに携帯を切る。

人々でごった返しているであろう場所を避けて走り続け、町の正面出入口の反対方向にたどり着く。

そこにはホバーワーカーがガガガと音を立ててバラック小屋を破壊しながら街中を進み、ジャックたちを確認すると停車する。

「乗れ、逃げるぞ」

ワーカーの扉が開き、その中にジャックは少女を乗せる。

扉を閉め、後方のキャリアー部分へと向かう。

街中を走った以上、すぐに敵はこれに狙いを定める可能性がある。

キャリアー部分にある扉を開き、その中に入るとともにハロの操縦でワークスが発進する。

「ハロが…このトレーラーを操縦しているの…?キャア!!」

物がぶつかる音が聞こえ、恐怖で思わず少女は両手で頭を守る。

揺れるワークスの中、ジャックは中に積んでいる大型のオブジェの上に乗る。

「ハロ、外に出て、追いかけてくるモビルスーツがいたら教えろ。こいつで迎撃する」

「了解、了解」

ハロ制御のまま走るホバーワーカーがフェンウェイシティを飛び出していく。

外で警備隊のモビルスーツと交戦していたカーキ色のデミトレーナーの1機がそれを目撃する。

「逃げているトレーラーがあるぞ!」

「あれに乗っている可能性もある、止めろ!」

「了解、対応する」

2機のプロドロスがホバーを駆使してワーカーを追跡しつつ、腰部のチェーンガンで攻撃を加える。

あの中にターゲットがいる可能性があり、生け捕りの必要がある以上は直撃させることはできないが、威嚇にはなる。

(追いつかれる!追いつかれる!ジャック!)

「ああ…こちらの準備はいい。出せ、ハロ」

コックピットに座るジャックはヘルメットをかぶり、薄紫のバイザーをおろす。

横倒しになっていたキャリアー部分が徐々に縦へと向きを変えていき、その間にジャックはコンソールを操作する。

(機体設定問題なし、推進剤蓄積量、戦闘可能範囲、マニピュレーター動作問題なし…)

設定および機体の確認を完了するとともにキャリアーを覆う装甲が扉のように開き、その中で眠っていた機体が飛び降りる。

「あのワーカー、モビルスーツを積んでいたのか?」

「灰色のモビルスーツ…?」

角ばった灰色一色の分厚い装甲が太陽に照らされ、唯一色が異なる浅黒いバイザー状態のカメラがかすかに光る。

左腕には装甲と同じ色のカイトシールドが装備されており、右手のライフルがプロドロスに向けられる。

「いくぞ…レグルス」

右手のライフルから放たれるマシンガンの弾幕。

分厚い装甲を持つプロドロスはそれに対してひるむことなく、左右に散開して回避をしていく。

キュイイインと金属音が響くとともにレグルスと呼ばれたモビルスーツは両足を動かすことなく滑走をはじめ、プロドロス以上のスピードを見せる。

散開している以上はまずは1機をしとめることを優先したジャックは残弾を気にすることなく追いかけるプロドロスにライフルを放つ。

「俺がこいつを止める!お前は…!?」

追いかけているであろう相方への通信を割り込むように響く警告音。

それと同時にレグルスが握っていたライフルがこちらに投げつけられており、左腕で払いのける。

「血迷ってライフルを捨てた…!?しまっ…!!」

ライフルに目を向けていたわずかな間にレグルスがモニターに映っておらず、センサーが示した機体の位置は自分の真上。

装備しているライフルを向けようとしたが、その前にレグルスが左拳を作り、プロドロスの脳天を殴りつける。

それと同時にジャックが操縦桿の引き金を引くと、シールドから爆発音が起こるとともに、パイルバンカーが起動する。

射出された杭が頭をつぶし、コックピットをも押しつぶした。

杭がシールドへ戻り、あおむけに倒れたプロドロスからライフルを奪ったレグルスがもう1機のプロドロスを追う。

「何!?ジェインがやられた!?こいつ…ただのハンドメイドじゃないというのか!?」

目標を確保したとしても、あの機体を野放しにしてはやられる。

ならば、先にレグルスを倒すべきだと判断したプロドロスのパイロットはライフルを捨て、長刀を手に取る。

向き合うレグルスにダメージはない様子で、あのローラーダッシュというべき動きで見せた機動力はプロドロスを上回る。

だが、プロドロスの主力の武器はこの長刀だ。

ハインドリー・シュトルムやザヴォート・ヘヴィといった地球駐留軍の新型モビルスーツを撃破することのできるこれであれば、あのレグルスも破壊できる。

それに対してレグルスはビームサーベルが装備されている様子はなく、近接戦闘での武器はシールドのパイルバンカーのみ。

こちらから奪ったライフルで攻撃を仕掛けてくるが、頑丈な長刀は盾としても機能する。

長刀でコックピットを守り、接近していく。

対するレグルスもそれを気にすることなく接近を仕掛けるが、もう使う必要がないということなのか、ライフルでの攻撃はやめていた。

その動きを不審に思うパイロットだが、ならばこの長刀で両断するだけ。

横薙ぎに振るわれる長刀だが、ライフルを手放したレグルスが振るおうとするプロドロスの左手首を左手でつかみ、左肩に右手を添える。

そして、プロドロスの動きに逆らうことなく、左回りに機体を動かした。

まさかの動きに態勢を崩したプロドロスはそのまま左手首をつかまれたまま転倒する。

だが、頑丈さについてはディランザに匹敵すると称されているプロドロスはこれで戦闘不能になることはない。

立ち上がり、戦闘を継続していくことはできるだろう。

だが、ジャックはそんなことを許すつもりはない。

倒れて若干力の弱まった手から長刀を奪い取り、左手で逆手に握った状態でふるったそれはプロドロスを吹き飛ばし、崩れた建物にぶつかると同時に留まる。

メインカメラが損傷し、うつぶせに倒れた状態のプロドロスがどうにか起き上がろうとするが、その面前には既に奪った長刀を握るレグルスが立っていた。

「じゃあな」

その一言を投げかけると同時にレグルスが握る長刀がプロドロスのコックピットを容赦なく貫いた。

長刀を引き抜くとともに機能停止したプロドロスが再びうつ伏せに崩れ落ち、小規模な爆発をいくつか起こすのを見届けたレグルスが長刀を振るう。

「ハロ、合流ポイントを送れ。レグルスの回収はそこで頼む」

(了解、了解)

プロドロスから奪ったライフルと長刀を手にしたレグルスが送信された座標に向けて走り去っていく。

ジャックにとっては当たり前の、少女にとっては日常ではない戦闘は過ぎ去っていく。

 

 




機体名:クリバーリ(地上戦闘敵基地突入型モデル)
型式番号:BTz-47
製造:ダイゴウ社
固定兵装:背部ビームキャノン×2、腕部ミサイルランチャー×2、兵員輸送用コンテナ、対人機銃
携行武器:マシンガン

ダイゴウ社で開発されている砲撃用モビルスーツであるクリバーリのバリエーションの1つ。
クリバーリは地上におけるホバーによる機動力とビームキャノンによる火力が特徴であるものの、近接戦闘の脆弱性と下半身部分の損傷が発生した場合における機動力の大幅な低下の弱点が指摘されていた。
このモデルはその解決策および地上における敵基地、特に反スペーシアン組織への攻撃を想定したものとなっており、下半身部分は戦車のようなキャタピラー式に変更し、あらゆる地形においても適用を可能にするとともに防御性を向上させている。
各種兵装はあくまでも自衛用のもので、最大の目的は敵基地内へコンテナに収容している兵士を輸送することであり、出撃する兵士の援護のために対人機銃が機体各部に搭載されており、頭部に増設されたセンサーを利用して突入した兵士への指揮を可能としている。
安定性と防御性は確保されているものの、機動力が犠牲となっており、キャタピラー式というモビルスーツとしては時代錯誤といえるものを取り入れていること、敵拠点に突入して目標を確保する作戦そのものが現在地上においては限られていることから、このモデルの戦闘記録は少ない。
今回、フェンウェイシティで確認されたものはそのモデルの機体であり、市内で行われた凄惨な戦いがこの機体の有用性を証明することとなった。
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